書籍

原発性悪性骨腫瘍診療ガイドライン2022

監修 : 日本整形外科学会
編集 : 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,原発性悪性骨腫瘍診療ガイドライン策定委員会
ISBN : 978-4-524-23411-0
発行年月 : 2022年2月
判型 : B5
ページ数 : 112

在庫あり

定価3,300円(本体3,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

希少がんとされる原発性悪性骨腫瘍(骨肉腫,Ewing肉腫,骨内異型軟骨腫瘍,軟骨肉腫,脊索腫,骨巨細胞腫)および骨肉腫肺転移の治療について,第一線の専門医が集学的治療の観点からまとめた診療ガイドライン.分類・病期,疫学,臨床的特徴,薬物療法の基本的知識を網羅し,重要臨床課題として診断、手術および放射線治療に関する25のQuestionを設け,その概要と推奨を示した.医療従事者および患者・家族の相互理解の基礎かつ指針となる一冊.

前文

疾患トピックの基本的特徴
 T.分類
 U.疫学(組織型と頻度,発生部位)
 V.臨床症状と検査所見
 W.薬物治療

Question
 Background Question 1 原発性悪性骨腫瘍の診断において単純X線検査は有用か
 Clinical Question 1 原発性悪性骨腫瘍において遠隔転移の診断にCT検査は有用か
 Background Question 2 原発性悪性骨腫瘍において術前の治療計画にMRIは有用か
 Clinical Question 2 原発性悪性骨腫瘍において病期分類の診断にF18-FDG-PET/CTは骨シンチグラムより有用か
 Clinical Question 3 原発性悪性骨腫瘍において術前化学療法の効果判定に核医学検査は有用か
 Future Research Question 1 原発性悪性骨腫瘍において金属材料を使用した症例の局所再発の診断にF18-FDG-PET/CTはCTやMRIより有用か
 Clinical Question 4 原発性悪性骨腫瘍の確定診断に切開生検は針生検より有用か
 Clinical Question 5 原発性悪性骨腫瘍の病理診断に分子生物学的解析は有用か
 Future Research Question 2 原発性悪性骨腫瘍の予後予測に対してノモグラムは有用か
 Clinical Question 6 小児の原発性悪性骨腫瘍に患肢温存手術は推奨されるか
 Background Question 3 原発性悪性骨腫瘍に対する患肢温存手術にはどのようなものがあるか
 Future Research Question 3 原発性悪性骨腫瘍に対して患肢温存手術を行う場合,生物学的再建は有用か
 Clinical Question 7 転移のない原発性悪性骨腫瘍に通常の補助放射線治療は有用か
 Clinical Question 8 切除不能あるいは手術によって重篤な機能障害が予想される原発性悪性骨腫瘍に通常の放射線治療は有用か
 Clinical Question 9 切除不能あるいは手術によって重篤な機能障害が予想される原発性悪性骨腫瘍に粒子線治療は有用か
 Background Question 4 切除可能な高悪性度骨肉腫に対して補助化学療法は有用か
 Clinical Question 10 切除不能な再発・進行性高悪性度骨肉腫に対して薬物療法は有用か
 Background Question 5 限局性Ewing 肉腫に対して薬物療法は有用か
 Clinical Question 11 転移性Ewing 肉腫に対して強化薬物療法は有用か
 Clinical Question 12 切除困難な限局性Ewing 肉腫に対して放射線治療は有用か
 Clinical Question 13 四肢骨局在である中心性異型軟骨腫瘍に腫瘍内切除は有用か
 Clinical Question 14 切除不能な軟骨肉腫に粒子線治療は有用か
 Clinical Question 15 脊索腫に対する粒子線治療は有用か
 Clinical Question 16 掻爬可能な骨巨細胞腫の局所治療に病巣掻爬は有用か
 Clinical Question 17 骨肉腫の肺転移に対して肺転移切除によって生命予後は改善できるか

巻末資料:検索式

序文

 原発性悪性骨腫瘍の発生頻度はまれで,希少がんとされるが多くのがん種がある.骨肉腫やEwing肉腫は悪性度が高く高率に肺転移を生じるため薬物療法が必要であるが,一方で軟骨肉腫や脊索腫には有効な薬物療法がないなど,病態は病理組織型により様々である.さらに,外科治療に際しては運動機能を考慮する必要があり,病理組織診断,発生部位,進行度などから症例ごとに適正な治療が選択される.

 原発性悪性骨腫瘍の診療については,『小児がん診療ガイドライン』(日本小児血液・がん学会,2016年)に骨肉腫とEwing肉腫がClinical Question(CQ)の形式で掲載されているが,現在のところ,原発性悪性骨腫瘍全般について診療の指針となるガイドラインはなく,日本整形外科学会診療ガイドライン委員会が主体となり原発性悪性骨腫瘍診療ガイドライン策定委員会が設立され,診療にかかわる医療関係者を対象に,原発性悪性骨腫瘍における診療の基本概念と診断と治療に関する指針の提供を目的としてガイドラインを作成することとなった.

 ガイドライン作成にあたり,骨・軟部腫瘍診療の第一線に従事する整形外科専門医のなかから,策定委員およびシステマティックレビュー委員を地域などに偏りがないよう日本整形外科学会骨・軟部腫瘍委員会で選出した.また,集学的治療の必要性から,骨・軟部腫瘍を専門とする小児科,放射線科,病理診断科の先生方にも策定委員会,システマティックレビューチームに加わっていただき,策定委員会18名,システマティックレビューチーム54名からなる体制で作成作業を行った.

 ガイドラインの策定は,『Minds診療ガイドライン作成の手引き2014』および『Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017』に準拠して行った.

 本ガイドラインでは,原発性悪性骨腫瘍の分類・病期/疫学/臨床的特徴/薬物療法については,疾患トピックの基本的特徴として解説した.原発性悪性骨腫瘍の診療において重要な臨床課題として,診断,手術,放射線治療について,さらに中間群を含め主な腫瘍として骨肉腫,Ewing肉腫,骨内異型軟骨腫瘍,軟骨肉腫,脊索腫,骨巨細胞腫,骨肉腫の肺転移の治療について22のCQを選定した.選定したCQに対し可能な限りのエビデンスを集積し推奨度を決定する作業を行った.なお,エビデンスの集積と推奨作成の過程で標準的との結論になったCQはBackground Question(BQ 1〜5)に変更し,推奨文の代替として要約を付けた.また,十分なエビデンスは得られなかったが重要課題で今後の研究が期待されるCQはFuture Research Question(FRQ 1〜3)に変更し,最終的に25のQuestionを掲載した.

 原発性悪性骨腫瘍は希少がんであり,その診療には十分な知識と経験を有する医療従事者による集学的治療が必要である.したがって,原発性悪性骨腫瘍が疑われるときには速やかに専門医による診療が推奨される.本ガイドラインが,原発性悪性骨腫瘍の診療に関わる医療従事者の一助となり,患者とその家族との相互理解に役立つことを希望する.

 最後に,本ガイドラインの作成にご尽力いただいた策定委員会,システマティックレビューチームの先生方に心より感謝の意を表します.

2022年1月 日本整形外科学会
原発性悪性骨腫瘍診療ガイドライン策定委員会
委員長 土谷一晃

 原発性悪性骨腫瘍は,その発生頻度より希少がんに分類される.本ガイドラインは日本整形外科学会の監修による,わが国初の『原発性悪性骨腫瘍診療ガイドライン』である.本ガイドライン作成にあたり膨大な労力と時間を費やされた土屋一晃委員長をはじめとする策定委員会の先生方および関係者の方々に,心より敬意を表したい.本書は原発性悪性骨腫瘍に関する最新の知識をまとめた待望のガイドラインであり,整形外科医だけでなく,骨・軟部腫瘍を専門とする小児科,放射線科,病理診断科の医師も作成に参加している.

 本書は原発性悪性骨腫瘍の診断,治療における重要なclinical question(CQ)に対するエビデンスに基づく推奨文と解説だけでなく,腫瘍の分類/疫学/臨床と代表的組織型の最新トピックも記載されており,教科書としても十分な内容をもつ.代表的腫瘍として骨肉腫,Ewing肉腫,(骨内)異形軟骨腫瘍,(骨内)軟骨肉腫,脊索腫,骨巨細胞腫について22個のCQを検討し,その中で標準的との結論となった5個のCQはbackground question(BQ1〜5)に変更された.また,十分なエビデンスが得られなかった3個のCQは今後の研究を期待すべくfuture research question(FRQ1〜3)に変更された.結果的に17個のCQが提示されている.BQは教育的であり,CQとFRQは臨床的な内容となっている.たとえば,BQ1「原発性悪性骨腫瘍の診断において単純X線検査は有用か」の解説には,単純X線検査の有用性が具体的に記載されている.またCQ17「骨肉腫の肺転移に対して肺転移切除によって生命予後は改善できるか」では,肺転移巣数による切除適応の議論は興味深い.すべてのCQ解説では,エビデンスとなるデータが提示されており,最後の段落が筆者の考察であるため,最後の段落のみ読むのも面白い.

 本書は,「原発性悪性骨腫瘍の診療にかかわる医療関係者を対象」としており,CQのレベルも非常に高いものとなっている.多彩な組織型をもつ原発性悪性骨腫瘍を汎用的なCQで示すことはむずかしく,17個のCQのうち,100%の同意率は9個のみであり(53%),スペシャリストの間でも意見が分かれる.CQ4の針生検と切開生検との比較においては,1回目の投票での合意率は60%であり,双方の有用性を述べる段落の追記において合意率90%で採択されたとのことである.針生検は,CTガイドによる正確性の向上や骨生検針の性能向上により採取組織量が増え,切開生検に比較される針生検の欠点は少なくなってきている.合意率が低いCQの理由を考えるのも面白いかもしれない.

 本書は,第一線で活躍する臨床医だけでなく,それをめざす医師にとっても有用である.特に「W.薬物治療」(p.18)の項目はおすすめである.また,CQが一般的な原発性悪性骨腫瘍の記載であっても,実際には骨肉腫やEwing肉腫に限定した回答であることがある.本書では,骨肉腫,Ewing肉腫,(骨内)異形軟骨腫瘍,(骨内)軟骨肉腫,脊索腫,骨巨細胞腫という限定された組織型のCQであり,それぞれの生物学的特性を理解する必要がある.骨肉腫やEwing肉腫は高率に肺転移を生じる悪性腫瘍であるが,抗悪性腫瘍薬の感受性は高い.一方,軟骨肉腫や脊索腫は有効な抗悪性腫瘍薬がない悪性腫瘍である.(骨内)軟骨肉腫はgradeT〜Vに分類されるが,四肢発生(骨内)軟骨肉腫grade Tは遠隔転移率が低く,予後良好のため(骨内)異形軟骨腫瘍と呼ばれる.骨腫瘍の世界保健機関(WHO)分類では,良性(benign),悪性(malignant)に加え中間群腫瘍(intermediate)があり,中間群腫瘍には局所破壊性に再発を繰り返すlocally aggressiveと,まれに遠隔転移をきたすrarely metastasizingがある.(骨内)異形軟骨腫瘍はlocally aggressiveな中間群腫瘍であり,巨細胞腫は,locally aggressiveかつrarely metastasizingな中間群腫瘍に分類される.

 本書は,原発性悪性骨腫瘍に関して,教科書的内容に加え,最新の知見を含む.原発性悪性骨腫瘍治療の方針決定のために,骨軟部腫瘍治療経験の有無にかかわらず有用である.薄く,コンパクトであり,もっておきたい一冊である.


臨床雑誌整形外科73巻11号(2022年10月号)より転載
評者●京都大学整形外科講師 坂本昭夫

9784524234110