書籍

外反母趾診療ガイドライン2022改訂第3版

監修 : 日本整形外科学会・日本足の外科学会
編集 : 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,外反母趾診療ガイドライン策定委員会
ISBN : 978-4-524-23412-7
発行年月 : 2022年5月
判型 : B5
ページ数 : 96

在庫あり

定価3,300円(本体3,000円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

多様な症状を呈する代表的な足部疾患である外反母趾に関する診療ガイドラインの全面改訂版.痛みや足の変形などの病態,放置した場合の自然経過や履物の影響などについて最新の知見をまとめ,運動療法・装具療法に代表される保存療法,さらに骨切り術や関節固定術など手術療法の概要を示し,治療方針決定を助ける推奨度を提示した.

略語一覧
前文
第1章 疫学
  Background Question 1 外反母趾変形の発生頻度,男女比はどのくらいか
  Background Question 2 外反母趾には遺伝的要因はあるか
  Background Question 3 外反母趾変形を増悪させる履物にはどのようなものがあるか
  Background Question 4 外反母趾を放置するとどうなるのか
第2章 病態
  Background Question 5 外反母趾の成因に関係する病態にはどのようなものがあるか
  Background Question 6 外反母趾に併存する病態にはどのようなものがあるか
第3章 診断
  Background Question 7 外反母趾の診断,評価はどのように行うか
第4章 保存療法
  Background Question 8 保存療法にはどのようなものがあるか
  Clinical Question 1 外反母趾に対する保存療法として運動療法は有用か
  Clinical Question 2 外反母趾に対する保存療法として装具療法は有用か
第5章 手術療法
  Background Question 9 外反母趾の手術療法
 5-1.遠位骨切り術
  Background Question 10 遠位骨切り術の適応・術式・合併症
  Clinical Question 3 遠位骨切り術を行う場合,どのような術式が推奨されるか
  Clinical Question 3-1 chevron 法と比較して,他の遠位骨切り術は推奨されるか
  Clinical Question 3-2 chevron 法と比較して,経皮的手術(最小侵襲手術)は推奨されるか
  Clinical Question 3-3 遠位骨切り術では,どのような内固定法が推奨されるか
 5-2.近位骨切り術
  Background Question 11 近位骨切り術の適応・術式・合併症
  Clinical Question 4 近位骨切り術を行う場合,どのような術式が推奨されるか
 5-3.骨幹部骨切り術
  Background Question 12 骨幹部骨切り術の適応・術式・合併症
  Clinical Question 5 骨幹部骨切り術を行う場合,どのような術式が推奨されるか
 5-4.第1 中足骨の骨切り部位の違いによる比較
  Clinical Question 6 軽度から中等度の外反母趾に対して中足骨骨切り術を行う際,どの部位での骨切り術が推奨されるか
  Clinical Question 7 中等度から重度の外反母趾に対して中足骨骨切り術を行う際,どの部位での骨切り術が推奨されるか
 5-5.第1 中足骨骨切り術以外の術式
  Background Question 13 MTP 関節固定術,第1 TMT 関節固定術,中足骨骨切り術とTMT関節固定術に併用する遠位軟部組織手術はどのような術式か
  Clinical Question 8 重度外反母趾に対する母趾MTP 関節固定術は推奨されるか
 5-6.外反母趾に合併する病態に対する術式
  Background Question 14 外反母趾に追加して行う手術にはどのようなものがあるか
索引

 外反母趾の治療は年を追うごとに発展している.2014 年刊行の第2 版序文では“ 術式は150 種類以上あるといわれている” と書いたが,最近の論文では200 種類以上と記載されているものもある.このように続々と新たな術式が開発され報告される疾患はそう多くないであろうし,裏を返せば“ ゴールデンスタンダード” な治療法がないともいえる.また,病態や重症度に応じて治療法が変わる疾患であることもその要因である.

 外反母趾はいうまでもなく代表的な足部疾患であり,症例数も多い.症状は多彩で,バニオン部の痛みや足底胼胝,隣接趾の痛みや変形など,患者によって主訴は異なる.治療ではまず保存療法が試みられるが,この方法も運動療法から装具療法まで幅が広い.このような外反母趾診療の特徴を踏まえ,日本整形外科学会による診療ガイドライン作成の際に,外反母趾が取り上げられた.初版は2008年11月に刊行され,検索された論文は1982〜2002年のものであった.第2版は2014年11月に刊行され,2003〜2012年の論文による知見が付け加えられた.第2版では,体裁や章立ては初版のものを踏襲した.

 第2版刊行以降に報告された外反母趾に関する論文の特徴のひとつは,ランダム化比較試験(RCT)が増えたことであろう.この研究では比較となる対照群を設定し前向きに検討するため,高いエビデンスが得られる.外反母趾診療ガイドライン策定委員会では,2018年から本格的な改訂版作成作業に着手した.改訂においては,『Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2017』を参照した.このマニュアルでは,重要臨床課題をClinical Question(CQ)として設定し,エビデンスを集積することでCQ に対する推奨文を作成することが提案されている.そこで,今回の改訂ではCQを最終的に8つに絞り,外反母趾の一般的知識や,比較研究とはならない疫学や病態の知識はBackground Question(BQ)として記述した.その結果,体裁や章立ては第2版から大幅な変更となった.このような方針で改訂版を作成したため,第2版までにはなかった術式間の比較についても検討することができた.

 改訂作業を通して,外反母趾についての新たな知見が発信され続けていることを実感した.しかし一方で,今後の課題もみつかった.外反母趾発症の要因はいまだ解明されたとはいえない.患者側に立った情報も多くなく,治療に対して望んでいることや患者立脚型の治療成績評価も必要な情報である.また,保存療法や重度外反母趾に対する治療についての質の高いエビデンスは不足していた.近年は足の手術専用の各種インプラントが開発されており,治療のコストや医療経済的な情報についても今後集積が望まれる.

 苦労して完成にこぎつけたものであり,本ガイドラインが多くの方々に活用されるならば幸いである.最後に,本ガイドライン改訂作業にご尽力された委員の先生方,国際医学情報センター,各学会事務局,パブリックコメントをいただいた先生方,そのほかご協力いただいた多くの方々にこの場を借りて心より感謝申し上げたい.

2022 年5月
日本整形外科学会
外反母趾診療ガイドライン策定委員会
委員長 渡邉 耕太

 本書改訂第3版は2012〜18年の303文献が採用された.「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」を参照し,重要臨床課題をclinical question(CQ)として設定し,CQに対する推奨文を作成している.CQは「取り上げるべき重要臨床課題に基づいて,診療ガイドラインで答えるべき疑問の構成要素を抽出し,ひとつの疑問文で表現したもの」と定義される.一方,外反母趾の一般的知識や比較研究とはならない疫学や病態の知識はbackground question(BQ)として記述され,CQと明確に分けて記述された.これが,第2版から大きく改訂された点である.もう一つの特徴は,第2版以降ランダム化比較試験(RCT)の論文が増えたことで,第2章までにはほとんどなかった術式間の比較について検討していることである.

 章立ては,「第1章 疫学」,「第2章 病態」,「第3章 診断」,「第4章 保存療法」,「第5章 手術療法」で,第5章は術式別の6項目で構成されている.第1〜3章にCQはなく,この領域はエビデンスレベルの高いデータ採集がむずかしいことを反映したものといえる.

 本書改訂第3版の特徴である新たな8つのCQに注目した.「第4章 保存療法」のCQには,@ 運動療法,A 装具療法の二つが設定された.保存療法の有用性評価には,益:疼痛低下,臨床評価スコア改善,変形矯正,進行予防,害:合併症,コストの6つのアウトカムが重要事項として設定された.運動療法で採用されたRCTは2編で,いずれも装具療法を併用した効果の評価で,運動療法単独による変形の矯正効果については明らかではない.除痛効果についても,運動療法単独での効果は明らかでない.したがって,軽度から中等度の外反母趾に対する運動療法による変形矯正効果と疼痛改善効果は,装具療法と併用することで期待できるとして推奨度2となった.装具療法で採用されたのはRCT 1編,前向き介入研究1編で,装具療法の除痛効果はほかの保存療法(靴指導,運動療法,フットケア)と併用することで得られるが,装具療法単独による除痛効果については推奨度2となった.変形矯正効果についてはRCT 1編,前向き介入研究1編を採用し,装具療法に運動療法を併用することで変形矯正効果がある可能性はあるが,効果の持続期間は不明で推奨度2となった.

 第5章の「遠位骨切り」のCQは「どのような術式が推奨されるか」に設定され,4つのRCTが該当した.手術療法の有用性評価のために,益:疼痛低下,主観的評価改善,臨床評価スコア改善,変形矯正,害:合併症とした.軽度から中等度外反母趾に対するchevron法とほかの遠位骨切り術の比較で,術式間の疼痛と臨床成績改善には差がなく,変形矯正効果もほぼ同等で推奨度1とされた.経皮的手術(最小侵襲手術)は,メタ解析の結果でも疼痛低下と変形矯正には有意差はなく,推奨度2とされた.内固定法は,吸収ピンや金属ねじの固定法の違いで有意差はないとして奨度1とされた.

 「近位骨切り」のCQと有用性評価は遠位骨切り術と同様である.近位三日月状骨切り,近位楔開き骨切り,近位chevron骨切りの比較で,臨床評価と変形矯正については有意差はなく,合併症は近位chevron骨切りが少なく,いずれも中等度から重度変形例に対して推奨度1となった.

 「骨幹部骨切り」のCQと有用性評価も遠位骨切り術と同様である.Scarf骨切り,extended-chevron骨切り,Ludloff骨切りの比較で術式間の成績に有意差はなく,推奨度2とされた.

 「骨切り部の部位による比較」のCQは「どの部位の骨切り術が推奨されるか」に設定され,骨幹部vs. 遠位,骨幹部vs. 近位,遠位vs. 近位,それぞれの成績と合併症に有意差はなく,軽度から中等度変形に対しては遠位,骨幹部,部位に関係なく選択できることが推奨度2とされた.中等度から重度変形には,遠位もしくは骨幹部での骨切り術を行うことを近位骨切り術と同様に推奨度2とされた.外側解離はすべて併用されている.しかし,ここで留意すべき点は,重度とはいえほぼ40°程度の変形であり,40°を大きく超える超重度の変形についての推奨ではない.

 最後のCQは「重度変形に対する中足趾節(MTP)関節固定は推奨されるか」で,臨床成績が有意に改善し,変形矯正効果も良好であったとの報告がほとんどで,中足骨骨切り術や第1足根中足(TMT)関節固定と比較した報告はなく,推奨度2とされた.関節可動性は失うが患者満足度が高いこと,再発が起こりにくいことから,重度変形に対しMTP関節固定術は選択肢の一つになりうるとしている.

 結局,推奨度1と設定されたのは,遠位骨切りの固定方法と,軽度から重度(40°程度まで)の変形例に対する骨切り部位は遠位あるいは近位で骨切り方法に有意差はないという内容であった.初版,第2版,第3版を見渡すと,目を見張るような大きな変更点や知見はなかった.疫学,病態,診断についての質の高い研究と,高齢者に多くみられる45°以上の超重度変形例に対する術式のエビデンスの積み重ねが今後求められるといえる.


臨床雑誌整形外科73巻12号(2022年11月号)より転載
評者●聖マリアンナ医科大学整形外科教授 仁木久照

9784524234127