書籍

アプローチと実践がわかる 高齢者の乳がん診療

編集 : 澤木正孝/佐治重衡
ISBN : 978-4-524-22807-2
発行年月 : 2021年2月
判型 : B5
ページ数 : 168

在庫あり

定価6,600円(本体6,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

増加の一途を辿る“高齢者の乳がん”。その診療において、知っておきたい基本知識から高齢乳がん患者の診断・評価の考え方、治療戦略の立て方、治療・ケアの実際までをまとめた医療現場で真に役立つ実際書。生理機能や認知機能が低下している場合、全身状態が不良の場合、同時重複がん患者の場合、社会的・経済的支援が必要な場合といった、患者の状態に応じた診療の考え方(アプローチ)と実践法が学べる充実の内容。実際に悩ましかった症例や示唆に富む症例を取り上げたケーススタディーも収載。

Introduction老年医学からみた高齢者の特徴と注意点
I 押さえておきたい高齢者乳がんの基本知識
 1.高齢者乳がんの疫学・予後
 2.高齢者乳がんの病態
 3.高齢者乳がんの病理学的特徴
II 治療に活かす診断・評価アプローチ
 1.高齢者乳がんの診断フロー
 2.高齢患者の評価ツールと評価のポイント
 3.高齢がん患者の治療適応:fit,vulnerable,frailの考え方
III 高齢者乳がんの治療・管理総論
 1.高齢者乳がんの治療フロー
  a.初期治療の場合
  b.転移・再発治療の場合
 2.各種治療の適応・概要
  a.手術
  b.薬物療法
  c.放射線療法
  d.緩和ケア
 3.治療の意思決定支援
  a.医師の立場から
  b.看護師の立場から
 4.社会的な支援の考え方(介護保険・社会的資源の活用)
IV 高齢乳がん患者をどう治療する?-状態に応じた基本的な治療戦略と実践
 1.無治療・経過観察はありか?
 2.全身状態不良な患者の場合
 3.同時重複がん患者の場合
 4.心疾患のある患者の場合
 5.腎疾患のある患者の場合
 6.認知機能低下のある患者の場合
 7.経済的に困窮した患者の場合
V ケーススタディー
 1.90歳台の高齢乳がん患者(生命予後の限られていることが予想される場合)
 2.トリプルネガティブの高齢乳がん患者
 3.高齢局所進行乳がん患者
 4.高齢進行/再発乳がん患者(進行の緩徐なタイプ)
 5.高齢進行/再発乳がん患者(比較的進行の早いタイプ)
 6.高齢乳がん患者(社会的・経済的支援を要したケース)
索引

序文

 乳腺外来を行っていると若い方、子連れの方が多いものですが、実はがん専門施設に通院してくる方の多くは高齢者です。病院の総合受付を眺めていると高齢者専門病院かと、ふと思うときもあります。高齢者ががん患者さんの大多数を占めるのであれば、特別な本を出版することはあまり必要ないのですが、特に乳がんの領域では標準治療の開発にあたって臨床試験や治験では高齢者を対象とするものが少ないため、その治療は日常診療において戸惑うことが多いと思われます。さらに高齢者では生理学的機能の低下があり、その個人差のばらつきも大きいため、個別対応が必要となります。一方、対応方法を決める指針や標準治療が遂行できる高齢者の見極め方も確立していません。このような中、解決の緒となるよう日本乳癌学会では第24回班研究として「高齢者乳がんの特徴と治療のあり方、支援に向けた研究」を2018年から開始しました。高齢者におけるがん治療にあたっては、がんの生物学的特性の把握に加え、個々の身体機能評価、治療支援体制、福祉、経済などの社会背景を含めた包括的・多角的な評価と対策が必要です。
 本書では、高齢者の乳がん診療に必要な基本知識、患者さんの診断・評価アプローチから治療戦略の立て方、管理方法、治療・ケアの実践まで幅広く、臨床現場の最前線で治療にあたっている医師・看護師・薬剤師にご協力いただきました。とくに、治療戦略や実践に関しては、高齢乳がん患者の状態に応じた内容としてまとめていること、また、現場で悩ましかった症例や示唆に富む症例などをケーススタディーとして取り上げていることから、すぐに実践に活かせる1冊として意識し、編集いたしました。医師、薬剤師、看護師、すべてのメディカルスタッフの皆さんを通じて、多くの患者さんのお役に立てていただけたらと祈念しています。

2021年1月
澤木正孝
佐治重衡

 がん診療に携わるすべての医療スタッフ待望の良書が発刊された.タイトルは,『アプローチと実践がわかる 高齢者の乳がん診療』である.『国盗り物語』(司馬遼太郎・著)には「病人なら投薬すればなおる.しかし老人を死からまもることはできぬ」といった一節がある.本書のアドバンスケアプランニングの項にも解説があるように,高齢者は人生の最終段階に近いと言えなくもない.現代の医療は,“病を抱える高齢者”にあらゆる治療法を提案可能であり,治療方針決定の判断に悩む状況も少なからず生じてくる.タイトルにあるように,とくに「アプローチと実践がわかる」というところが本書の特徴で,高齢者の多様性に配慮してあらゆる支援を意識するといった趣旨が貫かれている.
 診療現場でよく遭遇する全身状態不良の患者さんに治療すべきか? 同時重複がん患者さんはどう治療する? 認知機能が低下している患者さんや社会的/経済的支援が必要な患者さんはいったいどうすればよい? などといった場面についてもケーススタディーとして取り上げられていて,その考え方と実践法を理解しやすいように構成されている.
 本書の編集は高齢者診療についても造詣の深い乳がん専門家が担当されており,introductionとして老年腫瘍学の専門家の解説から始まっている.日本乳癌学会では班研究として「高齢者乳がんの特徴と治療のあり方,支援に向けた研究」が2018年から開始され,本書はそのような流れを汲んで,「押さえておきたい高齢者乳がんの基本知識」「治療に活かす診断・評価アプローチ」「高齢者乳がんの治療・管理総論」「高齢乳がん患者をどう治療する?―状態に応じた基本的な治療戦略と実践」「ケーススタディー」の5章から構成されている.さらに,1ページ単位のコラムとkeyとなるエビデンスも適宜盛り込まれ,アクセントとなっており非常に読みやすい.
 医学的評価法や治療法ごとの解説に加えて,意思決定支援や生活支援の重要性にも配慮がなされている.さらに,高齢者の特徴を踏まえた治療の考え方と実践法がわかるという点では,乳がん診療を担当されている医療スタッフはもちろんであるが,必ずしも乳がんを担当されていない多くの医療スタッフにもぜひ一読していただきたい内容となっている.診療を担当する施設によっては,高齢患者の多様性に配慮した診療体制がすでに構築されているところもあるだろう.しかしながら,多くの施設では試行錯誤を重ねながら診療や意思決定支援等を工夫しているのが現状ではないかと推察する.本書を参照いただくことで各施設の状況に応じて,今後の工夫につなげていただけるものと確信する.
 全世代型社会保障改革のもと,後期高齢者の窓口負担見直し(2割負担)を盛り込んだ医療法の改正案が先ごろ成立した.持続可能な社会に向けて準備も進んでいる.一方,現場の医療スタッフはいかなる場合でも最善の医療を提案,展開していくうえで,本書の「考え方と実践法」をぜひとも参照いただくよう,本書を推薦したい.本書の作成に関わったすべての関係者に感謝と敬意を表するとともに,本領域の発展を祈るものである.

臨床雑誌内科128巻4号(2021年10月号)より転載
評者●杏林大学医学部腫瘍内科 臨床教授 長島文夫

9784524228072