プライマリケア医のための抗菌薬マスター講座 Ver.2
著 | : 岩田健太郎 |
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ISBN | : 978-4-524-23075-4 |
発行年月 | : 2022年2月 |
判型 | : 四六 |
ページ数 | : 216 |
在庫
定価3,080円(本体2,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
プライマリケア医に向けて,抗菌薬の使い方と選び方を明確かつ軽妙に解説した好評書の改訂版.初版刊行から10年の間に進歩した抗菌薬に関するエビデンスや新規薬剤に関する情報,社会情勢の変化等を踏まえ,内容をアップデート.気軽に読めるコンパクトな構成で,読み進めるうちに自然に抗菌薬の的確な使い方とその根拠が身につく.内科,外科など領域を問わず必読の一冊.
Ver.2のためのまえがき
初版のまえがき
第1回 抗菌薬を学びなおしてみませんか?
第2回 抗菌薬使用の大原則〈Part 1〉
第3回 抗菌薬使用の大原則〈Part 2〉
第4回 ペニシリンを制するもの、感染症を制す〈ペニシリンPart 1〉
第5回 ペニシリンを制するもの、感染症を制す〈ペニシリンPart 2〉
第6回 ペニシリンを制するもの、感染症を制す〈ペニシリンPart 3〉
第7回 ペニシリンを制するもの、感染症を制す〈ペニシリンPart 4〉
第8回 使いやすいがゆえに間違える、セファロスポリンの難しさ
第9回 マクロライドを使いこなそう!
第10回 使いこなそう、ST合剤 ワンランク上の感染症診療へ〈ST合剤Part 1〉
第11回 使いこなそう、ST合剤 ワンランク上の感染症診療へ〈ST合剤Part 2〉
第12回 とても便利なテトラサイクリン系
第13回 ニューキノロンにご用心〈キノロンPart 1〉
第14回 ニューキノロンにご用心〈キノロンPart 2〉
第15回 外来診療に幅が出るクリンダマイシンの使い方
第16回 使わないけど、学ぶ理由があるカルバペネム
第17回 番外編 CRPでよく受ける質問
第18回 番外編 よく受ける読者からの質問
初版のあとがき
Ver.2のためのあとがき
『プライマリケア医のための抗菌薬マスター講座』を上梓してからもう10年の月日が流れてしまいました。光陰矢の如し。本当にあっという間でした。
前回、「まえがき」を書いたのが2011年1月。当時のぼくはまだ、(そして日本も世界も)東日本大震災という災厄がやってくることを知りません。ましてや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックのことなんて想像だにできていません。当時のぼくにタイムマシンで会いに行って、この年に起きたことを説明したとしても、「何バカなこといってんだ?お前がおバカなことは知ってたけど、度が過ぎるぞ」と眉をひそめられていたことでしょう。2014〜15年に西アフリカでエボラウイルス感染が流行し、その対策のためにシエラレオネに行ったぼくは、ロールモデルのポール・ファーマーに会いました。その後、Jリーグのサッカーチーム、ヴィッセル神戸に、2010年ワールドカップ決勝で決勝点を決めたスペインサッカー界のレジェンド、アンドレス・イニエスタ選手が移籍します。両者のサインは我が家に飾ってあるのですが、こういう話をしても当時のぼくは「あにいってんだ?」と志村けん風に失笑したことでしょう。もちろん、志村けんがCOVID-19 で絶命した話も信じてもらえないでしょう。
さて、これを書いているのは2021年12月。世界は今も新型コロナウイルス感染症のために七転八倒しています。世界は2億6千万人以上の感染者を観察しました。52万人以上の方が命を落としています。日本の感染者も172万人を超え、死亡者も1万8千人を超えました。コロナ病棟では毎日患者がお亡くなりになるのは、日常的な風景になっています。
本書は「抗菌薬」の使い方をマスターするための本ですが、抗菌薬を使えるということは、感染症をちゃんと診療できるということです。「ちゃんと」というのがポイントで、雑に何となく診ることは誰にだってできるのです。「ちゃんと」やるのは案外、難しい。
そして、ちゃんと感染症を診療できるということは、問題を正しく認識できる、という意味でもあります。優れたサッカー選手で状況判断が下手なプレイヤーが皆無なように、問題認識が稚拙で、抗菌薬を正しく使えるということはありません。イニエスタ選手とかをYouTube などでご覧いただければ分かりますが、実に状況判断が的確です。要するに「抗菌薬を正しく使う」とは、抗菌薬を必要としている患者にもっとも正しい、ベストな抗菌薬を用いること抗菌薬を必要としていない患者に抗菌薬を使わない(つまりはベストな選択をする)ことなのです。もっとざっくり申し上げれば、患者にベストを尽くすことこそが、抗菌薬を正しく、「ちゃんと」使うことにほかなりません。改
本書がその役に立つことを、心から願ってやみません。
2021年12月
岩田健太郎
自分が抗菌薬を処方する際,本書の著者である岩田健太郎先生に背後から診療を観察されている気がする…….本書を精読した後に現場に臨んだときの率直な感想です.
本書は,2011年に初版が出されてから10年以上の年月を経て,このCOVID—19パンデミックの時期に大きく改訂されて世に出ました.僕は初版ももちろん読んでいました.当時,総合内科後期研修医であった自分自身の姿が脳裏に浮かんで少し“センチ”になります.病棟診療で毎日ヘロヘロになりながら,無数にある類似の(一見無駄にみえる)抗菌薬のなかから,どのようにベストな薬をシンプルに,そしてカッコよく選択するか? そんな重要なことが書かれた本書を数ページ読んでは,次の日初期研修医に,まるで以前から体得していたかのようにイキって教えていました.
本書は改訂というよりも新しい書籍に生まれ変わっている印象ですので,ここで論評したいと思います.まず読みやすさと“脳に沁みる”感じが桁違いです.僕の経験では,日夜奮闘する臨床家が教科書を読む際に重要視することは,文字がズバッと脳内に入り込み,感情が揺さぶられて,マインドセットが変わるような文章であるかどうかだと思っています.つまり“心に刺さる”かどうかです.僕は大学のセンセーの文章が嫌いです.難しいことを(頭よさそうに)あえて難解に書いているだけの(読み手の行動に影響を与えない)文章がいかに双方にとって無駄で時代遅れなことか.ところがどっこい,本書は枝葉を削ぎ落としてきわめてシンプルに,そして“心に刺さる”文章で終始一貫しています.また,情報の見せ方もうまいです.たとえば,重要な本邦のサーベイランスや資料などについては,スマホでQRコードを読み取って閲覧できるようになっています.極めつけは,プライマリケアの現場で用いるべき,あるいは用いるべきでない抗菌薬のリストなどが要所要所に出てきて“脳に沁みる”のです.口調は優しいけれど容赦なくぶった斬る,そしてまたぶった斬る…(笑).すべては,臨床家と患者にとって有益な本であるために必要なことです.変な忖度や同調圧力にも屈しない本質的・合理的知性を随所に感じられるので,最高に楽しい読み物です.
いまの時代に合わせてブラッシュアップされた研究内容も見逃せません.ESBLに対するcefmetazoleの立ち位置,大動脈瘤などの重大な副作用が多いため米国食品医薬品局(FDA)がキノロン系薬をなるべく用いないよう推奨していること,はたまた神戸大学医学部附属病院の経口用第三世代セフェム系薬の使用数がついにゼロになり院内採用もやめたこと,などが書かれた論文は痛快でした.
医師には「患者さんのために正しくベストだと思われる診療をしたい」と心から思い,奮闘している真面目な方が多いです.しかし時に,ほかの専門分野との境界領域では,判断に対して最後の一押しの勇気を誰かにもらいたくなることがとても多いのです.感染症診療に限れば,それは自分たちの診断への不安と,ベストな抗菌薬処方ではないでしょうか? つまり,これは本書の哲学的対話(岩田先生の独り言)に触れる最高の動機づけとなります.
ここで皆様に問います.「あなたは根拠をもって,抗菌薬を必要としている患者にベストな抗菌薬を処方し,必要ではない患者に抗菌薬を使わないという判断ができますか?」と.この問いに対して,「はい,もちろんです!」と自信をもって答えられる方は,本書を読まずに次のステップへ進んでください.しかし,少しでも不安を感じた方は,ぜひとも本書を手にとりましょう.本書の最大の長所である“脳に沁みる知的興奮”に遭遇することをお約束します.
冒頭で,背後から岩田先生に観察されている気持ちになると書きましたが,ここまでお読みいただいて意図を理解していただけたのではないかと思います.抗菌薬処方で困ったとき,また他科と揉めそうなときに(揉めないでくださいね……),僕らの背後にはあの岩田健太郎がいる! そんな感覚を抱きながら,自分の抗菌薬処方に間違いなく自信がもてるようになるでしょう.
臨床雑誌内科130巻5号(2022年11月号)より転載
評者●島根大学医学部総合診療医センター准教授 和足孝之