日本整形外科学会診療ガイドライン
特発性大腿骨頭壊死症診療ガイドライン2019
監修 | : 日本整形外科学会/厚生労働省指定難病特発性大腿骨頭壊死症研究班 |
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編集 | : 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/特発性大腿骨頭壊死症診療ガイドライン策定委員会 |
ISBN | : 978-4-524-22726-6 |
発行年月 | : 2019年10月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 116 |
在庫
定価3,520円(本体3,200円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
未だ発生原因が不明で治療方法も確立されていない指定難病である特発性大腿骨頭壊死症に関し、厚生労働省研究班および日本整形外科学会のエキスパートが、疫学的事項から病態、診断、治療まで、ガイドライン作成指針に基づいてエビデンスをまとめ、診療の手引きとして作成。本疾患の基本的特徴をまとめ、診療上の疑問への推奨を示しており、患者・医師の意思決定を助ける指針となる一冊。
前文
1.ガイドラインの作成手順
2.ガイドラインの構成と編集方法(システマティックレビュー)
第1章 疫学
Background Question1-1 わが国における特発性大腿骨頭壊死症の基本特性(性・年齢分布など)は
Background Question1-2 わが国における特発性大腿骨頭壊死症の有病率・発症率・発生率と諸外国との比較は
Background Question1-3 特発性大腿骨頭壊死症の発生・発症に関する危険因子は
Background Question1-4 特発性大腿骨頭壊死症に遺伝の影響はあるか
第2章 病態
Background Question2-1 特発性大腿骨頭壊死症の発生機序は
Background Question2-2 特発性大腿骨頭壊死症の発生時期は
Background Question2-3 特発性大腿骨頭壊死症の壊死域の大きさは変化するか
Background Question2-4 多発性骨壊死の発生部位と頻度は
第3章 診断
Background Question3-1 特発性大腿骨頭壊死症の診断は
Background Question3-2 特発性大腿骨頭壊死症との鑑別診断は
Background Question3-3 特発性大腿骨頭壊死症の重症度は
Background Question3-4 特発性大腿骨頭壊死症の自然経過は
治療
治療序文(治療方針)
第4章 保存治療
Clinical Question4 前文
Clinical Question4-1 特発性大腿骨頭壊死症に対する免荷・装具療法は有用か
Clinical Question4-2 特発性大腿骨頭壊死症に対する物理療法・高圧酸素療法は有用か
Clinical Question4-3 特発性大腿骨頭壊死症に対する薬物療法は有用か
第5章 手術治療:骨移植・細胞治療
Clinical Question5 前文
Clinical Question5-1 特発性大腿骨頭壊死症に対するcore decompressionは有用か
Clinical Question5-2 特発性大腿骨頭壊死症に対する血管柄付き骨移植術は有用か
Clinical Question5-3 特発性大腿骨頭壊死症に対する細胞や成長因子を用いた再生医療は有用か
第6章 手術治療:骨切り術
Clinical Question6 前文
Clinical Question6-1 特発性大腿骨頭壊死症に対する大腿骨内反骨切り術は有用か
Clinical Question6-2 特発性大腿骨頭壊死症に対する大腿骨頭回転骨切り術(前方・後方)は有用か
第7章 手術治療:人工股関節置換術
Clinical Question7 前文
Clinical Question7-1 特発性大腿骨頭壊死症に対するセメント非使用THAは有用か
Clinical Question7-2 特発性大腿骨頭壊死症に対するセメント使用THAは有用か
Clinical Question7-3 特発性大腿骨頭壊死症に対する人工骨頭挿入術は有用か
Clinical Question7-4 特発性大腿骨頭壊死症に対する表面置換型THAは有用か
Clinical Question7-5 特発性大腿骨頭壊死症の若年者に対する人工股関節置換術は有用か
索引
序文
特発性大腿骨頭壊死症は、古くは大腿骨頭の無腐性壊死(aseptic necrosis)と呼ばれ、骨感染症による腐骨(sequestra)と区別していた。病理的な特徴から無血管性壊死(avascular necrosis)、虚血性壊死(ischemic necrosis)などとも呼ばれていた。骨壊死は虚血によって発生すると考えられており、原因の明らかな外傷性(股関節脱臼や大腿骨頚部骨折)、潜函病、放射線照射などによるものは二次性大腿骨頭壊死症である。一方でステロイド全身投与歴や習慣性飲酒などは喫煙とともに骨壊死の関連因子であるが、いまだその発生機序が解明されておらず、発生原因不明のものが特発性大腿骨頭壊死症である。昭和47年10月に厚生省の難病対策要綱が定められ、原因不明、治療法未確立であり、かつ、後遺症を残すおそれが少なくない疾病で、経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず介護などに著しく人手を要するために家族の負担が重く、また精神的にも負担の大きい特定の疾患に対し、(1)調査研究の推進、(2)医療施設の整備、(3)医療費の自己負担の解消という対策を進めることになった。昭和50年から特発性大腿骨頭壊死症も特定疾患として調査研究班が立ち上げられ、以後、疫学研究、病因・病態解明、診断基準の策定および改訂、治療法の確立、遺伝子解析などの研究が積み上げられてきた。平成26年5月23日に難病の患者に対する医療等に関する法律が成立し(平成27年1月1日施行)、難病対策行政が大きな転換期を迎えた。特定疾患から指定難病に名称が変わり、指定難病に係る医療を実施する医療機関を都道府県知事が指定し、難病医療のセンター化と診療ネットワークを構築し、支給認定の申請に添付する診断書は指定医が作成することとなった。昨今、各種疾患の診療ガイドラインの普及に伴い、指定難病に対しても厚生労働省の施策のひとつとして診療ガイドラインの作成を要請されてきた。2015年(平成27年)に研究班班員を中心に特発性大腿骨頭壊死症ガイドライン委員会が組織され、2018年(平成30年)2月に日本整形外科学会として特発性大腿骨頭壊死症診療ガイドライン策定委員会が発足し、今回、診療ガイドライン初版を公開するにいたった。
診療ガイドラインでは、疫学、病態、診断、保存治療、手術治療:骨移植・細胞治療、手術療法:骨切り術、手術療法:人工股関節置換術の7つの章に分けた。疫学、病態、診断については疾患トピックの基本的特徴としてバックグラウンドクエスチョン(Background Question:BQ)を12題設定した。日常診療において治療法などの決定に際して直面する疑問としてクリニカルクエスチョン(Clinical Question:CQ)13題を設定し、集積したエビデンスに基づいてそれぞれのCQに対する推奨内容および推奨度を示した。推奨内容および推奨度は、ガイドライン策定委員および診療ガイドライン作成協力者が慎重な討議を重ね、かつパブリックコメントでの客観的な評価を加味して最終的に示したものである。ただし、十分なエビデンスが確立していない内容の場合は、エキスパートオピニオンを踏まえ、策定委員が推奨度を設定した。
診療ガイドラインはエビデンスの集約ではなく、エビデンスに基づく診療の手引きである。医療現場において医師と患者の合意形成を助け、さらには治療法の選択が適切に行えるように支援するものであり、60〜95%程度の患者について、エビデンスに基づいた選択肢を提示したものである。したがって、すべての患者あるいはすべての臨床的局面に対応できる標準的な治療方針ではなく、また、個々の医師の決定権を制限するものでもない。この点を十分念頭に置いたうえで診療ガイドラインを活用し、日常診療に役立てていただければ幸いである。
最後に、診療ガイドライン策定に尽力されたガイドライン策定委員および診療ガイドライン作成協力者の先生方、厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業研究班の班員の先生方、パブリックコメントに建設的な意見を寄せていただいた皆様に深謝を申し上げる。
2019年10月
日本整形外科学会
特発性大腿骨頭壊死症診療ガイドライン策定委員会
委員長 菅野伸彦
『特発性大腿骨頭壊死症診療ガイドライン』が上梓された。膨大な作業の指揮をとられた菅野伸彦策定委員会委員長はじめ、策定委員、作成協力者の先生方、加えて厚生労働省研究班員の先生方に心より感謝を申し上げたい。
ご存知のように、特発性大腿骨頭壊死症は指定難病(特定疾患)であり、「原因は明らかではなく、かつ有効な治療法が確立していない」疾患である。1975年に本症の調査研究班が立ち上げられ、以来40年以上にわたって病態解明と治療法開発に関する研究が行われてきた。その間に班会議が発信してきた成果は膨大であり、質量ともに世界をリードしてきたといっても過言ではない。本ガイドライン策定チームの中心はそのメンバーたちであり、まさに日本中の特発性大腿骨頭壊死症診療エキスパートの手によって作成されたガイドラインといえるであろう。
本ガイドラインでは「疫学」、「病態」、「診断」、「保存治療」、「手術治療:骨移植・細胞療法」、「手術治療:骨切り術」、「手術治療:人工股関節置換術」の7つの章から構成されている。前半の「疫学」〜「診断」では、本症に必要な情報がBackground Question、およびその解説という形式で説明されている。治療が述べられている後半では、臨床医が日常診療で感じる疑問Clinical Questionに対する回答として推奨草案、推奨度、エビデンスの高さ、委員会内の合意率が一目でわかるように工夫されており、加えて解説とエビデンスの高い文献より引用したサイエンティフィックステートメントを掲載し、Q &Aのみでなく、最新の知見も系統的に理解できるようになっている。
それぞれの章をみてみると、「疫学」ではわが国における有病率、性差、年齢分布、危険因子など、上述の班会議を中心とした疫学調査の成果が詳しく述べられている。加えて諸外国とも比較され、結果が異なる場合にはその原因にも言及されており、たいへん勉強になる。「病態」〜「診断」の章ではステロイド服用歴、アルコール多飲の関与から、壊死領域の大きさが変化しないこと、鑑別診断、自然経過などの重要項目が多くのエビデンスに基づいた、凝縮した文章で要約されている。
「保存治療」をみると、いったん圧潰して発症した大腿骨頭壊死症に有効な治療は現時点ではまだないこと、そして低侵襲の外科的治療では細胞治療に期待されるが、その有用性はまだ明らかではないことが記されている。エビデンスの集積があるのは骨切り術と人工股関節置換術であり、若年で骨切りが可能な健常部があれば大腿骨内反・回転骨切り術を、壊死範囲が広ければ人工股関節置換術の適応になることが示されており、それらの長期成績もわかりやすく解説されている。
わが国では、毎年約3,000例の特発性大腿骨頭壊死症が発生しており、決してまれな疾患ではない。また調査によると今後も増加傾向が予想されている。その診療にあたる整形外科医は、現在行われている診断および治療法の有効性と限界を知り、かつ今後出てくるであろう新しい治療法にも対応できなければならない。本ガイドラインを通読することでこれらを体系的に理解することが可能になると考えられる。多くの若い整形外科医にぜひとも本書を手にとり、特発性大腿骨頭壊死症に対する診療に理解を深めてほしい。
臨床雑誌整形外科71巻5号(2020年5月号)より転載
評者●九州大学整形外科教授 中島康晴