感染対策はこわくない!
ICT初心者のための必携対応マニュアル
著 | : 中村造 |
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ISBN | : 978-4-524-23058-7 |
発行年月 | : 2023年1月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 248 |
在庫
定価3,630円(本体3,300円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
COVID-19の流行を受け,改めて適切な対応が求められている院内感染対策について,明確な根拠に基づき実施するためのノウハウをベストティーチャー賞受賞の著者がわかりやすく解説.ICT(Infection Control Team)のスタッフとして対応を迫られた際に ,「何を」「いつまでに」「どうやって」しなければならないかを簡潔にまとめた.実例や現場でよく聞かれるQ&Aなどの情報も豊富に盛り込み,エビデンスから現場のリアルまでを学ぶことができる一冊.
序章 感染対策の基礎知識
1 そもそも感染対策はなぜ必要なのか?
2 免疫細胞の基礎知識
3 細菌・ウイルスっていったい何者?
4 スポルディングの分類って何?
5 国内で接種されるワクチンにはどんなものがある?
6 感染対策で参考にできる基礎統計にはどんなものがある?
7 薬剤耐性菌の何が問題なのか?
8 PPE(personal protective equipment,個人防護具)の基本
9 医療廃棄物分類の基本
第T章 感染対策の担当になったらまず何をするか
1 手指衛生に使用している製剤の量を計算しよう
2 薬剤耐性菌の数を数えよう
3 抗菌薬の使用量を確認しよう
4 血液培養の提出本数かセット数を確認しよう
5 感染対策の現場を見に行こう
第U章 感染対策の基本を押さえたら,次に何をするか
1 陰圧室を見に行こう
2 オペ室を見に行こう
3 透析室を見に行こう
4 基本的なサーベイランスをやろう
5 医療関連感染サーベイランスをやろう
第V章 現場の課題をどう解決するか(標準編)
1 手指消毒薬の使用量を増やしたいとき
2 薬剤耐性菌の数を減らしたいとき
3 抗菌薬適正使用の推進活動をしたいとき
4 血液培養の提出本数を増やしたいとき
第W章 現場の課題をどう解決するか(実践編)
1 手指衛生の質を改善したいとき
2 アウトブレイクを何とかしたいとき
3 手術部位感染症を減らしたいとき
4 カテーテル関連血流感染症を減らしたいとき
5 カテーテル関連尿路感染症を減らしたいとき
6 人工呼吸器関連肺炎を減らしたいとき
第X章 現場の課題をどう解決するか(緊急対応編)
1 COVID-19患者が出たとき
2 結核患者が出たとき
3 レジオネラ肺炎患者が出たとき
索引
綴じ込み付録
抗菌薬スペクトラム表
抗菌薬推奨投与量表
院内感染対策とは,とっつきづらい,苦手意識を感じやすい分野である.臨床感染症の面白さを感じ,感染症専門医になろうと心に決め,臨床経験を積んでいた頃,私も感染対策チーム(ICT)の一員になることになった.大体15 年ほど前のことだが,とにかく困ったことは,わかりやすい教科書がないことであった.どれを読んでも言葉遣いが不自然で,ガイドラインの翻訳を読むと瞬時に眠くなり,何とか読み進めても内容が頭に残っていない.何とも億劫な経験であった.結局はon the jobで困ったことをその都度,調べたり知識のある人に相談して教えてもらったりの連続だった.まずは標準予防策とは何なのか,経路別予防策との差は何かを理解することが大変だったことを今でも覚えている.
新型コロナウイルス感染症の大流行により,これまで感染対策を担当してこなかった管理者が院内感染対策のリーダーにならなければならず,何から手を付けたらよいのか,分からぬまま走り続けているのだろうと思う.何が妥当な対策なのかを考える時間もなく,誰か気軽に相談できる専門家が近くにいるわけでもなく.そして,この流行により新たに感染管理の認定看護師を目指す人も増えている.
自分が当初,感染対策の勉強を始めた頃と比較して,感染対策の教科書は増えてはきたものの,いまだ初学者向けの本が不足しており,またプラクティカルな方法を記載しているものも少ない.本書では,実際に知識をどう整理し,何を根幹にして考え,何を目指して前に進めばよいかを,実務経験を踏まえた言葉で説明するように心がけた.これから感染対策の責任者にならなければならない医師や,これから専門研修を受ける看護師を主な対象とし,若干のエビデンスを示しつつも,むしろ「実際にどうしたらいいのか」の疑問に答えるようにした.
本書が,感染対策に苦手意識を持たず,感染対策を担当することが怖くないように,少しでも参考になるものになれれば嬉しいばかりである.
2023年1月
中村 造
基本を押さえつつも実践的な内容で,各医療機関の感染対策のレベルを引き上げる一冊
多くの医療機関にとって,これまで院内で流行する可能性がある感染症といえば,インフルエンザやノロウイルス感染症,薬剤耐性菌などであり,よほどのことがなければ病院全体の診療に影響を及ぼすような事態に陥ることはなかった.それでも個々の医療機関において,感染対策のレベルを上げようと感染対策チーム(ICT)のメンバーが努力していたわけであるが,必要性はわかっていても日常診療において,感染対策は二の次になっていた印象がある.
ところが,新型コロナウイルス感染症の拡大によって,医療機関はこれまでとは大きく異なる問題に遭遇した.院内でもクラスターが頻発し,医療従事者の感染も多くなるなかで,誰もが感染対策を念頭に置いて行動せざるをえない状況となった.
しかし,この感染症が発生してから3年以上が経過し,国は5類感染症として位置づけることで,特別な感染症としての扱いをやめた.それでは,もう医療機関の感染対策は以前のような体制に戻してもよいのであろうか? おそらく答えはNoだと思う.
まだこの世の中から新型コロナウイルスが消え去ったわけではないので,引き続き医療機関では一定程度の感染対策は継続せざるをえない.さらに,ほかの感染症への対策を怠ることもできないため,医療機関にかかる負荷は大きいままである.そうなると,それに立ち向かっていく方法は,やはり効率的で有効な感染対策を実践していくことだと思う.
そうした意味において,2023年1月に出版された本書は,新型コロナウイルス感染症への対応も行いながら,感染対策の基本を押さえた理にかなった方法を具体的に教えてくれる素晴らしい書籍だと思う.
これまで感染対策に関する書籍は数多く出版されており,感染対策について学ぼうとしている方々は,どの書籍を選べばよいのかと迷うことが多いと思う.本書は,序章「感染対策の基礎知識」において,「そもそも感染対策はなぜ必要なのか?」という項目から始まるので,初心者にとっても有益なものだと思う.さらに,第T章「感染対策の担当になったらまず何をするか」,第U章「感染対策の基本を押さえたら,次に何をするか」,第V章〜第X章「現場の課題をどう解決するか」といった形で,だんだんとレベルアップして,ICTのメンバーが具体的に実践できる内容を詳しく解説してくれている.そのような意味で,本書は他と異なるユニークな特徴があり,すでにある程度の知識を備えている医療従事者にとっても,新たな視点からの解説が大いに参考になるものと思う.
多くの方々が本書を参考にしながら,各医療機関の感染対策のレベルを着実に向上していただくことを願っている.
臨床雑誌内科132巻1号(2023年7月号)より転載
評者●国際医療福祉大学医学部感染症学講座 主任教授 松本哲哉
1990年ころ,日本で重症のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)腸炎が問題となったとき,主に術後症例での発症が多かったことから,外科は院内感染対策の渦中にあった.そのような背景もあり,1996年の院内感染防止対策加算新設,その後の感染制御チーム(infection control team:ICT)設置において,外科医がメンバーに選ばれるのは必然であった.
ただ,外科医の立場からすれば,「いやいや,感染のことよく知らんし」といいたくなる.ただでさえ覚えにくい菌名は,イタリックで書かれるとますます縁遠く感じる.抗菌薬の選択はワンパターンで,研修医に抗菌スペクトラムを聞かれると「すごくよく効くやつ」などと答えてしまう.Infection control doctor(ICD)はとったけど,資格保持のために講習を受けているだけなので,ICTメンバーとして院内感染対策の判断を求められるのは困る….
本書は,そんなわれわれにとって感染対策の敷居を低くしてくれる救い主である.まず事例がおもしろい.「こんな事例がありました」コーナーが豊富に設けられていて,いずれもICTとして判断が求められる場面である.「現場でよく聞かれるQ&A」は,「そうそう! これ聞かれたけど答えられなかった質問だよ」と膝を叩く話題が事例とセットで解説されている.
加えてレイアウトが秀逸である.筆者は文字ばかりの院内感染対策マニュアルをみてもまったく頭に入らない.本書は,黒板,イラスト,写真,吹き出し…と,飽きさせない仕組みが随所にちりばめられており,気がついたら引き込まれる内容となっている.
巷によくみかける院内感染対策の書籍は,教科書的で無機質なものが多いと感じる.ガイドである以上,著者の考えが表現しにくいのであろうと推察する.しかしこの点でも中村造先生は意欲的な挑戦をされた.「Column」と題して,補足解説だけでなく,自身の思いや意見を述べたのである.筆者の一番のお気に入りのColumnは,「感染管理担当者に必要な能力」(114ページ)である.感染対策の心得といってもよい内容で,筆者もICTメンバーの1人としてかくありたいと思いながら繰り返し読んだ.
人に何かを伝えるのは容易でない.しかし時にうまく伝える能力をもった人に出会うことがある.中村先生はそうした数少ない存在で,本書はその能力を余すことなく注ぎ込んだ傑作である.感染対策は医療安全と並ぶ危機管理の柱である.そしてもともと危機管理のプロフェッショナルである外科医は,感染対策を行うのに最適な人材である.本書は比較的短時間で通読でき,その後も調べ物をするために常に手元に置いておきたい一冊である.
臨床雑誌外科85巻9号(2023年8月号)より転載
評者●広島大学病院感染症科教授・大毛宏喜