甲状腺ホルモン不応症診療の手引き
編集 | : 日本甲状腺学会 |
---|---|
ISBN | : 978-4-524-23386-1 |
発行年月 | : 2023年4月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 96 |
在庫
定価3,080円(本体2,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
甲状腺ホルモン不応症を早期に診断し,患者への適切な治療を行うことを目的に作成された手引書.第1部では概要,診断,重症度分類について解説.第2部は「治療の手引き」としてFCQ(foreground clinical question)とBCQ(background clinical question),コラムから構成され,実臨床においてどのように治療すればよいかという現場の疑問に答えている.専門医はもちろん,内分泌疾患を診る実地医家の診療に役立つ一冊.
第1部 概要と診断
T 甲状腺ホルモン不応症(RTHβ)の概要
U 甲状腺ホルモン不応症(RTHβ)の診断
V 甲状腺ホルモン不応症(RTHβ)の重症度分類
第2部 治療の手引き
W 甲状腺ホルモン不応症(RTHβ)の治療
β型甲状腺ホルモン受容体の遺伝子変異によるRTHβの概要,ならびに本手引きの留意点について
FCQ 1 RTHβにおける頻脈に対してβ遮断薬は推奨されるか?
FCQ 2 RTHβにおいて抗甲状腺薬の使用は推奨されるか?
FCQ 3 RTHβにおいて甲状腺摘出術は推奨されるか?
FCQ 4 RTHβにおいて放射性ヨウ素内用療法は推奨されるか?
BCQ 1 RTHβ症例が妊娠した際の対処法は?
BCQ 2 RTHβに注意欠如多動症を合併した際の対処法は?
BCQ 3 RTHβを合併したバセドウ病の治療目標は?
BCQ 4 RTHβに(他の原因による)甲状腺機能低下症を合併した際の治療目標は?
BCQ 5 RTHβ症例が甲状腺分化がん術後TSH抑制療法の適応になった際の治療目標は?
Column 1 RTHβにおけるTRIAC使用研究
Column 2 RTHβにおけるブロモクリプチン製剤使用研究
Column 3 RTHβにおけるソマトスタチンアナログ製剤使用研究
Column 4 RTHβにおけるDT4製剤使用研究
付 録
検索式一覧
臨床調査個人票(指定難病,令和4年度時点)
甲状腺ホルモン不応症(RTHβ)遺伝子検査に関する説明同意書の例文
Diagnosis of the Resistance to Thyroid Hormone beta(RTHβ)/Degree of severity[英文診断基準および重症度分類]
このたび,本書「甲状腺ホルモン不応症診療の手引き」が日本甲状腺学会の臨床重要課題の「甲状腺ホルモン不応症診断基準」作成班より発刊されました.この臨床重要課題班は,前委員長の森昌朋先生や村田善晴先生らを中心とした委員会として結成され,まず2014年に甲状腺ホルモン不応症(resistance to thyroid hormone:RTH)の診断基準の作成を行いました.その際バセドウ病と間違われて治療されている症例も多いため,最初に真の不適切TSH分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of thyroid-stimulating hormone:SITSH)を見極めて,甲状腺ホルモン受容体βの遺伝子診断を行うアルゴリズムが作成されました.この間2015年(平成27年)1月には厚生労働省から,「ホルモン受容機構異常に関する調査研究班」での活動もあり,この診断基準が認められ,甲状腺疾患でははじめての指定難病に認定され,公費負担の対象になりました.さらに2020年(令和2年)4月1日からは,甲状腺ホルモン受容体βの遺伝子診断が保険適用になっています.この指定難病への過程も本書の前半で紹介しております.
その後,専門医の先生方,かかりつけ医の先生方を問わず,実際の症例をどのように治療したほうがよいかという疑問の声も多く,治療の手引きを作成することとなりました.当初はすべてをMindsやGRADEによる作成法に準拠し,RCTなどを中心としたシステマティックレビューでCQ案に答える構想でしたが,始めてみるとほとんどエビデンスがないことに気づき,多くをBCQ(Background Clinical Question)やコラムという,オピニオンリーダーからの意見という形式にしました.その後,日本甲状腺学会の学会員の方々にパブリックコメントをいただき現在のような最終稿になりました.
RTHは,甲状腺ホルモン受容体β遺伝子異常症(RTHβ)の典型例ばかりでなく,最近ではその他の遺伝子異常による甲状腺ホルモン感受性低下症候群(reduced sensitivity to thyroidhormone)としてその概念も広がっています.さらに,今後は我が国における前向き試験によりRTHβの自然史や最良の治療法が確立されることを期待しております.
本書が,専門医の先生方ばかりでなく,かかりつけ医の先生方のRTHの診断や治療の一助になれば幸甚です.
2023年4月
日本甲状腺学会 臨床重要課題
「甲状腺ホルモン不応症診断基準」班 委員長
山田正信
RTHβ診療に関するオールマイティな決定版
甲状腺ホルモン不応症(resistance to thyroid hormone:RTH)は,一般的に甲状腺自体は正常に機能しているが,甲状腺ホルモンに対する標的組織の反応性が低下した病態であり,主として常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる.1967年にChicago大学のSamuel Refetoff博士が初めて報告し,Refetoff症候群ともよばれている.現在までに約600家系が報告されており,発症は約4万出生に1例と推定されている.甲状腺ホルモン受容体は核内受容体であり,αとβのアイソフォームをもつが,RTHではほとんどの場合にTRβの遺伝子異常を認める.RTHは,ヘテロ接合体でもRTHの症状を認める「ドミナントネガティブ効果」を呈し,代表的な核内受容体疾患でもある.視床下部—下垂体—甲状腺系のネガティブフィードバックが障害されているため,甲状腺ホルモン値(FT3,FT4値)が高値であるのにTSHが下がらない「不適切TSH分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of thyroid—stimulating hormone:SITSH)」の存在がRTHの診断には必須である.このようにRTHを概説すると,医家諸氏はきわめてまれな疾患(希少疾患)と感じられるかもしれないが,甲状腺診療に携わる医師にとってSITSHを疑う検査所見には日常診療でよく遭遇するため,RTHは鑑別すべき疾患としてきわめてポピュラーといえる.
今回,日本甲状腺学会の編集で『甲状腺ホルモン不応症診療の手引き』が発刊された.「甲状腺ホルモン不応症(RTHβ)」と表記されている理由は,TRαの変異による「RTHα」が近年報告されたが,それはTRβによるRTHとはまったく異なる臨床症状を呈し,かつSITSHを認めないため,「RTHβ」を「狭義のRTH」としているからである.
RTHβがBasedow病と間違われて「治療」されてしまっている例が多いため,日本甲状腺学会が臨床重要課題として「甲状腺ホルモン不応症診断基準」の作成に取り組み,同学会前理事長の山田正信先生を作成委員長として2014年に「真のSITSH」を判定するアルゴリズムとRTHβの診断基準が発表された.さらに,この診断基準と重症度分類によって2015年1月にRTHβが指定難病に認定され,2020年4月からはTRβの遺伝子診断が保険適用となった.このように,ここ数年でRTHβの診療を取り巻く環境は急速に整備されたわけであるが,実際にRTHβの患者をどのように診療すればよいかという指針は明らかになっていなかった.その点,本書ではRTHβの診療においていまだにコンセンサスが得られていない四つの臨床重要課題をforeground clinical question(FCQ)としてあげ,具体的にRTHβの診療をどのように行うべきかを明示している.端的に言えばRTHβの診療で行ってはいけない4項目を詳説している.RTHβは希少疾患であり,RCTなどの大規模な臨床研究は難しい.そのなかで,症例報告などの文献をシステマティックレビューにより丹念に検討して得られた推奨はきわめて貴重である.教科書的な内容をbackground clinical question(BCQ)としてあげているが,特筆すべきはRTHβ患者が妊娠したときの管理の指針が明確に示されていることである.さらに本書では特定疾患(難病)申請に必要な臨床調査個人票が巻末の付録に収められており,実臨床上きわめて有用である.甲状腺診療を専門とする医師はもちろんのこと,一般内科臨床に携わるすべての医師に本書を手にとっていただきたいと切望している.
臨床雑誌内科132巻2号(2023年8月号)より転載
評者●橋本貢士(獨協医科大学埼玉医療センター 副院長/糖尿病内分泌・血液内科 主任教授)