肝硬変診療ガイドライン2020改訂第3版
編集 | : 日本消化器病学会・日本肝臓学会 |
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ISBN | : 978-4-524-22545-3 |
発行年月 | : 2020年11月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 196 |
在庫
定価3,520円(本体3,200円 + 税)
サポート情報
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2021年01月27日
日本肝臓学会ガイドライン統括委員会の利益相反
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
日本消化器病学会・日本肝臓学会の共編による診療ガイドライン。Mindsの作成マニュアルに準拠し、臨床上の疑問をCQ(clinical question)、BQ(background question)、FRQ(future research question)に分けて記載。CQではエビデンスレベルと推奨の強さを提示。肝硬変診療における、概念、診断、治療、合併症、予後予測、肝移植等について、エビデンスに基づき現時点の標準的な指針を示す。
クエスチョン一覧
第1章 疫学
BQ1-1 肝硬変の原因や病態はどのようなものか?
FRQ1-1 Acute-on-chronic liver failure(ACLF)の病態はどのようなものか?
第2章 診断
BQ2-1 血液生化学的検査・画像診断所見は肝硬変の診断に有用か?
第3章 治療
(1)栄養療法
BQ3-1 肝硬変患者の低栄養状態や肥満は予後に影響するか?
BQ3-2 就寝前エネルギー投与は肝硬変の病態に影響するか?
BQ3-3 分岐鎖アミノ酸製剤投与は肝硬変の病態改善に有用か?
BQ3-4 肝硬変患者に推奨されるエネルギー・蛋白質摂取量は?
CQ3-1 糖尿病は肝硬変の病態に影響するか?
CQ3-2 分割食や食習慣は肝硬変患者の病態に影響するか?
(2)抗ウイルス療法
BQ3-5 B型肝硬変の予後にかかわるB型肝炎ウイルス(HBV)関連マーカーは何か?
BQ3-6 ウイルス学的著効(SVR)が得られたC型肝硬変では線維化が改善するか?
CQ3-3 B型肝硬変患者に対して,核酸アナログは有用か?
CQ3-4 ウイルス学的著効(SVR)となったC型肝硬変患者にはどのような(肝癌の)サーベイランスが推奨されるか?
CQ3-5 どのようなC型肝硬変患者に対して,DAAは有用か?
(3)肝庇護療法など
CQ3-6 抗ウイルス療法以外にウイルス性肝硬変の線維化を抑制する治療法はあるか?
(4)非ウイルス性肝硬変の治療
BQ3-7 禁酒はアルコール性肝硬変の線維化や予後を改善するか?
CQ3-7 ステロイドは自己免疫性肝炎(AIH)による肝硬変の線維化や予後を改善するか?
CQ3-8 薬物療法は原発性胆汁性胆管炎(PBC)による肝硬変の線維化や予後を改善するか?
CQ3-9 薬物療法は原発性硬化性胆管炎(PSC)による肝硬変の予後を改善するか?
FRQ3-1 アルコール性肝硬変について禁酒以外の治療法はあるか?
FRQ3-2 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)による肝硬変の線維化を改善する薬物療法はあるか?
第4章 肝硬変合併症の診断・治療
(1)消化管出血,門脈圧亢進症
BQ4-1 上部内視鏡検査での発赤所見(RC sign)は,食道・胃静脈瘤出血の危険因子か?
BQ4-2 腹部超音波,腹部造影CT,MRI検査は門脈圧亢進症の診断に有用か?
CQ4-1 食道・胃静脈瘤出血予防に有用な薬物療法は何か?
CQ4-2 食道・胃静脈瘤出血時に血管作動性薬の投与は有用か?
CQ4-3 門脈圧亢進症性胃症(PHG)に対して薬物療法は有用か?
CQ4-4 酸分泌抑制薬は肝硬変患者の消化管出血予防に有用か?
CQ4-5 食道静脈瘤に対する予防的内視鏡的食道静脈瘤結紮術(EVL)と内視鏡的食道静脈瘤硬化療法(EIS)は再発防止に有用か?
CQ4-6 胃静脈瘤や脳症に対してバルーン下逆行性経静脈的静脈瘤塞栓術(BRTO)は有用か?
CQ4-7 胃穹窿部静脈瘤に対する出血予防治療において,cyanoacrylate系薬剤注入法は予後を改善するか?
(2)腹水
BQ4-3 肝性腹水や特発性細菌性腹膜炎(SBP)の有用な診断方法は何か?
BQ4-4 肝硬変に伴う腹水に対して減塩食は有用か?
BQ4-5 肝硬変に伴う腹水に対してアルブミン投与は有効か?
BQ4-6 肝硬変の腹水に対してスピロノラクトン,ループ利尿薬の有用な投与法は?
BQ4-7 肝硬変に伴う腹水に対してバソプレシンV2受容体拮抗薬は有用か?
BQ4-8 難治性腹水に対して大量腹水穿刺排液は有用か?
BQ4-9 肝硬変に伴う難治性腹水に対して,腹膜・頸静脈シャント(P-Vシャント)は有用か?
BQ4-10 肝硬変に特発性細菌性腹膜炎(SBP)や感染が合併すると予後は悪化するか?
CQ4-8 腹水を伴う重症肝硬変症例に対して予防的抗菌薬投与は有用か?
CQ4-9 肝硬変に伴う難治性腹水に対して,腹水濾過濃縮再静注法(CART)は有用か?
CQ4-10 肝硬変に伴う腹水に対してバソプレシンV2受容体拮抗薬の推奨される投与時期は?
FRQ4-1 肝硬変に伴う腹水に対するバソプレシンV2受容体拮抗薬の効果予測因子はあるか?
FRQ4-2 肝硬変に伴う難治性腹水に対して,経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)は有用か?
(3)肝腎症候群
BQ4-11 腎障害は肝硬変患者の予後に影響するか?
BQ4-12 肝移植は肝腎症候群の予後を改善するか?
CQ4-11 肝腎症候群に対して,有用な薬剤はあるか?
FRQ4-3 肝腎症候群に対して超音波検査は有用か?
FRQ4-4 肝腎症候群に対して経頸静脈肝内門脈大循環シャント術(TIPS)は有用か?
(4)肝性脳症
BQ4-13 肝性脳症に対して非吸収性合成二糖類は有用か?
BQ4-14 肝性脳症に対して分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤は有用か?
CQ4-12 不顕性肝性脳症に対して治療は必要か?
CQ4-13 肝性脳症に対して腸管非吸収性抗菌薬は有用か?
CQ4-14 肝性脳症に対して亜鉛製剤は有用か?
CQ4-15 肝性脳症に対してカルニチンは有用か?
CQ4-16 肝性脳症に対してプロバイオティクスは有用か?
(5)門脈血栓症
BQ4-15 肝硬変に生じた門脈血栓症の病態・予後はどのようなものか?
CQ4-17 肝硬変に生じた門脈血栓症に対して有用な治療は何か?
(6)サルコペニア・筋痙攣
CQ4-18 サルコペニアは肝硬変患者の病態・予後に影響するか?
CQ4-19 肝硬変に合併するサルコペニアに有用な治療はあるか?
CQ4-20 肝硬変に合併する筋痙攣に有用な治療はあるか?
(7)その他
CQ4-21 肝硬変に伴う血小板減少症に対して,トロンボポエチン受容体作動薬は有用か?
CQ4-22 肝硬変に伴う瘙痒症に対して,経口瘙痒症改善薬(ナルフラフィン塩酸塩)は有用か?
FRQ4-5 脾摘,部分的脾塞栓術(PSE)は肝硬変の病態改善に有用か?
FRQ4-6 肝肺症候群はどのようなものか?
FRQ4-7 門脈圧亢進症に伴う肺動脈性肺高血圧症(portopulmonary hypertension:PoPH)とはどのようなものか?
FRQ4-8 ビタミンD欠乏は肝硬変患者の病態・予後に影響するか?
第5章 予後予測
BQ5-1 CP(Child-Pugh)分類,MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score(MELD-Na)は肝硬変の予後予測に有用か?
CQ5-1 CP(Child-Pugh)分類,MELD(Model for End-Stage Liver Disease)score(MELD-Na score)以外で,肝硬変の予後予測に有用な項目は何か?
第6章 肝移植
BQ6-1 非代償性肝硬変に対する肝移植は予後を改善するか?
CQ6-1 肝移植後のB型肝炎ウイルス感染制御に抗ウイルス療法は有用か?
CQ6-2 C型肝硬変に対する肝移植前後の抗ウイルス療法を行うべきか?
CQ6-3 非ウイルス性肝硬変に対して肝移植は有用か?
刊行にあたって
日本消化器病学会は、2005年に跡見裕理事長(当時)の発議によって、Evidence-Based Medi-cine(EBM)の手法にそったガイドラインの作成を行うことを決定し、3年余をかけて消化器6疾患(胃食道逆流症(GERD)、消化性潰瘍、肝硬変、クローン病、胆石症、慢性膵炎)のガイドライン(第一次ガイドライン)を上梓した。ガイドライン委員会を積み重ね、文献検索範囲、文献採用基準、エビデンスレベル、推奨グレードなどEBM手法の統一性についての合意と、クリニカルクエスチョン(CQ)の設定など、基本的な枠組み設定のもと作成が行われた。ガイドライン作成における利益相反(Conflict of Interest:COI)を重要視し、EBM専門家から提案された基準に基づいてガイドライン委員のCOIを公開している。菅野健太郎理事長(当時)のリーダーシップのもとに学会をあげての事業として継続されたガイドライン作成は、先進的な取り組みであり、わが国の消化器診療の方向性を学会主導で示したものとして大きな価値があったと評価される。
第一次ガイドラインに次いで、2014年に機能性ディスペプシア(FD)、過敏性腸症候群(IBS)大腸ポリープ、NAFLD/NASHの4疾患についても、診療ガイドライン(第二次ガイドライン)、を刊行した。この2014年には、第一次ガイドラインも作成後5年が経過するため、先行6疾患のガイドラインの改訂作業も併せて行われた。改訂版では第二次ガイドライン作成と同様、国際的主流となっているGRADE(The Grading of Recommendations Assessment、Development and Evaluation)システムを取り入れている。
そして、2019〜2021年には本学会の10ガイドラインが刊行後5年を超えることになるため、下瀬川徹理事長(当時)のもと、医学・医療の進歩を取り入れてこれら全てを改訂することとした。2017年8月の第1回ガイドライン委員会においては、10ガイドラインの改訂を決定するとともに、近年、治療法に進歩の認められる「慢性便秘症」も加え、合計11のガイドラインを本学会として発刊することとした。また、各ガイドラインのCQの数は20〜30程度とすること、CQのうち「すでに結論が明らかなもの」はbackground knowledgeとすること、「エビデンスが存在せず、今後の研究課題であるもの」はfuture research question(FRQ)とすることも確認された。
2018年7月の同年第1回ガイドライン委員会において、11のガイドラインのうち、肝疾患を扱う肝硬変、NAFLD/NASHの2つについては日本肝臓学会との合同ガイドラインとして改訂することが承認された。前版ではいずれも日本肝臓学会は協力学会として発刊されたが、両学会合同であることが、よりエビデンスと信頼を強めるということで両学会にて合意されたものである。また、COI開示については、利益相反委員会が定める方針に基づき厳密に行うことも確認された。同年10月の委員会追補ではbackground knowledgeはbackground question(BQ)に名称変更し、BQ・CQ・FRQと3つのQuestion形式にすることが決められた。
刊行間近の2019〜2020年には、日本医学会のガイドライン委員会COIに関する規定が改定されたのに伴い、本学会においても規定改定を行い、さらに厳密なCOI管理を行うこととした。また、これまでのガイドライン委員会が各ガイドライン作成委員長の集まりであったことを改め、ガイドライン統括委員会も組織された。これも、社会から信頼されるガイドラインを公表するために必須の変革であったと考える。
最新のエビデンスを網羅した今回の改訂版は、前版に比べて内容的により充実し、記載の精度も高まっている。必ずや、わが国、そして世界の消化器病の臨床において大きな役割を果たすものと考えている。
最後に、ガイドライン委員会担当理事として多大なご尽力をいただいた榎本信幸理事、佐々木裕利益相反担当理事、研究推進室長である三輪洋人副理事長、ならびに多くの時間と労力を惜しまず改訂作業を遂行された作成委員会ならびに評価委員会の諸先生、刊行にあたり丁寧なご支援をいただいた南江堂出版部の皆様に心より御礼を申し上げたい。
2020年10月
日本消化器病学会理事長
小池和彦
ご存知のように2020年のノーベル医学・生理学賞はC型肝炎ウイルス(HCV)の発見者(Alter HV,Houghton M,Rice CM)に授与され,1976年のB型肝炎ウイルス(HBV)発見者(Blumberg BS)への授与と相まって肝臓病領域での大きな出来事であった.日本人の慢性肝疾患の主な原因であったHBV,HCV感染症の原因や実態が明らかになることは,より根治的な治療法の開発につながることであり,今やB型肝疾患では核酸アナログの,またC型肝疾患ではDAA製剤の導入によりコントロールが可能となった.では,肝臓疾患の臨床に携わるわれわれの対象患者が少なくなったのかといえばそうではない.肥満や糖尿病に伴う非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD),自己免疫性肝疾患,薬物性肝障害は複雑化する社会情勢に呼応して増加している.肝細胞がんに関していえば非B・非Cが圧倒的に増加しており,われわれの肝疾患に対する意識の変革が要求されている.
慢性肝疾患の終着点は肝硬変であり,また,原発性肝がんである.B型肝炎やC型肝炎に対する治療法がほぼ確立された現在,われわれの対象はおのずと“死にいたる病”としての肝硬変患者の救済ということになる.一方では,肝硬変の病態は一様ではなく病態に応じた対策が必須であり,これが肝硬変診療を難しくしている.これに対して,日本消化器病学会は2010年,2015年と5年ごとに同名のガイドラインを発行してきたが,最近の肝硬変診療の目覚ましい進歩に対応するため日本肝臓学会と共同で改訂第3版を出版することになった.これは日本肝臓学会理事長でもあった現日本消化器病学会 小池和彦理事長と日本肝臓学会 竹原徹郎理事長の英断によるものであろう.したがって,作成委員会のメンバーも種々の肝硬変病態に詳しい方々によって構成され,何よりも吉治仁志教授が作成委員長として参画されたことがこのガイドラインの価値を高めたと思う.彼は2019年に『肝硬変治療マニュアル:エキスパートのコツとさじ加減』(南江堂)も出版しており,編集のすばらしさは実証済みである.
さて,このガイドラインを開くと真っ先に目に入ってくるのは“ガイドラインのもつ意味”を広く知らしめる文言であり,そこにこの本の新鮮さを感じた.紙幅の関係で採択されたクエスチョンのそれぞれに関してコメントすることはできないが,ガイドライン作成のためのクエスチョンに関し“臨床疑問(clinical question:CQ)”,“背景疑問(background question:BQ)”,“データ不足で今後の重要課題(future research question:FRQ)”に分類し,クエスチョンに対するガイドラインの信頼度に関しては推奨の強さを「強い推奨」と「弱い推奨」に分け,読者の判断に一定の方向性をもたらしている.ユニークなのは推奨の信頼度に関して作成委員の投票結果,すなわち信頼度の割合が具体的に提示されていることである.次回の改訂の折にどのように信頼度が変わるか考えると興味深い.クエスチョンに関しても最近話題の非代償期C型肝硬変におけるDAA製剤治療,サルコペニア,こむら返り,瘙痒症,肝肺症候群,門脈圧亢進に伴う肺高血圧症などが新たに採択されている.読者には日常の肝硬変診療で困った場合にはご自身のクエスチョンをガイドラインで紐解けば治療の方向性を知ることができるようになっているので,大いに活用されることを期待している.
一点注意しなければならないのは,肝硬変診療ガイドラインに関しては欧米の各学会からも提唱されているが,tolvaptan使用不可の欧米での腹水治療,本邦に比較し大量のfurosemideを投与する傾向にある欧米,albumin大量投与が難しい本邦の腹水治療,門脈圧亢進症に対する内視鏡治療やインターベンショナル・ラジオロジー(IVR)治療に関心が低い欧米等々の相違があることはご承知おき願いたい.欧米のガイドラインに関してはBavenoワークショップでの議論を経て一定の方向性が示される現状にあるが,本邦も2020年から正式メンバーとして招待されることになり,本邦のガイドラインを国際的にも認知させる機会を得た.
以上のような理由で,消化器病,肝臓病診療を主とする医師のみならず,広く内科,外科診療に携わる医師には必携のテキストとして推奨するものである.
臨床雑誌内科127巻5号(2021年5月号)より転載
評者●周南記念病院名誉院長,山口大学 名誉教授 沖田 極