Q&Aでわかる!糖尿病×循環器疾患の治療
血糖管理だけではない新しい考え方
編集 | : 伊藤浩 |
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ISBN | : 978-4-524-22958-1 |
発行年月 | : 2021年9月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 224 |
在庫
定価4,400円(本体4,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
実臨床で苦慮する糖尿病を合併した循環器疾患に対して,どのように糖尿病をコントロールし,各循環器疾患を治療すべきか,Q&A形式でわかりやすく解説.具体的な治療法だけでなく,糖尿病を合併する循環器疾患の発症機序や治療薬の作用機序,早期診断のコツと注意点など,治療戦略を立てる上で根拠となる知識も網羅.臨床現場のギモンに応える一冊となっている.
第1章 糖尿病×心不全
Q1.糖尿病と心不全の関連と予後に及ぼす影響は?
Q2.糖尿病性心筋症の定義とその原因は?
Q3.糖尿病患者の心不全発症を予防するための降圧療法はどうしたらよいか?
Q4.糖尿病患者で隠れ心不全を見つけるコツは?
Q5.糖尿病患者の心エコー図検査は何に注意したらよいか?
Q6.糖尿病×心不全の初期段階(ステージA,B)はどのように治療すればよいか?
Q7.糖尿病×HFrEF はどのように治療すればよいか?
COLUMN 実はメトホルミンはHFrEF 患者に有効である
Q8.糖尿病×HFpEF はどのように治療すればよいか?
Q9.なぜ心不全患者にインスリン抵抗性,糖尿病が多いのか?
Q10.なぜSGLT2 阻害薬は心不全に有効か?
第2章 糖尿病×冠動脈疾患
Q11.糖尿病における動脈硬化の機序は?
COLUMN 糖尿病患者の血管内皮機能に悪いのは高血糖? それとも高脂血症?
Q12.リスク層別化はどうすればよいか?
Q13.糖尿病患者の冠動脈狭窄をどのように診断すればよいか?
Q14.糖尿病患者における血行再建の選択基準は?―PCI vs CABG
Q15.糖尿病患者の一次予防に低用量アスピリンはどのように投与すればよいか?
Q16.糖尿病治療薬の中でも脂質異常症の改善効果があるものは?
Q17.糖尿病×冠動脈疾患において糖尿病治療薬をどのように選択すればよいか?
Q18.DPP-4 阻害薬ではなく,GLP1-RA に動脈硬化抑制作用があるのはなぜか?
Q19.糖尿病×末梢動脈疾患(PAD)はどのように治療すればよいか?
第3章 糖尿病×不整脈
Q20.糖尿病と心房細動の疫学は?
Q21.糖尿病患者で心房細動を見逃さないコツは?
Q22.糖尿病×心房細動はどのように治療すればよいか?
Q23.糖尿病と心臓突然死の関連性は?
第4章 糖尿病×リスク因子
Q24.糖尿病×脂質異常症はどのように治療すればよいか?
Q25.糖尿病×高血圧はどのように治療すればよいか?
Q26.糖尿病×CKD はどのように治療すればよいか?
第5章 糖尿病治療薬の疑問
Q27.なぜ古くて新しいメトホルミンが注目されているのか?
Q28.メトホルミンの副作用と使用上の注意点は?―乳酸アシドーシスと造影剤腎症
Q29.ESC/EASD,ADAのガイドラインではDPP-4 阻害薬の位置づけについてどのように記載しているか?
Q30.一般内科医でもできるGLP-1RA の具体的使用方法は?
Q31.GLP-1RA の経口剤とは?
Q32.GLP-1RA の副作用と使用上の注意点は?
Q33.SGLT2 阻害薬は腎保護効果があるものの,腎不全に対して慎重投与となっている.どのように考えたらよいか?
Q34.SGLT2阻害薬は高齢者に投与しても安全か?
Q35.SGLT2阻害薬は心臓突然死を減少させるか?
Q36.ピオグリタゾンの作用機序とエビデンスは?
Q37.ピオグリタゾンの副作用と使用上の注意点は?―心不全,膀胱がん,体重増加
Q38.α-GI の心血管イベントに関するエビデンスは?
Q39.2型糖尿病患者で低血糖を生じないためのインスリン投与のコツは?
第6章 糖尿病治療での注意点
Q40.高齢者糖尿病患者が増えているが,サルコペニアの関与は?
Q41.なぜ高インスリン血症は避けなければいけないのか?
Q42.ESC/EASD,ADAのガイドラインではA1cの治療目標についてどのように記載しているか?
Q43.なぜ低血糖は避けなければならないのか?
Q44.なぜdiabetic kidney disease(DKD)と呼ばれるようになったのか? diabetic nephropathy(DN)と何が違うのか?
「いま全てが一変してはならぬという法など、どこにあるのか?」
(フョードル・ドストエフスキー)
糖尿病治療が大きな変革期を迎えている。2019 年にヨーロッパ心臓病学会・ヨーロッパ糖尿病学会、2020 年に米国糖尿病学会が立て続けに新しい糖尿病診療ガイドラインを発表した。そこで強調されたのは、心血管疾患のハイリスク患者には生命予後を改善するエビデンスのある糖尿病治療薬を“A1c の値にかかわらず”優先的に使用することである。欧州と米国が糖尿病治療戦略を変えたということは、極論すれば世界の糖尿病治療戦略が変わったということである。我々はこの潮流に乗り遅れてはならない。2020 年3 月、本邦でも日本循環器学会と日本糖尿病学会合同で『糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント』を発表した。いま起きている変化は従来の“糖尿病治療は良好な血糖コントロールを得ることである”というコンセプトの変更を迫るものであり、医療従事者に心理的に大きな葛藤をもたらすものでもある。
この変化のきっかけとなったのは新規糖尿病治療薬に課せられたcardiovascular outcome trial である。当初は心血管イベントのハイリスク患者を対象に、新規糖尿病治療薬により血糖値を低下させても心血管疾患が増加しないことを証明するための安全性試験であった。多くの試験の結果、SGLT2 阻害薬とGLP‒1 受容体作動薬はHbA1c の低下に依存せず心血管イベントの抑制と生命予後改善効果があることが示された。Hard endpoint に注目した瞬間にハイリスク患者で重要なのは、A1c の低下幅よりも糖尿病治療薬の選択であり、そのコンセプトをいち早く取り入れて欧米のガイドラインは作成された。さらに、SGLT2 阻害薬とGLP‒1 受容体作動薬が心血管イベントそして腎イベントに有効であったことから、糖尿病患者に合併する動脈硬化性疾患、心不全や心房細動、腎疾患の病態解明が大きく進んだことも間違いのない事実である。
本書は、糖尿病に合併する心血管疾患の最新の病態生理を紹介するとともに、大きく変貌する糖尿病治療戦略とその根拠、そして治療薬の具体的な使い方を、エキスパートにQ&A 形式でわかりやすく解説してもらった。臨床現場でとても役に立ったと思っていただければ編者、執筆者一同の本望である。
令和3 年6 月
伊藤 浩
循環器疾患に関わる医師は,糖尿病が動脈硬化のリスク因子であることから,冠動脈疾患や末梢血管疾患患者を介して糖尿病と関わってきた.従来,糖尿病性心筋症という疾患概念が知られていたが,心不全の原因として臨床で十分に理解され治療対象とはなっていなかったと思う.ところが,EMPA-REGOUTCOME試験によってSGLT2阻害薬が心不全の予後改善をもたらすという報告がなされて以来,糖尿病に対する考え方が大きく変化したといってよいであろう.さらに,SGLT2阻害薬によって糖尿病と心不全発症や重症化予防に腎臓の関わりが注目されるようになり,心‒腎‒代謝の連関の重要性が広く認識されるようになった.
また,DPP-4阻害薬やSGLT2阻害薬だけでなく,造影剤との相性のわるさから使用してこなかったmetforminを使用する機会が増え,新たにGLP-1受容体拮抗薬も循環器疾患の予後改善効果が期待されており,治療薬の多様化にも関心が高まっている.
このように,糖尿病と循環器疾患との関わり方が大きく変化しており,この領域をフォーカスアップデートする必要性を感じている医師は多いであろう.まさに,本書はこのような医師の疑問に答えるQ&A形式で構成されている.
本書は,心不全,冠動脈疾患,不整脈,リスク因子といった疾患ごとの4章と,糖尿病治療に関する2章の計6章で構成されている.第1章は最も注目されている心不全に関するQ&Aである.SGLT2阻害薬に偏ることなく,糖尿病と心不全に関する疫学,病態生理,診断法,心不全のステージや種類別の対応が網羅されており,知識の整理やアップデートを容易に行うことができる.
第2章は糖尿病と冠動脈疾患についてである.糖尿病を合併した冠動脈疾患の血行再建選択や薬物治療による二次予防について網羅されている.さらに,糖尿病症例の冠動脈疾患に対する一次予防についてのQ&Aもあり,きわめて日常臨床に役立つ項目立てに感心する.
第3章は不整脈に関するQ&Aである.心房細動とメタボリックシンドロームとの関連に関するエビデンスが集積されるなか,心房細動の発症や悪化させる原因としての糖尿病を広く学ぶことができる.また,心臓突然死のリスクとしての糖尿病に関するQ&Aは大変興味深く,知識をアップデートできる.
第4章は心血管疾患のリスク因子である脂質異常症,高血圧,および慢性腎臓病(CKD)について,糖尿病患者における治療の特徴がうまくまとめられている.心不全リスクステージA・Bにおける一次予防の重要性が広く認識されてきており,知識の整理とアップデートに最適な内容が包括的に記載されている.
ここまでの章では多くのQ&Aを糖尿病と循環器疾患に関する臨床そして研究分野でのエキスパートである循環器専門医が担当している.私自身循環器内科医であるが,日常診療での疑問の多くをクリアにすることができた.
第5章は糖尿病治療薬の疑問,そして第6章は糖尿病治療での注意点についてのQ&Aである.各治療薬に関する概説が網羅され,循環器疾患における使用上の利点と注意点について広く学ぶことができる.また,低血糖やサルコペニアへの影響など糖尿病患者管理で懸念される内容も包括されている.
この二つの章の多くは糖尿病専門医により執筆されており,専門医レベルの内容から普段臨床の現場で今さら聞きにくいと感じていた内容まで学ぶことができ,かゆいところに手が届くと言ったら語弊があるが,非常に細やかな配慮が感じられた.
糖尿病と循環器疾患の関わり方は大きな転換期にあり,本書は多忙ななかで効率的に知識を整理し,最新の情報をアップデートするのに最適な書として推薦したい.
臨床雑誌内科129巻4号(2022年4月号)より転載
評者●名古屋市立大学大学院循環器内科学 教授 瀬尾由広