病巣×病因で整理する神経診断
| 編集 | : 西山和利/川又純 |
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| ISBN | : 978-4-524-22539-2 |
| 発行年月 | : 2025年5月 |
| 判型 | : B5判 |
| ページ数 | : 256 |
在庫
定価6,380円(本体5,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文

研修医やプライマリ・ケア医を対象とした,脳神経疾患の鑑別診断を体系的に学べる1冊.病歴聴取を元にした「カテゴリー化」と,症候に基づく「病巣推測」を駆使して,診断力を高める.総論と症例編の2部構成で,総論では非特異的な症状の診断法を簡潔に解説.症例編では,鑑別疾患と必要な検査を通じて実践的に学べ,最終的な診断や治療方法も明記.実務に役立つ知識を凝縮した必携書.
総 論
1.脳神経内科での病歴聴取のコツ
?患者の訴えを医学用語(適切な症状名)に置き換える過程
?症状の神経診察から疾患の存在する部位を推論する過程(病巣診断)
?症状の発症様式や経過から病因を推論する過程(病因診断)
?病巣診断と病因診断から臨床診断を推論する過程
2.症状から病巣がわかる
A.「意識がおかしい」
?意識障害の診察の際に注意すべきこと
?患者の家族,あるいは発見者からの情報に耳を傾ける
?意識障害の病態・病巣を考えながら,患者の診察を行う
?意識障害の原因を鑑別するための検査
B.「行動がおかしい」
?行動異常の診察の際に注意すべきこと
?「行動がおかしい」という患者(家族)の訴えに耳を傾ける
?症状の原因部位を考えながら,患者の診察を行う
?認知機能の障害や高次脳機能障害について整理してみる
?物忘れ,高次脳機能障害の診察(検査)
C.「うまく歩けない」
?歩行障害の診察の際に注意すべきこと
?「うまく歩けない」という患者の訴えに耳を傾ける
?歩行障害の原因部位を考えながら,患者の診察を行う
?歩行障害は大きく分けて5種類ある
?歩行障害の診察(検査)
D.「眼がおかしい」
?眼の異常の診察の際に注意すべきこと
?「眼が見えない」と訴える患者をどのように診察するか
E.「力が入らない」
?筋力低下の診察の際に注意すべきこと
?「力が入らない」という患者の訴えに耳を傾ける
?筋力低下の原因部位を考えながら,患者の診察を行う
?神経診察
?筋力低下の鑑別診断は,責任病巣と発症経過を組み合わせて考える
F.「顔面の感覚がおかしい」「顔が歪んだがしっかり噛める」
?「顔面の感覚がおかしい」
?「顔が歪んだがしっかり噛める」
G.「めまいがする」
?めまいの診察の際に注意すべきこと(めまいの定義とその病態機序)
?めまいの鑑別診断
?眼振の評価と鑑別診断
?めまいの診察(検査)
H.「頭がいたい」
?頭痛の診察の際に注意すべきこと
?まずは二次性頭痛を意識して「頭がいたい」という患者の訴えに耳を傾ける
?頭痛の問診のポイント
?頭痛診療における身体診察のポイント
?代表的な二次性頭痛の診断ポイント
?一次性頭痛
?代表的な一次性頭痛の診断ポイント
I.「身体が勝手に動く」
?不随意運動の診察の際に注意すべきこと
?「身体が勝手に動く」という患者の訴えに耳を傾ける
?不随意運動の原因部位を考えながら,患者の診察を行う
?不随意運動の分類
J.「感覚がおかしい」
?感覚障害の診察の際に注意すべきこと
?「感覚がおかしい」と訴える患者をどのように診察するか
?感覚障害の分布や発症形式により病巣を考える
K.「排尿・排便がおかしい」
?排尿障害の診察の際に注意すべきこと
?尿失禁の分類と対応
?排尿障害パターンと経過から鑑別診断を挙げる
?排尿障害をきたす薬剤に注意する
?排便障害の診察の際に注意すべきこと
?排便障害を訴える患者の病巣診断を考える
?排便困難(便秘)の治療をどうするか
?蓄便障害(便失禁)の治療をどうするか
L.「話し方がおかしい」
?「話しづらい」,「話し方がおかしい」という患者の診察の際に注意すべきこと
?問診の注意点
?診察方法の実際
?症状から病巣に至るまでの考察
?球麻痺と偽性球麻痺
各 論
1.脳血管障害
1 急激に右片麻痺と失語をきたした75歳男性
2 急激に左片麻痺と,反応の低下が出現した81歳女性
3 突然の頭痛と意識障害をきたした58歳男性
4 突然の悪心・めまいを発症した42歳男性
5 1週間前より活気がなくなり,歩行障害を呈した85歳男性
6 術後に両下肢の麻痺に気が付いた72歳男性
2.神経変性疾患
7 2年前から四肢の脱力とやせが進行した53歳女性
8 電車のホームで人とぶつかり転倒したことを契機に受診した66歳男性
9 5年前からの歩行時のふらつきが進行している60歳女性
10 2年前から立ちくらみと歩行時のふらつきを呈した50歳男性
3.免疫性疾患
11 急に複視が出現した24歳女性
4.機能性疾患
12 意識障害,その後の痙攣を発症した18歳女性
13 視覚異常と頭痛を繰り返している20歳女性
14 走り出すと転んでしまう16歳男性
5.感染性疾患
15 数日の経過で発熱・頭痛を呈した70歳男性
16 発熱と意識障害と痙攣を呈した33歳男性
6.末梢神経疾患
17 2日前から両下肢の脱力を呈した28歳男性
18 急性に複視を呈した74歳男性
19 起床時に顔の動かしにくさに気づいた23歳男性
20 受診前日から耳鳴とめまいが生じた45歳男性
7.代謝性疾患
21 受診当日の朝に意識混濁を家族に発見された独居の70歳男性
22 半年前から徐々に進行する両下肢のしびれ感を呈した80歳男性
8.認知症
23 物忘れを主訴に家族と来院した82歳女性
24 物忘れと構音障害を呈した75歳男性
25 幻視と歩行障害をきたした70歳男性
9.筋疾患
26 両手のぎこちなさで仕事に支障をきたした34歳男性
27 半年前から四肢・首の脱力をきたした70歳女性
28 1年前から体重増加と四肢の筋力低下を呈した60歳女性
10.神経筋接合部疾患
29 1週間前から眼瞼下垂と複視を呈した21歳女性
11.その他の疾患
30 左半身のしびれが進行する65歳男性
31 右上肢のしびれと動かしにくさを主訴に来院した54歳男性
索引
日本神経学会は,2018 年から診療科としての呼称を神経内科から脳神経内科に変更した.本書の読者は医学部学生や研修医,脳神経内科以外の実地医家が多いと思われるが,読者の世代によっては神経内科という呼称のほうが馴染みが強いのかもしれない.本書では脳神経内科と神経内科の両語が同義語として出てくるが,そのことをご容赦いただきたい.
さて,筆者が医学部の教員として医学生相手に講義をするようになり四半世紀が経過するが,学生諸君から脳神経内科の領域は「とっつきにくい」という意見を耳にすることが多い.昔から脳神経内科を苦手とする学生が多いのは事実であるが,その理由は,疾患の数が多い,症状が複雑,といったものが大多数と考えられる.筆者の勤務する北里大学脳神経内科学教室では,脳神経内科学を理解していただくために病因診断と病巣診断という考え方をお伝えし,脳神経内科学は意外と理解しやすいものだということを知ってもらっている.
まず病因診断である.国家試験に出題される脳神経内科の疾患数は多いし,実際に脳神経内科領域の疾患の数は多い.しかし,どの臓器の疾患であれ,疾患はその背景にある機序ごとにカテゴリーに分類することができ,脳神経内科疾患もその例外ではない.他の臓器に比して個別の疾患数が多い脳神経内科領域といえども疾患のカテゴリーは10 程度とされている.どのカテゴリーの疾患なのかを解き明かす過程を病因診断と呼ぶが,各々の病因診断には特徴的な発症様式と経過が存在する.わかりやすい例を挙げてみる.高齢の患者が脳神経内科の疾患を突然に発症し,その後も後遺症があって入院しているという情報を耳にした場合,どのような疾患が想起されるであろうか.賢明なる読者の方々は脳血管障害と考えるのではないだろうか.脳血管障害のなかのどの病型かはわからないまでも,こうした発症様式と経過を呈する患者の大部分は脳血管障害なのである.すなわち,症状の起こり方(発症)とその後の推移(経過)を知ることができれば病因診断が可能になり,ある程度カテゴリーを絞り込むことができるのである.
次に病巣診断である.これは神経所見,つまり神経診察の結果から,身体のどこに原因があるのかを解剖学的に推論して診断するという方法である.たとえば,右手が動かしにくいといって受診した患者がいたとする.この情報だけであれば,原因は,大脳,頸髄,末梢神経,神経筋接合部,筋のどこかに異常があって力が入らないのかもしれないし,もしかすると小脳や錐体外路,さらには上肢の深部感覚などの障害が原因かもしれない.しかし,神経診察の結果,右手だけでなく右顔面も含めた右片麻痺があり,右半身で病的反射陽性,深部腱反射亢進も認めたとする.そうすると本患者の訴えは,右大脳から右の錐体路の障害によるものと推定できる.こうした手法を病巣診断と呼ぶ.
上記を読んで,賢明なる読者の方々は,病因診断には病歴聴取が,病巣診断には神経診察が重要であることに気が付くであろう.従来は学生実習を通じて病歴聴取と神経診察に親しんでいただいていた.しかし,2020 年に広がったコロナ禍のため,筆者の大学病院でも本格的な参加型の臨床実習を実施することが未だ困難な状況である.そこで,病棟で経験すべきであった典型的な脳神経内科疾患の架空の症例を作成した.これらの症例問題には,病歴と神経診察所見が詳細に記載されている.こうした臨床問題を解くことで,学生には脳神経内科学の根底にある病因診断と病巣診断という考え方を理解してもらっている.
学生実習のときに学生に好評であったこうしたレジメを出版することを南江堂からご提案いただいた.そこでコンセプトは維持しつつ,より広範囲な内容を盛り込むことで,医学生のみならず研修医や脳神経内科を専門としない実地医家の先生方にも有用な実践の書として本書を作成した.コロナ禍では医学教育は大きな被害を被ったが,これを奇貨として脳神経内科における基本的な考え方をお伝えする書物を刊行する機会を得ることができた.医療に関わる多くの方々が脳神経内科に対する苦手意識を払拭し,ひいては国民医療に貢献できることを心から願って,本書の巻頭言の筆を置くこととする.
2025 年3 月
編集者を代表して
西山 和利

