書籍

重症化予防のための足病診療ガイドライン

編集 : 日本フットケア・足病医学会
ISBN : 978-4-524-23259-8
発行年月 : 2022年9月
判型 : B5
ページ数 : 240

在庫あり

定価2,970円(本体2,700円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

「足病」とは下肢・足の形態的・機能的障害(循環障害,神経障害)や感染,およびそれらに伴う潰瘍等の足部病変を指し,高齢化や糖尿病患者の増加とともに足病患者も増加している.本書は足病治療の指針となる68のClinical Question(CQ)を提示し,疫学・病態から足部病変の管理と治療,再発・重症化予防や歩行機能の確保,集学的治療や地域連携の実際までを網羅.足病の治療・管理・ケアに携わる医師,看護師・理学療法士などのメディカルスタッフや介護従事者が知識を共有し,緊密に連携するための基礎として必携の一冊.

ガイドライン作成メンバーおよび構成組織
巻頭言
発刊にあたって
ガイドライン作成方法
用語解説
略語一覧

第1章 足病の疫学・病態

第2章 足病発症から完治まで
 はじめに
 CQ 1 創傷の診断に必要な項目は何か?
 CQ 2 SPPは創傷の虚血重症度評価に有用か?
 CQ 3 足潰瘍感染の診断はどう行うべきか?
 CQ 4 虚血肢に対して血行再建は有用か?
 CQ 5 血行再建ができない場合にどのような治療を行うか?
 CQ 6 足潰瘍感染に対する外科的治療はどう行うべきか?
 CQ 7 足潰瘍感染に対する抗菌薬治療はどう行うべきか?
 CQ 8 潰瘍の部位によって,治療法や大切断リスクは異なるか?
 CQ 9 足病において創傷治癒を促進するためにはどのような創傷管理が有用か?
 CQ 10 足潰瘍の再発予防には医療者の定期的な診察・観察が有用か?
 CQ 11 足潰瘍への免荷の方法としてtotal contact cast (TCC) は有用か?
 CQ 12 足病で低栄養を認める場合,下肢救済率が低く死亡率が高いか?

第3章 静脈不全による足病
 はじめに
 CQ 13 慢性静脈不全症の診断および重症度の判定には何が必要か?
 CQ 14 慢性静脈不全症による静脈性潰瘍の治療に圧迫療法は有用か
 CQ 15 慢性静脈不全症に伴う静脈性潰瘍再発および発症予防に向けた処置には何があるか?

第4章 透析患者における足病重症化予防
 はじめに
 CQ 16 透析室での足病変リスク評価とフットケア介入は重症化予防に有用か?
 CQ 17 透析患者におけるセルフケア指導は有用か?
 CQ 18 透析患者への下肢血流評価は重症化予防に有用か?
 CQ 19 足病変を有する透析患者への運動療法は有用か?
 CQ 20 足病変を有する透析患者への栄養管理は有用か?
 CQ 21 足病変を有する透析患者への抗血小板薬投与は有用か?
 CQ 22 PADを有する透析患者に対する血圧管理は下肢動脈病変の重症化予防に有用か?
 CQ 23 足病変を有する透析患者に対してどのような透析療法が有用か?
 CQ 24 足病変を有する透析患者に対して血行再建術は有用か?

第5章 高齢者の足病
 はじめに
 CQ 25 高齢者の足病の原因にはどのような疾患があるか?
 CQ 26 高齢者の足病患者にABI測定は有用か?
 CQ 27 PADを有する高齢者の足病による切断率は,PADを有する非高齢者に比べ高いか?
 CQ 28 PADを有する高齢者の足病による下肢大切断後は,非高齢者に比べて歩行機能を損失する可能性が高いか?
 CQ 29 高齢者の在宅・施設などで行える足病の予防的フットケアは有用か?
 CQ 30 高齢者の在宅・施設などで行える足病予防ケアにはどのようなものがあるか?
 CQ 31 足病のある高齢者に対する在宅・施設などで実施可能な具体的な処置方法として,どのようなものが有用か?
 CQ 32 高齢者施設・在宅の患者にPADが疑われたらどうしたらよいか?
 CQ 33 認知症高齢者へのフットケアは有用か?
 CQ 34 高齢者の足病でサルコペニアの有病割合はどの程度か?
 CQ 35 高齢者の足病でサルコペニアを認める場合,下肢救済率や生存率が低いか?

第6章 足病と歩行
 はじめに
 CQ 36 足病患者に対するリハビリテーション介入は,歩行能力の向上に有用か?
 CQ 37 足病患者に対するリハビリテーションにおいて,どのような運動様式が有用か?
 CQ 38 足病患者に対するリハビリテーションは,創傷や切断の予防に有用か?
 CQ 39 創傷のある足病患者に対する免荷装具は歩行能力改善に有用か?
 CQ 40 創傷のある足病患者に対して,感染徴候がみられる場合に運動療法は有用か?
 CQ 41 創傷のある足病患者 (切断術後早期を含む) に対する積極的なリハビリテーションは,創傷治癒を阻害するか?
 CQ 42 小切断術後の足病患者に対するリハビリテーションは,歩行能力向上に有用か?
 CQ 43 小切断治癒後の足病患者に対し,創傷再発,再切断のリスクの軽減にリハビリテーションは有用か?
 CQ 44 足病患者に対する小切断術では,できるだけ足を長く残すほうが歩行能力の温存に有用か?
 CQ 45 足病患者に対する大切断術では,できるだけ足を長く残すほうが歩行能力の温存に有用か?

第7章 足病発症予防
 はじめに
 CQ 46 足病のハイリスクである糖尿病患者にセルフケア教育を行うことは足病発症予防に有用か?
 CQ 47 高齢者の足病発症予防にセルフケア教育は有用か?
 CQ 48 関節リウマチ患者の足病予防のために推奨されるケアはどのようなものか?

第8章 フットケアにおける足病重症化予防
 はじめに
 CQ 49 足病変が予測される疾患を持つ患者へ定期的な検査や観察による評価を行うことは,重症化予防に有用か?
 CQ 50 足病変が予測される疾患を持つすべての患者へ集学的フットケアを行うことは,足病変の重症化予防に有用か?
 CQ 51 フットケアを提供する看護師は専門的訓練を受ける必要があるか?
 CQ 52 創傷ケアにデブリドマンは有用か?
 CQ 53 潰瘍の洗浄には生理食塩水を用いるのが有用か?
 CQ 54 下肢リンパ浮腫に対するフットケアは有用か?

第9章 足病重症化予防と多職種連携
 はじめに
 CQ 55 CLTI患者の肢切断回避には,血行再建医と創傷を診る医師を中心とした集学的チーム医療が必要か?
 CQ 56 多職種連携には,フットケア指導士/学会認定師の介入が有用か?
 CQ 57 CLTI患者の集学的治療に理学療法士や作業療法士は必要か?
 CQ 58 CLTI患者の集学的治療に義肢装具士は必要か?
 CQ 59 CLTI治療における多職種連携に有資格心理職者の介入は有用か?
 CQ 60 CLTIの緩和ケアにおいて,多職種連携は有用か?
 CQ 61 集学的医療によりCLTI治療の医療経済は改善するか?

第10章 足病重症化予防と地域連携
 はじめに
 CQ 62 透析クリニックと足病専門医療機関との病診連携は透析患者の足病重症化予防に有用か?
 CQ 63 どのような医療連携がフットケアには有用か?
 CQ 64 どのような介護・福祉の社会資源を利用することがフットケアに有用か?
 CQ 65 下肢救済専門医療機関との医療連携は下肢救済率向上に有用か?
 CQ 66 在宅医療において情報を共有するにはどのようなツールが有用か?
 CQ 67 遠隔診療・遠隔連携ソフトを活用した医療施設間の多職種連携による病変の早期発見・治療は,CLTIの重症化予防に有用か?
 CQ 68 在宅医療と専門医療との連携には医療・介護従事者への教育が有用か?

巻頭言


このたび,ついに日本フットケア・足病医学会から「ガイドライン」が上梓されたことはたいへん喜ばしいことです.本ガイドラインの作成は,当初学会の前身である日本下肢救済・足病学会の時代から始まりました.2017年の前身ガイドライン委員会の始動は,時の国是でもある「足病重症化予防」のためのガイドラインの作成開始でもありました.2019年に日本フットケア学会と合併し,まさに多職種から構成されるメンバーへと拡大し,合併後の最大事業となりました.そういった意味においても感慨深いものがあります.

日本フットケア・足病医学会の特徴と意義
本学会は,多職種・多診療科から構成される烏合の衆ですが,「患者さんの歩行を守り,生活を護る」ために結集されたメンバーの集合体でもあります.日本は高齢化社会を迎え,糖尿病,動脈硬化症,透析を代表とする慢性腎臓病のほか慢性静脈不全症や各種膠原病などの疾患をベースとした「足病」を患う患者が増加の一途であることから,日本の将来の「足」を守ることが日本の社会を守ることでもあると考えています.学会発足後の筆者の所信表明(Inaugural address)のなかのひとつに「日本版足病医学を学会主導で確立する」とあります.本来「足病医学」は西洋社会だけのものであり,東洋社会には存在しません.しかし,経験上,西洋社会とは異なる「足病」患者の急増のために,日本が主導的立場になり東洋型足病治療の促進を担う必要性があります.本ガイドラインは,まさにそのための根幹とならなければならないと考えています.

足病の定義
上記のために,本学会が作るガイドラインには,まず「足病の定義」が必要でした.これまでに「足病の定義」が明記されたものはありません.そこで今回,足病を「起立・歩行に影響する下肢・足の形態的,機能的障害(循環障害,神経障害)や感染とそれに付随する足病変に加え,日常生活を脅かす非健康的な管理されていない下肢・足」と定義しました.

本学会からのガイドラインの意義
上記定義に基づいて,患者の歩行と生活のためのCQを集めたところが,他の診療ガイドラインと大きく異なると考えています.たとえば,糖尿病の治療のための,動脈硬化改善のための,透析治療における,などのガイドラインは各診療科での診断と治療を目的としています.本ガイドラインでは,あくまでも足病からいかに「患者さんの歩行を守り,生活を護る」か,に焦点を当てています.したがいまして,足病の発症と重症化予防,歩行,多職種連携,地域連携などがテーマとしてあがってきます.そして,それぞれのCQに応じるために多職種,多診療科が必要となってまいります.まさに患者側に立脚したガイドラインといえます.

このように,多くの時間と労力を要した世界に類を見ない本学会のガイドラインですが,それぞれの執筆者の熱意に溢れた内容となったことを反映して,学会員からのパブリックコメントもまた熱いメッセージといっしょに返されました.したがいまして,学会全体の総意に基づくガイドラインが上梓されたとも捉えることができるのではないでしょうか.

最後に,本ガイドラインの策定と作成に携わった各位に感謝の言葉しかございません.本学会を代表して心よりお礼を申し上げます.本ガイドラインが,多くの日本人の足を守り,歩行を守り,生活を護ることにつながりますよう願ってやみません.

2022年8月
日本フットケア・足病医学会 理事長
寺師 浩人

 高齢者で歩行がままならなくなり,徐々に弱っていく方々を臨床の場でみかけることが多い.それほどに足を守り,歩行を続けることは,人の健康にとって重要な問題であり,健康長寿の秘訣であるともいえる.このような足病診療に重点的対策を講じることは,高齢化がすすむわが国でもっとも優先度の高い課題であるといっても過言ではない.その中で今般,一般社団法人日本フットケア・足病医学会の『重症化予防のための足病診療ガイドライン』が発刊された.
 本ガイドラインは通常のガイドラインとは大いに異なっており,臨床現場に即した新しい時代のガイドラインということもできる.従来はガイドラインといえば,循環器系では日本循環器学会の循環器病ガイドラインシリーズをはじめとして,論文形式で示されてきたものが多かった.しかし,本ガイドラインはそのような論文形式の部分は第1章のみで,第2章以降はクリニカルクエスチョン(CQ)を中心に現場で感じる疑問を解決する形式で書かれている.本ガイドラインの作成メンバーをみると,多くの診療科(血管外科,形成外科,整形外科,皮膚科,糖尿病内科,腎臓内科など)の医師が協力して作成しているだけでなく,看護師(認定看護師,専門看護師を含む),臨床工学技士,理学療法士など多職種が関与しており,臨床現場の即戦力としてつくられたガイドラインであることがよくわかる.その一部を紹介すると,CQ6「足潰瘍感染に対する外科的治療はどう行うべきか?」,CQ9「足病において創傷治癒を促進するためにはどのような創傷管理が有用か?」といったような,臨床医が日々格闘しているテーマに直結する有用な情報や,CQ47「高齢者の足病発症予防にセルフケア教育は有用か?」,CQ64「どのような介護・福祉の社会資源を利用することがフットケアに有用か?」といった,患者に直接関与する現場スタッフが興味をもつような情報までガイドラインとして掲載されている.
 また,米国のような足病医podiatristの制度がないわが国では,日常診療の中で重症化予防がたいへん重要な観点であるため,「重症化予防のための」という書名のとおり,その部分に重点をおいた書き方がなされていると感じる.重症化予防というのはエビデンスを出しにくい領域であるため,「エビデンスの確実性」がどうしてもC以下になってしまう項目が多いが,実際の経験に裏打ちされた実際的なガイドラインの特性として理解している.
 本ガイドラインの第1章では「足病の定義」について力を入れて執筆されているが,日本フットケア・足病医学会としては欧米に比べて「足病医学」という概念の普及が遅れている東洋社会において,これらの概念を普及させ,将来的にはわが国が主導するかたちで「東洋型足病治療」を促進したいという壮大な計画をもっておられる.その目標達成のための第一歩として,本ガイドラインの役割は大きいと考える.
 糖尿病や透析患者の診療を行っている職種の方々はもちろんのこと,高齢者施設や在宅医療にかかわる医療者にとっても,冒頭で述べたとおり足病管理は決して縁遠いものではない.本書は実際の臨床の場で,患者を前にして困ったときに手にしたくなるようなガイドラインに仕上がっており,ぜひとも臨床の場に常備して日々の診療に活用されるようにおすすめしたい一冊である.

臨床雑誌胸部外科76巻3号(2023年3月号)より転載
(川崎医科大学心臓血管外科教授・種本和雄)

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