目指せ 院内感染ゼロへ!国立国際医療研究センター(NCGM)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応マニュアル
編集 | : 国立国際医療研究センター |
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責任編集 | : 大曲貴夫 |
ISBN | : 978-4-524-23027-3 |
発行年月 | : 2021年4月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 144 |
在庫
定価2,420円(本体2,200円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大当初以来,感染疑い患者から重症患者まで積極的に受け入れてきた国立国際医療研究センター(NCGM)によるCOVID-19対応マニュアル.COVID-19の診療から感染防止対策,診療科ごとの対応,また職員の有症状時や学生実習受け入れ時の対応のほか,PCR検査スポットの運営など,NCGMならではの豊富な実践的知識を余すところなく紹介.院内感染対策や組織体制の見直しを検討している医療機関必携の一冊.
目次
1.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の疫学・診断・治療
2.インフルエンザとの同時流行時の感冒症状の考え方
3.感染防止対策の原則
4.個人防護具(PPE)の着脱
5.各部門における対応
a.救急外来
b.放射線診療部門
c.リハビリテーション部門
d.臨床工学科
e.手術部門
f.内視鏡部門
g.血管造影部門
h.院内の共用スペース(食堂,待合スペースなど)での感染対策―自分の身をどう守るか
6.トピックス
a.職員の有症状時の対応
b.面会者への対応
c.外来での有症状者・発熱者のスクリーニング
d.学生実習・外部研修受け入れ時の対応
e.職員のメンタルヘルス
f.PCR 検査スポットの運営
g.意思統一,命令系統が確認できる場̶「本部対策会議」は重要
索引
巻頭言
私ども国立国際医療研究センター(NCGM)は感染症対応を主要任務の一つとするナショナルセンターです.新型コロナウィルス感染症に対してはパンデミックの初期から職員一丸となっ
て取り組んできました.2020 年1 月末には武漢からの帰国者の健康診断とPCR 検査受入れを担当し,同2 月の横浜港クルーズ船クラスター事例では職員が実際にクルーズ船に乗り込んで対
応に協力しました.クルーズ船での感染者の中には重症化した方もおられ,未知のウイルスに対する手探りの集中治療が始まりました.初期11 例の検査データや治療法,経過を2 月21 日
にウェブサイト上で公開し,当時患者を受け入れていた全国の施設で参考にしていただいたと聞いています.
その後も,PPE 着脱マニュアル,院内感染対策マニュアル,COVID-19 スクリーニングフロー,分娩・手術室での PCR 検査法など多くの情報を逐次アップデートしながらウェブサイト
で公開してきました.これらはすでに全国の多くの病院で利用していただいていると思いますが,一つの冊子にしてさらに活用していただくことを目的に編集したのが本マニュアルです.
NCGM の152 年の長い歴史を振り返りますと,古くは1919 年のスペインかぜに始まり,2003年のSARS,2009 年の新型インフルエンザ,2014 年のデング熱,2014 年・2018 年・2019 年の
エボラ出血熱などの流行に対してNCGM はかかわってきました.全国に4 箇所しかない特定感染症指定医療機関のうち,最も多い4 つの特定感染症病床を持つナショナルセンターとして,
常に訓練を怠らず有事に備え準備をしてきました.その成果もあってか,今回の流行に迅速に対応することができ,本書出版時点ではありますが職員の院内感染がこれまで一人も出なかっ
たことを本当に嬉しく誇りに思います.院内感染ゼロを目指すためにわれわれの経験がご参考になれば幸いです.
本書出版のためにNCGM の担当職員が忙しい臨床の中で時間を作って執筆してくれました.また,南江堂の杉山孝男さん,米田博史さんには企画の段階から大変お世話になりました.こ
の場を借りて厚く御礼申し上げます.
ワクチン接種がわが国でも医療者や高齢者・高リスク患者から優先的に始まりますが,人類が新型コロナウイルス感染症を克服するまでにはもう少し時間がかかりそうです.NCGM はこ
れからも組織の総力を動員してこの手強い感染症に立ち向かいたいと思います.現在もこの感染症と闘っている全国の多くの医療者の皆さんに敬意と感謝を込めて本書をお届けします.
2021 年3 月
国立国際医療研究センター 理事長 國土典宏
国立国際医療研究センター病院 病院長 杉山温人
医療は逼迫しているのか崩壊しているのか,そんなことを議論する余裕はなく,私たちは今,病院をあげて目の前の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症患者を一人でも多く救うという役割に集中している.頑張りすぎて医者の不養生で倒れそうな職員も心配であるが,もっとおそろしいのは院内クラスターが発生して病院機能全体が停止してしまうことである.感染力の強い変異株が蔓延している現在の状況では院内クラスターが発生しても誰も責めることはできないが,できるだけの対策をしておきたいというのは,すべての病院の共通した思いであろう.
院内感染対策は医師,看護師,薬剤師,技師などの職員だけではなく,患者,面会者,業者など病院に立ち入るすべての人に対して,また,病院の隅々まですべての部署において行わねばならない.エアロゾルにて感染するCOVID-19は,われわれがこれまで病原細菌に対して行ってきたそれとは比べ物にならないほど厳密な感染予防対策を行わなければならない.実際,COVID-19対策を徹底したところ,インフルエンザもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)もすっかり影をひそめてしまっている.
本書は,わが国の感染症専門病院のトップである国立国際医療研究センター(NCGM)が総力をあげて作成したCOVID-19の院内感染対策のバイブルである.NCGMでは今どのように感染対策が行われているのか,院内の部署(病棟,外来,救急室,手術室,検査室,職員食堂など)ごとに分けて細かい注意点を列挙している.NCGMで実際に使われているマニュアルや現場の写真,図面などを豊富に含んでおりたいへんわかりやすく,自施設の足りない点に気づきやすい,応用しやすい記載になっている.さらに,本書には院内感染にとどまらず,職員のメンタルケア,外部からの実習生の受け入れ,コロナ対策本部の設置など,病院として対応しなければならないすべての事項が含まれている.各パートの記載のレベルの高さもさることながら,病院管理者として読むとこんなに多くの課題に注意を払わなければCOVID-19対策を実施したとはいえないことに改めて驚かされる.すべての病院管理者は,目次だけでも目を通し,そのすべての項目に対応している自信がなければ,ぜひ本書を手元に置いて勉強していただきたい.
[大阪大学消化器外科教授/大阪大学医学部附属病院院長 土岐祐一郎]
2019 年の大晦日にひっそりと原因不明の肺炎の集積がWHO から報告され,それが新型コロナウイルス(SARS‒CoV‒2)による新型コロナウイルス感染症(COVID‒19)であると判明して以後,前例のない巧妙なこのウイルスは世界を席巻し,医療を翻弄している.国内の医療機関はその大小を問わず,COVID‒19に対する院内マニュアルを作成し,対応に追われたことと思われる.
本書を刊行した国立国際医療研究センターは,言わずと知れた,COVID‒19対応において中心的役割を担う国内のお手本となる医療機関である.国家機関や各学会からさまざまな提言やガイドラインが発表されているなか,どの医療機関も「国のガイドラインに記載がない問題をどうすればよいのか」あるいは「自施設ではこの部分を国のガイドラインのとおりにするのは無理」といった場合に,「他の施設ではどうしているのか」を知りたくなることは多いはずである.そのような場合にこの『国立国際医療研究センター(NCGM)新型コロナウイルス感染症(COVID‒19)対応マニュアル』は信頼できる相談相手として大いに役立つといえる.
惜しみなく具体的な対応が掲載されている本書のサブタイトルは「目指せ院内感染ゼロへ!」となっている.確かに市中感染の制御とは異なり,医療機関内では「院内感染ゼロ」を目指さなくてはならない.そのためには「3.感染防止対策の原則」はもちろんのこと,「5.各部門における対応」と「6.トピックス」がリアルで参考になる.「5.各部門における対応」には救急外来から検査部門,手術部門,医療スタッフ部門,院内共用スペース等における対応が記載されている.また「6.トピックス」のなかでは,職員の有症状者,面会者,外来患者等への対応,そして職員のメンタルヘルスについての対応も記載されている.これらの項目は「院内感染ゼロ」の達成に意外に重要な鍵を握っているのであるが,マニュアルとして明文化し,対応を統一していくのが難しい領域でもある.自施設の対応を見直すためにとくに参考にしたい部分である.
約1年半のCOVID‒19との戦いにはまだ終わりは見えないが,SARS‒CoV‒2出現前後の知見を国立国際医療研究センターが総力をあげてまとめられた本書が,患者さんと医療従事者の双方に役立つことを期待している.
臨床雑誌内科128巻5号(2021年11月号)より転載
評者●聖路加国際病院臨床検査科/感染症科 部長 上原由紀