ポケットチューター体表からわかる人体解剖学原書第2版
監訳 | : 大川淳/秋田恵一 |
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ISBN | : 978-4-524-22857-7 |
発行年月 | : 2021年12月 |
判型 | : 新書 |
ページ数 | : 344 |
在庫
定価3,080円(本体2,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
体内の臓器を図示した多彩な体表写真により,体表から神経・血管,骨格などの位置を把握できるカラーアトラスのベストセラー,待望の改訂版! 最新の知見に全編をブラッシュアップしたほか,新たに加齢に伴う位置関係の変化を示した「新生児」の章を追加.体表解剖の参考となるX線像,CT,血管造影,超音波画像も多く掲載し,視診・触診や穿刺などの実臨床に役立つ実践性を備えている.すべてのメディカルスタッフのポケットに忍ばせておきたい一冊.
Chapter 1 はじめに
1 解剖学的姿勢と平面
2 解剖学的運動
3 感覚神経支配
Chapter 2 頭頸部
1 骨ならびに骨性の指標
2 頭蓋内構造
3 頭部・顔面の筋
4 鼻,鼻腔,副鼻腔
5 顔面の神経
6 顔面の内臓
7 口腔,口腔前庭
8 頸三角
9 頸部の神経,血管
10 頸部の内臓
11 頸部のリンパ管
12 異所性の頸部内臓と頸部腫瘤
Chapter 3 胸 部
1 骨性の指標,関節,軟骨
2 筋
3 線とひだ
4 縦 隔
5 神経,血管,リンパ管
6 臓 器
Chapter 4 上 肢
1 上肢帯,肩,上腕
2 肘,肘窩,前腕
3 手関節,手
Chapter 5 脊柱と背部
1 脊 柱
2 筋
Chapter 6 腹 部
1 骨性の指標,関節,靱帯
2 基準面,領域
3 筋,腱,腱膜
4 鼠径管
5 神経,血管,リンパ管
6 腹壁を介する外科的アプローチ
7 臓 器
Chapter 7 骨盤部,会陰部
1 骨,関節,靱帯
2 会 陰
3 女 性
4 男 性
5 会陰の神経,血管
Chapter 8 下 肢
1 骨盤帯,殿部,大腿
2 膝関節,膝窩部,下腿
3 足関節,足部
Chapter 9 新生児
1 胸 部
2 腹 部
3 骨盤と会陰部
4 頭部と顔面
5 脊 柱
6 四 肢
監訳者の序文
CTやMRI、超音波装置などの画像診断技術が進歩した現在、比較的短時間に体内臓器の検査が行えるようになりました。しかし、その臓器に実際に到達するには、体外に開口部を持つ管腔を逆行性にアプローチする以外、すべて体外からの穿刺や皮膚の切開が必要となります。そのためには骨性の隆起や筋や腱のレリーフを見て、体表から見たときの位置関係と、近傍やその奥に何が存在するのかを知ることが重要です。また、末梢神経や血管の走行に関する知識は、組織損傷を避けて、安全に医療を遂行する上で不可欠です。さらに、体表に近い組織に対する治療を行う場合には、目標とする組織を体表から特定しなければなりません。つまり、体表から体内の臓器や組織の位置を正確に知ることは、すべての医療行為にとって、きわめて基本的な技術ということになります。
ふつうの解剖書では、体表から皮膚、皮下組織、筋を段階的に除去していく形で体内組織の構造を明らかにしていきますが、本書ではあくまで体表から見た体内構造や組織の位置関係を詳細に示すことにこだわっています。臓器や組織の個別の形態については最小限の記載しかありませんが、注射や外科手術、施術において、体表から体内にアプローチするための情報が十分に盛り込まれています。最近では特に超音波装置の進歩もあり、体表から、より深い組織の構造を見ることができるようになりました。しかし、こうした場合においても、基本的な解剖学的知識は不可欠であり、本書の必要性がさらに増してきました。
本書は臨床現場に持ち込んでの使用を考えてポケット版になっていますが、豊富な図表と簡潔ながら要点を得た記載がなされており、通読することでも新たな視点を与えてくれます。本書を手に取った皆様の臨床能力のアップは間違いありません。
2021年12月
監訳者一同
本書は,2012年に英国で出版され好評を博した医学書の改訂版として2020年に刊行された原書第2版の訳本である.
本書の第一の特徴はポケットサイズであり解剖書としてはめずらしく携帯可能で,税込みで3,080円と医学書としては廉価な点があげられる.
第二の特徴は,これが本書の最大の特徴であるが,体表からみたときに解剖学的構造(筋肉,腱,神経,血管,臓器,骨など)がどこにあるかという点を主眼において構成されていることである.すなわち,診察,検査,そして穿刺などの手技時にどこに何があるか,何に気をつけるべきかが,豊富な写真,図,CT画像や超音波画像で示されている.例をあげると,第3章「胸部」では長胸神経がどこを走行しているかが図示されており,「腋窩の手術や胸腔穿刺の際に損傷することがある.長胸神経の損傷により翼状肩甲骨を生じる」と書かれている.また緊張性気胸の際の穿刺減圧の部位(第2肋間隙,鎖骨中線)が写真に図示されているほか,経胸壁的に胸腔を観察した場合の超音波画像も示されている.さらに,肋骨横隔洞についても「肋骨横隔洞は肝臓や腎臓を覆っている.生検や外科的処置の際には貫通するため,気胸を生じることがある.穿刺前に呼気させることで,肺を肋骨横隔洞から動かし,リスクを減らすことができる」などの臨床に即した記載が豊富である.緊張性気胸の際の穿刺部位(第2肋間隙,鎖骨中線)を覚えることも重要であるが,画像を加えることで記憶にもさらに定着しやすいと考えられる.
改訂版では新生児の章が追加されており,成人との違いが詳述されている.また臨床的に有用な超音波画像が多数追加されている.
本書は臨床実習を開始する医学生や研修医に特に有用と思われるが,すでにトレーニングを終了した医師であっても,不慣れな部位の穿刺や小手術を行う際に前もって本書に目を通すことで合併症のリスクを下げる重要なヒントをもらうことができるかもしれない.さまざまな年代の医師に役立つ好書であり,ぜひ手にとって読んでいただきたい一冊である.
臨床雑誌外科84巻7号(2022年6月号)より転載
[順天堂大学上部消化管外科教授 峯 真司]
医師としての重要な役割は,解剖を熟知して身体所見から得られる情報をもとに診断することや,体表から体内に安全にアプローチして検査・治療を行うことである.検査・診断技術が日々進歩する現代の医療においても,症状や身体所見から得られる情報はもっとも重要であり,診察の基本となることはいうまでもない.筆者が専門とする呼吸器外科診療においても,身体所見や症状が重要であることを痛感したことがあった.肺尖部に腫瘍ができた症例では,Horner症候群による患側の発汗障害を生じるだけでなく尺骨神経障害による小指側の運動知覚障害が起こることは,医学部の講義で教わっている.現場でそのような患者が小指のしびれを訴えても別の疾患に起因すると考え,整形外科や神経内科を受診させたために治療が遅れてしまったことがあった.一般医師だけでなく呼吸器専門の医師であっても,肺尖部は体表上頸部の付け根にあり,肺尖部に異常があると腕神経叢の下端の尺骨神経を障害することが理解されていないことがある.このような事例は,体表からの解剖学的な位置関係をイメージできていないことが原因と考えられる.
また,体表から穿刺や切開を行う処置は,三次元的な解剖を理解したうえで細心の注意を払う必要がある.最近ある病院で,胸腔穿刺に伴う医療事故が起きた.大血管手術後の左胸水貯留を伴う患者に胸腔穿刺をした際に穿刺針で大動脈を損傷し,緊急で再開胸し止血した症例であった.事情を聞くと,前かがみの側臥位で,エコーガイド下に椎体横の肋間から大動脈切痕部位に貯留する膿瘍を穿刺したとのことであった.体表からは下行大動脈に穿刺してもおかしくない部位であった.エコー所見のみを鵜呑みにして体表からの解剖学的位置関係を無視してしまうと,このようなことが起きてしまう.近年,ハイスペックなポータブルエコー装置が多く使われ,中心静脈や動脈ライン挿入時,体腔穿刺時などにはなくてはならないものとなっている.傍胸骨から心?を穿刺する場合や肋間から横隔膜下膿瘍を穿刺する場合などでも,エコー所見で直下に液体が貯留していても,解剖学的には胸腔を通過してしまうことが認識されない場合も同様である.
本書は臨床の現場で診察や処置を行うあらゆる場面において体表からの解剖のイメージを体得することができ,患者の訴える症状と部位から診断の道筋がつけやすくなる.また処置においてもエコー所見とともに体表からの解剖学的なイメージを想起させてくれ,安全な処置に結びつけることができる優れた本であり,地図でいえばまさにGoogleマップのようなものである.
医学生や初期臨床研修医に限らず,若手医師を指導するための指導資料として熟年医師にも本書を活用していただければ幸いである.
胸部外科75巻5号(2022年5月号)より転載
(自治医科大学附属さいたま医療センター長/呼吸器外科教授・遠藤俊輔)
研修医のころ,手術で手が止まることが多々あった.その理由の主なものは,この組織を切除すると次にどのような組織があらわれるのかよくわからない,すなわち体表からの深部の解剖を理解していないことであったといえる.本書はこのような悩み多き臨床医(初期および後期研修医)にとって,手術に必要な知識を得るために最適な内容を含んでいる.すなわち,本書は,体内の臓器,血管,神経などの位置を体表上にあらわした200を超える多くの写真によって示してあり,読者はおよそ内部の解剖を容易に把握できるように構成されている.
本書は,9つのchapterからなる.Chapter 1のはじめにという項目では,解剖学的姿勢と解剖学的運動が細かく述べられている.その後,Chapter 2 頭頸部,Chapter 3 胸部,Chapter 4 上肢,Chapter 5 脊柱と背部,Chapter 6 腹部,Chapter 7 骨盤部・会陰部,Chapter 8 下肢,Chapter 9 新生児の項目があり,各部位ごとの内部の解剖学的構造が細かく示されている.体表から内部の解剖学的位置は非常に正確に記されており,実際の手術を想定しながら図をみると手術の臨場感があふれてきて,写真をみながら想像に耽ってしまう.今版からは新章として「新生児」の体表解剖が追加された.本章では新生児と大人との解剖学的特徴の違いが詳細に述べられている.また新生児の腰椎穿刺は決して腸骨稜上平面(Tuffier線)より頭側で行ってはならないという,臨床的に重要なポイントも記載されている.
本書のよさを際立たせているものは,写真の美しさとそこに描かれている骨,関節,靱帯,血管,神経の正確さである.脊柱の解剖については,背部の筋だけで表層外在筋層,中間外在筋層,深部内在筋層に分けて記載してあり,深部内在筋層にいたってはさらに浅層,中間層,深層に分けて記載してある.加えて脊椎骨の形状から脊柱管の髄膜,脊髄,脊髄神経の走行が記載され,その正確さには驚くべきものがある.
またX線像,CT,MRI,エコー,内視鏡所見などが随所にちりばめられており,画像検査とのかかわりが容易に理解できる仕掛けがなされている.さらに日常診療の手技における上肢神経損傷の好発部位という項目があり,解剖学的意義の解説も付け加えられている.実際の臨床に非常に有用な記載である.
本書の監訳を行われ,日本語版として世に知らしめられた大川淳教授(整形外科学),秋田恵一教授(臨床解剖学)をはじめ,東京医科歯科大学の整形外科,頭頸部外科,放射線科,リハビリテーション科,小児科,国立がん研究センター中央病院婦人腫瘍科の諸先生方には心より敬意を表したい.
本書はポケット版という形態をとっており,いつでも手軽に体表から内部の解剖を手にとるようにわかる利点がある.ぜひ手術前に手にとって人体の構造・解剖を確認したいと思わせる良書である.
臨床雑誌整形外科73巻4号(2022年4月号)より転載
評者●富山大学整形外科教授・川口善治