炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2020改訂第2版
編集 | : 日本消化器病学会 |
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ISBN | : 978-4-524-22706-8 |
発行年月 | : 2020年11月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 168 |
在庫
定価3,520円(本体3,200円 + 税)
正誤表
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2021年04月01日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
日本消化器病学会編集による診療ガイドライン。Mindsの作成マニュアルに準拠し、臨床上の疑問をCQ(clinical question)、BQ(background question)、FRQ(future research question)に分けて記載。CQではエビデンスレベルと推奨の強さを提示。炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)診療における、疫学・病態、診断、治療、予後・合併症等について、エビデンスに基づき現時点の標準的な指針を示す。
クエスチョン一覧
第1章 総論
(1)定義・疫学
BQ1-1 炎症性腸疾患(IBD)とは?
BQ1-2 IBDの疫学は?
BQ1-3 IBDの発症要因・増悪因子は?
(2)診断
BQ1-4 IBDの診断はどのように進めるか?
BQ1-5 IBDの診断基準は?
BQ1-6 潰瘍性大腸炎(UC)の病態・分類・重症度の評価は?
BQ1-7 クローン病(CD)の病態・分類・重症度の評価は?
BQ1-8 UCの診断および治療における内視鏡の役割は?
BQ1-9 UCの診断に内視鏡以外の非侵襲的な検査はどのように用いるか?
BQ1-10 CDの診断および治療における内視鏡の役割は?
BQ1-11 CDの診断に内視鏡以外の画像検査はどのように用いるか?
(3)治療
BQ1-12 IBD治療における5-ASA製剤の有用性・使用上の注意点は?
BQ1-13 IBD治療における副腎皮質ステロイドの有用性・使用上の注意点は?
BQ1-14 IBD治療における免疫調節薬の有用性・使用上の注意点は?
BQ1-15 IBD治療におけるカルシニューリン阻害薬の有用性・使用上の注意点は?
BQ1-16 IBD治療における抗TNFα抗体製剤の有用性・使用上の注意点は?
BQ1-17 免疫抑制作用を有する薬剤を使用する際の注意点は?
BQ1-18 IBD治療における栄養療法の有用性と注意点は?
BQ1-19 IBD治療における血球成分除去療法(CAP)の有用性と注意点は?
BQ1-20 IBDの外科的治療の適応と注意点は?
BQ1-21 IBD治療におけるTreat to Targetとは?
(4)特殊状況
BQ1-22 高齢IBD患者への対応は?
BQ1-23 妊娠・授乳期のIBD患者への対応は?
BQ1-24 IBD患者に認められる腸管外合併症とは?
第2章 診断,その他
BQ2-1 便中カルプロテクチンはIBDの鑑別診断に有用か?
BQ2-2 便中カルプロテクチン・免疫学的便潜血法は寛解期UCの疾患活動性の評価に有用か?
CQ2-1 小腸カプセル内視鏡検査はCDの小腸病変の活動性評価に有用か?
CQ2-2 CDの疾患活動性評価にMRIは有用か?
CQ2-3 IBD入院患者に対する血栓症予防は必要か?
FRQ2-1 大腸カプセル内視鏡はUCの罹患範囲・疾患活動性の評価に有用か?
第3章 治療
(1)5-ASA製剤
BQ3-1 軽症〜中等症の活動期UCの寛解導入に5-ASA製剤の経口投与・局所投与は有用か?
BQ3-2 寛解期UCに対する5-ASA製剤の維持治療は臨床的・内視鏡的寛解の維持に有用か?
BQ3-3 直腸炎型の軽症〜中等症の活動期UCの寛解導入に5-ASA坐剤は有用か?
CQ3-1 UCの寛解維持療法において5-ASA製剤の適切な維持量は?
CQ3-25 -ASA製剤の投与はUC関連大腸癌のリスク軽減に有用か?
FRQ3-1 生物学的製剤や免疫調節薬で寛解維持が得られているCDに5-ASA製剤の併用は有用か?
(2)血球成分除去療法(CAP)
BQ3-4 活動期UCに対してより早期に寛解率を向上させるために週2回以上の血球成分除去療法(CAP)は有用か?
BQ3-5 CDに対して血球成分除去療法(CAP)は有用か?
(3)ステロイド
BQ3-6 ブデソニド注腸フォームはUCに有用か?
BQ3-7 ステロイド(プレドニゾロン,ブデソニド)はCDの寛解導入に有用か?
(4)チオプリン製剤
CQ3-3 NUDT15遺伝子R139C多型はチオプリン製剤による急性重症の白血球減少の予測に有用か?
CQ3-4 CD術後再発予防としてチオプリン製剤は有用か?
FRQ3-2 IBD患者において,アジア系人種でもチオプリン製剤によってリンパ腫の発生率は上昇するか?
(5)カルシニューリン阻害薬
FRQ3-3 CDにタクロリムス治療は有用か?
(6)ウステキヌマブ
BQ3-8 ウステキヌマブはCD治療に有用か?
FRQ3-4 CDの寛解導入治療にウステキヌマブと免疫調節薬の併用はウステキヌマブ単剤より有用か?
FRQ3-5 CD合併妊産婦にウステキヌマブ投与は安全か?
FRQ3-6 CD術後の再発予防としてウステキヌマブは有用か?
FRQ3-7 CDの肛門病変にウステキヌマブは有用か?
(7)抗TNFα抗体製剤
BQ3-9 IBD患者に対して,インフリキシマブ(originator)とバイオシミラーの寛解導入効果・維持効果に差はあるか?
CQ3-5 抗TNFα抗体製剤休薬後の再燃に対し,再投与の有効性・安全性は?
CQ3-6 抗TNFα抗体製剤使用時に免疫調節薬の併用は有用か?
CQ3-7 CD術後の再発予防として抗TNFα抗体製剤は有用か?
CQ3-8 抗TNFα抗体製剤と免疫調節薬の長期併用は安全か?
FRQ3-8 抗TNFα抗体製剤の休薬は可能か?
FRQ3-9 CDの内瘻に対して抗TNFα抗体製剤は有用か?
FRQ3-10 消化管出血を伴うCDに対して抗TNFα抗体製剤は有用か?
(8)トファシチニブ
BQ3-10 トファシチニブは中等症〜重症難治性UCに有用か?
BQ3-11 UCにトファシチニブを投与する際の安全性について留意すべき点は?
CQ3-9 トファシチニブは抗TNFα抗体製剤の効果不十分UC例にも有用か?
(9)ベドリズマブ
BQ3-12 UCに対してベドリズマブは有用か?
BQ3-13 CDに対してベドリズマブは有用か?
BQ3-14 抗TNFα抗体製剤不応性のIBDに対してベドリズマブは有用か?
BQ3-15 IBDに対するベドリズマブの安全性について留意すべき点は?
FRQ3-11 ベドリズマブ不応のIBD患者に対して抗TNFα抗体製剤は有用か?
FRQ3-12 IBD患者においてベドリズマブと免疫調節薬は併用すべきか?
(10)内視鏡的治療
CQ3-10 CDの内視鏡的狭窄拡張術は外科手術回避につながるか?
FRQ3-13 IBD関連大腸腫瘍に対して内視鏡的治療は推奨されるか?
(11)外科的治療
CQ3-11 UC関連大腸癌のサーベイランスの対象は?
CQ3-12 UC関連大腸癌のサーベイランスにおいて,生検をどのように行うか?
FRQ3-14 CD関連小腸・大腸癌のサーベイランスはどのように行うか?
FRQ3-15 回腸嚢炎(pouchitis)に抗TNFα抗体製剤は有用か?
刊行にあたって
日本消化器病学会は、2005年に跡見裕理事長(当時)の発議によって、Evidence-Based Medi-cine(EBM)の手法にそったガイドラインの作成を行うことを決定し、3年余をかけて消化器6疾患(胃食道逆流症(GERD)、消化性潰瘍、肝硬変、クローン病、胆石症、慢性膵炎)のガイドライン(第一次ガイドライン)を上梓した。ガイドライン委員会を積み重ね、文献検索範囲、文献採用基準、エビデンスレベル、推奨グレードなどEBM手法の統一性についての合意と、クリニカルクエスチョン(CQ)の設定など、基本的な枠組み設定のもと作成が行われた。ガイドライン作成における利益相反(Conflict of Interest:COI)を重要視し、EBM専門家から提案された基準に基づいてガイドライン委員のCOIを公開している。菅野健太郎理事長(当時)のリーダーシップのもとに学会をあげての事業として継続されたガイドライン作成は、先進的な取り組みであり、わが国の消化器診療の方向性を学会主導で示したものとして大きな価値があったと評価される。
第一次ガイドラインに次いで、2014年に機能性ディスペプシア(FD)、過敏性腸症候群(IBS)大腸ポリープ、NAFLD/NASHの4疾患についても、診療ガイドライン(第二次ガイドライン)、を刊行した。この2014年には、第一次ガイドラインも作成後5年が経過するため、先行6疾患のガイドラインの改訂作業も併せて行われた。改訂版では第二次ガイドライン作成と同様、国際的主流となっているGRADE(The Grading of Recommendations Assessment、Development and Evaluation)システムを取り入れている。
そして、2019〜2021年には本学会の10ガイドラインが刊行後5年を超えることになるため、下瀬川徹理事長(当時)のもと、医学・医療の進歩を取り入れてこれら全てを改訂することとした。2017年8月の第1回ガイドライン委員会においては、10ガイドラインの改訂を決定するとともに、近年、治療法に進歩の認められる「慢性便秘症」も加え、合計11のガイドラインを本学会として発刊することとした。また、各ガイドラインのCQの数は20〜30程度とすること、CQのうち「すでに結論が明らかなもの」はbackground knowledgeとすること、「エビデンスが存在せず、今後の研究課題であるもの」はfuture research question(FRQ)とすることも確認された。
2018年7月の同年第1回ガイドライン委員会において、11のガイドラインのうち、肝疾患を扱う肝硬変、NAFLD/NASHの2つについては日本肝臓学会との合同ガイドラインとして改訂することが承認された。前版ではいずれも日本肝臓学会は協力学会として発刊されたが、両学会合同であることが、よりエビデンスと信頼を強めるということで両学会にて合意されたものである。また、COI開示については、利益相反委員会が定める方針に基づき厳密に行うことも確認された。同年10月の委員会追補ではbackground knowledgeはbackground question(BQ)に名称変更し、BQ・CQ・FRQと3つのQuestion形式にすることが決められた。
刊行間近の2019〜2020年には、日本医学会のガイドライン委員会COIに関する規定が改定されたのに伴い、本学会においても規定改定を行い、さらに厳密なCOI管理を行うこととした。また、これまでのガイドライン委員会が各ガイドライン作成委員長の集まりであったことを改め、ガイドライン統括委員会も組織された。これも、社会から信頼されるガイドラインを公表するために必須の変革であったと考える。
最新のエビデンスを網羅した今回の改訂版は、前版に比べて内容的により充実し、記載の精度も高まっている。必ずや、わが国、そして世界の消化器病の臨床において大きな役割を果たすものと考えている。
最後に、ガイドライン委員会担当理事として多大なご尽力をいただいた榎本信幸理事、佐々木裕利益相反担当理事、研究推進室長である三輪洋人副理事長、ならびに多くの時間と労力を惜しまず改訂作業を遂行された作成委員会ならびに評価委員会の諸先生、刊行にあたり丁寧なご支援をいただいた南江堂出版部の皆様に心より御礼を申し上げたい。
2020年10月
日本消化器病学会理事長
小池和彦
日本消化器病学会編集による『炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン』が,関連団体の協力を得て改訂された.最新のエビデンスに基づく必要上,診療ガイドライン(PG)の賞味期限は5 年間と定められているが,これを下回るわずか4 年で改訂されたことはまさに快挙である.消化器各領域のなかで,IBD は最も進歩の早い分野である.初版刊行後に承認され日常診療に活用されている治療薬や診断手技は数多い.これらが網羅されていないと,実臨床で役立つ情報源とはなり得ず,IBD 診療に携わる医師は今回の改訂を待ち望んでいた.改訂版PG の作成委員はわが国のIBD 診療・研究のリーダーと目される大変多忙な方々である.緻密な手順に沿って作成されるPG 開発には膨大な労力が必要で,とくに進歩の早いIBD 領域では改訂版といえども新規開発に近い作業が必要なはずである.委員の方々の熱意,努力,エネルギーに敬意を表したい.
今回の改訂版では,IBD 診療の進化に則して項目が追加されているだけでなく,全体の構成が見直されている.治療各論では潰瘍性大腸炎,クローン病に分けず,治療薬(法)ごとに両疾患がまとめられている.共通のクエスチョンにおける無駄が省けているが,臨床で使いやすいかどうかは利用者の判断に委ねられる.疾患別,病態別の診断・治療アプローチは,初版を参考とし新規治療薬を追加して改変されたフローチャートに示され,最先端のIBD 診療に対応できる構成である.改訂版の顕著な特徴はクエスチョンの設定にある.明確なエビデンスに基づき診療を左右する推奨を提示するもののみをclinical question(CQ)としたうえで,すでに疑問の余地のないものはbackground question(BQ)とし,さらに今後解明されるべき課題をfuture research question(FRQ)と区別している.これはなかなかよいアイデアである.ただ,BQ のなかにもエビデンスレベルと推奨の強さを提示する本来CQ といえる項目も決して少なくなかったが,改訂作業を省エネ化して迅速に進めるうえで,賢明な判断といえよう.FRQ がPG に含まれるべきかについては異論があろうが,思い込みを是正するうえで役立つし,これからの研究者への提言としても有用で,個人的には楽しんで読むことができた.
2011 年にInstitute of Medicine は「エビデンスの系統的なレビューによって情報化され,他の診療選択の有益性と有害性を評価したうえで,患者のケアを最適化することを目的とした推奨を伴うステートメント」とPG の定義を改訂した.特定の臨床状況で医師と患者を支援するという従来の文言が削除され,PG の方向性が異なっているように思われる.そしてエビデンスの収集・吟味・抽出に膨大な作業が必要となり,そもそもCQ を立てづらくなって開発が困難になった結果,世界のPG は大きく変わっている.既存のPG の改訂が中止されたり,consensus statement という呼称に代えたりしている状況である.最近の厳密に開発されたPG はCQ が限定的で診療のquality indicator のようなものであり,とても日常診療を支援するとは思えない.今回の改訂版がPG の新基準にとらわれすぎず柔軟な考えで実際の診療に役立つよい情報を提供してくれたことは,利用者にとって大変ありがたいと考える.
臨床雑誌内科128巻1号(2021年7月号)より転載
評者●大船中央病院 特別顧問 上野文昭