手救急
手外科専門医が教える現場での初療
編集 | : 市原理司 |
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ISBN | : 978-4-524-23443-1 |
発行年月 | : 2023年4月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 312 |
在庫
定価9,350円(本体8,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
研修医や手外科専門医取得をめざす若手整形外科医に向けて,手外傷の「初療」に必要な知識と手順をまとめた救急外来に必携の1冊.現場で直感的に理解できるように,要点をコンパクトにまとめ,イラスト・写真を多用した.専門医からのアドバイス,手技のテクニック等も盛り込み,手外科専門医があたかも実際にお手本を示してくれているかのような紙面構成を実現した.
第1章 現場で必要とされる診察技術
1 問診で引き出す患者の重要情報
2 視診で見分けられる数々の疾患
3 ここだけは押しておきたい圧痛点
4 関節不安定性評価に不可欠なストレステスト
5 知っておきたい誘発テスト
6 もう怖くない神経麻痺の診察
7 一目でわかる腱の診察法
第2章 現場で必須の検査と判読法
1 手外科専門医のX線オーダー法
2 正確なストレス撮影法
3 CTを追加すべき疾患
4 MRIまで必要な疾患
5 これが本当の感覚検査
6 これだけは知っておきたい神経伝導速度検査
7 正しい関節造影法とは?
第3章 ここまでわかる超音波検査
1 超音波のある世界・超音波のイロハ
2 救急外来で即座に判断すべき疾患
第4章 もう怖くない救急処置
1 切開のコツは解剖にあり
2 キズ(創)はすべて同じと考えるな!
3 場所により多様な腱縫合
4 爪は残すか,とるか?
5 指尖部損傷はどう処置するのが正解?
6 対応に困る?脱創の処置
7 刺創での神経・血管損傷の確認法
8 キャストか? シーネか? テーピングか? の判断
第5章 伝達麻酔の極意
1 上肢に使用できる伝達麻酔法
2 患者に感謝される腱鞘内注射
3 出来るドクターの関節腔内穿刺・注射法
第6章 待ったなしの緊急外傷
1 コンパートメント症候群
2 関節脱臼は牽引だけでは戻せない
3 骨折の転位方向は部位により違う
4 時機を逃すと厄介な手の感染症
第7章 特に現場で判断に苦慮する外傷
1 切創・刺創による神経損傷の初療
2 単独血管損傷の初療
3 緊満感のない閉鎖性感染
4 単指切断の緊急度判定
第8章 手・手指外傷を極める
1 専門医が選ぶ手・手指外傷のトップ10
2 手・手指外傷の治療アルゴリズム:重症手・手指外傷は受傷当日に可能な限りすべて治す
3 手関節尺側部痛の最新の知見
4 安易にCRPSと診断してはならない
5 デイ・サージャリー可能な外傷以外の手外科疾患トップ10
序 文
本書の企画は,私の恩師である(故)山内裕雄名誉教授との約束に始まります.2020年,同門の研究会から帰宅する際,車で御自宅まで同行した折,「米国手外科学会より刊行された“手の診察マニュアル”,“手の治療マニュアル”(通称,青本・赤本)を私が翻訳してから30年が経過するが,その後アップデートがされていない.この30年間に発展してきた日本の手外科の叡智を集約したパワーアップ版を世に送り出して欲しい」との強い願いを伺い知りました.これまで多くの場面で御指導頂き,様々な知見を与えて頂いた師への恩返しとして,微力ながら,“是非この本を作り上げたい!”という気持ちとなり,南江堂の担当者である平原氏・仲井氏と本書の企画・編集を開始しました.
本書『手救急』は,救急現場において初療の指針を示すことを目的とした書籍であり,各手術法に関する詳細はここでは控え,他書に譲ることと致しました.本書は,手の救急疾患に関する分かりやすいイラストの作成や,豊富な画像を掲載することを第一の目標とし,分担執筆者となる先生方が経験された症例写真を提供頂くとともに,工夫を凝らしたイラストを作成して頂きました.その結果,視覚に訴える素晴らしい書籍に仕上がったと自負しております.掲載された豊富なイラストは,初療に当たる際に直感的に理解できる作りとなっており,本書は救急現場での必携書となると確信しております.
巻頭言は,私の強い希望で,日本手外科学会の前理事長である平田仁先生と,現理事長である岩崎倫政先生に御執筆頂きました.また,各章は,日本各地で活躍されている41名の手外科専門医の先生方に分担執筆頂きました.各項目の選定基準は,「私が知りたいこと」や,「こんなことが書かれている書籍があれば若手の力になる」という内容を中心に選定しました.特にここは押さえて欲しいという項目に関しては,多くのページを割いてイラストを多用し詳説しております.疾患ごとではなく救急現場で必要とされる「診察技術」「検査法」「手技」や,遭遇するであろう「症候」をリアルに学ぶことにより,臨場感を味わいながら読み進めて頂けるのではないかと思います.ひとつひとつの項目が幅広い内容に設定されているため,重複する内容が散見されますが,各執筆者の熱い思いを伝えるために敢えて許容しました.
本書の内容は大変充実したものとなっており,若かりし頃の自分自身も待望したであろう“珠玉の一冊”となっております.手外科を志す若手医師,日常診療で救急患者の対応をする研修医・専攻医,外傷患者の初期対応に苦慮することの多い開業医の先生方にお役立て頂ける一冊になることを願っております.
2023年3月
編集者 市原 理司
本書は,41名に及ぶ手外科専門医が分担執筆し,順天堂大学浦安病院の市原理司先生が編集をして,2023年4月に発行された.序文で述べられているとおり,市原先生の恩師である山内裕雄名誉教授からのメッセージを実践し,『手の診療マニュアル』と『手の治療マニュアル』をアップデートさせ,さらに日本手外科学会の叡智を結集してパワーアップさせた内容で構成された名著である.市原理司先生は山内裕雄名誉教授から薫陶を受け,フランスのStrasbourg大学でLiverneaux教授のもとに留学した経験をもつ,いわばエリート手外科医である.しかし一方で,本書のように地に足のついた実践的な内容の書を編集できるのも彼しかいない.本書は彼の偉大な才能の賜物である.
本書の最大の特徴は,実際の診察,検査,救急処置,麻酔の手技を多くの写真やイラストでわかりやすく示していることである.各項目において,「原則」,「専門医からのアドバイス」,「専門医が教える丸秘テクニック」などが記載されていて,おおむね5〜10頁にまとめられている.「原則」では,診療や検査での決まりごとが箇条書きされている.そして各原則について本文で詳しく解説されている.「専門医からのアドバイス」では,どのように対処していくべきかが各エキスパートにより記載されている.「専門医が教える丸秘テクニック」では,医局の親しい先輩が教えてくれるようなコツ,通常の教科書には決して書かれていない貴重な助言や経験が記載されている.「ポイント!」は覚えて欲しい内容が,「Column」では余談が,しかし知識が深まる重要な内容が書かれている.現場での初期治療時に担当医が困らないように,視覚的に短時間で要点が理解できるようになっている.
救急外来を受診する可能性のある手の外傷を想定して,「第1章 現場で必要とされる診察技術」,「第2章 現場で必須の検査と判読法」,「第3章 ここまでわかる超音波検査」,「第4章 もう怖くない救急処置」,「第5章 伝達麻酔の極意」,「第6章 待ったなしの緊急外傷」,「第7章 特に現場で判断に苦慮する外傷」,「第8章 手・手指外傷を極める」の計8章から構成されている.外傷そのものに対する知識はあっても,マネジメントができなければ現場で対応ができない.診察,検査,麻酔,処置の一連の流れを心得ておかねば実用的ではない.この実践的な流れが記載されていることが本書の他書と大きく異なる点である.あたかも手外科専門の指導医がそばについていてくれるがごとく,丁寧に具体的に記載されている.
治療のアルゴリズム,診断基準が記載されているのはもとより,今まで経験的に屋根瓦式に伝承されてきたような手順や処置についても,明文化され標準化されている点は画期的である.すべての整形外科医が系統的に手の救急例に遭遇する機会は少なく,実際には臨床現場で経験した個々の症例から各人が技術を習得することになる.習得のレベルと手技の正確度は,経験した症例内容と指導医の教え方に大きく依存することになる.手外科専門の指導医はどこの病院でもいるわけではなく,本書が医療現場へ寄与するところは絶大である.
「第7章 特に現場で判断に苦慮する外傷」については,特に興味深く読ませていただいた.神経・血管損傷,感染の有無,指切断などへの対応である.何から手をつけるべきかわからない,何から検査すべきかわからない,処置の優先順位がわからないなど,実際の症例を目にすると四苦八苦することがある.本書はこれらを見事に解決してくれている.
本書は,実践的な手外科の救急診療を行ううえでの必携書である.臨場感漂う本書に普段から目を通すことで診察や処置をシミュレーションすることができる.若手医師だけでなく,ベテラン医師の知識や手技の整理にも役立つ.日常臨床ですぐに役立つおすすめの一冊である.
臨床雑誌整形外科74巻13号(2023年12月号)より転載
評者●産業医科大学整形外科教授・酒井昭典