ビジュアル パニーニ臨床生化学原書第2版
訳 | : 横溝岳彦 |
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ISBN | : 978-4-524-23287-1 |
発行年月 | : 2023年10月 |
判型 | : A4変型 |
ページ数 | : 544 |
在庫
定価7,700円(本体7,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
生化学の基礎と,それに関連する臨床的な知見を豊富な図とともに解説した臨床生化学の教科書.臨床とのつながりを囲み記事で解説したほか,図示した代謝経路に代謝酵素の欠損が引き起こす疾患名を記載するなど,生化学反応とその異常に伴う疾患が容易に理解できる.練習問題も収載されており,自主学習や知識の整理も可能.臨床とのつながりをイメージしながら生化学を学びたい学生に必読の一冊.
第I部 栄養と生体分子
第1章 栄養と消化の関係
1.1 必要な栄養とエネルギー
1.2 消化と吸収
1.3 エネルギーに変換される栄養素:炭水化物,脂質,タンパク質
1.4 ビタミン
1.5 水とミネラル
第2章 炭水化物の構造と化学的性質
2.1 概要
2.2 単糖類
2.3 二糖類,オリゴ糖,多糖類
第3章 脂質の構造と化学的性質
3.1 概要
3.2 脂肪酸
第4章 アミノ酸とタンパク質
4.1 アミノ酸
4.2 タンパク質
4.3 注目すべきタンパク質
第5章 生化学反応と酵素
5.1 生化学反応の原理
5.2 生化学反応の種類
5.3 酵素
5.4 酵素の速度論
5.5 アロステリック酵素,アイソザイム,
プロ酵素(プロエンザイム)
復習問題:栄養と生体分子
答えと解説:栄養と生体分子
第II部 膜と輸送およびシグナル伝達
第6章 膜と輸送
6.1 膜の構造と構成
6.2 膜の流動性
6.3 受動的および能動的な膜輸送
第7章 シグナル伝達
7.1 概要
7.2 シグナル伝達の種類
7.3 シグナル分子の種類とその受容体
7.4 G タンパク質共役型受容体によるシグナル伝達
7.5 受容体チロシンキナーゼによるシグナル伝達
復習問題:膜と輸送およびシグナル伝達
答えと解説:膜と輸送およびシグナル伝達
第III部 細胞呼吸
第8章 細胞呼吸の原理
8.1 概要
8.2 ATP
第9章 解糖とピルビン酸の運命
9.1 グルコースの取り込み
9.2 解糖系の概要
9.3 解糖系の反応
9.4 解糖系の調節と統合,解糖系に関連する障害
9.5 ピルビン酸
第10章 TCA(トリカルボン酸)回路
10.1 概要
10.2 アセチルCoA の供給源
10.3 ピルビン酸の脱炭酸反応
10.4 TCA(トリカルボン酸)回路
10.5 TCA 回路のアナプレロティック反応(補充反応)とアナボリック機能
第11 章 酸化的リン酸化とミトコンドリア
11.1 概要
11.2 酸化的リン酸化のメカニズム
11.3 ミトコンドリアの輸送システム
復習問題:細胞呼吸
答えと解説:細胞呼吸
第IV部 代謝
第12章 糖代謝
12.1 糖
12.2 糖新生:グルコースの新規合成
12.3 グリコーゲン代謝
12.4 フルクトースとガラクトースの代謝
12.5 ペントースリン酸経路
12.6 生体分子の糖鎖修飾
第13章 脂肪酸の代謝
13.1 脂質:概要
13.2 脂肪酸の合成
13.3 脂肪酸の貯蔵と放出
13.4 脂肪酸の異化
13.5 ケトン体
13.6 膜脂質
13.7 エイコサノイド
第14章 コレステロールとステロイドの代謝
14.1 イソプレノイド
14.2 コレステロール
14.3 コレステロールの貯蔵と輸送
14.4 胆汁酸の代謝によるコレステロールの排出
14.5 コレステロールのステロイドホルモンおよびビタミンD への変換
第15章 タンパク質とアミノ酸の代謝
15.1 タンパク質
15.2 アミノ酸
15.3 タンパク質の代謝
15.4 アミノ酸の代謝
15.5 尿素回路
第16章 ヌクレオチドとヘムの代謝
16.1 ヌクレオシド,ヌクレオチド,デオキシヌクレオチド
16.2 ヌクレオチドの分解
16.3 ヌクレオチドの新規(de novo)合成
16.4 ヌクレオチド合成のサルベージ経路
16.5 ヘム
復習問題:代謝
答えと解説:代謝
第V部 遺伝学と細胞周期
第17章 DNA の複製と修復
17.1 デオキシリボ核酸(DNA)
17.2 DNA 複製
17.3 DNA 損傷と突然変異
17.4 DNA 修復のメカニズム
第18章 転写
18.1 リボ核酸(RNA)
18.2 転写
18.3 転写のメカニズム
18.4 RNA プロセシング
18.5 転写の制御
第19章 翻訳と翻訳後修飾
19.1 遺伝暗号と突然変異
19.2 タンパク質の合成(翻訳)
19.3 タンパク質合成が生じる場所
19.4 翻訳後のタンパク質処理
第20章 細胞周期,アポトーシス,癌
20.1 細胞周期
20.2 アポトーシス
20.3 癌
第21章 分子生物学的実験法
21.1 生体分子の研究手法
21.2 制限酵素とDNA リガーゼ
21.3 電気泳動による高分子の分離
21.4 ハイブリダイゼーション
21.5 DNA シーケンシング
21.6 組換え型DNA 技術
21.7 分子生物学的手法の応用
21.8 臨床的に有用なタンパク質の生産
21.9 タンパク質分析のための分子技術
復習問題:遺伝学と細胞周期
答えと解説:遺伝学と細胞周期
付録
索引
私は長い間,医学部の教官として医学科学生の生化学教育に携わってきた.大部分の医学生は臨床医としての自分の将来を思い描きながら基礎医学を学ぶため,臨床医学に関わる講義には興味を示すことが多い.そこで,講義の節々に自分が関わってきた患者とのエピソードを交えた講義を行っており,学生にはそれが好評のようである.近年,日本の医学生教育は米国化し,臨床医学,病院での実習の比重が大きくなり,生化学をはじめとした基礎医学の教育にあてられる時間数は減少の一途をたどっている.一方で,研究の進展によって蓄積される生化学的情報は増えることはあっても減ることはない.したがって,大学で用意された講義・実習でそのすべてを身につけることは不可能である.また,看護師,臨床検査技師,パラメディカルスタッフの育成にも,臨床医学の情報とリンクした生化学教育が必要だと考えていた折に,本書の翻訳の依頼をいただいた.
本書を一読して最も驚いたのは,構造式を極力避けた図の構成であった.もちろん,基本的な構成要素の構造式はきちんと示されているが,解糖系やクエン酸回路の全体を示す図には,それぞれの分子の構造は記載されていない.その代わりに,それぞれの反応の意味や補酵素,放出される分子が見やすい形で示されている.構造式を見た瞬間に教科書を閉じたくなる学生が多いため,細かい反応機構の解説を大胆に省き,その代わりに医学的な意義を強調したいという著者の意図が読み取れる.また,基本的な解説と同等,あるいはそれ以上のスペースを用いて,臨床医学に関わる項目の説明が行われている.恐らく,これが原著タイトルをMedical Biochemistry とした著者の最も強いメッセージなのだろう.代謝経路を示した図中には,その代謝酵素の遺伝子欠損が引き起こす疾患名が表記されており,どの反応の異常が疾患に結びつくのかを容易に理解することができる.第X部では,生化学の教科書としては珍しく,DNA 複製,転写,翻訳が詳しく解説されている.さらに,細胞周期,細胞死,発がん機構についての詳細な記載に加えて,実際の研究に用いられている最新の分子生物学的手法が解説されていることも本書の特徴の1 つである.最近の教科書と同様,本書でも十分な数の演習問題が準備され,その解説も丁寧である.米国の医師国家試験(USMLE)のステップ1 に十分対応できる内容になっていると感じている.
以上からおわかりいただけるとおり,本書は臨床志向が強い医学生,看護学生,臨床検査技師を目指す学生が,患者をイメージしながら生化学を学ぶのに適した教科書である.日本語での読みやすさを最優先するため,私自身が単独で翻訳を行った.英文特有の言い回しを柔らかい日本語に変換するために大胆な意訳を行っている.単訳のため翻訳には時間を要したが,全体として統一された文体の読みやすい教科書になっていると自負している.この教科書が,生化学を学ぶ医療従事者の教育の一助となれば幸いである.
2023年9月
横溝 岳彦