特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き2022改訂第4版
編集 | : 日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会 |
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ISBN | : 978-4-524-22828-7 |
発行年月 | : 2022年2月 |
判型 | : A4変 |
ページ数 | : 212 |
在庫
定価4,400円(本体4,000円 + 税)
正誤表
-
2022年03月07日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
日本呼吸器学会 びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会 により,特発性間質性肺炎(IIPs)の臨床における診断・治療の指針としてまとめた手引きの改訂版.今改訂では,本邦における特発性肺線維症(IPF)治療に関するガイドラインや国際的なIPF診断に関するガイドラインとの整合性を図るほか,新たなフェノタイプや緩和ケアに関する解説も追加し,最新情報へアップデート.IIPsの疾患概念,臨床像,検査・画像・病理所見,治療法まで網羅した,専門医はもちろん一般内科医にとっても一助となる一冊.
第T章 びまん性肺疾患と特発性間質性肺炎
第U章 診断の進め方
1 診断の考え方
2 臨床像
3 一般検査
4 特殊検査
5 間質性肺炎の病理組織総論
6 鑑別診断
7 家族性間質性肺炎
8 進行性線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)/進行性フェノタイプを示す慢性線維化性間質性肺疾患
第V章 IIPs 各疾患の概念と診断・治療
A.慢性の線維化をきたす間質性肺炎
1 特発性肺線維症(IPF)
2 特発性非特異性間質性肺炎(iNSIP)
3 急性増悪
B.急性または亜急性の間質性肺炎
1 特発性器質化肺炎(COP)
2 急性間質性肺炎(AIP)
C.喫煙関連の間質性肺炎
1 剝離性間質性肺炎(DIP)
2 呼吸細気管支炎を伴う間質性肺疾患(RB-ILD)
D.まれな間質性肺炎
1 特発性リンパ球性間質性肺炎(iLIP)
2 特発性pleuroparenchymal fibroelastosis(iPPFE)
3 まれな組織学的パターン
E.分類不能型特発性間質性肺炎
第W章 管理総論
1 治療の目標と管理
2 日常の生活管理
3 薬物療法の目標・評価法
4 合併症の対策とその管理
5 呼吸管理
6 呼吸リハビリテーション
7 肺移植
8 緩和ケア
第X章 かかりつけ医のための診療・病診連携アウトライン
付 録
付1.わが国の特発性間質性肺炎の歴史と臨床診断基準の第四次改訂
付2.厚生労働省指定難病 概要・診断基準など
付3.厚生労働省指定難病 臨床調査個人票
改訂第4 版 序
本書は日本呼吸器学会が主体となり、厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究班」と共同で作成し、2004 年に初版、2011 年に改訂第2 版、2016 年に改訂第3 版が刊行され、好評を得ている。改訂第3 版の発刊から早くも6 年の年月が流れ、この間にも国際ガイドラインの改訂や呼吸管理・呼吸リハビリテーション、緩和ケアの充実が進んでいる。なかでも特発性肺線維症(IPF)の治療の分野では劇的な変革が進んでいる。第2 版の刊行時は2008 年に抗線維化薬であるピルフェニドンが世界ではじめて日本から発売されてから3 年目を迎えていたが、その後ピルフェニドンは欧州で2011 年から使用認可され、2014 年にはASCEND試験の結果を踏まえ世界の多くの国でも使用可能となった。さらに2014 年5 月にはニンテダニブのINPULSIS 試験の結果が報告され、欧米で使用可能となった。日本でも2015 年に適応承認され、これまで有用な薬剤のなかったIPF に対して有力な2 薬剤を手に入れることとなった。まさに“抗
線維化薬の時代”に突入し、最近ではその長期使用の有効性や安全性も多く報告されるようになった。また国際ガイドラインでも、2015 年にピルフェニドンおよびニンテダニブは“Conditional recommendation for use”と評価され、使用を条件付きで推奨される薬剤となった。このような背景のもとに「びまん性肺疾患に関する調査研究班」と日本呼吸器学会びまん性肺疾患学術部会合同のガイドライン作成委員会を立ち上げ、2015 年に改訂されたATS/ERS/JRS/ALAT のIPF 国際ガイドラインならびに「特発性間質性肺炎診断と治療の手引き(改訂第3 版)」との整合性を持たせかつ日本の国情に合ったエビデンスに基づいた標準的な治療法を提示する日本初のIPF の治療に特化した「特発性肺線維症の治療ガイドライン2017」をMinds 法に準じて作成した。特に慢性期に加え、国際ガイドラインでは記載のない、予後を大きく左右する急性増悪ならびに肺癌合併症に対するクリニカルクエスチョンも設定した。また、2018 年には診断において国際ガイドラインが7 年ぶりに改訂され、新たに定義されたHRCT と病理組織パターンの組み合わせによるIPF の診断・アルゴリズムが示され、集学的検討(MDD)の重要性についても強調された。
線維化薬の時代”に突入し、最近ではその長期使用の有効性や安全性も多く報告されるようになった。また国際ガイドラインでも、2015 年にピルフェニドンおよびニンテダニブは“Conditional recommendation for use”と評価され、使用を条件付きで推奨される薬剤となった。このような背景のもとに「びまん性肺疾患に関する調査研究班」と日本呼吸器学会びまん性肺疾患学術部会合同のガイドライン作成委員会を立ち上げ、2015 年に改訂されたATS/ERS/JRS/ALAT のIPF 国際ガイドラインならびに「特発性間質性肺炎診断と治療の手引き(改訂第3 版)」との整合性を持たせかつ日本の国情に合ったエビデンスに基づいた標準的な治療法を提示する日本初のIPF の治療に特化した「特発性肺線維症の治療ガイドライン2017」をMinds 法に準じて作成した。特に慢性期に加え、国際ガイドラインでは記載のない、予後を大きく左右する急性増悪ならびに肺癌合併症に対するクリニカルクエスチョンも設定した。また、2018 年には診断において国際ガイドラインが7 年ぶりに改訂され、新たに定義されたHRCT と病理組織パターンの組み合わせによるIPF の診断・アルゴリズムが示され、集学的検討(MDD)の重要性についても強調された。
さらに、2020 年5 月には「進行性線維化を伴う間質性肺疾患」に対するニンテダニブの適応拡大が承認された。このような抗線維化薬の適応疾患の拡大および治療戦略の変化に基づき、われわれはIPF 以外の進行性肺線維化を示す間質性肺疾患患者に対して、少なくとも治療の選択肢としてこれらの抗線維化薬を提示し、説明することが必要となった。
こういった時代背景に鑑み、日々の臨床において患者さんの説明に役立てるべき解説書として役割を果たす本書の喫緊の改訂が必要となった。そこで、最近の動向ならびに国際ガイドラインの内容を盛り込んで作成されたのが第4 版である。なお、実臨床に役立つものとするために、今回もガイドラインではなく“手引き”として刊行し、「びまん性肺疾患に関する調査研究班」の多くの先生方にご協力いただき完成させることができた。この場をお借りして深謝申し上げる。また、初版以来、南江堂の大野隆之、堀内 桂、平野 萌、一條尚人の各氏に編集等多大なご協力をいただいたことに感謝申し上げる。
本書をこの難病の診療にお役立て頂ければ幸いである。
2022 年1 月
日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会 委員長 本間 栄
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究班」 代表研究者 須田隆文
「IIPs 診断と治療の手引き・IPF 治療ガイドライン部会」会長 坂東政司
間質性肺炎は,通常の細菌感染にみられる「実質」の肺炎とは異なり,「間質」を炎症や線維化の主座とした病変・疾患群である.肺における「間質」とは,酸素・二酸化炭素のガス交換の行われる肺胞という袋状構造同士の間(両面の肺胞上皮の基底膜に挟まれた領域)を指し,毛細血管網・弾性線維網・膠原線維・線維芽細胞といった構造(狭義の間質)である.気管支・肺動脈周囲の間質や小葉間隔壁,胸膜といった部分は広義の間質とよばれる.間質性肺炎の原因は多岐にわたり,じん肺や過敏性肺炎といった職業・環境性の原因が考えられるものや,ウイルス性肺炎や薬剤性肺炎,放射線性肺炎などの原因の明らかのもの,膠原病・サルコイドーシスなどの全身性疾患に付随して発症するものなどさまざまであるが,これらを鑑別・除外して原因が特定できない多様な疾患の集まりが「特発性間質性肺炎」である.間質性肺炎については,一般医家や専門外の先生方には難しい響きがあるかもしれないが,実は専門家にも簡単ではなく,診断の際には臨床医・放射線科医・病理医といった多分野による集学的検討(multidisciplinary discussion:MDD)という概念が診断精度を高めるために非常に重要視されている.そして,患者病態の臨床経過・疾患挙動に応じて診断の再評価を行うことの大切さが指摘されている.
このたび,待望の『特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き2022(改訂第4版)』が発刊された.2016年の第3版以来,約6年ぶりの改訂である.この間に特発性間質性肺炎の一つである特発性肺線維症について「治療ガイドライン2017」が作成され,2018年には特発性肺線維症の診断に関する国際ガイドラインが改訂された.また,2020年には「進行性線維化を伴う間質性肺炎(progressive fibrosing interstitial lung disease:PF—ILD)」に対する薬剤として抗線維化薬nintedanibの適応拡大が承認され,間質性肺炎の一部においては治療の選択肢が広がった.
今回の改訂第4版では,新たな病名・疾患名にアップデートされ,前版以上に見やすい図や表が随所に提示されたことで読者の理解を整理し,助けてくれる構成となっている.総論である「第U章 診断の進め方」の冒頭に「1.診断の考え方」として概略が説明され,上記のMDDや暫定診断・確信度による診断分類・作業診断について丁寧に解説されている.疾患の臨床像に加えて,検査ではCT検査や病理診断についてわかりやすく記載されており,気管支内視鏡下にクライオプローブを用いて肺組織を凍結させて採取する経気管支クライオ肺生検についても,その適応・役割について説明されている.さらに同章では,前版では各論のなかにあった「家族性間質性肺炎」について,また新たな項目である「PF-ILD」についてもその背景・概念から診断と管理の流れについて解説されている.
第V章においては疾患の各論について最新の診断基準も含めて説明されている.「第W章 管理総論」では,非がん性呼吸器疾患のなかでも予後が悪性腫瘍と同様の場合もみられる点で非常に重要な課題である「緩和ケア」の項目が新しく設けられ,わかりやすく解説されている.第X章では,かかりつけ医のための診療・病診連携アウトラインについて頁が割かれている.
本書では国際ガイドライン等と整合性を保ちつつ,治療面などでは本邦独自の内容も含み,ガイドラインではなく「手引き」というタイトルが示すように,「特発性間質性肺炎の診療における臨床現場の意思決定を支援する解説書」という見事な位置づけとなっている.執筆陣の多大なご尽力によって呼吸器診療および内科実臨床に役立つ書となっており,広く一読をお勧めしたい.
臨床雑誌内科130巻4号(2022年10月号)より転載
評者●千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学教授 鈴木拓児