ようこそ緩和ケアの森
死亡直前期の患者を診る
シリーズ監修 | : 森田達也 |
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シリーズ編集 | : 柏木秀行 |
著 | : 大屋清文/岡本宗一郎/石上雄一郎/柏木秀行 |
ISBN | : 978-4-524-23277-2 |
発行年月 | : 2023年7月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 180 |
在庫
定価2,750円(本体2,500円 + 税)
正誤表
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2024年04月04日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
緩和ケアという森にはさまざまな木(テーマ)が生えている.そんな森に足を踏み入れようとしているあなたに,初心者時代の記憶新しい著者らが記す,<緩和ケアの“超入門書”シリーズ>!!
本巻では死亡直前期の対応について解説.予後予測や意思決定支援の実際から,急変時の対応,輸液,鎮静,看取りの作法など,初心者には困難を感じやすい局面を取り上げる.患者の最期に関わる全ての医療者に.
死期が近づいていそうな患者をみるとき
第1章 生命予後を推定する
1. 生命予後を推定する ──私の患者さんに残された時間はどれくらい?
2. がん患者の生命予後を推定する ──え,そんなに早いの?!
3. 非がん患者の生命予後を推定する ──次に悪くなったらもう後がない?
第2章 死亡直前期のコミュニケーション
1. 死亡直前期のコミュニケーション@ ──話しづらいことをどうやって話せばいい?
Column「本人には予後を知らせないでください」
2. 死亡直前期のコミュニケーションA ──話し合いを重ねて患者と家族の願いを叶えよう
Column「こんなに悪いのに家に帰れない」
Column 事実は想像を“常に”上回る
第3章 死亡直前期で問題になること
1. 死亡直前期に問題になりやすいこと ──食べられなくなってきたんですけど,どうしたらいいですか?
2. 死亡直前期の急変に備える ──治療・ケアのゴールを決めておく
3. 苦痛が取り切れないときに考えること ──もう寝かせたほうがいい?
Column 緩和的鎮静 ──安楽死や関連する概念との違い
第4章 患者さんのお看取り
1. 患者さんが亡くなったとき ──お看取りってどうすればいいの?
Column 医療者も泣いていい
ex. 救急外来での心停止時の対応
シリーズ監修にあたって
〜緩和ケアの森をのぞいてみませんか?〜
「緩和ケア」という森にはいろんな木が生えている.すでに大木となったケヤキは「痛み」とか「オピオイド」だろうか─どこからどのように話を聞いていっても,知らない幹,知らない枝が目の前に展開されていく.一方で,カエデやツバキのように,大木というわけではないが,季節や時間によって見える姿を変える木々もある─緩和ケアでは呼吸困難や消化器症状であろうか.働いている環境や経験年数によって,見える木々の種類も違ってくる.
森全体を見て,ああ照葉樹林だね,里山って感じだね〜〜,この辺は針葉樹だねえ,神秘的だねえ…そのような見方もいいが,一本一本の木をもっとよく見たいという人も多いに違いない.本シリーズは,最近にしては珍しく緩和ケアの森まとめて1冊ではなく,領域ごとに木の1つひとつを見ることのできるようにデザインされた著作群である.教科書やマニュアルでは,他の領域との兼ね合いでそれほど分量を割くことのできない1つひとつの話題を丁寧に追っていくことで,緩和ケアという森に生えている「いま気になっている木」「いつも気になっている木」から分け入っていくことができる.
本シリーズにはいくつかの特徴がある.
1つめは,対象疾患をがんに限らないようにしたことである.本シリーズの読者対象を,がん緩和をどっぷりやっている臨床家よりは,比較的経験の少ない─つまりはいろいろな患者層を診る日常を送っている臨床家としたためである.がん患者だけを診るわけではない臨床を想定して,がん/非がんの区別なく使用できる緩和ケアの本を目指した.
2つめは,執筆陣を若手中心に揃えたことである. 編集の柏木秀行先生が中心となり,さらに若手の医師たちが執筆の中心を担った.これによって,ベテランになったら「そんなこと悩んでたかな?」ということ─しかし最初に目の当たりにしたときには「あれ,これどうするんだろう??!!」とたしかに立ち止まったところを,現実感をもって記述できていると思う.
3つめは,症状緩和のみならず,治療に伴う患者・家族とのコミュニケーション,多職種とのコミュニケーションに比較的多くのページが割かれていることである.これは,「するべき治療はわかっても,それをリアルにどう展開するかで悩む」若手医師を念頭に置いた結果である.同じ趣旨で,多くのパートで「ちょっとつまずいたこと」「ひやっとしたこと」も生々しく記載されている.臨床経験が多いと10年したら「あ〜〜それ,あるある」ということであっても,経験初期であらかじめ知っておくことで,落ちなくていい落とし穴にはまらずに済むことができる.
つまり本シリーズは,@がんだけでなく非がんも,A若手中心の執筆陣により,B治療の選択だけでなく周辺の対応のしかたを含めて,緩和ケア全体ではなく1つひとつのトピックで展開してみた著作群ということになる.監修だけしていても面白くないので,各巻で,筆者もところどころに「合いの手」を入れさせてもらっている.ちょっとしたスパイスに,箸休めに楽しく読んでもらえればと思う.
本シリーズが,緩和ケアという森に足を踏み入れる読者のささやかな道案内役になれば幸いである.
2023年6月
森田 達也
シリーズ編集にあたって
〜緩和ケアの森の歩き方〜
巷に増えてきた緩和ケアの本とは,一線を画すユニークな企画にしたい! この想いをぎゅっと込めて,気心の知れた仲間たちと作ったのがこの「〈ようこそ 緩和ケアの森〉シリーズ」です.あまり整備されていない森を歩いてみると,まっすぐに進むことの難しさがわかります.まっすぐ進もうにも,足元に気をつけながら,木枝を避けて進んでいる間に方向感覚も失ってしまいます.本当にこちらに進んでいって大丈夫なのだろうか? そのような状況には恐怖すら覚えますよね.
今や世の中の多くの方が,人工知能を中心としたテクノロジーの凄まじさを体感する時代です.診療の多くはフローチャートやアルゴリズムに落とし込まれ,緩和ケア領域においても勉強しやすく,特に初学者にとっては良い環境になりました.一方,緩和ケアのリアルワールドでは,必ずしもそれだけでは太刀打ちできないこともしばしば生じます.やはり「知っている」と「できる」にはそれなりの差があるのだと思います.「できる」までの過程は,森の中を手探りで進む感覚にも近く,進んでいることすらわからなくなってしまいます.
では,「知っている」と「できる」の間にあるギャップを埋めるためには何が必要なのでしょう? 一言で言うと, 経験なのかもしれません.経験を積み重ねればいつか「できる」ようになるよというアドバイス….まあ,長く臨床を経験すれば,できることは増えていくのでしょうけど.この経験,もうちょっと言語化してみようと思います.
経験=投入時間×試行回数×気づき効率
これが臨床家としてしばしば言われる「経験」を,私なりに言語化したものとなります.「これだから最近の若者は…」なんて言葉も聞こえてきそうですけど,Z世代とは程遠い私だってコスパは大事です.そうなると,試行回数と,そこから学ぶ(気づく)効率をいかに最大化できるかが大切になります.
この観点で言うと,本シリーズは初学者から一歩足を踏み出そうとしている方にとって,この試行と気づきを最大化させる本なのです.先輩方がまさしく同じように「脱・初心者!」ともがいていたあの頃,いろいろ試行し,時に失敗し,学んできたエッセンスを惜しみなく披露してくれています.そしてそこに,森田達也先生の監修が加わり,森で迷っているときに出会った,木漏れ日のようなコメントが心を癒してくれます.ぜひ,緩和ケアの森で遭難することなく,執筆陣の過去の遠回りを脇目に楽しみながら,あなたにしかできない緩和ケアを実践していってください.
2023年6月
柏木 秀行
はじめに
死が差し迫まっている患者をどうケアしていくか─これは,真剣に患者と向き合っている医療者であれば誰もが苦心する課題でしょう.本書では,臨床の最前線で死亡直前期のケアを担う読者のために,とくに押さえてもらいたいポイントをまとめました.
第1章は予後予測です.病そのものの経過を予測していくことは,さまざまな治療方針の決定や意思決定支援の土台になります.まず病の軌跡について触れつつ,がん・非がん疾患の予後予測(とその限界)について,それぞれ概説していきます.
第2章はコミュニケーションです.コミュニケーションはセンスではありません.後天的に十分に鍛えられるスキルです.ここではとくに死亡直前期のコミュニケーションについて実例を出しながら解説していきます.また,病院で遭遇しやすい(しかし難易度はきわめて高い)救急外来でのコミュニケーションについても最後に取り上げています.
第3章は死亡直前期に問題になりやすいこととして,死亡直前期の栄養や輸液の考え方,急変時の対応,治療抵抗性の苦痛を有するときの緩和的鎮静を扱います(なお,疼痛や呼吸困難などの症状も死亡直前期に強くなることが多いのですが,これは各症状のマネジメントを扱った本シリーズの別巻をご覧になってください).
第4章では,あまり体系的に教わることの少ないであろうと思われる,看取り時の立ち振る舞いについてもまとめています.
各章は基本的にどこから読んでもらってもOKです.この緩和ケアの森のどこかで,みなさんにとっての新たな気づきが芽吹くような,そんな瞬間があれば,執筆者としてこれ以上の喜びはありません.ぜひこの森の散策を楽しんでください.
最後に,本書を世に出すまで尽力してくださった南江堂の皆様と,シリーズを監修頂いた森田達也先生,編集頂いた柏木秀行先生に深く感謝申し上げます.ありがとうございました.
2023年6月
執筆者一同
ヘンゼルとグレーテルは緩和ケアの森のなかでもう迷うことはない
リアルでもインターネットでも書店の医学書のコーナーにいけば,緩和ケアに関するさまざまな書籍が並んでいる.エビデンスに基づくガイドラインが整備され,緩和ケアの専門家を目指す者が手にとるべき標準テキストも用意されている.評者が緩和ケアの森に足を踏み入れたのは20年ほど前だが,その頃に比べると知識を得るツールは,はるかに充実している.
しかし,リアルワールドにおける緩和ケアの実践には依然としていくつもの迷い道が残されている.とくにimminent death(死が近づいたとき)において,あなたが医療チームのなかでどのような役割を担い,どのような治療やケアを取捨選択し,また患者や家族の前でどのように振る舞い,どのような言葉をかけるのか.教科書やガイドラインを読むだけでは立ち行かない.しかも不幸にして私たちはしばしば孤独である.幾人もの同僚がいて,目の前の問題にどう対処すべきか,経験を分かち合いながらいつでも話し合える環境にはなかなか巡り会えない.
目の前の患者に残された時間はどのくらいなのか,苦痛を和らげ患者の自己実現を支援するには何をすればよいのか,解決が困難な耐えがたいつらさにどのように対処するのか,苦痛緩和のための鎮静を適切に行うにはどうしたらよいのか.緩和ケアの専門家を志すものは皆,死の直前にあってつらさを抱えた患者や家族を目前にして悩み,ゆらぎ,それでも考え抜くことを重ねてきた.森のなかを行きつ戻りつして,本当にあれでよかったのかと何度も問い直しながら.
本書はそうした悩みやゆらぎのなかで誰もが迷い込むいくつかの小道に,道しるべを置いてくれる.まるで森へと迷い込んだヘンゼルとグレーテルが,道々にパンくずを目印として落としていったように.しかも童話と違ってパンくずを食べてしまう小鳥や意地悪な魔女はいない.代わりにDr森田という森の賢者がところどころで大切な助言までくれるのだ.
もちろん目の前の患者のために思い悩み,考え抜くことが実践者にとって大切な財産になることは昔も今も変わらない.しかし,緩和ケアを志して深い森に初めて足を踏み入れるとき,本書が傍らにあることは,あなたを力づけ,その冒険の大きな助けになることだろう.
臨床雑誌内科133巻2号(2024年2月号)より転載
評者●永山 淳(国家公務員共済組合連合会浜の町病院緩和医療内科)
本書の第一印象は,「読みやすい」テキストであり「使える」本である.エビデンスと実践に関する記述のバランスがとてもよく,「なぜこのことが問題になるのか」「それに対して,どのようなエビデンスがあるのか」「では,実践ではどうしたらよいのか」について,著者らの知識や経験を惜しみなく披露している.読み物としても,エビデンスの辞書として実践で困った際に調べるときにもフル活用できる書籍である.脱初心者をうたっているが,本当にそのとおりだなと思う.
本書は,「予後予測」「死亡直前期のコミュニケーション」「死亡直前期の問題(食事・急変・鎮静)」「看取り」の4 つの章から構成される.そして,それぞれの章で「つまづきやすいポイントと,それに対してどのような思考をとるか」「医学的知識や看護・ケアのエビデンス」とともに「私のプラクティス」として実践的に気をつけたいことやコツなどが書かれている.著者らがどうやって初心者から一流に進化してきたかがうかがえる部分である.要所にある「Dr森田より」という,巨匠森田の実践・研究の経験に基づく含蓄あるコメントもスパイスとなっている.
本書の特徴の1 つとして非がん疾患に関する記述が多い.いままでの死亡直前期を扱った書籍はがんに限られていたが,よく調べたなと思うくらいに非がん疾患の記述が多い.私が知らなかったことも非常に多く,今後頼りになる一冊だなと思う.
この本は書評のために献本いただいたが,本研究室でも「ようこそ緩和ケアの森」シリーズを学生用に一通り購入したのは言うまでもない.
がん看護29巻5号(2024年9-10月号)より転載
評者●宮下光令(東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野教授)
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