希少がん・難治がん診療ハンドブック
監修 | : 石岡千加史 |
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編集 | : 元雄良治 |
ISBN | : 978-4-524-22859-1 |
発行年月 | : 2021年7月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 248 |
在庫
定価9,350円(本体8,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
わが国初の“希少がん・難治がん”の成書として,診療に必要な知識を網羅的に解説.T章では希少がん・難治がんの定義や疫学などの基本的知識,U章では代表的な希少がん・難治がんごとの病態や検査,治療法を示し,各疾患の診療実践についてまとめた.さらにV・W章では,希少がん・難治がんにおけるフォローアップとチーム医療,今後期待される診断法や治療法に触れ,希少がん・難治がんに関して必要十分に学べる内容となっている.
第T章 総 論
1.希少がんとは
A.定義・疫学・治療成績
B.診断・治療法・情報収集
2.難治がんとは
A.定義・疫学・生存率
B.早期診断・治療法の選択
3.希少がん・難治がん診療の課題
第U章 希少がん・難治がん診療の実際
【希少がん】
1.部位別希少がん診療の実際
A. 脳脊髄領域̶非定型奇形腫様ラブドイド腫瘍(AT/RT)
B. 眼科領域
1.眼瞼皮膚がん
2.眼付属器リンパ腫
3.網膜芽細胞腫
4.ぶどう膜悪性黒色腫
C. 頭頸部領域
1.聴器がん
2.鼻副鼻腔がん
3.唾液腺がん(唾液腺腫瘍)
D. 呼吸器領域
1.悪性胸膜中皮腫
2.胸腺上皮性腫瘍
E. 消化器領域
1.小腸がん(小腸腺がん)
2.GIST
3.原発性腹膜がん
F. 婦人科領域
1.腟がん
2.外陰がん
G. 泌尿器科領域
1.副腎皮質がん
2.尿膜管がん
2.臓器横断的希少がん診療の実際
A.悪性黒色腫
B.血液領域の希少がん̶芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)
C.軟部肉腫
D.骨肉腫
E.デスモイド腫瘍
【難治がん】
1.部位別難治がん診療の実際
A.甲状腺未分化がん
B.トリプルネガティブ乳がん
C.小細胞肺がん
D.スキルス胃がん
E.肛門がん
F.進行膵がん
G.肝内胆管がん
2.原発不明がん
3.神経内分泌腫瘍・神経内分泌がん
第V章 フォローアップとチーム医療
1.治療後のフォローアップ
2.希少がん・難治がん患者の診療,心理社会的支援
A.多職種連携の重要性
B.薬剤師の役割
C.看護師の役割
D.希少がん・難治がんのサバイバーシップ
第W章 希少がん・難治がん診療の展望・トピックス
1.今後注目される診断法
2.今後注目される治療法
監修の序
「希少がん・難治がん」は従前より診断や治療に難渋する疾患群であり,私たちがん治療医にとって日常診療上のいわば高い壁として存在してきました.経験する機会が限られる個々の「希少がん」を1 人の治療医が主治医として担当する場合,書棚から教科書を引き出し,PubMed で文献を検索するなど多くの手間がかかり,頭を抱えることがしばしばでした.「難治がん」の場合は,定期的に改訂される診療ガイドラインの最新版を参照し,目前の患者に適した標準治療の計画を立案し治療を実践しますが,その治療抵抗性に難渋して次たる後方治療を模索することが日常茶飯事です.一方,時が進むと疫学上の変化や研究の成果により,疾患体系の一部が刷新されるほか,診断および治療法が進歩し生存率が改善しています.このため治療医は希少がん・難治がんの診療に際し,常に最新情報の入手が必要であり,それを素早く参照できるコンパクトな参考書を傍らに置きたいところです.しかし,そのような希少がん・難治がんの参考書はほとんど刊行されてきませんでした.
本書は,このようながん治療医のニーズに応えるために企画されたハンドブックです.金沢医科大学の元雄良治名誉教授による編集で,約50 名のがん治療のエキスパートが自身の得意とする専門領域を単著または共著で執筆されています.その内容は私たちが日常診療で遭遇する多くの希少がん・難治がんをカバーし,第T章の総論から第U章の各論まで,わかりやすく,探しやすく,そして過不足がなくコンパクトにまとめられた1 冊です.各論は疾患ごとに「疫学」,「分類」,「病態」,「検査・診断」,「治療法」,「経過・合併症」および「予後」について共通フォーマットで執筆されているため,必要なところだけを手早く参照することも可能です.また,将来,がん治療の専門医を目指す若手医師や,チーム医療で連携する看護師や薬剤師等の医療従事者の参考書としても活用できると考えます.
編集に際しては,書籍全体の調和や用語の統一が十分に配慮されています.また,第I章の総論では希少がん・難治がん診療の課題を取り上げたほか,第V章にはフォローアップとチーム医療を,第W章には希少がん・難治がん診療の展望・トピックスを設け,希少がん・難治がん診療のあり方や,がんゲノム医療の到来により個別化が進む次世代の希少がん・難治がん医療を展望した内容になっています.
この「希少がん・難治がん診療ハンドブック」を,がん治療医の診療や教育の場,症例
検討会の座右の書としてお勧めいたします.
2021 年6 月
東北大学大学院医学系研究科臨床腫瘍学分野教授
東北大学病院腫瘍内科長
石岡千加史
本書の冒頭で紹介されているように,希少がんは年間10万人当たり6人未満の罹患率のがん種を指す.文字通り希少であるため,大規模臨床試験の実施が困難であり,標準治療が存在しないケースも多い.そのため,いわゆるガイドラインでlevel 1のエビデンスをもった推奨が示されないがん種も多く,日常臨床では往々にして診療方針の決定に苦慮する.限られたエビデンスのなかで,専門家,とくに多職種によるカンファレンスで「妥当」と考えられる治療方針が導き出されるべきであるが,施設間の方針の差もおのずと大きくなる.さらに,エビデンスが乏しいゆえに,希少がんに特化した出版物もまた希少であった.
本書は,そういった希少がんの診療に関する実践的な情報を与えてくれる秀逸な書籍である.本書は4章で構成され,第T症「総論」では,希少がん・難治がんの定義・疫学,治療成績,課題について図表を交えながらわかりやすく解説されている.
第U章「希少がん・難治がん診療の実際」では,それぞれのがん種に対して,疫学,分類,病態,検査・診断,治療法,経過・合併症,予後,が簡潔にまとめられている.多忙な臨床のなかで,必要な情報がすぐに手に入ることは非常に心強く感じる.また,必要に応じてもととなった情報にあたれるように参考文献がきちんと記載されていることもありがたい.さらに特記すべきは,実際の症例を紹介したケースファイルが豊富に提供されている点である.文字だけでは伝えられない臨場感のある症例検討が理解を深める.筆者がとくに気に入ったのは,ケースファイルのなかで「診断における悩ましいポイント」と「対応と対策」の項が設けられている点である.本書の執筆にあたったがん治療の専門家たちが何を悩み,それをどのように現場で解決しているのかが簡潔に記載されており,試験対策の座学本ではなく実践書としての本書の価値を高めている.
第V章「フォローアップとチーム医療」では,治療後のフォローアップ,サバイバーシップについて詳しく取り上げられている.希少がんのなかには,小児,AYA世代に好発するものも多く,心理社会的なサポート,またそれを可能にする多職種チームの重要性の解説に十分なページが割かれている.
第W章「希少がん・難治がん診療の展望・トピックス」では,ゲノム検査,免疫チェックポイント阻害薬などの新規検査・治療の位置づけ,CAR-T療法,bi-specific抗体など近未来の治療の展望などが記されている.
本書全体から強く受ける印象は“きわめて実践的である”ということである.実際に希少がん・難治がんの治療にあたる最前線の医師のみならず,多職種チームのメンバーが必携すべきハンドブックとして推薦したい.
臨床雑誌内科129巻6号(2022年6月号)より転載
評者●国立がん研究センター東病院腫瘍内科 科長 向原 徹