書籍

POPAI直伝! FFR使いこなしハンドブック

wire basedからvirtualまで

編集 : 松尾仁司
ISBN : 978-4-524-22959-8
発行年月 : 2021年9月
判型 : B5
ページ数 : 240

在庫あり

定価6,050円(本体5,500円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

physiologyとimagingでPCIの最適化を目的に活動するPOPAI(PCI Optimization by Physiology and Imaging)メンバーを中心とした執筆陣により,FFRの基本から臨床への活用法までをわかりやすく解説.プレッシャーワイヤーを用いて評価する方法(wire based FFR)だけでなく,最近の大きな潮流となっているワイヤーを用いずにイメージングモダリティから評価する方法(virtual FFR)もとりあげた.FFRを使いこなしたい若手インターベンション医必携の一冊.

A.まずはここから―冠循環の基礎
 1.冠循環の基礎・冠動脈血流はどのように調節されているのか?
 2.CFR の概念を知る
 3.FFR の概念を知る
 4.FFR を数学的モデルで検証する
 5.wave intensity analysis とiFR の概念,そしてresting physiology を知る
 6.最大冠拡張誘発方法とその問題点を知る
 7.冠微小循環を知る
 8.area at risk の概念を知る
 9.側副循環の概念を知る

B.wire based FFR を知りつくす
Part 1.FFR を使いこなす
 1.FFR とほかの虚血評価との使い分け
 2.各種プレッシャー計測デバイスの使い分け
 3.FFR 計測の基本とピットフォール
 4.FFR と解剖学的狭窄重症度との関係
 5.FFR の必須エビデンス
 6.リスク指標としてのFFR ―FFR に基づいたdefer は安全か?
 7.defer 病変の至適薬物療法
 8.FFR pullback curve の臨床的重要性
 9.術中,術後の生理学的検査ガイド下PCI
 10.FFR 冠内圧計測時のトラブルシューティング
Part 2.NHPR(iFR,RFR,dPR,DFR) を使いこなす
 1.各種NHPR の概念の違い(iFR と比較して)
 2.NHPR 計測の基本とピットフォール
 3.NHPR の必須エビデンス
 4.iFR pullback を臨床に活かす
 5.各種NHPR pullback の臨床的意義
Part 3.微小循環評価を臨床に活かす
 1.IMR 計測の実際と測定の注意点
 2.IMR 測定の臨床的意義
Part 4.特殊な病態にphysiology(FFR・NHPR)を活かす
 1.重症多枝疾患
 2.左主幹部病変
 3.急性冠症候群
 4.びまん性病変,連続病変
 5.分岐部病変
 6.冠動脈バイパス術前評価・術後評価
 7.透析症例
 8.大動脈弁狭窄症
 9.不安定プラークとFFR
 
C.virtual FFR を知りつくす
Part 1.まずはここから―virtual FFR はどのように計算されているのか?
 1.CFD(数値流体力学)の基本
 2.FFRCT はどのように計算されているのか?
 3.CT-FFR はどのように計算されているのか?
 4.QFR はどのように計算されているのか?
 5.FFRangio はどのように計算されているのか?
 6.AngioFFR はどのように計算されているのか?
 7.wFR はどのように計算されているのか?
 8.IVUS based FFR はどのように計算されているのか?
 9.OCT based FFR はどのように計算されているのか?
Part 2.virtual FFR を活かす
 1.CFD を活用した心臓血管疾患への応用
 2.FFRCT のエビデンス
 3.FFRCT によるpullback curve 解析,FFRCT planner
 4.FFRCT による不安定プラークの予後予測
 5.CT-FFR の臨床的エビデンス
 6.QFR の臨床的エビデンス
 7.vFFR の臨床的エビデンス
 8.FFRangio の臨床的エビデンス
 9.AngioFFR の臨床的エビデンス
 10.IVUS based FFR の開発と臨床応用
 11.OCT based FFR の開発と臨床応用

wire based FFR とvirtual FFR の基礎と臨床― POPAI からのメッセージ ―

 著者と部分冠血流予備能(fractional flow reserve:FFR) との出会いは、1996年Nico Pijls先生がFFR の概念を発表してから10 年以上経過してからでした。当時、自治医科大学を卒業後、岐阜県立岐阜病院での研修を経て、恩師である渡辺佐知郎先生(元 岐阜県総合医療センター理事長) の推薦で米国Johns Hopkins 大学で心臓核医学を学ぶ機会を得た私は核医学を通じて心筋虚血を模索していました。心臓核医学で得られる心筋血流イメージングは冠血流予備能(coronary flow reserve:CFR) を画像化しています。その当時はなぜ核医学の画像と冠動脈造影の所見が一致しないかに、頭を悩ませていたことを思い出します。この生理学的心筋虚血と解剖学的冠動脈狭窄重症度の合わないパズルを見事に一致させたのがFFR という指標でした。FFR は一時 “絶滅危惧種” とまで表現されるような状況になりましたが、現在は多くの臨床的エビデンスが構築され、臨床の現場において、予後を示す指標であるとともに、冠動脈血行再建適応判定のために最も信頼性のある指標のひとつに位置づけられています。その後、負荷をかけることなく安静時に計測できるiFR(instantaneous wave-free ratio) など安静時指標が出現し、ますますワイヤーを用いた虚血診断が広く用いられるようになってきました。現時点で患者の予後を最もよくするPCI(Syntax Uストラテジー) は、@ハートチームカンファランスを通じた適応決定、A生理学的虚血による病変選択、B血管内イメージングを用いたステント最適化、C慢性完全閉塞に対するcontemporary PCI、D新世代のステント植込み、と考えられています。
 一方、新しい大きな潮流が生まれてきています。それがワイヤーを使わずにFFR を推定する方法です。この方法は狭窄病変をワイヤーで通過させるリスクや時間を省略でき、現場に及ぼす大きな利点があります。非侵襲的虚血診断法として冠動脈CT より計算するFFRCT や多方向の侵襲的血管造影から計算するFFRangio はすでに日本において保険適用となり、実臨床のなかで用いられてきています。そのほかにも血管内イメージングであるOCT やIVUS などの3 次元画像からFFR を推定する方法も模索されています。
 筆者の施設が主催する第1 回POPAI (PCI Optimization by Physiology And Imaging) は2015 年5 月に岐阜ハートセンターのハートホールで開催されました。当時はプレッシャーワイヤー、フローワイヤーが利用可能でしたが、physiology は中等度冠動脈狭窄に対する治療方針の決定に役割が限定されていました。そこで本会では、狭窄度など解剖学的情報から虚血の診断はできない、そして虚血の有無により治療の選択を行うべきという概念を周知するライブを行いました。また、IVUS、OCT はステント治療最適化に用いていました。今思えば、この日本のPCI こそ、SYNTAX Uストラテジーであったわけです。その後、PCI の術中、術後にプレッシャーワイヤーを用いることにより、治療戦略の決定やエンドポイントの選択に利用できる可能性が模索されてきました。さらに2019 年9 月に開催された第5 回POPAI では、CT、血管造影、IVUS、OCT などから得られる解剖学的内腔情報から流体力学などを駆使してFFR に類似する指標を模索する方向性が検討され、physiology とimaging はまさにfusion していく様相をみせていることが注目されました。POPAI が開催されてから、わずか5 年の間にphysiology だけをとってみても大きな変革の波が押し寄せているようにみえてなりません。しかし、現在、non-wire based coronary physiology に関してのまとまった書籍は見当たりません。
 本書では、「A.まずはここから―冠循環の基礎」、「B.wire based FFR を知りつくす」、「C.virtual FFR を知りつくす」の三部構成とし、各領域の第一人者の先生方に執筆を依頼しました。physiology をこれから勉強する人にとって、冠循環生理、FFR、iFR、CFR などの概念を勉強していただくために、わかりやすくエッセンスを集約するとともに、今後展開されていくvirtual FFR に関しての最新情報を散りばめました。
 本書を通してphysiology の世界に一人でも多くの方が興味を持っていただき、患者のために役立てていただきたいと熱望しています。また、本書のために御多忙中、執筆いただいたphysiologyに理解を示していただけている多くの先生方に心より感謝を申し上げ、巻頭の言とさせていただきます。

2021 年9 月
岐阜ハートセンター 院長
松尾仁司

 慢性冠動脈疾患に対する冠動脈形成術(PCI)や冠動脈バイパス術(CABG)の適応にあたってガイドラインでは心筋虚血の証明がClass Tで推奨されている.種々の心筋虚血評価法があるなかで,冠動脈造影時に圧ガイドワイヤーを用いて最大充血時に計測する心筋血流予備量比(FFRmyo)に基づく診断・治療の有用性が確立され,最大充血なしで計測する各種の安静時圧指標(non-hyperemic pressure ratios:NHPRs)の新たな有用性も報告され,さらにはCTやIVUS・OCTなどの画像診断からFFRを推測する方法も開発され,FFRやNHPRが注目されてきている.その絶好のタイミングで『POPAI直伝!FFR使いこなしハンドブック』が出版され,冠循環評価・心筋虚血評価への理解が広まり,日常臨床に汎用されることが期待される.
 本書は松尾仁司先生(編者)が主宰するPCIライブコースである「PCI Optimization by Physiology And Imaging(POPAI)」の講演・企画内容を基軸に,圧ワイヤーを用いた各種生理学的指標の解釈と計測法の要点をきわめて実践的に端的に,必要に応じてより詳細に記述されたものであり,各著者はその領域のスペシャリストたちである.冠循環やその評価の詳細はとかくマニアックで理論が多く,その入り口で拒否反応が出て肝心な冠循環評価の実践や興味深い臨床事例や使用法までたどり着かないことが多い.しかし本書は,@冠循環の基礎,A圧ワイヤーによる各指標の意義と計測法およびその実践,Bvirtual FFRの3部構成で,それぞれのパートの各項目の要点が基本的に3頁程度にまとめられていて,重要事項が凝縮されており,どの項目から読んでも完結できるように構成されている.まさに,編者の冠循環に基づいたPCIに対する明確な考え方や手順が手際よく組み立てられ,そのまま反映されているように感じられる.また,深堀りが必要なところ(FFRの数学的モデルやiFRのpullback,IMR測定の臨床的意義,CFDの応用など)は頁を割いて,その理論や意義などを詳述しており,専門家と称する方々も一読の価値は十分にある.
 ただ一つ残念な点は,曖昧さが受け入れられる日本語環境のもとでの共著であるがゆえに起こりうる「用語の統一性」不足である.評者自身も反省しなければならないところでもあるが,CFR(coronary flow reserve)は「冠血流予備能」で,FFR(fraction flow reserve)は「部分冠血流予備能」とされている.正しくは「A-4.FFRの数学的モデルで検証する」の項目に記載されているように,本書で用いられているFFRは日常多くのわれわれ循環器内科医が用いるFFRと同義で,正しくはFFRmyoは心筋血流予備(量)比のことであり,本来,FFRcorが冠血流予備(量)比と訳されるべきである.ここは基本中の基本と厳格にご指摘される方もおられるかもしれないが,その誤りを容認しても余りある素晴らしい書であり,冠循環評価・生理学的指標の入門書としても,循環器内科専門医・PCI専門医の必読書としても推薦したい書である.

臨床雑誌内科130巻1号(2022年7月号)より転載
評者●和歌山県立医科大学 名誉教授 赤阪隆史

9784524229598