その精神症状どうします?
はじめの処方・次の処方 こう考える・こう評価する
著 | : 谷向仁/岡本禎晃 |
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ISBN | : 978-4-524-22844-7 |
発行年月 | : 2023年5月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 240 |
在庫
定価3,520円(本体3,200円 + 税)
正誤表
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2023年10月31日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 書評
不眠,せん妄,易怒性など,一時的な精神症状への対処方法をまとめた実践書.症状ごとに,処方例やその根拠はもちろん,評価のポイントや患者への接し方,さらに最初の処方例でうまくいかない場合の変更の仕方など,実際に患者に対面した際の考え方を解説.精神症状に対する薬の使い方をまとめた,向精神薬一覧も掲載.精神科を専門としない勤務医,看護師,薬剤師におすすめの一冊.
症状からわかる 向精神薬の選び方と使い方
1 精神科薬物療法を検討する際にまず考えること
2 向精神薬の選び方の考え方とポイント
症状からみる 考え方 選び方 使い方
1 不 眠
●入眠障害
●昼夜逆転による不眠
●高齢者の早朝覚醒
●中途〜早朝覚醒
●熟眠障害
●転倒予防を考慮した高齢者の不眠
●不安による不眠
●内服困難な不眠
●不眠によりよく対応するために
2 幻 視
3 妄 想
4 不 穏
5 夜間せん妄
●夕暮れ症候群・夜間せん妄@
●夕暮れ症候群・夜間せん妄A1
●夜間せん妄によりよく対応するために
6 躁状態
7 抑うつ
8 不安・恐怖
●不安・恐怖
●閉所恐怖
●抗不安薬が効かない不安や恐怖
●不安・恐怖によりよく対応するために
9 易刺激性・易怒性
●易刺激性・易怒性
●高齢者の易怒性
●放射線治療後のがん患者の易怒性
●易怒性によりよく対応するために
10 身の置きどころのなさ
こんな使い方もある! 向精神薬
1 抗うつ薬:術後の慢性疼痛による不眠
2 抗不安薬,抗痙攣薬:吃逆
3 抗不安薬:抗がん剤による予測性悪心・嘔吐
4 抗精神病薬:抗がん剤による遅発性悪心・嘔吐
5 抗ヒスタミン薬:オピオイドによる悪心・嘔吐
主な向精神薬一覧
精神症状で迷ったら,薬物療法は(非薬物療法も)この一冊
内科入院患者が精神症状を呈することは多々ある.不眠,せん妄,抑うつ,不安など,あげればきりがないであろう.そのようなときにどんな処方をするかはこれまでの経験に基づくかもしれないし,病院の基本処方セットに含まれている薬剤をそのまま処方することもあるだろう.しかし,もし経験豊富な精神科医と向精神薬に精通した薬剤師がそばにいたらどうであろうか.おそらく,どんな薬剤を使用するのか,その薬剤を使用する理由はどうしてなのか,もし最初の薬剤の効果が不十分だった場合には次にどの薬剤を使用すればよいのか,などについて相談するであろう.今回紹介する『その精神症状どうします?』はまさしくその役割を担ってくれる良書である.
本書には読者の理解を促進するいくつもの仕掛けが散りばめられている.一つ目は,症状ごとに項目立てされている点である.非精神科医にとって精神医学的な診断に基づいて薬剤選択をすることは,そもそも難しい.このような症状のときはこう対応する,という構成になっている点が非常に実践的である.二つ目は,同じ精神症状でもさまざまなパターンが用意されている点である.たとえば不眠だけでも九つのパターンが用意されている.これは一言で不眠として片づけないでほしいという著者らのメッセージでもあるだろう.三つ目は,日常臨床で頻回に遭遇するであろう“あるある症例”が各項目の冒頭で取り上げられている点である.典型的な病状を呈する患者を最初に確認することで具体的な臨床場面をイメージできる.四つ目は初回の薬剤選択だけでなく,セカンドラインの薬剤選択についてもしっかりと記載されている点である.初回の薬物療法だけでうまくいかないことはしばしば経験する.そういったときの次の一手が紹介されているのは本当にありがたい.五つ目は病棟スタッフに共有しておきたい事項についてもまとめられている点である.薬剤を処方するのは医師であるが,実際に患者の精神症状へ対応するのは病棟スタッフが中心である.本書に記載されている内容は,精神症状に対する多職種でのアプローチにきっと有用であろう.六つ目は,各症状を有する人にどのように関わるのがよいのかについて書かれている点である.これは患者とのコミュニケーションを大切にしてきた2人の著者らしい特徴であり,精神症状を有する患者へのケアの核となる部分であろう.
最後に,本書の最大の魅力は精神症状に対する薬物療法について学べる本であると同時に,薬物療法が本当に必要な病態を見抜けるようになる本でもあるという点である.そのため,精神症状の原因検索や非薬物療法を含めた包括的なアプローチについて数多く記載されている.「精神症状への薬物療法」ではなく「その精神症状どうします?」としたタイトルは,まさしく著者らの丁寧な臨床に対する姿勢が反映されたものであろう.レジデントの先生からベテランの先生まで,多くの医師に手にとってもらいたい一冊である.
臨床雑誌内科132巻5号(2023年11月号)より転載
評者●松田能宣(国立病院機構近畿中央呼吸器センター心療内科 医長)
治療技術の発展に伴い精神症状のマネジメントの重要性はますばかりである.本書の著者で
ある谷向仁先生は精神科医,岡本禎晃先生は薬剤師として,緩和医療領域で活躍されているベ
テランのお二人である.
本書は,著者らの長いキャリアのなかで得た,一般病院で主に身体治療中の患者によくみられ
る精神症状に対する薬物療法について仮想事例を提示して,その対応について解説している.
不安や恐怖,気持ちの落ち込み,不眠,落ち着きのなさ,せん妄など,医療者が日常的によ
く遭遇しているにもかかわらず,いつも「どうしたらいいの?」と困ってしまう症状の数々.そんななか,症状からみる「考え方」「選び方」「使い方」というキーワードによって本書で明らかになっていくのが,向精神薬の薬剤選択である.
本書は,一般病院での多くの事例が紹介されており,その内容は症状マネジメントに役立つ
作用機序をふまえて,薬剤選択を検討する思考プロセスが必要であるとの考えに基づいてい
る.すなわち,いまだ病態が明らかになっていないことの多い精神疾患に伴って出現する精神
症状の症状マネジメントにおいて,向精神薬を検討する際には,まず精神科既往歴の確認や精
神症状が患者自身やに家族に及ぼす影響の評価など基本事項を確認すること,次に向精神薬の特徴や選択の考え方を確認することが重要である.このような筆者らの問題意識には,精神症
状で苦悩する患者への優しいまなざしと専門家としての鋭さがある.
長年の経験に裏打ちされた臨床家としてのリアリズムを土台にしながら,「精神症状」につら
さや苦しさを感じる患者とそれに向きあう医療者の関係が,「これまでの薬物療法でなんとかし
ようと安易になりがちな対応を変化させていく」と,表現すればいいだろうか.
本書をとおしてその考えに繰り返し触れるうちに,精神症状のマネジメントが身につく内容となっている.手元におきたい一冊である.
がん看護29巻1号(2024年1-2月号)より転載
評者●田村 恵子(大阪歯科大学医療イノベーション研究推進機構)