上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン2024改訂第3版
監修 | : 日本整形外科学会/日本肘関節学会 |
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編集 | : 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン策定委員会 |
ISBN | : 978-4-524-21959-9 |
発行年月 | : 2024年10月 |
判型 | : B5判 |
ページ数 | : 124 |
在庫
定価3,520円(本体3,200円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評

上腕骨外側上顆炎(いわゆるテニス肘)に関し,最新のエビデンスに基づき大幅に内容を拡充した診療ガイドライン改訂版.病態および診断の要点をまとめ,治療に関しては保存療法から手術療法まで詳細に有用性を検証している.長期予後を見越して治療およびリハビリテーションを進める指針となる一冊.
Question
Background Question 1 上腕骨外側上顆炎の定義は
Background Question 2 上腕骨外側上顆炎に関する最新の疫学・患者背景は
Background Question 3 伸筋群付着部の障害(または変性)は短橈側手根伸筋に限局しているか
Background Question 4 滑膜ひだは上腕骨外側上顆炎の症状に関連するか
Background Question 5 輪状靱帯の障害(または変性)は上腕骨外側上顆炎の症状に関連するか
Background Question 6 肘不安定性は上腕骨外側上顆炎の症状に関連するか
Background Question 7 上腕骨外側上顆炎のその他の発症要因は何か
Background Question 8 上腕骨外側上顆炎の診断基準は
Background Question 9 上腕骨外側上顆炎の身体所見で重要な事項は何か
Background Question 10 X線検査は上腕骨外側上顆炎の診断に有用か
Background Question 11 MRI検査は上腕骨外側上顆炎の診断に有用か
Background Question 12 超音波検査は上腕骨外側上顆炎の診断に有用か
Background Question 13 電気生理学的検査は上腕骨外側上顆炎の診断に有用か
Clinical Question 1 上腕骨外側上顆炎に薬物療法は有用か
Background Question 14 上腕骨外側上顆炎にステロイド局所注射は中・短期的(6か月以内)に有用か
Clinical Question 2 上腕骨外側上顆炎にステロイド局所注射は長期的(6か月以上)に有用か
Future Research Question 1 上腕骨外側上顆炎に複数回ステロイド局所注射は有用か
Clinical Question 3 上腕骨外側上顆炎へのステロイド局所注射の効果は薬剤の種類,用量,投与間隔により異なるか
Clinical Question 4 上腕骨外側上顆炎に多血小板血漿(PRP)局所注射は有用か
Clinical Question 5 上腕骨外側上顆炎に多血小板血漿(PRP)以外のヒト血液由来の局所注射は有用か
Future Research Question 2 上腕骨外側上顆炎に増殖療法は有用か
Clinical Question 6 上腕骨外側上顆炎にボツリヌス療法は有用か
Clinical Question 7 上腕骨外側上顆炎に運動療法は有用か
Clinical Question 8 上腕骨外側上顆炎に物理療法は有用か
Clinical Question 9 上腕骨外側上顆炎に鍼療法は有用か
Clinical Question 10 上腕骨外側上顆炎に装具療法は有用か
Clinical Question 11 上腕骨外側上顆炎に体外衝撃波治療(ESWT)は有用か
Clinical Question 12 上腕骨外側上顆炎に低出力レーザー治療は有用か
Future Research Question 3 上腕骨外側上顆炎に塞栓療法は有用か
Background Question 15 上腕骨外側上顆炎に対する手術療法の適応は何か(保存療法の限界は何か)
Clinical Question 13 上腕骨外側上顆炎に経皮的手術は有用か
Clinical Question 14 保存療法抵抗性の上腕骨外側上顆炎に直視下手術は有用か
Clinical Question 15 保存療法抵抗性の上腕骨外側上顆炎に直視下腱延長手術は有用か
Clinical Question 16 保存療法抵抗性の上腕骨外側上顆炎に関節鏡視下手術は有用か
Future Research Question 4 保存療法抵抗性の上腕骨外側上顆炎に直視下と関節鏡視下混合型手術は有用か
Clinical Question 17 肘不安定性を有する難治性上腕骨外側上顆炎に外側側副靱帯手術は有用か
Clinical Question 18 長期的観点において手術療法は保存療法よりも有用か
Background Question 16 上腕骨外側上顆炎の治療後の予後に労災は影響するか
Background Question 17 上腕骨外側上顆炎の治療後の予後に利き手は影響するか
Background Question 18 上腕骨外側上顆炎の治療後の予後に性別は影響するか
Background Question 19 上腕骨外側上顆炎患者の最終的な症状改善率や社会復帰率はどのくらいか
Background Question 20 上腕骨外側上顆炎後に運動機能低下が残存する割合はどのくらいか
日本整形外科学会は2002年に整形外科の代表的な11疾患に対する診療ガイドライン作成を開始しました.上腕骨外側上顆炎診療ガイドラインは,そのなかのひとつとして2006年5月に初版が刊行され,第2版が2019年9月に発刊されました.第2版からは『Minds診療ガイドライン作成の手引き2014』および『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』に準拠することで,標準化されるとともに質の高いガイドラインの作成が行われるようになりました.『Minds診療ガイドライン作成マニュアル』は2〜3年ごとに改訂され常に進化を遂げており,本ガイドライン第3版では『Minds診療ガイドライン作成の手引き2020』に準拠してスコープを作成し,重要臨床課題を設定しました.設定された重要臨床課題をもとに,Clinical Question(CQ)の構成要素であるPICO(P:Patients,Problems,Population,I:Interventions,C:Comparisons,Controls,Comparators,O:Outcomes)を抽出し,Oの相対的重要性を評価することで,CQをひとつの疑問文で表現しました.これらのCQに対して,前版の対象とした2016年以降のすべての研究報告に対しアウトカムごとに益と害のバランスを評価するシステマティックレビューを実施し,エビデンスの総体評価を行いました.その間に日本肘関節学会全評議員に構造化抄録の作成を行っていただき,策定委員が分担して総体評価を実施しました.そして策定委員会で推奨決定会議を行い,主に治療法に関する18個のCQと4個のFuture Research Question(FRQ),疫学,自然経過,病態,診断,予後に関する20個のBackground Question(BQ)を採択し,CQについては推奨を決定しました.前版より進化した本ガイドラインが上腕骨外側上顆炎の診療において医療者のみならず医療を受ける側にも有益なものとなることを期待しています.
最後に今版のガイドライン策定に際し,多大なるご尽力を賜りました日本整形外科学会および日本肘関節学会,ならびに構造化抄録作成にご協力いただいた日本肘関節学会評議員の方々,また頻回の策定委員会にご出席いただきエビデンスの総体評価や推奨文を作成していただいた上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン策定委員会の委員の皆様に深謝致します.また,ガイドライン策定作業に終始ご指導いただいた公益財団法人日本医療機能評価機構(Minds)の吉田雅博先生,委員会開催にご協力いただいた日本整形外科学会事務局の武内 翔氏,策定作業にご協力いただいた一般財団法人国際医学情報センターの加治美紗子氏に深謝申し上げます.
2024年10月
日本整形外科学会
上腕骨外側上顆炎診療ガイドライン策定委員会
委員長 尼子雅敏
本書は,日本整形外科学会と日本肘関節学会が監修のもと,2024年10月に発行された.2006年に第1版,2019年に第2版が発行され,今回が第3版になる.改訂にあたっては「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020」に準拠して,治療法を中心に18個のClinical Question(CQ), 20個のBackground Question(BQ), 4個のFuture Research Question(FRQ)が採択された.CQについては,委員会メンバーによる投票で推奨度を決定し,強い,弱い,提示できないの三つに区分している.エビデンスの強さは,A(強く確信がある)〜D(ほとんど確信できない)まで4段階ある.
上腕骨外側上顆炎は,いわゆるテニス肘である.整形外科医であれば誰もが遭遇することのあるcommon diseaseである.ただし,病態は十分に解明されておらず,肘関節内外の組織に及ぶ複数の病態が包含されている.伸筋群起始部以外の障害として,橈骨管症候群,輪状靱帯など靱帯付着部(enthesis)に連続する腕橈関節の病変,肘関節内の滑膜炎,腕橈関節滑膜ひだ障害,腕橈関節軟骨変性などがあげられる.対象とする病態が明確にされていない論文も散見される.第3版では診断基準を,@外側上顆の伸筋群起始部にもっとも強い圧痛がある,A抵抗下手関節背屈運動で肘外側に疼痛が生じる,と定めたうえで検討されている.
本書のCQ 1〜12は保存療法,CQ 13〜17は手術療法,CQ 18は手術療法と保存療法の比較となっている.ステロイド局所注射は,有意な有用性を短期では認めたが,6ヵ月以上の長期では認めなかったことから,長期の有用性を期待したステロイド局所注射は行わないことが提案されている(CQ 2:合意率100%,エビデンスB). 多血小板血漿(PRP)局所注射については,介入研究10論文と観察研究19論文を採用し,弱く推奨するとされている(CQ 4:92%, B). 前腕伸筋群エクササイズと肩甲帯周囲筋エクササイズについて検討した論文が採択され,運動療法を行うことが強く推奨されている(CQ 7:91%, B). 18個のCQの中で,この運動療法が唯一の強い推奨となっている.
保存療法に抵抗性を示す上腕骨外側上顆炎ではしばしば手術が行われる.手術の内容はさまざまであるが,直視下手術を行うことが弱く推奨されている(CQ 14:100%, C). 直視下手術と保存療法を比較し,有用性を評価した論文はない.関節鏡視下手術を行うことが弱く推奨されている(CQ 16:85%, C). 肘不安性を有する難治性上腕骨外側上顆炎に外側側副靱帯手術を行うことが弱く推奨されている(CQ 17:91%, D). 前腕自重による伸長ストレス,ステロイド注射や軽微な外傷,病巣切除術に伴う医原性靱帯損傷といった多様な要素が加わり,外側側副靱帯複合体(橈側側副靱帯,外側尺側側副靱帯,輪状靱帯)を構成するさまざまな組織の損傷とそれに伴う不安定性が生じることが報告され,自家腱を用いた靱帯再建術やアンカーを用いた修復術などが近年よく行われている.
18個のCQの中で,エビデンスの強さがAのCQはなく,Bが3, Cが13, Dが2である.いずれのCQも合意率は80〜100%で,高いエビデンスはないもののスペシャリストの見解は一致している.FRQやBQでは現時点で明確なことと不明確なことがよく理解でき,教育的な内容で,教科書としても読み応えがある.本書は,日常診療で行われる保存療法と手術療法がほぼ網羅された内容となっている.整形外科医をはじめ看護師や理学療法士などの医療従事者には必携の書と思われる.本書は上腕骨外側上顆炎に対する標準的治療の拠り所となることから,日常臨床の現場で活用したい一冊である.
臨床雑誌整形外科76巻4号(2025年4月号)より転載
評者●産業医科大学整形外科教授・酒井昭典
