機能性消化管疾患診療ガイドライン2021−機能性ディスペプシア(FD)改訂第2版
編集 | : 日本消化器病学会 |
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ISBN | : 978-4-524-22743-3 |
発行年月 | : 2021年4月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 108 |
在庫
定価3,300円(本体3,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
日本消化器病学会編集による診療ガイドライン.Mindsの作成マニュアルに準拠し,臨床上の疑問をCQ(clinical question),BQ(background question),FRQ(future research question)に分けて記載.CQではエビデンスレベルと推奨の強さを提示.機能性ディスペプシア(FD)診療における,概念・定義・疫学,病態,診断,治療,予後・合併症等について,エビデンスに基づき現時点の標準的な指針を示す.
クエスチョン一覧
第1章 概念・定義・疫学
BQ 1-1 機能性ディスペプシア(FD)とは何か?
BQ 1-2 慢性胃炎とFD の関係はどのようになるのか?
BQ 1-3 ピロリ菌感染とFD の関連はどうなるのか?
BQ 1-4 日本人のFD の有病率とその推移は?
BQ 1-5 FD になりやすい人の臨床像は何か?
BQ 1-6 FD 患者の受療行動は症状の持続期間や強さに影響を受けるか?
BQ 1-7 FD 患者のQOL は低下しているか?
FRQ 1-1 FD と胃不全麻痺(gastroparesis)はどのように関連するか?
第2章 病態・病因
BQ 2-1 FD は多因子によるものか?
BQ 2-2 胃・十二指腸運動能異常[胃適応性弛緩障害,胃排出能障害(早期胃排出能障害・胃排出能遅延),十二指腸胃逆流]はFD に関連するか?
BQ 2-3 内臓知覚過敏はFD に関連するか?
BQ 2-4 心理社会的因子はFD に関連するか?
BQ 2-5 胃酸はFD に関連するか?
BQ 2-6 家族歴・遺伝的要因はFD に関連するか?
BQ 2-7 生育環境はFD に関連するか?
BQ 2-8 感染性胃腸炎の罹患後にFD の発症がみられるか?
BQ 2-9 ライフスタイル(運動・睡眠・食事内容や食習慣)はFD に関連するか?
BQ 2-10 胃・十二指腸の微小炎症はFD に関連するか?
FRQ 2-1 膵酵素値・膵機能異常はFD に関連するか?
FRQ 2-2 腸内細菌叢(胃内を含む)はFD に関連するか?
FRQ 2-3 胃の形状(胃下垂,瀑状胃)はFD に関連するか?
FRQ 2-4 食物アレルギーはFD に関連するか?
第3章 診断
BQ 3-1 FD の診断に上部消化管内視鏡検査は必須か?
CQ 3-1 自己記入式質問票はFD の診断に有用か?
FRQ 3-1 消化管機能検査はFD の診断に有用か?
第4章 治療
BQ 4-1 FD の治療目標は患者が満足しうる症状改善が得られることか?
BQ 4-2 FD の治療において,プラセボ効果は大きいか?
BQ 4-3 FD の治療において,良好な患者‒医師関係を構築することは有用か?
CQ 4-1 FD の治療として,生活習慣指導や食事療法は有用か?
CQ 4-2 FD の治療薬として,酸分泌抑制薬は有用か?
CQ 4-3 FD の治療薬として,消化管運動機能改善薬は有用か?
CQ 4-4 FD の治療薬として,漢方薬は有用か?
CQ 4-5 FD の治療薬として,抗うつ薬・抗不安薬は有用か?
CQ 4-6 FD の治療薬として,消化管粘膜保護薬などは有用か?
CQ 4-7 FD の治療として,心療内科的治療は有用か?
FRQ 4-1 FD の治療として,薬剤併用療法は有用か?
FRQ 4-2 FD の治療として,鍼灸療法は有用か?
FRQ 4-3 FD の治療は病型に基づいて行うのがよいか?
FRQ 4-4 治療抵抗性のFD 患者はどの時点で治療を変更すべきか?
第5章 予後・合併症
BQ 5-1 FD は再発するか? 予後は良好か?
BQ 5-2 FD と併存しやすい疾患は何か?
刊行にあたって
日本消化器病学会は,2005 年に跡見裕理事長(当時)の発議によって,Evidence-Based Medicine(EBM)の手法にそったガイドラインの作成を行うことを決定し,3 年余をかけて消化器6疾患(胃食道逆流症(GERD),消化性潰瘍,肝硬変,クローン病,胆石症,慢性膵炎)のガイドライン(第一次ガイドライン)を上梓した.ガイドライン委員会を積み重ね,文献検索範囲,文献採用基準,エビデンスレベル,推奨グレードなどEBM 手法の統一性についての合意と,クリニカルクエスチョン(CQ)の設定など,基本的な枠組み設定のもと作成が行われた.ガイドライン作成における利益相反(Conflict of Interest:COI)を重要視し,EBM 専門家から提案された基準に基づいてガイドライン委員のCOI を公開している.菅野健太郎理事長(当時)のリーダーシップのもとに学会をあげての事業として継続されたガイドライン作成は,先進的な取り組みであり,わが国の消化器診療の方向性を学会主導で示したものとして大きな価値があったと評価される.
第一次ガイドラインに次いで,2014 年に機能性ディスペプシア(FD),過敏性腸症候群(IBS),大腸ポリープ,NAFLD/NASH の4 疾患についても,診療ガイドライン(第二次ガイドライン)を刊行した.この2014 年には,第一次ガイドラインも作成後5 年が経過するため,先行6疾患のガイドラインの改訂作業も併せて行われた.改訂版では第二次ガイドライン作成と同様,国際的主流となっているGRADE(The Grading of Recommendations Assessment,Development and Evaluation)システムを取り入れている.
そして,2019〜2021 年には本学会の10 ガイドラインが刊行後5 年を超えることになるため,下瀬川徹理事長(当時)のもと,医学・医療の進歩を取り入れてこれら全てを改訂することとした.2017 年8 月の第1 回ガイドライン委員会においては,10 ガイドラインの改訂を決定するとともに,近年,治療法に進歩の認められる「慢性便秘症」も加え,合計11 のガイドラインを本学会として発刊することとした.また,各ガイドラインのCQ の数は20〜30 程度とすること,CQ のうち「すでに結論が明らかなもの」はbackground knowledge とすること,「エビデンスが存在せず,今後の研究課題であるもの」はfuture research question(FRQ)とすることも確認された.
2018 年7 月の同年第1 回ガイドライン委員会において,11 のガイドラインのうち,肝疾患を扱う肝硬変,NAFLD/NASH の2 つについては日本肝臓学会との合同ガイドラインとして改訂することが承認された.前版ではいずれも日本肝臓学会は協力学会として発刊されたが,両学会合同であることが,よりエビデンスと信頼を強めるということで両学会にて合意されたものである.また,COI 開示については,利益相反委員会が定める方針に基づき厳密に行うことも確認された.同年10 月の委員会追補ではbackground knowledge はbackground question(BQ)に名称変更し,BQ・CQ・FRQ と3 つのQuestion 形式にすることが決められた.
刊行間近の2019〜2020 年には,日本医学会のガイドライン委員会COI に関する規定が改定されたのに伴い,本学会においても規定改定を行い,さらに厳密なCOI 管理を行うこととした.また,これまでのガイドライン委員会が各ガイドライン作成委員長の集まりであったことを改め,ガイドライン統括委員会も組織された.これも,社会から信頼されるガイドラインを公表するために必須の変革であったと考える.
最新のエビデンスを網羅した今回の改訂版は,前版に比べて内容的により充実し,記載の精度も高まっている.必ずや,わが国,そして世界の消化器病の臨床において大きな役割を果たすものと考えている.
最後に,ガイドライン委員会担当理事として多大なご尽力をいただいた榎本信幸理事,佐々木裕利益相反担当理事,研究推進室長である三輪洋人副理事長,ならびに多くの時間と労力を惜しまず改訂作業を遂行された作成委員会ならびに評価委員会の諸先生,刊行にあたり丁寧なご支援をいただいた南江堂出版部の皆様に心より御礼を申し上げたい.
2021 年4月
日本消化器病学会理事長
小池 和彦
7年の進化を魅せる第2版
2014年の初版では,筆者自身,委員として作成に携わった.それから7年を経て改訂第2版が上梓された.その間,機能性ディスペシア(functional dyspepsia:FD)に関する論文は,PubMed で検索できる範囲でも2,000編を上回る.そのなかから臨床研究論文を抽出し,初版までのものに加えて検討された.コロナ禍にも屈せず,このような膨大な作業に真摯に取り組んでこられた三輪洋人作成委員長,樋口和秀評価委員長をはじめ委員の皆様に深甚なる敬意を表したい.
本編の冒頭BQ1‒1で,本疾患は「症状の原因となる器質的,全身性,代謝性疾患がないのにもかかわらず,慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」であると定義づけられている.要するに除外診断による症候群であり,病態は多岐にわたる.
診断と治療の流れを知るには,第1章の手前に掲載されているフローチャートが便利である.器質的疾患を除外するために内視鏡検査をどのように位置づけるかは迷うところである.20歳代のFD症状を有する患者に,普通はいきなり内視鏡検査は行わない.本書でも,問診による症状,年齢,病歴などのアラームサイン等で判断することとされている.筆者自身,体重減少を主訴に来院された20歳代の女性を「神経性食指不振症疑い」と初診し,その後,初期のスキルス胃がんであることがわかった苦い経験がある.かといって,過剰診療につながらないように注意は必要である.
初版から進んだ点は,まず,「H. pylori関連ディスペプシア」が器質的疾患として位置づけられたことである.確定診断は除菌による症状改善をもって行う.除菌により症状が改善しない,あるいは症状が再燃する場合にはFDと診断される.この場合はH. pylori は“innocent bystander(事件現場に偶然居合わせた無実の容疑者)”ということになる.
二つ目の点は,治療薬のエビデンスが増えたことにより,推奨度が個別的・具体的に明示されたことである.病態は多因子複合的であり,胃酸分泌,胃・十二指腸運動異常,内臓知覚過敏,心理社会的因子などが複雑に関係する.そのなかで,消化管運動機能改善薬の有用性に関して,エビデンスレベルの高さに応じて,アセチルコリンエステラーゼ阻害薬を最も強い推奨度に,ドパミン受容体拮抗薬とセロトニン5‒HT4受容体作動薬を次の強さの推奨度にしたことである.その結果,フローチャートにおいても,アコチアミドが一次治療に位置づけられ,アコチアミド以外の消化管運動機能改善薬は二次治療に区分された.
また,漢方薬についても,エビデンスレベルの高い六君子湯のみが強い推奨度とされ,フローチャートにおいて一次治療に位置づけられた点も,「漢方薬」として一括して取り扱われていた初版から改良された部分であり評価できる.ちなみに,六君子湯のエビデンスの一つとして引用されたthe DREAM study は,筆者が当時代表を務めていた「消化管SAMURAI チーム」の臨床試験の成果であり,感慨深いものがある.
臨床雑誌内科129巻2号(2022年2月号)より転載
評者●大阪市立大学 学長 荒川哲男