書籍

発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン改訂第3版

がん薬物療法時の感染対策

編集 : 日本臨床腫瘍学会
ISBN : 978-4-524-23376-2
発行年月 : 2024年2月
判型 : B5判
ページ数 : 124

在庫あり

定価2,750円(本体2,500円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

日本臨床腫瘍学会編集によるガイドラインの改訂版.日本医療機能評価機構「Minds診療ガイドライン作成の手引き2020」に準拠し全面改訂を行った.造血器腫瘍・固形腫瘍の薬物療法の副作用として起こる発熱性好中球減少症(FN)は,対応が遅れると致死的な状況に陥ることもあり,がん診療に携わる医師・スタッフは適切な対応を知っておく必要がある.評価,治療,予防の3章に分け,各章「解説(総論)+CQ」という構成で解説.また,FNに限らず,がん薬物療法時の感染症予防,ワクチン接種などの疑問にも答えている.

・発熱性好中球減少症 (FN) 診療ガイドライン改訂第 2版』の遵守に関するアンケート調査
・アルゴリズム
 
1.FNが起こった場合の評価
 解説 1 FNの定義
 解説 2 FN発症のリスク因子
 解説 3 FNの原因微生物
 解説 4 FN患者に推奨される検査
 CQ1 外来治療の対象となる FN患者を識別するためのリスク評価法として Multinational Association for Supportive Care in Cancerリスク指標 (MASCCスコア) や Clinical Index of Stable Febrile Neutropenia (CISNEスコア) は有用か?
 CQ2血液培養を行う場合,異なる部位から 2セット以上を採血することは推奨されるか?  
 CQ3中心静脈カテーテル (CVC) を挿入した患者が FNを起こした場合,CVCと末梢静脈 穿刺 (PV) からの血液培養は推奨されるか?
 
2.FNの治療
 解説 1 FNの経験的治療
 解説 2 多剤耐性菌の感染対策
 CQ4 重症化するリスクが高い FN患者に対して,β-ラクタム薬の単剤治療は推奨されるか?
 CQ5 重症化するリスクが低い FN患者に対して,外来治療は可能か?
 CQ6 初期治療で解熱したが好中球減少が持続する場合,抗菌薬の discontinuationは可能か?
 CQ7 初期治療開始後3〜4日経過しても FNが持続する場合,全身状態が良好であれば,同一抗菌薬の継続が可能か?
 CQ8 初期治療開始後3〜4日経過しても FNが持続し,全身状態が不安定な場合にはどのような抗菌薬治療が推奨されるか?
 CQ9 初期治療開始後3〜4日経過しても FNが持続する場合,抗真菌薬の empiric therapyとpre-emptive therapyのどちらを選択するか?
 CQ10 FNを発症した患者に対して,G-CSF投与は推奨されるか?
 CQ11 どのような場合にサイトメガロウイルス再活性化のスクリーニングを行うことが推奨されるか?
 CQ12 CVCを挿入した患者が FNを起こした場合,カテーテルの抜去は推奨されるか?
 
3.FNおよびがん薬物療法時に起こる感染症の予防
 解説 1 がん薬物療法時の環境予防策
 CQ13 がん薬物療法を行う場合,どのような患者に抗菌薬の予防投与は推奨されるか?
 CQ14 がん薬物療法を行う場合,どのような患者に G-CSF一次予防は推奨されるか?
 CQ15 がん薬物療法を行う場合,どのような患者に抗真菌薬の予防投与は推奨されるか?
 CQ16 がん薬物療法を行う場合,どのような患者に抗ヘルペスウイルス薬の予防投与は推奨されるか?
 CQ17 がん薬物療法を行う場合,どのような患者にニューモシスチス肺炎 (PJP) に対する予防投与は推奨されるか?
 CQ18 がん薬物療法を行う場合,B型肝炎のスクリーニングとモニタリングは行うべきか?
 CQ19 がん薬物療法を行う場合,結核のスクリーニングは行うべきか?
 CQ20 がん薬物療法を受けている患者に帯状疱疹ワクチン接種は推奨されるか?
 CQ21 がん薬物療法を受けている患者にインフルエンザワクチン接種は推奨されるか?
 CQ22 がん薬物療法を受けている患者に肺炎球菌ワクチン接種は推奨されるか?

「発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン(改訂第3版)」発刊にあたり

 発熱性好中球減少症(febrile neutropenia:FN)は,抗がん薬とくに殺細胞性抗がん薬にしばしばみられる副作用であり,時に重篤例では致死的であることからCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)においては好中球減少症とは独立した有害事象として扱われている.以前から,FN発症のリスクファクターとして特定がん種,高齢者,感染症,甲状腺機能低下などの併存疾患,抗がん薬の種類,投与量や併用数,ステロイド使用やカテーテル留置などが,FN発症患者の重症化のリスクファクターとして年齢,全身状態,臓器障害,疾患の状態,治療歴などが知られている.しかし,FN発症患者の合併感染症による重症化の予測は必ずしも容易ではない.このためFNによる重症感染症発生頻度が低い(5%以下)低リスク患者を選択するためのMASCCスコアが推奨されてきた.
 日本臨床腫瘍学会は,2012年に初版として刊行した本ガイドラインを2017年に第2版へと改訂し,そこではCQ(Clinical Question)1でMASCCスコアの使用を推奨した.その後に実施された厚生労働省科学研究「がん診療連携拠点病院等の施設間の支持療法の均てん化の実現に資する研究」(全田班)のアンケート調査によると,がん診療に携わる医師の約9割が本ガイドラインを使用し,その遵守率は本ガイドライン全体で約8割であり,概ねGLに沿ったFNのマネジメントがなされている.しかし,一部のCQの遵守率は低く,意外にもMASCCスコアの利用率(第2版 CQ1)やG-CSFの治療投与(第2版 CQ9)に関するCQの遵守率が高くないことが明らかになった.この結果を考慮し,今回の改訂では外来治療が可能な低リスクのFN患者を選択するためのアルゴリズムが提案されている.まず,高リスク患者をリスク評価の対象外とし,低リスク患者のなかから外来治療が可能と推定される候補を選ぶための評価プロセスを提示している.このアルゴリズムが日常診療でどの程度活用されていくのか注目したい.このほかにもFNの診断や治療に関して2つのCQ(第2版 CQ6と10)が削除され,新たに4つのCQ(第3版 CQ8,9,11と20)が追加されている.改訂第2版からの改訂項目にも注意していただきたい.
 本ガイドラインは「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020」に準拠し科学的根拠に基づく診療ガイドラインとして作成された.対象患者は悪性リンパ腫,胚細胞腫瘍など,がん薬物療法の感受性が高い腫瘍の根治的治療,および固形腫瘍での術前・術後療法,切除不能な固形腫瘍での延命・症状緩和目的の薬物療法を受ける患者である.このガイドライン改訂第3版ががん薬物療法にかかわる多くの医師,看護師および薬剤師により活用され,適切なFNの評価と治療により患者の治療成績およびQOLの向上に寄与することを期待したい.
 最後に,本ガイドライン作成を担当された吉田 稔 改訂第3版作成部会長をはじめとする多くの委員の御尽力に深謝する.

2024年2月
公益社団法人日本臨床腫瘍学会 理事長
石岡 千加史

がん薬物療法をサポートするガイドライン

 『発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン(改訂第3版)』が発刊された.
 本邦のFNの歴史は,1997年に宮崎で行われたコンセンサスミーティングにおいて,本疾患の提唱者であるKlasterskyらを迎えて,本邦の実情に合ったFNガイドラインを提唱したことに始まる.その後,日本FN研究会による臨床研究の結果から,FNに対する第四世代セファロスポリンの一つが保険適用となり,2012年にガイドラインの第1版が発刊された.ただ,宮崎でのコンセンサスを第1版とすると,本書は第4版ともいえる.
 近年開発されている抗がん薬の多くが分子標的治療薬で,好中球減少が軽微でも免疫抑制作用が強い薬剤もあり,細菌だけでなくウイルスや真菌への感染対策の必要性から,これらの微生物に対する感染対策の記述の充実が図られていることが本書の特徴の一つである.さらに特筆すべきは,第2版の内容の普及度の調査結果(厚生労働省科学研究 全田班)を念頭に作成されたことである.本調査結果では,全体としてその利用率は9割,遵守率は8割と高い普及度が報告された一方で,Clinical Question(CQ)によってばらつきがあり,低遵守の原因を考察して第3版の作成に活用している.本書を利用するあたり,まずはこの考察を一読することを勧める.
 抗がん薬治療の多くが外来で行われている現在において,遵守率が低いCQのなかでもCQ1はきわめて重要で,外来FN治療の候補となる患者の選定アルゴリズムを提案している.具体的には,まず入院で経静脈的抗菌薬が必要な高リスク群を除外し,MASCCスコアに加えて臨床的に安定している固形がん患者にはCISNEスコアを導入し,より安全に外来FN治療ができる群を同定する.ただ,低いMASCCスコア使用率のなかで,今回の推奨の普及活動と遵守率の再調査が必要である.
 G—CSFの予防投与の低遵守率に関しては,専門領域の特性(血液内科vs腫瘍内科,内科vs外科),一次予防に対する認識不足やPEG化G—CSFを入院で使用した際の不採算,などが阻害要因とされている.またCQ8(第2版)は,FN初期治療で安定しているものの持続するFN例に対するCQであるが,医師の裁量に任せる推奨文となっていることから遵守率が低いとの考察がなされている.それに対する反省から,CQ7(第3版)ではより具体的な表現で記述している.これが遵守率の向上に有用であるかは調査が必要だが,推奨文の書き方に関する課題であり,ほかのガイドラインにも参考になるであろう.一方で,重症感染症に保険適用はあるものの,効果が不確実なことから第2版で推奨されなかったガンマグロブリン製剤は,医療の現場での利用も限定的であるため,今回は削除された.ウイルス・真菌症対策では,リンパ系腫瘍治療後,抗菌薬・抗真菌薬不応例に対するサイトメガロウイルス再活性化のスクリーニングや長期好中球減少に伴う真菌症対策に関して,抗糸状菌活性のない抗真菌薬使用下では経験的な(empiric)治療ではなく,血清学的検査あるいは画像検査で真菌疑い所見がみられた際に開始する早期(pre—emptive)治療が初めて推奨された.
 がんを標的とした治療とFN対策を含む支持医療は車の両輪で,どちらが欠けても走らない.本ガイドラインの習熟・遵守がより安全で効果的ながん薬物療法に寄与するはずであり,さらなる遵守率の向上を期待したい.

臨床雑誌内科134巻3号(2024年9月増大号)より転載
評者●田村和夫(福岡大学 名誉教授)


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