書籍

人工股関節置換術

編集 : 日本人工関節学会
ISBN : 978-4-524-23373-1
発行年月 : 2023年2月
判型 : A4
ページ数 : 480

在庫あり

定価19,800円(本体18,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

日本人工関節学会による,本邦の人工股関節の臨床,研究成果を集大成したものである.人工股関節の歴史から,解剖,バイオメカニクス,手術手技,術後成績,難症例への対処,合併症対策まで,本邦で積み上げられた研究内容を俯瞰し総括した内容となっている.若手,非専門医なども含む全整形外科医必読の実践書.

1章 歴史
 1 THA 開発の歴史 総論
 2 日本における THA 開発
  総論
  A 慈大式人工股関節と前沢式軸旋型人工股関節(根本商会社)
  B SOM および KYM 人工股関節(ミズホ社)
  C 西尾式表面置換型股関節形成術 1972(ミズホ社)
  D バイオセラム 1 型,2 型,4 型,5 型(京セラ社)
  E Kyocera AMS HA カップ+PerFix HA ステム(京セラ社)
  F K-MAX ABC(AW-GC ボトムコーティング)HIP 1992 ⇒ AHFIX Q HIP System 2007(京セラ社)
  G S-LOCK ステム 2003(京セラ社)
  H CentPillar Grit Blast HA ステム 2003/ CentPillar TMZF Plasma Spray HA ステム 2007 (Stryker 社)
  T SC ステム(京セラ社)
  J DCM-J(Dual cement mantle Japan)Natural-Hip システム(Zimmer 社)
  K Zimmer APS 2008(Zimmer 社)

2章 解 剖
 1 股関節の機能解剖
 2 DDH における骨盤・大腿骨形態

3章 バイオメカニクス
 1 歩行・動作解析
 2 コンピュータシミュレーション
 3 骨リモデリングと stress shielding

4章 バイオマテリアル(摺動面・生体材料)
 1 ポリエチレン摩耗・オステオライシス
 2 超高分子量ポリエチレン
 3 ポリエチレン(ビタミン E 混合)
 4 ポリエチレン(MPC ポリマー)
 5 Metal on metal 人工股関節全置換術(MoM THA)
 6 Ceramic on ceramic
 7 セメントレスカップ・ステムの表面加工
 8 ヨードコーティング
 9 セメントレス銀含有ハイドロキシアパタイトコーティング人工股関節
 10 セメントカップ・ステムの形状・表面粗さ

5章 手術手技(固定法)
 1 セメントレス THA の基本手術手技
 2 セメント固定の基本

6章 インプラントデザイン
 1 アナトミカルステム
 2 Fit & fill ステム
 3 Taper wedge ステム
 4 ショートステム
 5 Zweymuller 型ステム
 6 Full HA ステム
 7 Modular:S-ROM ステム
 8 Modular:Neck changeable ステム
 9 表面置換型
 10 カスタムメイドステム
 11 Polish taper ステム
 12 Composite beam ステム

7章 手術の目標(臨床成績とバイオメカニクスから)
 1 設置高位
 2 オフセット
 3 Safe zone
 4 軟部組織評価
 5 脚長差

8章 術前計画
 1 2D/3D planning
 2 リスク評価(併存疾患)

9章 手術手技(アプローチ)
 1 Direct anterior approach(DAA)
 2 OCM アプローチ(modified Watson Jones アプローチ)
 3 Anterolateral-supine(AL-S) approach
 4 Mini-one anterolateral approach
 5 Posterolateral approach
 6 Conjoined tendon preserving posterior(CPP) approach

10章 CAS
 1 CT based navigation
 2 Image free navigation
 3 Portable navigation
 4 Robot surgery
 5 PSI

11章 術後リハビリテーション
 1 可動域・歩行機能・筋力増強
 2 クリニカルパス

12章 機能・患者立脚型評価
 1 機能評価
 2 日本整形外科学会股関節機能判定基準(JOA),股関節疾患評価質問票(JHEQ),ロコモティブシンドローム
 3 SF,EQ-5D,OHS,HOOS,FJS,Patient joint perception
 4 術後スポーツ活動
 5 患者満足度向上のカギ

13章 臨床成績
 1 若年者
 2 高齢者
 3 Developmental dysplasia of the hip(DDH)
 4 ONFH
 5 関節リウマチ
 6 外傷性関節症

14章 難治症例への対処
 1 Crowe group IV に対する転子下短縮骨切り併用 THA
 2 股関節強直
 3 骨切り後
 4 骨盤後傾例への評価,対処(脊椎・骨盤アライメント)
 5 大転子高位例
 6 Dorr 分類 type C
 7 両側同日手術

15章 合併症対策
 1 周術期疼痛対策
 2 出血対策
 3 DVT 対策
 4 感染対策
 5 ARMD の診断と治療
 6 Periprosthetic fracture(術中・術後)
 7 神経麻痺対策
 8 易脱臼性(術中・術後)
 9 腸腰筋インピンジメント

16章 レジストリー
   日本人工関節登録制度,JOANR

■ 序

 このたび,日本人工関節学会の編集で『人工股関節置換術』および『人工膝関節置換術』の2冊の学術書を刊行する運びとなりました.わが国は,人工関節の進歩に大きな貢献をしてきたといっても過言ではなく,生体材料,生体力学といった基礎研究から,さまざまな臨床研究まで多くの業績をあげてきました.そこで,日本の人工関節研究の集大成を作り上げるという思いを込めて企画を行いました.

 『人工膝関節置換術』は私が編集代表を担当し,『人工股関節置換術』は九州大学の中島康晴先生に編集代表をご担当いただくことになりました.2冊の本ができるだけ同じような構成になるように,歴史から始まり,バイオメカニクスなどの基礎研究,手術手技,術後成績などの流れは共通のものとしています.日本で開発された人工関節も冒頭に紹介させていただいています.現在,日本では欧米メーカーの人工関節のシェアが圧倒的に高いのが現状ですが,日本でも数多くの人工関節が開発されてきたことは重要なことと考えて取り上げました.

 本書には,その内容に大きな特徴があります.執筆はわが国の人工関節の臨床・研究を牽引してこられた先生方にお願いいたしました.学術書の執筆は,通常は担当のテーマに対して自由に記載していただくのですが,今回は,日本の人工関節研究の総まとめという位置づけですので,ご自身の研究だけではなく,日本における研究を俯瞰して総括していただくことも併せてお願いしました.そのためにまず編集委員会では,それぞれの項目において日本の整形外科医・研究者が発表した英語論文をリストアップして執筆者の先生にお渡しし,できるだけ紹介していただくようにお願いしました.執筆者の先生方には,この趣旨をご理解いただき,編集作業にもご協力いただきましたことを厚く御礼申し上げます.もちろん日本の研究だけで論理構成ができるわけではありませんが,日本の研究が人工関節の進歩に大きな貢献をしてきたことを感じていただければ幸いです.

 この2冊の書籍は,日本の人工関節研究の集大成という位置づけではありますが,人工関節に関する研究がこれで終わりということはもちろんなく,これからの研究を進める上での礎になるべきものと考えています.特に多くの若い先生方に読んでいただき,日本の整形外科医・研究者が英語の論文として発表したものが歴史の一部となり,学問の進歩につながっていることを実感していただくとともに,英語で発表することの重要性を感じていただければと思っています.人工関節にはまだまだ未解決の問題も数多く残されています.この2冊の書籍を通じて,それらの問題を解決すべく研究を行い,更なる進歩につなげていくという気持ちを強くしていただき,日本の人工関節研究が大きく推進されていくことを祈念しています.

2023年1月

日本人工関節学会
理事長 松田秀一






発刊にあたって

 わが国で人工股関節置換術が普及し始めて半世紀が過ぎました.現在では年間施行数は7 万件を超えるといわれており,長期成績も飛躍的に向上しています.その進歩は多くの基礎的・臨床的研究を背景にしており,わが国もバイオマテリアル,発育性股関節形成不全の形態研究,コンピューター支援技術などを中心に世界に誇るべき業績を数多くあげてきました.このたび,それらの日本発の業績をレビューしながら,人工股関節・人工膝関節置換術全体をそれぞれ網羅した2 冊の学術書の作成が日本人工関節学会によって企画されました.本書の趣旨をご理解いただき,ご執筆いただいた先生方に心より感謝申し上げます.本書の特徴は,人工股関節置換術の各分野のエキスパートの方々に執筆を依頼しておりますが,ご自身の研究だけではなく,わが国で行われた研究をレビューする形で内容をまとめていただいた点にあります.さらに術前計画から手術手技,後療法,合併症対策まで実用書としても役立つ構成を目指しました.

 内容について説明させていただきます.まず人工股関節置換術の歴史からはじまり,日本で開発されたインプラントについて,その開発者や開発の経緯をよくご存知の先生方から,そのコンセプトおよび臨床成績について紹介していただいています.黎明期に開発された人工股関節置換術の臨床成績は現在と比較して良好といえるものではありませんが,それらをベースに現在の人工股関節置換術が成り立っていることを考えると貴重な教訓であり,成績不良の因果関係を明らかにして,同じ轍を踏まないことが後世の私たちに課せられた使命です.バイオマテリアルの項では日本が世界に発信した数々の業績を紹介していただきました.

 発育性股関節形成不全については形態的特徴,インプラントデザイン,手術目標など多くの項で取り上げられております.術前計画・手術手技,術後療法では3D 計画,リスク評価,各手術アプローチ,積極的早期リハビリテーションなどプラクティカルな内容になっており,術後評価として欠かせなくなった患者立脚型評価もまとめていただきました.注目のロボット手術についても各種ナビゲーションなどとともにcomputer assisted surgery(CAS)の項に詳述されています.後半ではCrowe IV や骨切り後など難治症例や合併症対策についても多くのページを割き,人工股関節置換術全体を網羅できる構成としました.

 本書を通して日本の人工股関節置換術の進歩の歴史を知っていただくととともに,更なる進歩を目指して新たな研究につながることを祈念します.特に若い読者には引用された論文の多くが英文であることに気づいていただき,英文で論文を残すことの重要性を認識していただければ幸いです.最後にご執筆いただいた多くの先生方,編集作業に尽力いただいた編集委員の皆様,そして南江堂の皆様に感謝を申し上げます.

2023 年1月

編集委員を代表して 中島康晴

 日本人工関節学会の編集である本書について,理事長の松田秀一先生は序文で,「本書には,その内容に大きな特徴があります.(中略)ご自身の研究だけではなく,日本における研究を俯瞰して総括していただくことも併せてお願いしました」と述べ,さらに本書の帯には「人工関節研究の集大成―歴史,日本発の人工関節,手術手技およびその論理的根拠について学ぶために全整形外科医が持っておきたい一冊」とある.この言葉どおり,人工股関節全体を俯瞰する視点での執筆であり,一部に偏ることなく,まさにすべての領域をカバーする内容である.

 本書は16の章から構成されており,第1章では歴史を取り上げている.現在,欧米から輸入した人工関節が多く使用されているものの,歴史を振り返り,日本においても多くの人工関節が,それぞれのコンセプトに沿って開発された経緯が記述されている.骨頭径,応力遮蔽と骨萎縮,表面の形状,セメントあるいはセメントレスタイプか,などを検討している.長期の良好な成績をめざし,幾多の課題へ取り組む.それはある意味,挑戦であった.期待どおりの成績にいたらず,さらなる改善をめざした歩みそのものであった.私自身,日本開発の人工股関節置換患者の約30年後の再置換を施行した際に,長期間にわたり良好な日常生活動作(ADL)を維持されていたことに,先人のご苦労に思いを馳せたことを思い出した.

 第2章 解剖,第3章 バイオメカニクス,第4章 バイオマテリアル(摺動面・生体材料)では,股関節と人工関節の基本的な事項を理解できる.人工股関節置換術を担当する医師は単に人工関節を設置すればよいのではなく,患者の基本的な股関節の解剖および一人一人の差異(変異)を理解し,さらに人工関節そのものの特徴を理解して対応することが重要であることを示している.

 第5章 手術手技(固定法),第6章 インプラントデザイン,第7章 手術の目標(臨床成績とバイオメカニクスから),第8章 術前計画,第9章 手術手技(アプローチ),第10章 CASでは,手術は手術をすることが目的ではなく,患者の痛みを除き,ADL改善を図ることをめざすものであり,そのために必要なインプラントの知識,手術手技および手術施行するうえでの術前計画の手順と重要性を改めて強調している.

 第11章 術後リハビリテーションでは,リハビリテーションの基本,患者教育,医療サービス,さらにクリニカルパスによる多職種連携での取り組みを取り上げている.手術が重要なことはいうまでもないが,人工関節置換術の成績向上にはリハビリテーションや多職種の協働がきわめて重要で,医療の質の向上につなげることを強調している.もちろん手術前からリハビリテーションを含めた患者への対応が必要である.

 第12章 機能・患者立脚型評価,第13章 臨床成績では,機能評価として特に患者立脚型評価を取り上げ,各機能評価法の紹介,さらに術後のスポーツ活動や患者満足度向上のカギに言及しており,患者の要望への対応について記載している.

 第14章 難治症例への対処では,Crowe group W症例,股関節強直骨切り後症例への対応,さらに骨盤傾斜の評価,大転子高位例への対応に言及している.いずれも臨床の場で症例ごとに精密な評価と検討を行ったうえで手術を施行することが必要で,そのポイントを示している.

 第15章 合併症対策として,疼痛,出血,深部静脈血栓症(DVT),感染,インプラント周囲骨折,神経麻痺,易脱臼性などを取り上げ,いかに合併症の発生を最小限とし,早期発見とその対応について言及している.

 第16章 レジストリーでは日本人工関節登録制度(JOANR)について記載している.この大規模データベースを利活用することで,人工関節置換術の実態が明らかになり,今後の発展が期待されると述べている.

 本当にすべてを網羅した内容であり,股関節診療を担当する医師はもちろんのこと,すべての整形外科医におすすめする本である.患者やご家族,さらに看護師,リハビリテーション関連職などのメディカルスタッフにもおすすめする書物である.

臨床雑誌整形外科74巻9号(2023年8月号)より転載
評者●新潟県立燕労災病院院長/新潟大学名誉教授 遠藤直人

9784524233731