書籍

Onco-cardiologyガイドライン

編集 : 日本臨床腫瘍学会/日本腫瘍循環器学会
ISBN : 978-4-524-22819-5
発行年月 : 2023年3月
判型 : B5
ページ数 : 96

在庫あり

定価1,980円(本体1,800円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

がんと循環器疾患が重なる領域を扱う新しい臨床研究分野であるOnco-cardiologyに関する本邦初のガイドライン.CQ(clinical question)について,最新のエビデンスに基づく推奨を提示しつつ,エビデンスが不足しているが,今後の重要な課題と考える内容については,現状の考え方をFRQ(future research question)として記載し,さらに基本的な知識で臨床上広く行われている内容についてもBQ(background question)と位置づけ概説した.がんと循環器疾患を合併する患者の診療の指針となる一冊.

総説
 1.本ガイドラインの概要
 2.腫瘍循環器学の概念
 3.腫瘍循環器外来の役割
 4.がん診療における循環器医との連携
 5.「がん治療後の心機能マネジメント」に関して
Question
 CQ 1 がん薬物療法中の患者の定期的な心エコー図検査で,GLS(global longitudinal strain)の計測が推奨されるか?
 BQ 2 がん薬物療法中に心血管イベントを発症した患者に対して,がん薬物療法を継続することは推奨されるか?
 CQ 3 心血管疾患の合併のあるHER2陽性乳がん患者に対してトラスツズマブおよびペルツズマブ投与は推奨されるか?
 BQ 4 血管新生阻害薬投与中の患者に対し,血圧管理が必要か?
 CQ 5-1 プロテアソーム阻害薬(カルフィルゾミブ)を投与する多発性骨髄腫患者に対して心臓評価は推奨されるか?
 FRQ 5-2 心機能低下のある多発性骨髄腫患者にはカルフィルゾミブよりもボルテゾミブ,イキサゾミブ投与が推奨されるか?
 FRQ 6-1 免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)投与中の心筋障害診断のスクリーニングは有用か?
 BQ 6-2 免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)による心筋障害発症時,その治療としてステロイド療法は有用か?
 FRQ 7-1 がん薬物療法に伴う静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)の診療にバイオマーカーは推奨されるか?
 CQ 7-2 がん薬物療法に伴い静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)を発症した患者に抗凝固療法は推奨されるか?
 BQ 8-1 がん薬物療法中に経胸壁心臓超音波検査による肺高血圧症のスクリーニングは推奨されるか?
 FRQ 8-2 がん薬物療法による肺高血圧症に早期の肺血管拡張薬は有効か?
 CQ 9-1 心毒性のあるがん薬物療法を行う患者に対して定期的な心臓評価は推奨されるか?
 BQ 9-2 がん薬物療法を行う器質的心疾患を有する心不全患者に対して定期的な心臓評価は推奨されるか?
 FRQ 9-3 がん薬物療法を行うステージB心不全患者に対して循環器専門医の併診は推奨されるか?
 FRQ 10 がん薬物療法として心毒性のある薬剤の投与時に心保護目的に心保護薬[アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB),アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,β遮断薬など,デクスラゾキサン以外]の投与は有用か?

発刊にあたって
 がん患者の循環器疾患はがん薬物療法の黎明期からしばしば診療上の問題であった.とりわけ,進行がん患者に抗がん薬を投与する際には,必ずしも全身状態が良好でないこと,高齢者が多いこと,担がん病態は心不全や血栓塞栓症の高リスクであること,蓄積心毒性が問題となるドキソルビシンが当時は数少ない抗がん薬の選択肢であったこと,などがその主な理由であった.その後,高齢化社会を迎えたわが国では,死因の第1位がん(悪性腫瘍),第2位が心疾患となり,心血管系疾患を合併するがん患者が年々増えている.また,2000年以降,進行がんを対象とするがん分子標的治療薬の開発が加速し,一部の薬剤の副作用により,心血管系合併症を有する患者が増加している.このため,進行がん治療に際して,心血管系疾患の診断と治療が以前にも増して重要になった.しかし,これまで循環器医とがん治療医の診療上の連携は十分に行われてこなかったため,診療上の問題は腫瘍学と循環器学の双方の領域でクローズアップされるようになった.このような背景からCardio‑oncologyまたはOnco‑cardiologyが内外で注目され,本邦では2017年10月に日本腫瘍循環器学会が設立されるにいたった.腫瘍循環器学は,がん治療を最適化するために循環器医とがん治療医が協働で取り組む新しい領域の学問である.  腫瘍循環器領域には診療上の課題は少なくないが,これまで本邦では診療ガイドラインが作成されなかった.一方,欧米では2016年以降,European Society of Cardiology(ESC),EuropeanSociety for Medical Oncology(ESMO)やAmerican Society of Clinical Oncology(ASCO)がposition paper,consensus recommendationやpractice guidelineを発表し本邦より先行した積極的な取り組みが行われている.そこで,本邦では日本臨床腫瘍学会と日本腫瘍循環器学会が協働で腫瘍循環器学ガイドラインの作成に着手した.今年,2022 ESC Guidelines on cardiooncologyの発表後,国内では本ガイドラインの発刊が切望されていたが,このたび,日本初の発刊にいたった. 本ガイドラインは,日常診療で以前からがん治療医が最も必要としていた心不全や血栓塞栓症に関する診療上の課題を16個のQuestionとして選定し,『Minds診療ガイドライン作成マ ニュアル2020 ver.3.0』に準拠して作成された.今後,改訂を重ねて不整脈を含め幅広く腫瘍循環器学をカバーするガイドラインを目指す予定である.また,本ガイドラインの刊行により,腫瘍循環器領域の診療上の課題に応えるだけのエビデンスが不十分であることがより明確になった.今後,エビデンスの構築を循環器医とがん治療医が協働で進める必要があろう. 最後に,本ガイドライン作成ワーキンググループの矢野真吾ワーキンググループ長をはじめとする多くの委員の御尽力と,日本癌治療学会,日本循環器学会および日本心エコー図学会の ご協力に深謝する.本ガイドラインが多くの医療従事者に活用され,がん患者の治療成績の向上に寄与することを期待する.
2023年3 月
公益社団法人 日本臨床腫瘍学会 理事長
石岡 千加史

発刊にあたって
 近年循環器疾患を発症するがん患者が急増したことにより学際領域である腫瘍循環器学が世界中で注目されている.その理由はとりもなおさずがんの治療が進歩し,がん患者の予後がよくなったことによる.がん研究振興財団の『がんの統計2022』によると,がん患者全体の5年相対生存率は68.9%,10年相対生存率は58.9%であり,大部分のがん種で相対生存率が上昇傾向にある.多くの循環器疾患は加齢によって発症率が上昇するので,がん患者の寿命が延びれば当然循環器疾患を発症しやすくなる.また,がんと循環器疾患には加齢以外に喫煙や肥満,糖尿病など共通のリスクが存在するので,両方の疾患を発症しても不思議ではない.しかし,最も重要なことは,がん自体がリスクとなり脳梗塞や肺血栓塞栓症などを発症することと,がん治療によって循環器疾患が招来されることである.最近では毎年多くの新しい抗がん薬が登場しているが,新しい薬といえどもほとんどすべての抗がん薬に心血管毒性が認められる.その結果,抗がん薬の治療中に高率に高血圧や不整脈,虚血性心疾患,心不全,肺高血圧などになりうる.時には抗がん薬による治療後10年以上も経ってから重症な心不全を発症することもあり,また小児期にがんの治療を受けた人では同胞の10〜15倍虚血性心疾患や心不全を発症しやすくなる.乳がん患者において,発症後9年までは乳がんが死因のトップであるが,それ以降は循環器疾患が乳がんを上回るという報告もある.このような腫瘍循環器の問題は世界共通であるが,世界一の高齢社会となった日本ではとりわけ重要である.そこで2017年,循環器医と腫瘍医が連携して日本腫瘍循環器学会が設立された.日本腫瘍循環器学会では,腫瘍循環器学の啓発・普及・教育,診療体制の整備,疫学研究・臨床研究の推進,病態解明のための基礎研究の推進,産官学連携の推進など様々な取り組みを行っているが,そのなかでも重要な取り組みのひとつが診療指針としてのガイドラインの策定である.今回,日本臨床腫瘍学会,日本腫瘍循環器学会,日本癌治療学会,日本循環器学会,日本心エコー図学会が協力してガイドライン作成の計画を立て,日本臨床腫瘍学会,日本腫瘍循環器学会の共同編集として『Onco‑cardiologyガイドライン』が発刊された.循環器医と腫瘍医とが重要と考える課題を取り上げ,双方の見地から実臨床に役立つことを第一に考え,『Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0』に沿って作成した.腫瘍循環器に関しては世界的にもまだエビデンスといえるものが少ないなか,循環器と腫瘍の専門家が英知を結集して作成した本ガイドラインは,現時点における最良の腫瘍循環器の診療ガイドである.ガイドラインを作成していただいた先生方に心より感謝申し上げるとともに,本ガイドラインが腫瘍循環器の診療に役立ち,循環器疾患を発症することなくがんの治療が十分行われることを心より祈念する.
2023年3月
一般社団法人 日本腫瘍循環器学会 理事長
小室 一成

発刊によせて
 本邦において悪性新生物は長く死亡原因の1位を占め,いまだ国民保健にとっての大きな課題です.その対策に多くの努力が払われた結果,診断技術と,手術,放射線治療,薬物療法などの様々な治療モダリティの進歩がもたらされ,がん患者の治療成績は向上しました.特に薬物療法ではこの20年間に,殺細胞性抗がん薬に加え,分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬,CAR‑T療法などの細胞療法が登場し,切除不能進行・再発がんであっても,長期の生存が可能となってきました.一方で,高齢のがん患者,あるいは様々な合併症を有するがん患者に遭遇する機会が増すとともに,新規治療に伴う新たな副作用,特に心血管疾患の発症が大きな問題点として注目されてきています.
 がん治療において心血管疾患の合併は,がんに対する必要な治療実施の妨げになる可能性があり,心血管疾患が予後を決める事態も起こりえます.さらにはがんを克服したサバイバーの生活の質の低下をもたらす例もみられます.それゆえに,心血管疾患の発症を予防し,また早期に適切に診断治療していくことが求められています.そこには腫瘍医と循環器医の専門的な協力が必須です.この両者が協働で取り組む新たな学問領域として腫瘍循環器学が生まれ,2016年に欧州心臓病学会が腫瘍循環器領域に関する声明を,2017年には米国臨床腫瘍学会が診療ガイドラインを発表するなど,世界的にもその重要性が注目されていました.日本臨床腫瘍学会においても,2018年に本邦の実臨床に利用できる腫瘍循環器領域のガイドラインの作成に着手し,2019年に日本腫瘍循環器学会と合同で作成することが決定し,同時に日本癌治療学会,日本循環器学会,日本心エコー図学会の協力も仰いだ力強い布陣で作成が進められました.  腫瘍循環器学という領域は,それぞれ独自の診断,治療法に基づく診療体系を有する循環器内科学と腫瘍内科学の両分野にかかわることから,これまで診療における共通のコンセンサスを得ることには困難がありました.臨床試験においても,当該分野以外の疾患を合併する症例は除外されるためエビデンスが限られるという問題があります.また治療を行う臨床指標として,がん治療継続を目指す腫瘍医は症候性心不全を重視する一方,循環器医は心不全の悪化を避けるために無症候性心機能低下やリスク因子により注意を払ってきたという違いもありました.そのなかで作成ワーキンググループでは,がん治療完遂,サバイバーの予後向上という目標を共有し,用語を統一するなどの基盤となる作業が行われ,その結果,がん薬物療法前の心機能評価の重要性,薬物療法中の心血管イベントを生じた患者に対するがん薬物療法実施の基本的な考え方をはじめとして,日常臨床で遭遇するがん薬物療法に伴う心血管疾患への具体的なアプローチの方法がClinical Question(CQ)に対する推奨として明確にまとめられました.学際領域の診療ガイドラインを作成するために献身的な努力をいただきました矢野真吾作成ワーキンググループ長をはじめ,各学会から参加くださったすべての委員,協力委員,作成支援の皆様に心より感謝申し上げます.本ガイドラインががんと心血管疾患の臨床現場でなくてはならない指針となることを信じております.
2023年3月
公益社団法人 日本臨床腫瘍学会 ガイドライン委員長
馬場 英司

発刊によせて
 腫瘍医にとって,腫瘍循環器学との付き合いは長い.ダウノルビシンは1970年8月に,ドキソルビシンは1975年3月に承認販売されたアントラサイクリン系薬剤である.現在でも非ホジキンリンパ腫のCHOP療法,急性骨髄性白血病の寛解導入療法,乳がんのAC療法など多くのがん薬物療法で用いられている.高い抗腫瘍効果を示し,特に血液疾患では治癒をもたらす可能性がある.一方,骨髄抑制,消化器毒性,心毒性などの副作用をきたすことが知られている.アントラサイクリン系薬剤は酸化ストレスなどにより直接心筋障害を惹起するため心毒性は非可逆性になることが多く,発現すると患者のQOLは著しく低下する.また,アントラサイクリン系薬剤の継続が困難になるため,原疾患の予後にも影響を及ぼす.腫瘍医は抗がん薬の累積投与量を遵守し,がん治療前から心血管合併症のリスクを管理し,がん治療中はがん治療関連心機能障害のモニタリングを行い,心毒性の早期診断・治療に努めている.一方,可逆性の心毒性をきたす抗HER2薬やカルフィルゾミブ,劇症型心筋炎を発症する免疫チェックポイント阻害薬,不整脈または肺高血圧を誘発する分子標的治療薬などが使用されるようになり,薬剤に応じた多様な対応が必要になってきた.  本邦では2017年10月に日本腫瘍循環器学会が設立された.その後,日本臨床腫瘍学会と日本腫瘍循環器学会が腫瘍循環器領域のガイドラインの作成を計画し,2019年に本ガイドラインの作成委員会が組織された.ガイドライン作成委員は13人の作成委員,15人の作成協力委員,3人の評価委員で構成される.2019年7月に第1回作成委員会を開催し,本ガイドラインはMindsの診療ガイドラインの作成プロセスに準拠して作成することを決定した.作成委員会は重要臨床課題10項目を選定し,構成要素(PICO)を抽出し,16のQuestionを設定した.システマティックレビューにてエビデンスの評価ができるClinical Question(CQ)は5つにとどまることが明らかになり,他のQuestionはFuture Research Question(FRQ)またはBackground Question(BQ)とし,CQと区別してステートメントと解説文を記載した.このように,腫瘍循環器学はエビデンスが少ない領域である.しかし,逆に考えると研究課題が豊富な学問でもある.本ガイドラインはエビデンスを提示するだけではなく,本邦の実臨床に沿った内容を解説するように心がけた.『Onco‑cardiologyガイドライン』初版が,腫瘍医および循環器医で広く用いられ,がん患者の予後とQOLの改善の助けになることを期待する.
2023年3月
一般社団法人 日本腫瘍循環器学会 ガイドライン作成委員長
矢野 真吾

腫瘍循環器診療に役立つ待望のガイドラインがついに発刊!

 このたび,腫瘍循環器の診断・治療の指針となる待望の『Onco-cardiologyガイドライン』が発刊された.
 わが国において,悪性新生物は長く死亡原因の1位を占め,国民の健康にとって大きな課題となっている.近年,ゲノム医療や分子標的治療薬の開発など,がんに対する診断・治療は目覚ましい進歩を遂げ,がん患者の予後はきわめて向上している.
 一方で,がんの治療中や治療後に循環器疾患を発症して治療の継続が困難となったり,がんは治癒しても循環器疾患によってQOLが低下する,あるいは寿命が短くなるケースが増加している.このような背景で,腫瘍循環器学(Onco-cardiology)という新しい学術領域の必要性が叫ばれ,腫瘍医と循環器医が連携して,2017年に日本腫瘍循環器学会が設立された.その後,多くの施設で腫瘍循環器外来が開設されるなど,診療体制が充実し,多職種連携が進んでいる.
 腫瘍循環器学は新しい学術領域であるため,エビデンスが乏しい分野であり,臨床現場での診療の指針となるガイドラインの作成が喫緊の課題となるなか,2022年8月に欧州心臓病学会(ESC)から世界初の腫瘍循環器のガイドラインが発行されて注目を浴びた.さらに,日本におけるガイドラインの発表が待望されるなか,日本臨床腫瘍学会と日本腫瘍循環器学会が共同編集の形で関連学会と計画し,2023年3月にわが国で初めての腫瘍循環器のガイドラインとして発刊されたのが本書である.
 本ガイドラインは,日常診療においてがん治療医が最も必要としていた心不全,血栓塞栓症,肺高血圧症,不整脈や虚血性心疾患など,がん薬物療法中のマネジメントに関する診療上の重要課題を10項目取り上げ,16個のQuestionを選定し,「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0」に準拠して作成されたもので,大きな注目を浴びている.エビデンスの評価ができるClinical Questionは五つであったが,臨床現場での課題や疑問について非常にわかりやすく解説されている.がん薬物療法や腫瘍循環器に携わる医師はもちろんのこと,看護師,薬剤師なども含め,多くの医療従事者にとって参考になるものである.
 本ガイドラインが腫瘍循環器の診療に当たる医療従事者に役立ち,それによってがん患者の予後が改善して,がん患者とその家族の幸福に貢献するものと期待する.

臨床雑誌内科132巻4号(2023年10月号)より転載
評者●平田健一(神戸大学大学院医学研究科循環器内科学 教授)

9784524228195