書籍

心疾患と妊娠・出産ベストプラクティス

エキスパートが答える現場のコツと工夫

編集 : 赤木禎治/伊藤浩
ISBN : 978-4-524-22806-5
発行年月 : 2021年6月
判型 : B5
ページ数 : 220

在庫あり

定価7,920円(本体7,200円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

日本循環器学会/日本産科婦人科学会合同「心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関するガイドライン(2018年改訂版)」の作成メンバーを中心とした執筆陣により,苦慮する点,実際の管理・治療方法,コツや工夫など,ガイドラインでは触れられていない,より実臨床に沿ったレベルまでわかりやすく解説.参考になる症例も提示し,心疾患患者の妊娠・出産の管理と治療に自信が持てる1冊.

第1章 妊娠と出産は循環系にどのような影響を与えるのか
1 妊娠・分娩の循環生理を理解する
 妊娠経過に伴う循環動態の変化
  a 妊娠中の循環動態
  b 分娩中の循環動態
  c 分娩後の循環動態
 妊娠・出産に伴う血液学的変化
  a 赤血球
  b 白血球
  c 血小板
 妊娠・出産に伴う呼吸機能の変化
 妊娠・出産に伴う血管壁の変化
 私からの一言
2 心疾患患者の妊娠リスク評価 赤木禎治
 どのように妊娠・出産のリスク評価を行うか?
 主要な先天性心疾患における妊娠・出産リスク
  a 比較的単純な左右短絡疾患(心房中隔欠損・心室中隔欠損・動脈管開存)
  b Fallot 四徴症術後
  c 肺高血圧症合併妊娠
  d チアノーゼの残存する心疾患
  e 人工弁置換術後の妊娠・出産
 分娩時の管理
 患者教育と診療体制の整備12
3 遺伝カウンセリングと社会心理学的ケアの実際
 遺伝カウンセリング
  a 先天性心疾患の成因
  b 各疾患群にみられる染色体異常・遺伝子異常とカウンセリング
 心理社会的問題
4 妊娠が心疾患に与える長期的影響を考える
 妊娠が長期予後に与える影響
  a 先天性心疾患
 当院での症例
  a Fallot 四徴症
  b ウイルス性心筋炎
5 妊娠中の血行動態評価と方針決定の基準
 血行動態評価はいつ行うか?
  a 心不全
  b 不整脈
  c 大動脈解離
  d 血栓塞栓症
  e 肺高血圧症による母体死亡
 妊娠中の各種検査
  a 心エコー検査
  b 放射線検査(胸部X 線検査,心臓カテーテル検査,CT 検査)
  c MRI 検査
  d ナトリウム利尿ペプチド
 方針決定の基準
6 胎児発育評価と出生前診断
 胎児発育と胎児発育不全の評価
  a 胎児発育評価
  b 胎児発育不全の評価
 出生前診断
  a 非確定的検査
  b 確定的検査
7 心疾患患者に適した避妊法
 避妊法
  a バリヤー法
  b ホルモン剤による避妊
  c 不妊手術
 人工妊娠中絶術
  a 取り巻く問題
  b リスクの高い心疾患の中期中絶はどのように行うべきか?
 参考となるcase
 心疾患患者への生殖医療
 生殖医療の現状
 心疾患女性の不妊検査・治療の流れ
 生殖補助医療(ART)
  a 概要
  b 心疾患女性におけるリスク
 参考となるcase
 養子縁組
 結論
 
第2章 妊娠・出産を支える
1 妊娠中の心不全治療
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
  a 妊娠初期
  b 妊娠経過中
  c 出産時
 治療戦略の立て方
 治療の実践
 現場のコツと工夫
 参考となるcase
2 妊娠中の不整脈治療
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
  a 妊娠・出産の影響
  b 不整脈出現頻度の変化
  c 治療のリスク
 治療・管理戦略の立て方
 治療・管理の実践
  a 上室期外収縮,心室期外収縮
  b 上室頻拍
  c 心房頻拍・心房内リエントリー性頻拍・心房粗動・心房細動
  d 特発性心室頻拍
  e 器質的心疾患に伴う心室頻拍
  f QT 延長症候群
  g Brugada 症候群
  h 不整脈源性右室心筋症
  i カテコラミン誘発性多形性心室頻拍
  j 洞結節機能不全
  k 房室ブロック
 現場のコツと工夫
  a 薬物治療
  b 非薬物治療
 参考となるcase
3 妊娠中の高血圧管理
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
  a 妊娠の生理的循環動態変化と平均血圧推移
  b 白衣・仮面高血圧の鑑別
  c 妊娠高血圧症候群の定義・分類の変更
 管理戦略の立て方
  a 妊娠中の降圧目標
  b 分娩中〜産後の降圧目標
 管理の実践
  a 薬剤の変更の必要性
  b 具体的な管理方法
 現場のコツと工夫
 参考となるcase
4 妊娠中の抗凝固療法
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
 治療戦略(管理戦略)の立て方
  a 抗凝固薬ごとの妊娠中の注意点
  b 機械弁置換術後
  c 下肢静脈血栓症
  d 成人先天性心疾患の術後(とくにFontan手術後)
 治療の実践
  a 機械弁置換術後
  b 下肢静脈血栓症
 現場のコツと工夫
 参考となるcase
5 感染性心内膜炎の予防と治療
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
  治療戦略の立て方
  a 感染性心内膜炎の診断
 治療戦略の実践
  a 妊産婦における感染性心内膜炎の内科的治療
  b 妊産婦における感染性心内膜炎の外科的治療
  c 妊産婦における感染性心内膜炎の予防
 現場のコツと工夫
 参考となるcase
6 妊娠中の手術・カテーテル治療
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
  a 妊娠・出産における循環動態
  b カテーテル治療と心臓血管外科手術のリスク
 治療戦略の立て方
 治療の実際
  a 僧帽弁狭窄症
  b 大動脈弁狭窄症
  c 肺動脈弁狭窄症
  d シャント性心疾患
  e 感染性心内膜炎
  f Marfan 症候群
 現場のコツと工夫
  a カテーテル治療や心臓血管外科手術の時期
  b 心臓血管外科手術中の管理
 参考となるcase
7 分娩のタイミング
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
 治療戦略の立て方
  a 妊娠継続の可否の確認
  b 分娩のタイミングの判断にかかわる疾患の特徴
  c 分娩方法の選択
 治療の実践
  a モニタリング
  b 分娩時の異常出血
  c 薬物療法
 現場のコツと工夫
 参考となるcase
8 分娩時の麻酔管理
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
  a 妊娠中の血行動態変化
  b 分娩中の血行動態変化
  c 心疾患妊婦では
 管理戦略の立て方
  a 麻酔方法の選択
 管理の実際
  a 経腟分娩
  b 帝王切開術
 参考となるcase
9 分娩後の管理〜授乳は可能か?〜
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
  a 産褥期の循環生理的変化
  b 心疾患合併妊娠と授乳
  c 入院中の産褥期のモニタリングと育児ケア
  d 退院に向けてのケア
  e 授乳中に注意を要する病態
 現場のコツと工夫
 参考となるcase
10 妊娠中・授乳期の薬物療法〜知っておくべき可と不可〜
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
  a「 安全な薬」とは何か?
  b どの情報をもとに薬剤選択をすればよいのか?
 現場のコツと工夫
  a 抗凝固薬
  b 降圧薬
  c 利尿薬
  d 抗不整脈薬
  e 肺高血圧症治療薬
11 望ましい施設基準〜心疾患の重症度と管理施設〜
 ガイドラインのエッセンス
 心疾患合併妊娠を管理する望ましい施設基準
  a わが国での心疾患合併妊婦の分娩状況
  b 心疾患合併妊娠の分娩施設
  c 成人先天性心疾患(ACHD)合併妊娠217妊娠での母体合併症に関する検討
  d 心疾患と妊産婦死亡
  e 望まれる心疾患妊婦の管理施設
 現場のコツと工夫
 
第3章 妊娠・出産管理の要点:心疾患別
1 先天性心疾患
A 左右心疾患(未手術・術後例を含む),狭窄性心疾患
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
 妊娠・出産管理の実践
  a 左右短絡疾患
  b 狭窄性疾患
 現場のコツと工夫
 参考となるcase
B チアノーゼ性心疾患
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
 妊娠・出産管理の実践
  a チアノーゼ性心疾患(修復術後)
  b チアノーゼ性心疾患(未修復例)
 現場のコツと工夫
 参考となるcase
C Fontan 術後
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
 妊娠・出産管理の実践
  a Preconception カウンセリングの重要性
  b 妊娠中の管理
  c 出産時の管理
  d 出産後の管理
 現場のコツと工夫
 参考となるcase
2 肺高血圧症合併妊娠の管理
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
 妊娠・出産の実践
  a 特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)
  b 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
  c シャント性PAH(CHD-PAH)
 現場のコツと工夫
 参考となるcase
3 弁膜症
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
 妊娠・出産管理の実践
  a 狭窄性弁膜疾患
  b 逆流性弁膜疾患
 現場のコツと工夫
 参考となるcase
4 大動脈疾患
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
 妊娠・出産管理の実践
  a 遺伝性大動脈疾患(HTAD)
  b Turner 症候群
  c 先天性心疾患に合併する大動脈拡張性疾患
 現場のコツと工夫
  a Marfan 症候群を見逃さないために
  b 大動脈拡張性疾患合併妊娠例の入院管理
  c 大動脈疾患の画像評価
 参考となるcase
5 心筋症と妊娠・出産(周産期心筋症を含む)
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
 妊娠・出産管理の実践
  a 肥大型心筋症
  b 拡張型心筋症
  c 周産期心筋症
 現場のコツと工夫
  a 周産期心筋症における抗プロラクチン療法
 参考となるcase
  a 周産期心筋症
6 虚血性心疾患(川崎病を含む)
 ガイドラインのエッセンス
 何が問題となるか?
 妊娠・出産管理の実践
  a 妊娠中の急性冠症候群
  b 冠動脈疾患合併妊娠
  c 川崎病心臓血管後遺症を有する症例の妊娠・出産
  d BWG 症候群の妊娠・出産
  e Jatene 手術後の妊娠・出産
 現場のコツと工夫
 参考となるcase

巻頭言

 医療技術の発達によって、心疾患の予後は著明に改善した。これまで先天性心疾患のために、子どもの時期に命を失っていた人々が、健康な状態で成人期に達するようになってきている。このような成人先天性心疾患患者は既に国内には50 万人をこえている。このなかには比較的軽症の心疾患で、妊娠・出産に対するリスクも一般の人とほとんど変わらない患者から、肺高血圧症やチアノーゼ型心疾患を伴って妊娠・出産のリスクの高い患者まで存在する。わが国では、心疾患女性の妊娠が総妊娠数の0。5〜1%に相当し、不整脈などを含めれば、その割合は2〜3%程度までにおよぶといわれている。
 このような背景のなかで日本循環器学会/日本産科婦人科学会合同ガイドラインとして「心疾患患者の妊娠・出産の適応、管理に関するガイドライン(2018 年改訂版)」が作成された。本ガイドラインでは、臨床の場で直面する様々な心疾患患者の妊娠・出産の問題点に対応できるよう、また新しく登場した医療技術や医薬品についても取り上げ、多くの情報を提供している。しかしながら、実際の外来で直面する患者の病態は非常に幅広く、社会的な背景も様々である。
 心疾患を有する妊娠可能な女性は今後も年々増加し、単に人数だけではなく、心疾患の重症度も上がってくるだろう。これまでは「妊娠・出産は危険・困難」と判断していた複雑心疾患やFontan 術後の患者の妊娠・出産は、もはや避けては通れない日常診療レベルの問題になっている。不妊症のため最新の生殖医療に望みを託す患者も確実に増加している。妊娠・出産の領域では、心疾患の管理のみに留まらず、遺伝カウンセリング、出産後の生活管理、次回妊娠の可能性、育児、避妊法など、幅広い領域について理解しておく必要がある。
 本書は、上述のガイドラインをご執筆いただいた先生方を中心に、ガイドラインからさらに現場レベルに一歩踏み込んだ内容を記載し、実臨床の場で役立つ書籍にした。エビデンスは乏しいものの臨床医に知っておいて欲しい内容については「現場のコツと工夫」として、各執筆者のご意見を述べていただいた。「ガイドラインと実臨床の違い」や、「海外エビデンスと国内臨床の違い」などのポイントもご提言いただいた。心疾患患者の妊娠・出産に対し的確な知識と経験のある専門医によるカウンセリングは、患者の不要な不安を解消させ、妊娠・出産に起因する危険性を減少させることができる。とくにハイリスク患者においては、専門施設における循環器内科医、小児循環器医、産科医、麻酔科医などによる統合的診療と管理によって、母体と胎児のリスクを低下させることができる。心疾患をかかえて成人に達した患者とそのご家族が笑顔で新しい命と向かい合える日を期待して、本書をお役立ていただければ幸いである。

2021 年6 月
岡山大学循環器内科 赤木 禎治
岡山大学循環器内科 伊藤  浩

 医療の発達の恩恵を受け,複雑先天性心疾患を含む多くの心疾患が,妊娠・出産年齢を迎え,出産を経験した心疾患女性も多くみられるようになっている.心疾患患者は,一般と異なり妊娠・出産の際に母体合併症を認め,妊娠中の治療を必要とすることも少なくない.流産や低出生体重児などの胎児合併症の頻度も高い.心疾患患者は,妊娠・出産が可能か,妊娠・出産の合併症や注意点は何か,どのように合併症を予防するか,治療をどのようにするか,普通分娩で産めるのか,子どもに遺伝しないか,育児は大丈夫か,など多くの不安を抱えている.今回,南江堂から上梓された赤木禎二先生,伊藤浩先生の編集したテキスト『心疾患と妊娠・出産ベストプラクティス』は,本邦の現状に即したまさに時宜を得た出版である.本書は,日本循環器学会・日本産婦人科学会合同ガイドライン「心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関するガイドライン(2018年改訂版)」作成班の産婦人科医や日本成人先天性心疾患学会専門医を中心に書かれている.ガイドラインに沿った内容ではあるが,よりコンパクトで実臨床に直接役立つ内容が詰まっている.
 本書は,全体を3章に分け,第1章,第2章では総論的に妊娠・出産の循環器系に与える影響,次いで,心疾患の妊娠・出産時にみられることの多い母体合併症と分娩時の管理について述べている.第1章は,妊娠・出産時の循環生理,妊娠リスク評価,遺伝,さらに胎児発育評価法だけではなく,心疾患患者に適した避妊法などにも触れている.また,妊娠・出産方針の決定のための血行動態評価と検査法についても十分な頁を割いている.さらに,妊娠・出産の長期的影響にも触れており斬新な内容となっている.第2章と第3章は,ガイドラインのエッセンスを最初に記載し,ガイドラインとの整合性を図っている.また,現場のコツと工夫,症例の提示という項目を加え,心疾患の妊娠・出産に慣れていない医療関係者が,より実践的に理解しやすいように工夫されている.第2章は,心疾患患者の妊娠・ 出産で多くみられる合併症である心不全,不整脈,血栓・塞栓に関して詳述しており,管理の難しい高血圧に関しても的確な対応法を記載している.分娩時麻酔管理だけでなく,薬剤管理,そして出産後重要な問題である育児,授乳にも触れている.また,産科医,助産師を中心に多職種管理を必要とする心疾患の妊娠・出産管理体制についても述べられている.各論に相当する第3章では,先天性心疾患,後天性心疾患を中心に疾患別の妊娠・出産管理の要点を述べている.先天性心疾患を広く扱っているが,妊娠・出産経験が増え管理の難しいFontan術後を大きく取り上げている.また,近年多くの知見がみられる周産期心筋症や妊娠経験が増加している川崎病後冠動脈瘤を含み,急性冠動脈疾患にもスポットを当てている.
 全体的に,カウンセリング,妊娠リスク因子とモニタリング,合併症の予防治療に重きを置いている.一方で,妊娠・出産の頻度の高い先天性心疾患や,妊娠・出産ハイリスク疾患を中心とし,注意点などを詳しく解説し,実際的な内容になっている.編者,著者の方々のご尽力により,実臨床に即した,実践的なテキストに仕上がっている.心疾患の妊娠・出産の管理について丁寧に書かれたこのテキストを通して,心疾患の妊娠・出産に携わる方々だけではなく,研修医,医学生,看護学生も実際の医療の苦労と楽しさの一端をつかむことができる.同時に,今後,妊娠を迎えようとする多くの心疾患患者さんにとっても,通読することにより,不安が取り除かれ,安心して妊娠・出産を迎えられることを確信する.

臨床雑誌内科129巻3号(2022年3月号)より転載
評者●聖路加国際病院心血管センター 特別顧問 丹羽公一郎

9784524228065