心音ふしぎ探検
坂本二哉の心臓病診断実習補講
著 | : 坂本二哉 |
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聞き手 | : 村川裕二 |
ISBN | : 978-4-524-22691-7 |
発行年月 | : 2021年6月 |
判型 | : A5 |
ページ数 | : 224 |
在庫
定価3,960円(本体3,600円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
臨床心音図学,臨床心エコー図学,臨床心臓病学を確立した伝説の医師・教育者である坂本二哉先生への村川裕二先生によるインタビューをもとに,心音聴診・心臓病診断の技術と知識,そしてその面白さと奥深さを現代および後世の医師に伝える一冊.村川先生による切れ味鋭い質問に,数万例を超える圧倒的な診療経験や研究成果をもとに坂本先生が回答.坂本先生の聴診学,診断学の神髄と哲学に触れながら,明日からの診療に活かすヒントが学べる.―‟あなたも,わくわくする心音のふしぎを探検してみませんか?”
はじめに
この本ができるまで(聞き手 村川裕二)
序説 聴診器の今昔
1 聴診器をどのように使うか
2 聴診器をどこにあてる
3 心エコーが使える今
4 T音
5 重要なU音
6 そのほかの心音とは
7 胸に手をあてるとき
8 すべての人に雑音がある:生理的雑音
9 昔の心雑音・いまどきの心雑音
10 心雑音の「お名前」
11 大動脈弁閉鎖不全
12 大動脈弁硬化性雑音
13 大動脈弁狭窄
14 僧帽弁閉鎖不全
15 僧帽弁逸脱症候群
16 右心性の心雑音
17 僧帽弁狭窄
18 内科医からみた先天性心疾患@
19 内科医からみた先天性心疾患A
20 内科医からみた先天性心疾患B
21 心筋症は心電図をみれば分かるけど
22 虚血性心疾患こそ心電図の独壇場では
23 心膜摩擦音を聴き落とすな
24 頸静脈を診て意味はあるか
25 足を診る
26 苦しくなくても重症心不全
27 肺音の異常
28 甲状腺の怪
29 どこにでも雑音は出る
30 若者は胸が痛い
31 貧血は雑音が出る
32 雑音が呼んでいる:高安病
まとめ
参考文献
はじめに
かれこれ20年間、毎年神戸で循環器Physical Examination 研究会による同名の講習会が開かれている。近年、若手医師の患者に対する外来診察能力劣化が目立ち、心ある医師と患者双方から疑問の声が上がっている。また一方では、年輩医師たちの外来診療教育に対する自信が喪失しかかっている。これらのことを憂えての講習会である。つまり、外来ではどのように患者に接し、いかにして有意な診断所見を得るかがこの講習会の眼目である。
筆者は第2回から講師の一員として参加し、特別講演を行ってきた。そもそも米国のW. Proctor Harvey(ハーヴェイ)が強調する循環器疾患診断を支える「5本の指」、つまり@問診、A身体所見(かつての理学的所見:Physical Examination の訳)、B心電図、C胸部X線、そしてD血液や尿などのいわゆる生化学的検査の中にあって、直接患者に接する部分にまつわる講話を行うのである。それらのうち、実際の外来では@とAが中心で、循環器疾患ではこの2つで大まかな診断が下り、その後の方針が決まると言っても過言ではない。特に心血管聴診は重要で、この講習会のほか、ここ数年は全国各地で「聴診のススメin Tokyo」といったたぐいの聴診に特化した講習会も盛んである。そしてどこでもすぐに満員となる。
こういった会場を見渡すと、もちろん若手が中心で、彼らは大学で十分な教育が受けにくいことを嘆いている。一方、教育する側には、現代式Physical Examination の教育法に自信が持てずに戸惑っている年輩医師もおられる。常に会場には熱気があふれている。
「問診、視診、触診、聴診を主体としたPhysical Examination をきちんと行えば、ほとんどの心疾患の大まかな診断が可能である。また狭心症のように問診でしか診断できないものもあり、精密検査によりかえって誤診を招くこともある。もし自分の診断が精密検査に及ばない例があればその理由を考えなくてはならない。そうしないと外来診断の腕は上がらない。つまり、精密検査は自分の問診や身体所見採取に対する検証の手段だと考えるべきである。」これが筆者のポリシーである。
本書はそのような現状のもとに、日常診療においてこれだけはという必須の事項を分かりやすく解説したものである。つまり、いざというときにあまり役立たない従来の詳細な診断学の書籍から脱して、もちろんこれで万全、100%とはいかないが、常に「どうしてもこれだけは」という点を、初心者を意識して語ってみたもので、より学びやすくなるよう、語り手の「私」と聞き手の「村川先生」の対話形式にした。なお、私独自の考えが多いので、その根拠となる参考文献を巻末に付記した。
本書が若い医師たちの向学心をかきたて、また日常診療に役立つことを期待するものである。
著者である坂本二哉先生は,わが国における臨床心臓病学の父ともいえる医学者であり,優れた臨床医である.数多くの世界的な研究業績を発表され,心臓病診断学の礎を築かれた.さらに,日本心臓病学会や日本心エコー図学会など多くの学会を設立し,心臓病学を牽引した数多くのリーダーを育て上げた教育者でもある.筆者の師であり,心エコー図学のレジェンドでもある故 吉川純一先生(元大阪市立大学教授)もその門弟の一人である.坂本二哉先生がとくに力を入れて確立されたのが,問診,視診,触診,聴診を主体としたphysical examination による診断学であり,なかでも聴診はこの分野のバイブルともいえる『臨床心音図学』(南山堂,1963 年)に体系的にまとめられ,現在われわれが学んでいる聴診法の基礎となっている.一方で,さまざまな教科書に記載されている聴診所見を知識としては知っていても,臨床技術として使いこなすことは難しいと考える人も多い.そのため,physical examination に関する講習会は現在でも受講者で溢れ返っている.これには,学校で聴診を教えるほうも学ぶほうも知識としては知っていても,そこに至る理論的背景や実体験が不足していることも無関係ではない.
このたび,坂本二哉先生がコンパクトな単行本として『心音ふしぎ探検』を上梓された.坂本二哉先生の聴診学は『臨床心音図学』に記されたごとく膨大で奥深いものであるが,そこにおけるプロセスは思いのほかシンプルである.聴診器を通して患者さんの身体と対話し,そこから得られる現象をよく自分の頭で考えて,体系的に解釈するというものである.また聴診から得られるものには,驚くべきことに,心疾患の主要な診断法の一つである心エコー図を凌駕するものがあるという.本書は,かつて医学生として坂本二哉先生の授業を実際に受講された村川裕二先生との対話形式で書かれている.その対話のなかで,聴診器を通して伝わってくる患者さんの異常を鋭敏に汲み取るテクニックと,深い洞察によって解釈に至るフィロソフィーが,坂本二哉先生みずからによって活き活きと語られている.読者は,その言葉によって,聴診を体系的な学問としてまとめ上げたプロセスの一つ一つを共有できることに気づくであろう.そしてこの本は,さまざまな気づかされる機会にも満ち溢れている.坂本二哉先生がWarren 先生の言葉を借りて伝えたかった「聴診器のもっとも大切な部分は2 つのイヤーピースの間にある」,つまり“聴かれたことを頭脳で考えよ”という言葉は,まさしく坂本二哉先生が伝えたかったフィロソフィーであり,新たな気づきとなる読者も多いことであろう.聴診の上達のコツは,ただ教科書に書かれた所見を丸暗記して体験することではなく,考える力にこそあるのだと本書は伝えている.循環器内科医に限らず,聴診器をもっているすべての医療関係者には,ぜひ本書を手に取って“考えて聴診するテクニックとフィロソフィー”を学んでいただきたい.きっと本書を読み終えた日からは,聴診器から聴こえてくる心音が私たちに伝えたいことが,活き活きと理解できるようになっていることであろう.
臨床雑誌内科129巻3号(2022年3月号)より転載
評者●東京大学医学部附属病院検査部 講師 大門雅夫