手外科診療ハンドブック改訂第3版
編集 | : 牧裕/金谷文則/坪川直人 |
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ISBN | : 978-4-524-22802-7 |
発行年月 | : 2022年7月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 508 |
在庫
定価13,200円(本体12,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
手外科領域の修練の場として半世紀に及ぶ伝統と実績を誇る,新潟手の外科セミナーのエッセンスをまとめたハンドブックの改訂版.安定した治療成績を得るために必要な病態理解,診察から治療方針の決定,治療法の概念まで,新たな知見と実臨床で積み重ねた経験を反映して内容はさらに充実.上肢の手術に携わる整形外科医にとって指針となる必携の一冊.
総 論
T 手外科診察のポイント
A 手の表面解剖
B 手の運動・肢位
C 機能解剖と破格
D 症候別の診断の進め方
U 検査(診断)の要点
A 画像診断
B 関節鏡
C 電気生理学的検査
D 感覚検査
E 筋力評価
V 治療の一般原則
A 治療適応決定上考慮すべき事項
B 手術時期
C 術前準備
D 手術室と装備
E 麻酔法
F 抗菌薬の術前投与
G 手術台,椅子,無影燈の位置取り
H 術野の消毒(スクラビング)と滅菌シーツのかけ方(ドレーピング)
I 駆血および空気止血帯
J 拡大鏡(ルーペ)の着用
K 手術器具,手術機器
L 手術操作上のポイント
M 基本的手術手技
N 縫合材料,治療材料
O 包帯法,術後固定法
P 外固定法
Q 術後管理
R 術後のハンドセラピー
S 副子(スプリント),装具とその役割
各 論
T 外 傷
A 開放性損傷
B 閉鎖性損傷(救急処置を要するもの)
C 熱傷,凍傷
D 指尖損傷
E 深部組織損傷の治療(開放性・閉鎖性損傷)
F 手外科領域のマイクロサージャリー
G 外傷後遺症
U 炎 症
A 化膿性炎症
B 特殊な感染症
C リウマチ性炎症
D 機械的炎症
E 結晶沈着性および蓄積性炎症
V 指の弾発,ロッキング
A 強剛母指
B ばね指
C 他の原因による弾発現象
D 手関節のクリック弾発─ dynamic instability
E 母指のロッキング
F 示指〜小指のロッキング
W Dupuytren 拘縮
X 変形性関節症
A Heberden(ヘバーデン)結節(DIP 関節および母指IP 関節の変形性関節症)
B Bouchard(ブシャール)結節(PIP 関節の変形性関節症)
C MP 関節の変形性関節症
D 母指CM 関節症
E 環指,小指のCM 関節症
F 変形性手関節症
G 遠位橈尺関節症
H 変形性肘関節症
Y 絞扼性神経障害
A 病態生理
B 診断法
C 補助診断法
D 正中神経
E 尺骨神経
F 橈骨神経
G 胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome:TOS)
H 絞扼性神経障害と鑑別すべき疾患
Z 麻痺手の機能再建
A 末梢神経麻痺の運動機能再建
B 四肢麻痺手
C 痙性麻痺手
D 筋電電動義手と手の同種移植
[ 疼 痛
A 複合性局所疼痛症候群(CRPS),反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)
\ 末梢循環障害
A Raynaud病
B 末梢閉塞性動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)
C 反復性鈍的外傷による血行障害
] 無腐性壊死,骨端症
A Kienbock病
B Preiser 病
C 他の手根骨無腐性壊死
D Dieterich病
E Thiemann病
F 上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(野球肘外側型)
Ⅺ 先天異常
A 成 因
B 分 類
C 先天異常の治療原則
D 治 療
Ⅻ 手・前腕部の腫瘍および腫瘍類似病変
A 診断総論
B 手外科医にとって重要な疾患
C 骨・軟部腫瘍や皮膚悪性腫瘍を専門とする医師の協力が必要な疾患
D マイクロサージャリー手技を用いた患肢温存手術と機能再建術
]V 局所性ジストニア(focal dystonia),書痙(writer's cramp)
]W 精神的な問題を含む手の疾患
改訂第3版の序
2004年の初版発刊から18年,2013年の第2版の発刊から9年が経過しました.幸いこれまでに多くの方に本書をお使いいただいていますが,この間に新たな手術機器の普及や,新知見が得られたことで手術方法が変化した疾患もあり,改めて改訂作業を行うことにしました.本書では,最新情報だけではなく,より安定した治療成績を得ることを目標に据えています.また,より使いやすいものにするため,図表や写真に新しいものを加え,文章と図表のレイアウトも修正しました.
私たちの恩師,故 田島達也新潟大学名誉教授が大学勤務時代の1974年に始めた新潟手の外科セミナーも新潟手の外科研究所が引き継ぎ,断続的な開催にはなったものの37回を数えています.
こちらのテキストも版を重ねるごとに厚く1,000ページに近づき,重く携帯しづらいものになりました.このテキストから実験データなどをできるだけ省き,臨床部分のエッセンスをまとめたものが本書であると考えています.1つの疾患に関する手術法も複数あるものがほとんどですが,すべての手術法を網羅するのではなく私たち新潟手の外科グループで行ってきた方法のうち,現時点で安定した成績が得られるものを中心に記載しています.しかし記載した方法が絶対というわけではなく,私たちも改良を続けていますし,もっと良い方法が生まれてくるかもしれないことを理解したうえで使っていただきたいと思います.
また,手外科疾患の治療ではリハビリテーションが良い成績を得るためのキーとなります.本書ではハンドセラピーに関して詳しく書いていませんが,実践においてはハンドセラピストとのチーム医療の中で疾患を治療していくことが重要であることも心に留め置いてください.
本書が皆さんの日常診療の指針になることを期待しています.
ところで,改訂原稿を書き始めた2020年3月〜5月という時期は,感染拡大が始まった新型コロナウイルスが日本でも感染を広げ,その後あっという間に世界中をパンデミックに巻き込んだ時期と重なります.
2020年4月には,新潟の地でこの本の編集者の坪川が日本手外科学会の学術集会を開催する予定でした.開催の1カ月前に他学会も次々と中止になるなかで,坪川も断腸の思いで新潟朱鷺メッセでの学術集会中止を決断し,学会はオンラインでの開催となりました.そして,東京オリンピックも1年延期されました.
2021年には,6月頃からのデルタ株による第5波パンデミックは,2回のワクチン接種が進んだこともあり,東京オリンピック開催後にいったんは国内で終息しましたが,12月頃からより感染力の強いオミクロン株の第6波パンデミックが世界を覆うことになりました.
この本を校閲している2022年3月には,国内のオミクロン株感染者数はピークを越えたものの高止まりのままで,各医療機関も感染対策や職員の濃厚接触者が増える中での業務継続に大変な思いをしていました.
さらに世界に目を向けてもコロナ感染の終息はいまだ見通せず,中国との地政学的な摩擦は増強し,北京の無観客冬季オリンピック終了直後にはロシア軍がウクライナを侵略するという,第3次世界大戦につながりかねない重苦しい時代の中にいる感があります.
この大変な時期にこの本を作っていたことはきっと忘れられないことでしょう.
表紙の絵は屈筋腱の遊離腱移植の図です.末節骨へのアンカーが終わり,手掌部で近位断端と緊張を決めながら縫合しています.
2022年5月
編集者を代表して
牧 裕
本書は,牧裕先生,金谷文則先生,坪川直人先生の編集のもと,新潟大学の故田島達也名誉教授門下の先生方により執筆された.2004年の初版発刊から9年後の2013年に発刊された第2版に,新たな知見や治療法などを加えて改訂した第3版である.
1974年から毎年開催されてきた“新潟手の外科セミナー”は,手外科に興味をもつ者であれば一度は参加し,そこで配布されるテキストを用いて勉強した経験があると思う.序章のなかで,本書はこのテキストをベースに実験データなどを極力省き,臨床部分のエッセンスをまとめたものであると書かれている.したがって,セミナーへの参加がむずかしい先生方にとっては,きわめて有益な書となるであろう.また,本書の目標は,最新情報だけではなく,より安定した治療成績を提供することであり,手外科専門医ではない若手医師の教科書にもなりうる.
本書は,大きく総論と各論に分かれている.総論は,「T.手外科診察のポイント」,「U.検査(診断)の要点」,「V.治療の一般原則」から構成され,手外科診療を行ううえで必要な知識のみならず心構えに関しても述べられている.このなかでも,特に「T.手外科診察のポイント」にある「症候別の診断の進め方」,「V.治療」の一般原則にある「治療適応決定上考慮すべき事項」では,臨床現場に即した内容が網羅されており,若手医師には大いに参考になるであろう.この総論を読むと,新潟手の外科グループの先生方の手外科に対する熱い思いとメッセージも感じ取ることができる.
各論は,外傷から慢性疾患,先天異常,腫瘍・腫瘍類似病変,さらには精神的な問題を含む手の疾患まで日常診療で遭遇するものをほぼ網羅している.外傷・疾患ごとに特徴・概念,症状と診断,治療の重要なポイントが,明快な文章で書かれている.したがって,本書は単なる手術書ではなく,各外傷や疾患を治療も含めてトータルに理解することを目標にしたものであることが理解できる.図表や写真も豊富に含まれており,視覚的にも理解を深めることが容易である.いずれの章もすばらしい内容であるが,個人的には腱損傷に関する章が術後のリハビリテーションを含めて読み応えがあり,たいへん勉強になった.
本書冒頭にある「改訂第3版の序」のなかで,編集者を代表して牧裕先生は,コロナ禍と厳しい国際情勢を背景とした重苦しい時代に本書をつくっていたことはきっと忘れられないと書かれている.また,「献辞―田島達也先生に捧ぐ」で吉津孝衛先生は,手の外科に大きな情熱と努力を注がれた田島達也先生に心からの敬意をもって本書を捧げたいと述べられている.このように,本書は田島門下生である新潟手の外科グループの先生方の思いが詰まった書籍である.ハンドブックという名前がついてはいるが,手外科を実践していくうえで必要なエッセンスが組み込まれている.手外科専門医はもちろん,ぜひとも若い世代の先生方には本書を通読し,手外科に対する理解を深めて,専門医としての道を歩み出してほしい.
臨床雑誌整形外科74巻4号(2023年4月号)より転載
評者●北海道大学大学院整形外科教授 岩崎倫政