筋強直性ジストロフィー診療ガイドライン2020
監修 | : 日本神経学会 |
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編集 | : 筋強直性ジストロフィー診療ガイドライン編集委員会 |
ISBN | : 978-4-524-22947-5 |
発行年月 | : 2020年9月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 172 |
在庫
定価4,070円(本体3,700円 + 税)
正誤表
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2022年08月23日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
日本神経学会監修による、エビデンスに基づいたオフィシャルな筋強直性ジストロフィー(DM)の診療ガイドライン。医療課題の全体像を理解するための総論と、主要な医療課題への対応を理解するための各論に分け、14章から構成。治療の推奨を示すFQと臨床上の疑問に答えるBQによって、本疾患の診断や機能障害、全身合併症、妊娠・周術期管理、小児患者管理、外科的手術などについて集学的に対応するための情報をまとめている。
I.総論
1.筋強直性ジストロフィーとは
BQ1–1 筋強直性ジストロフィーの原因は何か
BQ1–2 どのような症状があるか
BQ1–3 患者数はどのぐらいか
BQ1–4 生命予後や死因はどうか
2.診断・遺伝相談
BQ2–1 どのように診断するか
BQ2–2 挙児希望を有する患者への遺伝カウンセリングはいつ,どのように行うか
BQ2–3 出生前診断・着床前診断はどのように行うか
BQ2–4 妊娠中に診断された女性患者への遺伝カウンセリングはいつ,どのように行うか
BQ2–5 出産後に診断された女性患者への遺伝カウンセリングはどのように行うか
3.機能評価・検査,合併症検索
BQ3–1 どのような評価・検査が必要か
4.治療開発の現状と治験推進のための基盤整備
BQ4–1 治療開発の現状と治験推進のための基盤整備はどのように進んでいるか
5.社会支援・制度
BQ5–1 筋強直性ジストロフィー患者に有用な社会支援制度は何か,小児筋強直性ジストロフィー患者に有用な社会支援,教育制度は何か
II.各論
6.運動機能障害・リハビリテーション
BQ6–1 運動についての注意点は何か
BQ6–2 どのようなリハビリテーションを行うか
BQ6–3 どのような福祉用具,環境整備が有効か
7.呼吸の障害
BQ7–1 呼吸障害の特徴は何か
FQ7–2 人工呼吸管理は有効か
FQ7–3 呼吸リハビリテーションは有効か
8.心臓の障害・不整脈
BQ8–1 心臓にはどのような障害が起こるか.どのような検査を受ければよいか
FQ8–2 徐脈性不整脈に対する予防的なペースメーカ治療は予後を改善するか
FQ8–3 頻脈性不整脈の治療を行うと予後や自覚症状が改善するか
9.嚥下障害・消化管・歯科学的問題
FQ9–1 定期的に嚥下評価することで,嚥下障害による窒息や肺炎を予防できるか
FQ9–2 嚥下障害に対する代替栄養法は予後を改善するか
BQ9–3 下部消化管の異常にはどのように対処するか
BQ9–4 口腔内の特徴にはどのようなものがあるか
FQ9–5 口腔ケアおよび歯科治療を行ううえでの注意すべきことは何か
10.中枢神経障害
BQ10–1 中枢神経障害の特徴はどのようなものか
BQ10–2 中枢神経障害の評価方法にはどのようなものがあるか
BQ10–3 中枢神経障害に対して有効な介入方法はあるか
11.代謝障害
BQ11–1 筋強直性ジストロフィー患者における糖尿病スクリーニングは,どのように行うべきか
FQ11–2 筋強直性ジストロフィー合併糖尿病患者の血糖コントロール目標はどう設定すべきか
FQ11–3 筋強直性ジストロフィー合併糖尿病患者にどのような薬剤を選択するのがよいか
FQ11–4 筋強直性ジストロフィー合併脂質異常症に対してどのように対応するのがよいか
12.その他合併症
BQ12–1 腫瘍合併の頻度はどのくらいか
FQ12–2 眼科的合併症に対する治療介入はQOLを改善するか
BQ12–3 耳鼻咽喉科領域の合併症にはどのようなものがあるか
13.妊娠周産期管理・先天性患者
BQ13–1 筋強直性ジストロフィー女性が周産期(妊娠中・産後)に気をつけることは何か
BQ13–2 先天性筋強直性ジストロフィーの病態が成人型と異なるところは何か
BQ13–3 先天性筋強直性ジストロフィーの予後を規定する因子は何か
BQ13–4 先天性筋強直性ジストロフィーの骨格筋症状はどのように経過するか
BQ13–5 先天性筋強直性ジストロフィーの教育で気をつける点は何か
14.全身麻酔・外科的処置
BQ14–1 全身麻酔や鎮静を行ううえで問題となるべき点,またその要因は何か
FQ14–2 安全な麻酔・鎮静を行ううえでどのような術前評価・対応が必要か
FQ14–3 脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔は安全に施行可能か
FQ14–4 帝王切開術に対する注意点は何か
巻末資料
検索式
各委員のCOI
主な外部評価コメントと対応
序
筋強直性ジストロフィーは筋ジストロフィーのなかでは最も患者数が多く、様々な臓器に障害を示すことがあることから、どの診療科においても経験する疾患である。しかし、本症の全体像を正しく理解し、適切にマネジメントすることは専門医でも容易ではない。さらに、中枢神経障害のため医療コンプライアンスが不良なことや、常染色体優性遺伝形式で家系内に罹患者が複数存在し介護力が乏しい例が多いことなどもあいまって、デュシェンヌ型筋ジストロフィーなど他の筋ジストロフィーと比べ、生命予後の改善が乏しいのが現実である。本症においても、病態解明の進歩に伴い治療薬開発が進みつつあるが、医療の標準化は新規治療の開発を進めるうえでも不可欠な要素である。
このような状況のもと、本ガイドラインは専門診療科医にとっては本症患者の集学的医療を自らコーディネーターとなって主導できること、関連診療科医においては、本症の全体像を理解し合併症管理を適切に実施できることを目的に作成した。希少疾病でエビデンスが乏しいことから、他の疾患に対するエビデンスも積極的に活用し、患者および専門医対象の実態調査の結果も参考にした。また、エビデンス構築を促す目的で、未解決臨床課題についても積極的に提示している。
本ガイドラインの作成は日本神経学会のもとで日本医療評価機構Mindsの「診療ガイドライン作成の手引き2014」に従って実施し、Minds代表者にも外部委員として参画していただいた。本症の多彩な臓器障害に対応するため、脳神経内科医・小児神経科医に加え、リハビリテーション科、循環器科、糖尿病科、産婦人科、麻酔科、歯科、遺伝の専門医、さらに患者代表にも参加いただいた。協力学会として日本顎口腔機能学会、日本産科婦人科学会、日本神経治療学会、日本糖尿病学会、日本不整脈心電学会、日本麻酔科学会に監修いただき、Mindsには公開前評価をいただいた。各委員・学会・機関の御協力に深謝する。本ガイドラインは、故川井充先生(国立病院機構東埼玉病院院長)の御遺志を引き継ぐ形で作成された。後進に対する先生の御生前の御指導と御厚情に感謝するとともに、本ガイドラインを先生の御霊に捧げたい。
最後に、本ガイドラインが本症の理解と標準的医療の普及に寄与することを祈念し筆を擱きたい。
2020年8月
「筋強直性ジストロフィー診療ガイドライン」作成委員会委員長
松村剛
筋強直性ジストロフィーは成人で最も多い筋ジストロフィーであり、脳神経内科医が診断することが多い。たしかに筋ジストロフィーの一つに分類されてはいるが、この疾患は多臓器障害を呈する全身性疾患である。その病態はトリプレットリピート病であり、かつリボ核酸(ribonucleic acid:RNA)病でもある。異常伸長したトリプレットリピートが転写されたメッセンジャーリボ核酸(messenger ribonucleic acid:mRNA)が毒性をもち、多様な遺伝子の発現過程でスプライシング異常が惹起されるため、多臓器にわたる多彩な症状を呈する。心伝導障害を合併することから、適切な時期にペースメーカーを植え込まなくては突然死の危険性がある。拘束性換気障害が進行するのに、呼吸困難感を感じにくいため本人も気づかないうちにII型呼吸不全に陥ることもある。平滑筋障害のため便秘や腸閉塞などを合併しやすい。耐糖能障害の頻度も高い。若年性白内障をきっかけに診断される場合もある。悪性腫瘍を合併しやすく、外科手術時の麻酔でトラブルが生じることもまれではない。女性罹患者の場合、自然流産、切迫早産、遷延分娩、弛緩出血など周産期合併症が多い。また、重症の先天性筋強直性ジストロフィー児を出産するリスクもある。したがって、脳神経内科医だけではなく、小児神経科医、リハビリテーション科医、循環器、呼吸器、内分泌・糖尿病、消化器など多分野の内科医、眼科医、麻酔科医、歯科医、女性患者の場合は産婦人科医、時には精神科医もこの疾患の患者さんに関わる可能性がある。さらに、遺伝子異常を背景に発症することから、遺伝カウンセリングなど遺伝診療も必要であるため、集学的な診療を最も必要とする疾患といえる。しかし残念ながら、このことは医療者の間でもいまだ十分認識されているとは言いがたいのが現状ではないだろうか。
このたび、日本神経学会により「筋強直性ジストロフィー診療ガイドライン2020」が作成され出版された。作成委員会にはこの領域でわが国を代表する脳神経内科医、小児神経科医を中心に、関連学会、さらに患者代表も加わり、日本医療評価機構Mindsの「診療ガイドライン作成の手引き2014」に準拠して作成されている。本疾患の医療課題を理解するための総論と、主要な医療課題への対応を扱う各論から構成されており、設定された背景質問と前景質問に対してそれぞれ回答文と推奨文が簡潔に記され、次いでわかりやすい解説やエビデンスと文献が紹介されている。設定されたclinical questionはきわめて広範囲に及んでおり、医療現場で思い当たる課題や疑問はほぼ網羅されているので、診察室に本書が1冊あれば、診療に困ることはないだろう。専門医にとっては、他科からのコンサルテーションに対して、あるいは他科へのコンサルテーションに際して、心強いアドバイザーになってくれる。このガイドラインが本疾患の患者さんやそのご家族のQOL向上に役立つよう、より多くの医療関係者に利用され、現時点における標準的医療の普及につながることを期待したい。
最後に本ガイドライン作成委員会メンバー各位のご尽力と情熱に対して、心からの敬意を表したい。
臨床雑誌内科127巻3号(2021年3月号)より転載
評者●川崎医科大学神経内科学教室 教授 砂田芳秀