日本整形外科学会診療ガイドライン
腰痛診療ガイドライン2019改訂第2版
監修 | : 日本整形外科学会/日本腰痛学会 |
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編集 | : 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/腰痛診療ガイドライン策定委員会 |
ISBN | : 978-4-524-22574-3 |
発行年月 | : 2019年5月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 102 |
在庫
定価3,300円(本体3,000円 + 税)
正誤表
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2019年09月02日
第1刷・第2刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
国民病といえる腰痛の的確なトリアージとプライマリケアに関し、新しいガイドライン作成指針に基づいて内容を刷新。益と害のバランス、コストや患者の好みも踏まえ、日本を代表する専門家が診断・治療の指針とその推奨を示した。整形外科医をはじめ、内科医・ペインクリニシャンなど腰痛患者に接する全診療科に有益な内容を網羅した。
前文
Background Question1 腰痛はどのように定義されるか
Background Question2 腰痛の病態は何か
Background Question3 腰痛の自然経過はどのようであるか
Background Question4 腰痛は生活習慣と関係があるか
Background Question5 腰痛と職業の間に関係はあるか
Background Question6 腰痛は心理社会的因子と関係があるか
Background Question7 腰痛患者が初診した場合に必要とされる診断の手順は
Background Question8 腰痛診断において有用な画像検査は何か
Clinical Question1 腰痛の治療は安静よりも活動性維持のほうが有用か
Clinical Question2 腰痛に薬物療法は有用か
Clinical Question3 腰痛の治療として物理・装具療法は有用か
Clinical Question4 腰痛に運動療法は有用か
Clinical Question5 腰痛に患者教育と心理行動的アプローチ(認知行動療法)は有用か
Clinical Question6 腰痛にインターベンション治療(神経ブロック,注射療法,脊髄刺激療法など)は有用か
Clinical Question7 腰痛に手術療法(脊椎固定術)は有用か
Clinical Question8 腰痛に代替療法は有用であるか
Background Question9 腰痛の治療評価法で有用なものは何か
Clinical Question9 腰痛予防に有用な方法はあるか
索引
改訂第2版の序
『腰痛診療ガイドライン2012』が策定されてすでに6年半が経過した。策定作業に直接携わった者の一人として、このガイドラインが腰痛診療の発展のために一定の役割を果たしたと自負している。しかし、発刊当時から多くの研究や論文が発表され、腰痛治療に関する新たな知見が積み上げられた。ガイドラインの約半数は、まさに6年で時代遅れとなり、3〜5年ごとに定期的に改訂されるべきという報告もある。かかる背景を基に、その改訂版を策定すべく腰痛診療ガイドライン改訂版策定委員会が編成された。2015年12月に第1回委員会が開催され、爾来3年を超える年月、作業を進めてきた。2018年末に最終原稿が完成し、今ここに完成版を世に問う。
改訂版の理念は、初版と同じである。腰痛のプライマリケアに焦点を絞り、腰痛患者に対して正しく、的確なトリアージを可能せしめることとした。整形外科医はもちろん、内科医をはじめとする各専門医家にとって、evidence-based medicine(EBM)に則った適切な情報を提供する目的も同じである。しかし、前回と比べ、ガイドライン策定方法は世界的に大きく変化した。改訂版では、日本医療機能評価機構(Minds)が新しく出版し、推奨する『Minds診療ガイドライン作成の手引き2014』に完全準拠した。特徴は主に2つである。(1)「エビデンス総体(body of evidence)」の重要性:従来、個々の論文のエビデンス単体を基盤とした作成から、複数の論文をシステマティックレビューし、採用されたエビデンス全体を「エビデンス総体」として評価・統合した。(2)「益と害(benefit and harm)のバランス」を考慮:従来、診断・治療法の有益性にのみ注目していた作成法を、その有害性にも着目して評価した。まさしく、global standard(世界標準)的なガイドラインといえる。
本ガイドライン作成に際しては、数多くの方々の御協力を得た。まずはじめに、策定委員12名、アドバイザー2名の先生方には最大の謝意を送りたい。特に、作成方法論担当委員として参画いただいた吉田雅博先生(Minds)には、すべての過程で適切な助言をいただいた。心から感謝申し上げる。日本整形外科学会理事長山崎正志先生、同診療ガイドライン委員会担当理事志波直人先生、同委員長市村正一先生の御支援・御配慮なくして、改訂版は完成しなかった。併せて、謝意を表したい。日本整形外科学会会員、日本脊椎脊髄病学会指導医、日本腰痛学会評議員、日本運動器疼痛学会代議員の先生方には、多数の貴重な御意見を頂戴し、参考にした。この場を借りて、心から御礼を申し上げる。文献検索、策定業務の集約など、すべての実務面では、国際医学情報センター深田名保子氏に、刊行に際する専門的業務では、南江堂枳穀智哉氏に御世話戴いた。併せて御礼を申し上げる。
すべての臨床医家、ひいては腰痛に苦しむ患者さんにとって、本ガイドラインが診療の「道標」となることを切に願うものである。
2019年5月
日本整形外科学会
腰痛診療ガイドライン策定委員会
委員長 白土修
9784524225743
腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)
2019年5月、本GL(改訂第2版)が出版された。2012年の初版の発刊以来待ちに待った6年半ぶりの改訂である。初版GLは2008年までの文献検索により作成されていたが、本GLにはそれ以後10年の新たな文献の蓄積がある。この間には腰痛に関する科学的エビデンスには相当な進歩があり、それがまとまった形で記されたことの意義は大きい。
初版の作成時にも感じていたことであるが、本GLは腰痛という症状を扱っている。これは日本整形外科学会が監修している腰椎椎間板ヘルニアなどその他のGLとは趣が異なる。すなわち後者は診断名であり、比較的容易に定義することができる。一方、本GLについては初版および改訂第2版とも冒頭に腰痛はどのように定義されるか、という項目でページを割いてていねいに説明を加えている。このことは読者にとって親切であり理解しやすい。しかし作成する側にとっては多くの文献にあたらなければいけない。本GLでは一次選択で2,686論文が採用され、最終的に385論文を採択するという膨大な作業がなされている。あらためて担当をされた白土修委員長をはじめ、策定委員、協力者の皆様方に敬意を表する次第である。
本GLで掲げた項目は初版のものとよく似ているが、その記載の仕方は大きく異なる点がある。これはGL策定の重要な手引きである「Minds診療ガイドライン作成の手引き」が2014年に改訂され、その策定方法が大幅に改定されたことによる。この手引きによると、GLは「診療上重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考慮して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義されている。
具体的な点での大きな違いは、各項目をBackground Question(BQ)とClinical Question(CQ)に分けたことである。BQとは教科書的記述のことであり、たとえば、「BQ2:腰痛の病態は」、「BQ3:腰痛の自然経過はどのようであるか」、など本来推奨度を設けられるものではない項目である。一方、CQは、「CQ1:腰痛の治療は安静よりも活動性維持のほうが有用か」、「CQ2:腰痛に薬物療法は有用か」、など対立する意見がある中でエビデンスを吟味し推奨度を設けた項目である。それぞれ推奨度[行うことを強く推奨する、または弱く推奨する(提案する)]とエビデンスの強さ(強、中、弱、とても弱い)が示され、委員の合意率も記されている。したがって利用する側には、より具体的な判断材料が得られる。いかなる過程で推奨度とエビデンスの強さが示されているのか、興味ある箇所はぜひ解説も参考にされるとよい。
今後の課題として、以下の3点をあげたい。
1.本GLがどのように利用されているのかを検証すること
せっかく苦労し作成されたGLが利用者にとって有益なものであるか? 出版前には学会を通じてパブリックコメントをもらってはいるが、実際発刊後どれほどの方がGLを使用しているか、どのような意見があるかを再度学会をあげて検証する必要があると考えられる。GLは適正な予防・診断・治療を行うためのもので、裁判・訴訟に用いることを主旨としないと基本方針に明記してある。本来の使われ方の検証が必要であろう。
2.次回の改訂作業をいつの段階で行うのかを決めること
GLとはエビデンスの集積によって変化するものである。今回の改訂までの6年半という時間は妥当であったと考えられるが、今後腰痛に関するエビデンスの増減によって次回の改訂時期は前後する。
3.委員選出の妥当性を再考すること
初版も本GLも携わった委員は脊椎脊髄病の専門医である。一方、欧米の腰痛GLでは内科医、総合診療医、麻酔科医、リハビリテーション医、理学療法士など、さまざまな職種の構成員がいる。また患者代表を委員に入れるべきとの意見も聞く。これらの意見に耳を傾けつつ委員を選考し、わが国における最適なGLを作成する必要がある。
本GLの理念は、「腰痛のプライマリケアに焦点を絞り、腰痛患者に対して正しく、的確なトリアージをせしめること」と記載されている。本GLが一般診療において迷ったときの道標になることを切に願うものである。また、明らかでないエビデンスを明らかにしようとする研究テーマを探す文献集としても有用なものになろう。ぜひこのような観点から本GLを手にとっていただくことをおすすめする。
臨床雑誌整形外科71巻7号(2020年6月号)より転載
評者●富山大学整形外科教授 川口善治