重症心不全治療プラクティス
編集 | : 安斉俊久 |
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ISBN | : 978-4-524-22708-2 |
発行年月 | : 2020年3月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 200 |
在庫
定価6,820円(本体6,200円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
重症化した心不全患者を前にどう考え、どう治療するか、管理やケアはどう行うか、をプラクティカルに学べる実践書。まず何を考えるか、どう対応(治療)するか、治療や管理の実際はどう進めるか、といった思考過程や手順をSTEPで理解できるフローチャートを多数収載。また悩ましかった具体例などが学べるcase studyの項目を各章に盛り込み、ガイドライン等にはない実際面が学べる一冊。心不全の治療や管理、ケアに携わる医師にオススメ。
I 押さえておきたい重症心不全の基本知識
1.病態
2.原疾患の鑑別
3.血行動態評価
4.予後予測
II 重症心不全患者の治療オプションとその適応−最新エビデンスに基づく治療フローを理解する
1.薬物療法
2.冠動脈血行再建術
3.構造的心疾患(SHD)インターベンション治療・外科手術
4.不整脈アブレーション治療
5.不整脈デバイス治療
6.心臓リハビリテーション
7.経皮的補助循環
8.補助人工心臓(VAD)
9.心臓移植
Case Study(1):左室機能が高度に低下した虚血性心筋症のケース
Case Study(2):劇症型心筋炎による低心拍出に対して経皮的補助循環および補助人工心臓を導入したケース
Case Study(3):強心薬依存状態から植込み型補助人工心臓装着にいたったケース
III 重症心不全患者をどう治療・管理する?−治療・管理戦略と具体的実践
1.重症心不全治療戦略の全体像
2.心原性ショック・低心拍出状態
3.高度うっ血
4.不整脈への対策
5.併存症の管理
6.補助人工心臓装着・心臓移植申請への至適タイミング
7.補助人工心臓手術後の管理
8.心臓移植後の管理
Case Study(4):拡張型心筋症が糖尿病増悪とともに急性増悪をきたしたケース
Case Study(5):心原性ショックで緊急体外設置型補助人工心臓を要したケース
Case Study(6):高度右心不全合併のため,うっ血の管理に難渋したケース
Case Study(7):拡張相肥大型心筋症に心房細動を合併した難治性心不全のケース
Case Study(8):補助人工心臓手術後に弁膜症が進行したケース
Case Study(9):心臓移植後に心筋拒絶反応が生じたケース
IV 重症心不全患者をどうケアする?−緩和ケアの考え方と実践
1.アドバンス・ケア・プランニングとチーム医療
2.治療抵抗性の身体症状への対策
3.精神症状への対策
Case Study(11):末期心不全をきたした高齢拡張型心筋症のケース
Case Study(12):症状緩和が奏効した末期心不全のケース
索引
序文
循環器内科医を目指したとき、最も魅力に感じたのは、病態を正確に把握したうえで、論理的に治療を組み立てれば、患者は必ずよい方向に向かうということである。重症心不全に対しては、Frank-Starling機構における作用点が明確な各種薬物治療を血行動態に応じて組み合わせ、カテーテルやデバイスを用いた治療、補助循環など様々な手段を用いて闘えることも、循環器内科の醍醐味だと感じた。当時は、集中治療室で補助循環が装着された患者にいくつものインフュージョンポンプをつなげ、24時間にわたって微調整しつつ、患者の1日でも早い回復を目指すことに至福の喜びを感じたものである。時代とともに医療機器は進歩し、構造的心疾患に対するカテーテル治療や植込み型補助人工心臓も普及するにいたり、われわれはさらなる武器を手にしたといえる。
心不全はがんと同様に予後は不良であるといわれ、ステージDに向かって一方向的に悪化の経過をたどると考えられているが、エビデンスに基づいた治療の導入、急性増悪時の適切な初期対応と入院中の治療最適化、多職種による退院前支援などにより、生命予後ならびに生活の質(QOL)が大きく改善することは間違いない。急性心不全を対象にした薬物療法に関する無作為化比較試験は、これまでのところ有意な結果を示すものが報告されていないとはいえ、症例ごとに大きく病態が異なる急性心不全の治療は、決して一律にはなり得ず、心機能や血行動態、併存症などの因子を徹底的に考えたうえで戦略を選択し、刻々と変化する病態に応じて継続的に修正を行うことになる。また、心臓移植の適応が考慮されるような重症心不全では、患者・家族と真に向き合い、情熱を持って治療することで、様々な困難も乗り越えることが可能である。
一方で、心臓移植の適応とならないような症例や高齢者の心不全においては、積極的治療による予後改善だけでなく、QOL改善を目的とした緩和ケアも重要である。心臓移植を含めた最先端治療を行うとしても、人生の価値観や終末期医療における希望などについて患者・家族と医療者が話し合うアドバンス・ケア・プランニングは必須であり、重症心不全治療と緩和ケアは表裏一体と捉えるべきである。
本書では、重症心不全に対する最先端の診断・治療の流れだけでなく緩和ケアについても網羅した。各種治療の手順や重症心不全患者の病態に応じて何を考え、どのように対応・管理を実践するか、STEPを示したフローチャートを掲載し、STEPに沿って解説をしている。また、実際に学ぶことの多かった症例や悩ましかった症例の呈示を含めることにより、臨床の現場で即活用できる内容を目指した。
どのような重症心不全でも決して諦めずに治療することが大切であり、心臓移植も緩和ケアも患者を見捨てないという意味では変わらないと信じている。本書を通じて一人でも多くの重症心不全患者が救われることを願ってやまない。
2020年3月
北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学教室
安斉俊久
このたび、安斉俊久教授のご編集による書籍『重症心不全治療プラクティス』が、北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学の先生方を中心に執筆され、南江堂から出版された。書評を書かせていただく機会を得たため、推薦の言葉とともに皆様にお届けしたい。
本稿を執筆している2020年4月中旬の今は、まさに新型コロナウイルス感染症の蔓延に世界中の人々が戦々恐々としているところである。この書評が出るころには収束していることを願うばかりである。このような感染症の蔓延ではよく“pandemic(世界的流行)”という言葉が使われる。近年、心不全患者の数の著明な増加も、感染症になぞらえて“心不全パンデミック”と呼ばれるようになってきた。それほど今は慢性心不全の患者さんが激増している。心不全は、虚血性心疾患・重症不整脈・心筋症・心臓弁膜症・肺高血圧症・先天性心疾患などの多くの心臓病の末期的状態であるのはもちろん、それ以外にも慢性腎臓病・高血圧・糖尿病などによっても発症する。したがって、すべての循環器医にとって心不全患者の予防、診断、治療そして管理は、きわめて重要な課題となっている。
さて、『重症心不全治療プラクティス』であるが、本書は大きく4章に分かれており、それぞれ重症心不全の基礎知識、治療法の選択肢とその適応、重症心不全(stage D)に特化した管理法、そして末期心不全患者の緩和ケアと続く。各章はさらに細目に区分けされ、その項目タイトルは最近のガイドラインで採用されているclinical question(CQ)に相当している。本書の最大の特徴は、病態や治療をきちんと分類・区別して述べ、さらに図表を多用することで非常にわかりやすく解説されている点である。各項目の冒頭のページには、その項目の内容がまずは一目でわかるように、俯瞰したアルゴリズム形式のチャート図が掲載されており、それを頼りに得たい情報を素早く探し出すことができる。執筆陣のご努力と思われるが、文字数は最小限に抑えられ、エッセンスのみを記載することで、端的にまた要領よく内容を理解することが可能になっている。日常臨床で時に迷う点や治療のコツなどは「治療のTips」として各項目に散りばめられている。第2〜4章では合計12例の症例提示が、こちらも検査所見の図表を多用して具体的に掲載されており、各患者さんの臨床経過、問題点、それらの対応策が簡潔に述べられ、最後にその患者さんから学び取れることを「take home message」としてまとめられている。
ともかくこの本は臨床の場で、研修初期の内科医からベテラン循環器医まで幅広く利用できる、実践的な書物と言ってよいと思う。このような本をタイムリーに届けていただいた安斉先生はじめ北海道大学循環器内科の皆様に深謝申し上げる。
臨床雑誌内科126巻3号(2020年9月増大号)より転載
評者●東海国立大学機構名古屋大学大学院医学系 研究科循環器内科学 教授 室原豊明