ようこそ緩和ケアの森
患者・家族とのコミュニケーション
シリーズ監修 | : 森田達也 |
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シリーズ編集 | : 柏木秀行 |
著 | : 大武陽一/山口健也/平山貴敏 |
ISBN | : 978-4-524-23276-5 |
発行年月 | : 2023年7月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 176 |
在庫
定価2,750円(本体2,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
緩和ケアという森にはさまざまな木(テーマ)が生えている.そんな森に足を踏み入れようとしているあなたに,初心者時代の記憶新しい著者らが記す,<緩和ケアの“超入門書”シリーズ>!!
本巻では緩和ケアにおける患者・家族とのコミュニケーションを扱う.基本的な大原則とスキルの紹介から,希死念慮や怒りなどの困難なケース,悩ましい病態ごとに考え方とその対応を解説.緩和ケア専門家でなくともコミュニケーション力の向上に役立てられる一冊.
第1章 コミュニケーションの大原則
1.難治性疾患の患者の心理と患者・家族とのコミュニケーション
2.コミュニケーションで大失敗しないために 〜コミュニケーションスキルと行動経済学〜
3.つらい想いの患者を支える 〜スピリチュアルペインとスピリチュアルケア〜
第2章 実際にどうする? 難しい場面での対応
1.希死念慮 〜「死にたい」と言っている〜
2.怒り 〜すごく怒っている〜
3.不安 〜眠れない・じっとしていられない〜
4.説明しても「理解が悪い」と感じるとき
第3章 実際にどうする? 悩ましい疾患・障害での対応
1.不安障害・うつ病 〜不安の強い患者で考えること〜
2.認知症 〜コミュニケーションが難しいし,これからのことはどうやって決めよう?〜
3.発達障害 〜こだわりの強い患者で考えること〜
4.パーソナリティ障害 〜振り回されて労力のいる患者で考えること〜
シリーズ監修にあたって
〜緩和ケアの森をのぞいてみませんか?〜
「緩和ケア」という森にはいろんな木が生えている.すでに大木となったケヤキは「痛み」とか「オピオイド」だろうか─どこからどのように話を聞いていっても,知らない幹,知らない枝が目の前に展開されていく.一方で,カエデやツバキのように,大木というわけではないが,季節や時間によって見える姿を変える木々もある─緩和ケアでは呼吸困難や消化器症状であろうか.働いている環境や経験年数によって,見える木々の種類も違ってくる.
森全体を見て,ああ照葉樹林だね,里山って感じだね〜〜,この辺は針葉樹だねえ,神秘的だねえ…そのような見方もいいが,一本一本の木をもっとよく見たいという人も多いに違いない.本シリーズは,最近にしては珍しく緩和ケアの森まとめて1冊ではなく,領域ごとに木の1つひとつを見ることのできるようにデザインされた著作群である.教科書やマニュアルでは,他の領域との兼ね合いでそれほど分量を割くことのできない1つひとつの話題を丁寧に追っていくことで,緩和ケアという森に生えている「いま気になっている木」「いつも気になっている木」から分け入っていくことができる.
本シリーズにはいくつかの特徴がある.
1つめは,対象疾患をがんに限らないようにしたことである.本シリーズの読者対象を,がん緩和をどっぷりやっている臨床家よりは,比較的経験の少ない─つまりはいろいろな患者層を診る日常を送っている臨床家としたためである.がん患者だけを診るわけではない臨床を想定して,がん/非がんの区別なく使用できる緩和ケアの本を目指した.
2つめは,執筆陣を若手中心に揃えたことである. 編集の柏木秀行先生が中心となり,さらに若手の医師たちが執筆の中心を担った.これによって,ベテランになったら「そんなこと悩んでたかな?」ということ─しかし最初に目の当たりにしたときには「あれ,これどうするんだろう??!!」とたしかに立ち止まったところを,現実感をもって記述できていると思う.
3つめは,症状緩和のみならず,治療に伴う患者・家族とのコミュニケーション,多職種とのコミュニケーションに比較的多くのページが割かれていることである.これは,「するべき治療はわかっても,それをリアルにどう展開するかで悩む」若手医師を念頭に置いた結果である.同じ趣旨で,多くのパートで「ちょっとつまずいたこと」「ひやっとしたこと」も生々しく記載されている.臨床経験が多いと10年したら「あ〜〜それ,あるある」ということであっても,経験初期であらかじめ知っておくことで,落ちなくていい落とし穴にはまらずに済むことができる.
つまり本シリーズは,@がんだけでなく非がんも,A若手中心の執筆陣により,B治療の選択だけでなく周辺の対応のしかたを含めて,緩和ケア全体ではなく1つひとつのトピックで展開してみた著作群ということになる.監修だけしていても面白くないので,各巻で,筆者もところどころに「合いの手」を入れさせてもらっている.ちょっとしたスパイスに,箸休めに楽しく読んでもらえればと思う.
本シリーズが,緩和ケアという森に足を踏み入れる読者のささやかな道案内役になれば幸いである.
2023年6月
森田 達也
シリーズ編集にあたって
〜緩和ケアの森の歩き方〜
巷に増えてきた緩和ケアの本とは,一線を画すユニークな企画にしたい! この想いをぎゅっと込めて,気心の知れた仲間たちと作ったのがこの「〈ようこそ 緩和ケアの森〉シリーズ」です.あまり整備されていない森を歩いてみると,まっすぐに進むことの難しさがわかります.まっすぐ進もうにも,足元に気をつけながら,木枝を避けて進んでいる間に方向感覚も失ってしまいます.本当にこちらに進んでいって大丈夫なのだろうか? そのような状況には恐怖すら覚えますよね.
今や世の中の多くの方が,人工知能を中心としたテクノロジーの凄まじさを体感する時代です.診療の多くはフローチャートやアルゴリズムに落とし込まれ,緩和ケア領域においても勉強しやすく,特に初学者にとっては良い環境になりました.一方,緩和ケアのリアルワールドでは,必ずしもそれだけでは太刀打ちできないこともしばしば生じます.やはり「知っている」と「できる」にはそれなりの差があるのだと思います.「できる」までの過程は,森の中を手探りで進む感覚にも近く,進んでいることすらわからなくなってしまいます.
では,「知っている」と「できる」の間にあるギャップを埋めるためには何が必要なのでしょう? 一言で言うと, 経験なのかもしれません.経験を積み重ねればいつか「できる」ようになるよというアドバイス….まあ,長く臨床を経験すれば,できることは増えていくのでしょうけど.この経験,もうちょっと言語化してみようと思います.
経験=投入時間×試行回数×気づき効率
これが臨床家としてしばしば言われる「経験」を,私なりに言語化したものとなります.「これだから最近の若者は…」なんて言葉も聞こえてきそうですけど,Z世代とは程遠い私だってコスパは大事です.そうなると,試行回数と,そこから学ぶ(気づく)効率をいかに最大化できるかが大切になります.
この観点で言うと,本シリーズは初学者から一歩足を踏み出そうとしている方にとって,この試行と気づきを最大化させる本なのです.先輩方がまさしく同じように「脱・初心者!」ともがいていたあの頃,いろいろ試行し,時に失敗し,学んできたエッセンスを惜しみなく披露してくれています.そしてそこに,森田達也先生の監修が加わり,森で迷っているときに出会った,木漏れ日のようなコメントが心を癒してくれます.ぜひ,緩和ケアの森で遭難することなく,執筆陣の過去の遠回りを脇目に楽しみながら,あなたにしかできない緩和ケアを実践していってください.
2023年6月
柏木 秀行
はじめに
本シリーズは,緩和ケア初学者を対象に,より噛み砕いた平易な解説を行う「緩和ケアの入門書シリーズ」として企画されたものです.そのなかでも本書は「患者・家族とのコミュニケーション」をテーマとしています.
緩和ケアというと第一に疼痛緩和を思い浮かべるかもしれませんが,どのような症状の緩和においても,患者・家族とのコミュニケーションが十分でなければ適切な評価・治療は行えません.また,コミュニケーションそのものが患者・家族に対するケアの第一歩になります.したがって,患者・家族とのコミュニケーションは緩和ケアにおいて最も基本的であり,どの医療者にとっても十分に実践できることが求められる課題です.
通常のコミュニケーションは自信をもって行えていても,実臨床ではさまざまな困難なシチュエーションがあり,患者・家族とコミュニケーションがうまくとれない場合もあります.そのようなとき,個人でどのように対応するか,どこまで対応して,どこから上級医や他職種に助けてもらうか,どのように情報共有するか,などの判断も重要になってきます.さらに,コミュニケーションが難しい患者に対応する過程では,医療者同士の職種間で対立構造が生じてしまい,関係性が悪くなってしまうことも少なくありません.それは患者・家族に対するケアにおいても良い結果につながりません.したがって,患者・家族に対するコミュニケーションのみならず,医療者間でのコミュニケーションの工夫やコツを掴んでおくことも重要です.
本書は,希死念慮や怒りなどの難しい場面の対応から不安障害やうつ病,認知症,発達障害,パーソナリティ障害,スピリチュアルペインに至るまで,実臨床上,皆さんが困るであろうシチュエーションの患者・家族とのコミュニケーションに焦点を当てて解説しています.初学者がつまずきやすいポイントの解説に加えて,各執筆者が,日常臨床で実践しているコツを示した「私のプラクティス」,失敗した実体験からの学びを示した「私の失敗談」,学びをより深めたい方に向けた「さらにレベルアップしたい人のために」などの内容を加え,できるだけ実践的で平易な解説を意識して執筆しました.
本書が,読者の皆さんの患者・家族とのコミュニケーションの質を高めるとともに,本シリーズ全体を通読いただくことで緩和ケアに必要な知識が身につき,自信をもって緩和ケアを実践する一助となることを願っています.
2023年6月
執筆者一同
安西先生,バスケ(コミュニケーション)は上手くなりますか?
本書のカバーには「コミュニケーションって学べるの?」と大きく書かれている.「小手先のコミュニケーション技術なんて本当に役に立つの?」「上手い人は上手いし,下手な人は下手だよね」などは,コミュニケーション技術関連の書籍へのよく聞かれる感想だ.「コミュニケーションを学ぶ」というのはなかなかピンとこないが,対人スポーツでの技術の考え方に似ているので,ここでは一昨年(2022年)に映画が大ヒットし(評者は連載世代であった)『SLAM DUNK』を例にして,本書の解説を試みる.
ご存じの方も多いだろうが,『SLAM DUNK』は主人公が一目ぼれした女の子にもてるためにバスケットボールを始め,仲間やライバルとのドラマを通じて徐々にバスケットボールの魅力に目覚めていく,スポーツ漫画の金字塔の一つだ.バスケットボール初心者の主人公は,当初その恵まれた体格や身体能力(素質)でそれなりの力を示すが,試合でライバルに太刀打ちできなかった.コミュニケーションも同様で,とくに練習などしなくても相手の気持ちを察したり,わかりやすい説明が上手な方がいる.ただ,本書で扱っているような難治性の疾患の治療や予後に関する患者とのコミュニケーションに役立てられるかについては,素質だけで十分ではないと思う.
『SLAM DUNK』では,自分の限界に気づいた主人公がドリブル,シュートといった基礎技術の練習を始める.コミュニケーション技法や,行動経済学的な情報の伝え方などが書かれた本書の第1章「コミュニケーションの大原則」がこれに当たる.ただ,『SLAM DUNK』でも,対戦相手がいて流れもある試合のなかで,練習した基礎技術を発揮することは容易ではない.患者ごとに違った対応が必要なコミュニケーションでも同様で,コミュニケーション技術を学んだところで使えない,と感じてしまう一因だろう.
主人公は徹底的な反復練習で基礎をスキルアップして徐々に,相手が自分の身長より高い場合の動き方や,チームメイトの活かし方など,試合中の駆け引きも学んでいく.また自分が目立つことではなく,チームの勝利をアウトカムとして意識するようになる.本書の第2章,第3章で解説される,患者がすごく怒っている場合,理解がわるいと感じる場合,認知症の場合など,さまざまな実践での状況がこれに当たる.「うまく説明できること」ではなく,状況を理解して納得できる最善のアウトカムを患者とのチームで導くコミュニケーションのためのヒントが書かれている.
基礎的な技術を身につけて,場面や相手の状況を分析し,チームメイトと連携して患者のために望ましい結果を考えることができれば,コミュニケーション(バスケ?)は上手くなります,というのが冒頭の問いへの答えである.本書を読むことで,臨床家にとって重要なスキルであるコミュニケーションのレベルを一段上げていただきたい.
臨床雑誌内科133巻2号(2024年2月号)より転載
評者●秋月伸哉(都立駒込病院精神腫瘍科・メンタルクリニック 部長)
大きな声では言えないけれど,「コミュニケーションがちょっと苦手……」と,感じている方も少なくないのではないでしょうか.また,患者さんとのやりとりや,職場の上司やチームのメンバーとのかかわりのなかで葛藤を感じた経験など,コミュニケーションにまつわる過去の苦い記憶に胸が痛む方もいるかもしれません.でも大丈夫,コミュニケーションを学び,そのスキルを身につけるのは,今からでも遅くはありません.
日々の臨床実践において,看護師はコミュニケーションをつうじて患者とよい信頼関係を築き,またそのスキルを駆使してケアプランの達成も目指します.コミュニケーションの良し悪しが,人間関係やケアの質を決めると言っても過言ではありません.
看護師としてだけでなく,一人の人間としても,コミュニケーションはすべての原点であり,学ぶほどに奥が深く,生涯にわたって磨き続けるべき大事なスキルとも言えるでしょう.スキルを磨くためには,正しい知識を学び,それを実践しながら自分のスタイルに合うように洗練することが重要です.
そのような読者の大きなニーズに応えるべく,本書は,看護師が臨床現場でのコミュニケーションでつまずきやすいポイントについて,その背景,評価方法,対処法を明快に解説しています.著者の臨床での実践例を含むベストプラクティスが,話し方のコツや例文として紹介されているところなどは,とくに優れています.さらに,コンパクトな本のなかに,最新かつ有用なエビデンスが満載されているところも,魅力です.著者らが,「10 年前の自分に教えてあげたい!」と思うようなコンテンツを盛り込んだとのことですが,皆さんにとっても貴重なヒントがたくさん見つかるはずです.
ぜひ,本書をあなたのお気に入りの一冊に加えていただき,日々の看護支援の質向上に役立
ててください.
がん看護29巻2号(2024年3-4月号)より転載
評者●竹之内沙弥香(京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 先端基盤看護科学講座 看護倫理学分野)
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