秒で判断・分で理解!循環器疾患“かもしれない”症候の救急・急変対応ノート
編著 | : 樋口義治 |
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ISBN | : 978-4-524-23147-8 |
発行年月 | : 2024年3月 |
判型 | : 新書判 |
ページ数 | : 260 |
在庫
定価4,620円(本体4,200円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
胸背部痛やショック・心肺停止,呼吸困難,意識障害など,発症直後に死亡率が高いとされる循環器疾患“かもしれない”症候・病態に遭遇した際に,”秒”で判断し,”分”で考え対処しながら状態を安定化するための考え方と実践のコツについて解説!救急受診のみでなく院内での急変対応も含めて,即座の対応が求められる現場で,“まず初動はどうすればよいか?”“次に何をすべきか?”といった時間軸に沿った対応が明快にわかるフローチャートを多数収載.高齢化に伴い急性心不全をはじめとした急性循環器疾患による入院患者数が増加しているいま,現場の若手医師に真に役立つ一冊.
T 急性循環器“症候群”の診かた総論
A. 急性循環器“症候群”への対応
B. 急性循環器“症候群”の病態と,症候の生じるメカニズム
1.胸背部痛の病態と,症候の生じるメカニズム
2.循環不全(ショック,心肺停止)の病態と,症候の生じるメカニズム
3.呼吸困難の病態と,症候の生じるメカニズム
4.意識障害の病態と,症候の生じるメカニズム
C. 急性循環器“症候群”の初期治療
1.心肺蘇生法
2.ROSC(return of spontaneous circulation)後の対応
3.ショック/循環切迫破綻に対する初期治療
4.呼吸補助療法
5.急性期薬物療法
6.急性期非薬物療法
U 急性循環器“症候群”を呈する疾患への実践的対応
1.急性非代償性心不全(ADHF)
2.急性心筋梗塞/急性冠症候群
3.急性大動脈症候群
4.急性肺血栓塞栓症(PTE)
5.急性重症下肢虚血
6.重症致死的不整脈
7.高血圧緊急症,異常高血圧
8.急性呼吸窮迫症候群(ARDS)
9.急性脳血管障害
V 院内急変で遭遇する急性循環器“症候群”
A. 院内急変総論
1.院内急変システム(コードブルーとRRS)
2.院内急変を起こしやすい急性循環器“症候群”の病態
B. 院内急変への実践的対応
1.ショック/心肺停止
2.意識障害
3.呼吸困難
4.胸背部痛
Column 新興感染症パンデミックにおける急性循環器“症候群”診療
本書には「急性循環器“症候群”」という語が出てきます.この名称は造語であり,教科書には載っていません.その意味するところはあいまいで,臓器横断的な疾患群です.しかし実際の救急の現場では,循環器“かもしれない”症候を呈する疾患にしばしば出会います.
不確実なもの,あいまいなものは避けたくなるのが本音のところ.“〜かもしれない”から始まり,診断して治療するには時間が欲しい.でも救急では時間が足りません.診療科の境界もあいまいで,どのように診療を進めていけばよいのか苦慮します.ここが臨床医の腕の見せ所.救急/ERにデビューし,病棟当直を任せられるようになった若手医師の最初の正念場.あわてず騒がず,スマートに対処すれば先生の株も上がります.
本書では,救急の現場で,あるいは院内急変事象で,急性循環器“症候群”に出会ったときの実践的対応をまとめました.
執筆者はいずれも臨床研修病院で若手医師の指導にあたっている一流の臨床医です.豊富な経験の伝え方はいろいろありますが,本書では“時間軸での対応”を語ってもらいました.
“秒”の判断では,目の前の事象に即応する能力が必要です.“分”より以降では,少ない情報やノイズの多い情報から状況を判断して分析するインテリジェンス能力,加えて結果を解釈するリテラシーが求められるのが救急・急変対応です.臨床医の能力が試される救急の現場で本書をお役立てください.
2024年3月
樋口 義治
「まだ不安だ.まだこれからだ」と思いながら循環器病棟で働いている方に
本書は「急性期の循環器診療の場でどのように考え,どのように動くか」をまとめたテキストで,循環器の救急患者と出会うかもしれない医師が対象である.
マニュアルには「前もって読んでおく」ものと「いざとなってから開く」ものの2種類がある.ピンチになってから慌てて本書を開いても,「意味のある情報」にたどり着くことは難しいだろう.すなわち本書は「前もって読んでおく」のに向いている.
フォントサイズや行間のバランスがよく,またコンパクトにまとまっていて,最後まで目を通すことができる.目次や索引の淡い赤,図表の囲み方や色づけの程度もよい.
急性心不全,急性冠症候群,大動脈瘤,肺塞栓症などの病態に応じた診療チャートが載っている.混み入っているチャートもあるが,多くは上から下への流れがわかりやすい.
急性期の対処として,スピードを意識し,ステップを踏んだ思考が提案されている点も本書の特徴である.たとえば「急性非代償性心不全(ADHF)」の項では,「秒で考え,判断すること」として,「“待てない心不全”と“待てる心不全”のどちらであるか」と「“待てない心不全”にどう対処するか」という2点が冒頭で問いかけられている.これにより,今から何を学ぶのか,読者の頭が整理される.そこから「意識障害の有無を確認する」「心原性ショックかどうかを判断して対処する」「高二酸化炭素血症を伴う肺水腫かどうかを鑑別して対処する」といった形で,考え方の流れが述べられている.ここでは,カテコラミンの投与や気管挿管などの具体的な事項にも言及されている.病態の全貌がみえなくても,ひとまずどのように動くかという「優先順位のセンス」を養うことができる.続いて,「分で理解し,次に行うこと」に移り,病態が見え始めたときの視点と動き方が具体的に述べられている.
「呼吸補助療法」の項はコンパクトにまとめられていて,わかりやすい.また,「院内急変で遭遇する急性循環器“症候群”」の章があるが,この切り口はありそうでなかった視点である.その各論である「院内急変システム(コードブルーとRRS)」の項では,知っているつもりで知らなかったことが書かれていた.世の中には約束ごとがあるが,何となくあやふやな知識で診療を行ってきたことに気づかされる.
本書の性格として「スタンダード」が根底にあるため,執筆者の独断,主張,フィロソフィーが詰め込まれているわけではない.そのため,「さっぱりしている」と感じる読者もいるかもしれない.まったく循環器診療を行ったことがない方には重たいかもしれないが,半年程度でもERや循環器病棟の雰囲気を知った後に読むと,診療の“骨組み”を意識できるようになるための情報が得られる.経験も深まり,だいぶ自信がついてきた専門医よりも,「まだ不安だ.まだこれからだ」という方にお勧めしたい.
臨床雑誌内科134巻5号(2024年11月号)より転載
評者●村川裕二(村川内科クリニック 院長)