書籍

呼吸器細胞診アトラス

新たな国際判定基準運用の実際

編集 : 佐藤之俊/廣島健三
ISBN : 978-4-524-23248-2
発行年月 : 2024年6月
判型 : B5判
ページ数 : 216

在庫あり

定価7,920円(本体7,200円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

日本臨床細胞学会理事長・日本肺癌学会理事長推薦.WHO呼吸器細胞診報告様式に準拠.細胞診検体を用いた遺伝子検索など補助的な検査・コンパニオン診断のポイントを提示し,新たな国際的判定基準に沿って呼吸器疾患への対応方法(マネジメント)を簡潔に解説する.さらに,判定基準に沿って疾患を分類し,その病態の診断アトラスとしても役立つ.病理医,細胞検査士,呼吸器外科医,呼吸器内科医など,呼吸器診療にかかわるすべての医療従事者に必携の一冊.

T章 呼吸器細胞診判定基準国際化への道のり
 1.「肺癌取扱い規約」と細胞診
 2.「肺癌取扱い規約」における細胞診判定の問題点
 3.呼吸器細胞診判定基準国際化への動き
U章 細胞診技術の標準化
 1.細胞検体処理の総論
 2.補助診断技術
 3.がんゲノム診療と細胞診
 4.Rapid on-site cytologic evaluation(ROSE)
V章 判定基準と対応
 1.診断カテゴリーとマネジメントの解説
 2.報告様式の解説(取扱い規約とWHOの対比を含む)
W章 判定基準の解説 ― 細胞診判定区分アトラス
細胞診報告書の概要
 1.炎症性疾患
  a.ウイルス感染症
 1│新型コロナウイルス感染症
  b.細菌感染症
  c.肺化膿症(肺膿瘍)
  d.結核・非結核性抗酸菌症
  e.真菌感染症
 1│アスペルギルス症
 2│クリプトコッカス症
 3│ニューモシスチス肺炎
  f.寄生虫
  g.間質性肺炎
  h.放射線肺臓炎
  i.気管支喘息
  j.サルコイドーシス
 2.循環障害
  a.肺梗塞
 3.良性腫瘍
  a.扁平上皮乳頭腫
  b.硬化性肺胞上皮腫
  c.肺過誤腫
  d.気管支腺腫(BA)/線毛性粘液結節性乳頭状腫瘍(CMPT)
  e.顆粒細胞腫
  f.血管周囲類上皮細胞腫瘍ファミリー
 1│リンパ脈管平滑筋腫症
 2│血管周囲類上皮細胞腫瘍(PEComa)
  g.類上皮血管内皮腫
  h.紡錘形細胞腫瘍
 1│神経鞘腫
 2│平滑筋腫
 3│炎症性筋線維芽細胞性腫瘍
 4│肺髄膜腫
 5│孤在性線維性腫瘍
 6│消化管間質腫瘍
解 説
 1.扁平上皮異形成
解 説
 1.腺 癌
  a.浸潤性非粘液性腺癌
  b.特殊型
  c.ALK陽性肺癌
  d.浸潤性粘液性腺癌
 2.扁平上皮癌
  a.角化型扁平上皮癌
  b.非角化型扁平上皮癌
 3.非小細胞癌(特定不能型)
 4.腺扁平上皮癌
 5.多形癌
 6.癌肉腫
 7.NUT癌
 8.胸部SMARCA4欠損未分化腫瘍
 9.唾液腺型腫瘍
  a.腺様囊胞癌
  b.粘表皮癌
 10.神経内分泌腫瘍
  a.カルチノイド腫瘍
  b.小細胞癌
  c.大細胞神経内分泌癌
 11.リンパ増殖性疾患
  a.節外性濾胞辺縁帯粘膜関連リンパ組織型リンパ腫(MALTリンパ腫)
  b.びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
  c.肺Langerhans細胞組織球症とErdheim-Chester病
 12.黒色腫
 13.紡錘形細胞腫瘍
  a.平滑筋肉腫
  b.滑膜肉腫
 14.胚細胞腫瘍
 15.中皮腫
 16.転移性肺腫瘍
索 引 

 2022年末に,WHO/IARC/IAC主導で編纂された「WHO Reporting System for Lung Cytopathology」(以下,WHO呼吸器細胞診報告様式)が出版され,これにより呼吸器細胞診領域では初めて国際的な細胞診判定基準が示されました.この本の編纂には,本邦からも複数の専門家が参画し,さらに,報告様式の策定にあたっては本邦から発信したエビデンスが基本となったといっても過言ではありません(日本臨床細胞学会と日本肺癌学会による「肺癌細胞診の診断判定基準の見直しに関する合同ワーキンググループ」の活動成果).
 WHO呼吸器細胞診報告様式が制定さたことで,今後世界各国では本報告様式に基づく細胞診判定が普及していくものと考えられます.本邦においては,折しも「肺癌取扱い規約」の改訂作業が進行しており,細胞診判定においてはこのWHO呼吸器細胞診報告様式に準拠した判定区分に変わる見通しです.そこで,今後このWHO呼吸器細胞診報告様式を運用していくにあたり,判定基準を理解し,臨床上重要と思われる疾患をどのように捉え,判定し,さらにマネジメントにつなげていくかという,一連の流れを解説するためのアトラス書を編集しました.本書では,呼吸器細胞診の第一線で活躍されている方々にご執筆いただき,細胞診判定区分,臨床所見,病理像,細胞像のキーポイント,鑑別診断,補助検査,マネジメントといった,WHO呼吸器細胞診報告様式に盛り込まれている内容をわかりやすく解説していただきました.加えて,呼吸器細胞診の判定区分を築いてこられた先達の歴史についてもまとめていただきました.執筆者の皆様のご尽力により,単なる細胞診のアトラス書,判定区分の運用補助のための実践書を超え,「肺癌取扱い規約」と共に歩んできた本邦の呼吸器細胞診の歴史の記録としても価値ある一冊になったものと自負しています.
 本書が,細胞診や呼吸器疾患診療に携わっている方々,これらに関心をお寄せいただいている方々にとっての日常診療の手引きとして,また国際化が進む呼吸器細胞診における知識の整理の拠りどころとして,役立つことを願っています.
 末筆ながら,本書の刊行に多大なるご支援をいただいた南江堂編集部の皆様,とりわけ臨床編集部の八幡晃司様,制作部の達紙優司様には心より御礼申し上げます.

2024年5月

佐藤之俊
廣島健三

 私が外科レジデントから呼吸器外科医になることを選択し,最初に入会した学会の一つが日本臨床細胞学会であった.呼吸器外科と本学会との関係が実はたいへん重要であることを,会員になってはじめて知ることとなる.呼吸器外科の主たる対象疾患は肺癌であるが,肺癌の確定診断はむずかしい.以前と比べて喫煙が原因の中枢型扁平上皮癌がほとんどみられなくなった現在では,気管支鏡で直接観察下に行う生検が可能な病変自体が減少している.一方で,気管支鏡が細径となり画質も格段に進歩しても肺末梢の病変では,狭い部分で比較的生検が容易なキュレット,針,ブラシを用いた細胞診標本に診断を委ねる症例が多い.消化器系のような管腔臓器でポリペクトミーも可能な領域とは異なる,呼吸器ならではの悩みである.呼吸器外科医の私がなぜ細胞診に関する本書の書評を書くのか疑問に思った方がいるかもしれないが,たとえば細胞診で異型細胞といわれたときに,それが癌を示唆するものか炎症によるものか,患者の状態や臨床データを熟知した臨床医がどのように判断するかによって,その後は経過観察でよしとするのか,もしくはさらに再生検に挑むかによって患者の運命は決まり,それは臨床医の判断に委ねられる.そういった意味で細胞診は呼吸器外科医にとってこれまで身近なものであったし,これからもそうあるべきと考えている.
 2022年に世界保健機関(WHO)/国際がん研究機関(IARC)/国際細胞学会(IAC)主導で『WHO Reporting System for Lung Cytopathology』が出版され,呼吸器細胞診領域ではじめて国際的な細胞診判定基準が示された.本基準の作成には,本書を執筆した多くの著者が貢献している.今後はこの判定基準に基づく報告書様式が一般化し,新しい肺癌取扱い規約においても導入されることから,肺癌を扱う者としてその理解は必須となる.
 本書は新しい判定基準の解説を中心に,総論的な内容としてこれまでの呼吸器細胞診の歴史,検体処理方法,コンパニオン診断,判定基準などについてまとめられている.各論では図をふんだんに使用しながら,細胞診判定をどのようにとらえ,臨床上のマネジメントに生かしていくかという視点で良性,異型,悪性疑い,悪性に分けてそれぞれ該当する疾患について,@定義,A臨床所見,B画像所見,C病理像,D細胞像のキーポイント,E鑑別診断,F補助検査,Gマネジメントの項目に分けられている.それぞれの項目について理解しやすいことを心がけ,かつ詳細に記載され,本書をお読みいただくことで,呼吸器細胞診に加えて各疾患の臨床所見,病理像も含め,容易に理解できる構成となっている.
 細胞診,病理を専門とする方だけではなく臨床医も理解しやすい内容となった理由としては,呼吸器外科医でありかつ日本臨床細胞学会理事長を務められた佐藤之俊先生と,呼吸器病理/細胞診の分野で国内だけでなく国際的にも最前線で活躍されてきた廣島健三先生の共同編集によるものだからであると思っている.私はお二人と仕事をした経験から,佐藤先生と廣島先生の緻密な診断・診療と常に教育を意識した思考によって,本書の出版を成し遂げることができたと考える.本書は,病理医,細胞検査士はもちろんであるが,検査結果を理解しそれを診療に生かす呼吸器外科,呼吸器内科診療に携わる臨床医にとっても,ぜひ呼吸器細胞診の理解のためにすぐ手にとれるところにおいておきたい一冊である.

胸部外科77巻12号(2024年11月号)より転載
評者●東邦大学呼吸器外科教授 伊豫田 明

9784524232482