書籍

トータルマネジメントをめざす! がんの痛み治療テキスト

編集 : 松本禎久/森雅紀/田上恵太
ISBN : 978-4-524-23093-8
発行年月 : 2023年3月
判型 : B5
ページ数 : 396

在庫あり

定価6,050円(本体5,500円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

がんの痛みの基礎から非薬物療法までを広く網羅しつつ,最終章では症例に沿った臨床実践を提示した“がんの痛み治療”の決定版.エビデンスや薬理学的知識に沿った記載とする一方,エビデンスのない場合の対応や臨床上のコツについても紹介し,読者の“ひきだし”を増やす工夫を詰め込んだ.基本も実践も,がんの痛みはこの一冊で.めざせトータルマネジメント!

第1章 がんの痛みの基本的知識
 1.がんの痛みとは
   Note がんの痛み治療の歴史と歩み
 2.がんの痛みの機序
   Note 動物モデルを含めた基礎実験
 3.関連痛
 4.特徴的な痛み

第2章 がんの痛みの評価
 1.がんの痛みの評価とポイント
 2.評価ツールを用いた痛みの評価方法
 3.突出痛の評価

第3章 がんの痛み治療の基本
 1.がんの痛み治療の基本的な考え方
 2.がんの痛み治療の実際

第4章 薬物療法
 1.鎮痛薬・鎮痛補助薬
  a.非オピオイド鎮痛薬
   Note 諸外国のオピオイド事情
  b.オピオイド
   Note オピオイドが過量なとき
   Note オピオイドの減量の考え方
  c.オピオイドの副作用
  Note オピオイドスイッチングと投与経路の変更
  d.鎮痛補助薬
 2.注意すべき薬物相互作用
 3.注意すべき全身の病態
 4.オピオイドの依存,耐性,ケミカルコーピング

第5章 放射線療法

第6章 侵襲を伴う治療法
 1.神経破壊を伴う神経ブロック
 2.脊髄鎮痛法
 3.IVR
 4.その他の侵襲を伴う治療法

第7章 その他の治療法
 1.漢方
 2.鍼灸療法
 3.リハビリテーション治療
 4.心理療法・痛みの受けとめ方へのアプローチ
 5.日常の工夫・ケア

第8章 がんに直接起因しない痛みの治療
 1.がん患者に生じるがんに直接起因しない痛み
 2.がんサバイバーの痛みとは
 3.オピオイドの適応と使い方

第9章 特定の状況下でのがんの痛み治療
 1.在宅診療における治療
   Note 在宅診療でのケアのコツ
 2.臨死期での対応
 3.せん妄,認知症,意識障害を伴う患者への対応

第10章 がんの痛み治療の実際
 1.髄膜播種による痛み
 2.口腔粘膜炎による痛み
 3.胸壁浸潤による痛み
 4.膵臓がんによる痛み
   Note 患者自己調整鎮痛 (PCA)
   Note 持続皮下注入法 (CSI)
 5.腹壁浸潤する腹膜播種による痛み
 6.骨盤内浸潤による痛み
 7.仙骨浸潤による痛み
 8.大腿骨頸部骨折による痛み
 9.化学療法誘発性末梢神経障害 (CIPN)
 10.せん妄,ケミカルコーピング,認知・解釈の問題
 11.〜日常診療にひと工夫!〜 痛みで必要な治療や検査ができないとき
  見逃しがちな痛みシリーズ 〜骨転移がはっきりしない背部痛〜
  見逃しがちな痛みシリーズ 〜骨転移ではなく関連痛?〜
  見逃しがちな痛みシリーズ 〜骨関連痛を知っておく〜
  見逃しがちな痛みシリーズ 〜頭部MRI検査では認めなかった髄膜播種〜
  見逃しがちな痛みシリーズ 〜CTで見逃した胸膜播種の進展〜

■付録
 1.薬剤一覧
 2.代表的な痛みの評価ツール

序 文

 医療は着実に進歩し,痛みを和らげる治療に関連した薬剤や技術は増え,十分とは言えないもののエビデンスも積み上げられてきていますが,いまだにがんの痛みは多くの患者さんとご家族を苦しめ,医療者を悩ませています.
 国際疼痛学会(ISAP)が2020年に41年ぶりに改訂を行った「痛みの定義」に付記された項目では,「痛みは常に個人的な経験であり,生物学的,心理的,社会的要因によって様々な程度で影響を受ける」「痛みと侵害受容は異なる現象であり,感覚ニューロンの活動だけから痛みの存在を推測することはできない」「個人は人生での経験を通じて,痛みの概念を学び,痛みを経験しているという人の訴えは重んじられるべきである」とされています.また,世界保健機関(WHO)が2018年に22年ぶりに改訂を行った『WHOがん疼痛ガイドライン』では,「患者の全体的な評価が治療の指針となるべきであり,人によって痛みの感じ方や表現の仕方が違うことを理解する」「心理社会的およびスピリチュアルなケアががんの痛みのマネジメント計画に含まれる」とされています.このように,世界的にみても痛みの概念が変わってきており,痛みを包括的に捉えて対応することの重要性がさらに増しています.
 がんの痛みに対するトータルマネジメントの重要性は増すばかりですが,一方でトータルマネジメントは「言うは易く行うは難し」だと編者も日々感じています.しかし,やはりがん患者さんの診療やケアに携わる医療者は皆,がんの痛みに対するトータルマネジメントを意識していかなければなりません.意識をし,実践をしようと心がけるだけでも診療やケアが少しずつ変わっていくのではないかと感じています.
 本書は,専門家だけではなく,がん患者さんの診療やケアに携わる医療者が,様々な視点から痛みを包括的に評価し,トータルマネジメントを意識して対応できるようになることを目指すためのテキストとして作成いたしました.本書の構想は2017年に始まり,5年以上の時を経て,この度出版にいたりました.これはひとえに南江堂のスタッフの熱意の賜物です.3名の編者と南江堂のスタッフとで,より良いテキストをつくるのにどうしたらよいかと何度も会議を開いたことを懐かしく思い出します.
 がんの痛み治療やケアについては,これまでも多数の参考書が出版されていますが,本書はこれまで以上に様々な観点から網羅的にまとまったテキストになったと感じています.執筆も,ベテランの方から新進気鋭の方まで,その道のエキスパートの方々にご担当いただきました.
 本書を刊行するまでにご助力いただいた方々,特に製作過程でご意見をくださった小杉和博氏,三輪聖氏,大森崇史氏,そして何よりも編者を粘り強く支えてくれた南江堂の方々に心より感謝申し上げます.
 最後に,がん患者さんの診療やケアに携わる多くの医療者に本書を手に取っていただき,がんの痛みに苦しむ患者さんとご家族が痛みから解放される一助として,本書が役立てば大変うれしく思います.

2023年3月
公益財団法人がん研究会有明病院 緩和治療科 松本禎久
聖隷三方原病院 緩和支持治療科 森 雅紀
東北大学大学院医学系研究科 緩和医療学分野 田上恵太

バランスのよいがん疼痛テキスト―あれかこれかではなく,あれもこれも考える臨床に直結

 この本はバランスがよい―評者が最初に感じた印象である.通読して本を閉じ,「重いな」と思いつつカバーをふとみると「トータルマネジメントをめざす」としっかり書いていた.なるほど,「トータルマネジメントね! そういう趣旨ね!」と納得がいった.バランスで生きている松本と森に加えて,田上の広い交友関係が結実した書籍ともいえる.ここで評者が言う「バランスがよい」というのには二つの面がある.
 一つは,鎮痛のモダリティの「組み合わせ」が想定されている点である.薬物療法,インターベンショナル治療,放射線治療,心理的アプローチ,患者教育(この言葉はあまり好きではないが,患者さんにどう見通しをもってもらって,破局的思考に陥らないように工夫するか)を個別に記載するのではなく,一人の患者さんに対してどのように組み合わせるのかという視点で書かれている.「○○で痛いときに△△をやってよくなりました!」ではなく,リアルな臨床に即して,あれもこれも考えるなかで何を選択していくかという視点で全体が構築されている.たとえば,第10章「がんの痛み治療の実際」では,髄膜播種,胸壁浸潤,骨盤内浸潤などによる難治性の疼痛へのアプローチを事例ベースで解説している.「○○ブロックやりました.患者さんは,痛みがとれて笑顔で退院しました!」だけではないリアルな検討過程,たとえばオピオイドの増量でもいけそうか,インターベンショナル治療としてはどういった選択肢があるか,methadone投与とインターベンショナル治療のどちらを優先するか,そもそも鎮痛目標をどのように設定するのか,などといった,あれかこれかではない,「あれもこれものトータルマネジメント」をみることができる.
 もう一つは,エビデンス,臨床経験(症例の蓄積による経験値),教科書的知識(基礎・薬理知識)のバランスもよい.エビデンスのない領域は,最近のガイドラインの方法論上の弱点である.何時間もかけて系統的レビューをした結果,臨床家が「何をしたらよいかわからない」結論になりがちである.本書では,エビデンスのまとめはあるものの,そこに留まることなく,臨床経験の蓄積による経験値をバランスよく配置している.本来,苦痛緩和は治療目標も病態も患者個人による差が大きいのだから,マスを対象とした臨床試験のエビデンスをリアルな臨床に適用することには限界がある.本書で,専門家の経験値の集積をみることができるのは楽しい.また,薬学や生理学も独立して記載されているのではなく,臨床家と共同で執筆している章が多く,一体感のある仕上がりとなっている.
 ところで,少し目を引いたのは,「見逃しがちな痛みシリーズ」として挿入されているコラム風の“やっちまった”事例である.10年ほど緩和ケアをやると遭遇するであろう,そしてこれまた忘れた頃にまた出会うであろう事例を記載してくれている.評者には,このうちのほとんどの事例について,同様の経験がある.「背中が痛いは下肢麻痺(横断麻痺)の前兆」は知識としては誰でももっているものであると思うが,次々と患者さんをみていくなかで,「背中が痛い」という日常的な症状から確実に脊髄圧迫の事例を見落とさないのはわかっていても難しい.薄く胸壁をはうように広がる胸壁浸潤も画像上はっきりしないことがあり(PET—CTがとられている場合は別だが),心理社会的な面に目がいってしまうときがある.一人の医師が10年に1回出会うかどうかといったようなことをまとめて知ることができるのは貴重である.
 本邦においてはすでに緩和ケアに関する本は多く出ているのであるが,痛みだけを掘り下げて400頁程度にわたって解説したテキストは存在しなかった.定価で6,000円程度というのはなかなか強気な設定ではあるが,それだけの価値はある.

臨床雑誌内科132巻2号(2023年8月号)より転載
評者●森田達也(聖隷三方原病院 副院長/緩和支持治療科)

 どんなに医学が進歩しても,また時代がかわっても,患者の願いは「まずは痛みをとってほしい」であろう.癌患者の病態はさまざまで,治癒可能な状態もあれば治癒が望めない状態もある.いずれの場合でも,まずは患者が人として安楽に過ごせるようにすること,すなわち,痛みをはじめとする呼吸苦,倦怠感などの症状を制御することは癌医療の重要な課題である.多くの外科医も乳癌骨転移による強い痛みなど,転移癌患者の治療導入に苦労された経験をおもちであろう.
 そこで本書の登場である.本書は,「トータルマネジメントをめざす!」と銘打たれ,まさに「がんの痛み」をさまざまな角度で取り上げその対策を論じた,癌診療にかかわる医療従事者にとっての新しいバイブルといえる書である.まずは痛みの定義から始まるが,身体的要素のみならず,心の痛みにも言及している.その評価は患者の訴えに基づくpatient reported outcome(PRO)であり,評価方法も具体的に述べられている.治療方法に関しても,薬剤であれば作用機序から投与量,投与方法までが詳細に記載されている.緩和的放射線治療の記載など,内容は多岐にわたり,集学的治療すなわち現時点での最高水準のチーム医療を示していると思う.
 さらに第10 章におけるケーススタディは,実際の症例検討会,それもチームカンファレンスに参加しているような気分にさせてくれる.しかもきわめて教育的で,「まず何を考え,どう動くか?」,「引き出しを増やそう」など構成も工夫されている.「見逃しがちな痛みシリーズ」も,月並みな言葉ではあるが,痒いところに手が届いている.一通りの知識をおもちの方はまず10 章からお読みになってもよいであろう.
 さて,編者の一人である松本禎久先生は金沢大学医学部のご卒業で,実は筆者と同窓である.世代が異なり学生時代に面識はないが,同窓会の名称に冠せられた「十全」(少しも欠けたところがないこと)を地でいく書物が誕生したと感服した次第である.ぜひ,癌治療にかかわる多くの外科医に手にとっていただきたい書物である.

臨床雑誌外科85巻10号(2023年9月号)より転載
評者●[聖マリアンナ医科大学乳腺・内分泌外科主任教授・津川浩一郎]

9784524230938