書籍

対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル2024改訂第2版

編集 : 日本消化器がん検診学会 対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル改訂版編集委員会
ISBN : 978-4-524-21482-2
発行年月 : 2024年6月
判型 : A4判
ページ数 : 84

在庫あり

定価4,400円(本体4,000円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

胃がん検診の標準化された実施体制の構築を目的として日本消化器がん検診学会の編集により作成されたマニュアルの改訂版.「がん疑い」の判定の誤解や,ダブルチェックの運用,検診で実施する検査と同時に行う生検の妥当性の評価方法等を見直すことで,より具体的な内容とした.胃内視鏡による対策型検診を導入する施設はもちろん,対策型胃がん検診に関わるすべての医療従事者必携のマニュアル.

T.本書の目的,位置づけ
U.胃がん検診の目的,検診・診療の違い
  1.胃がん検診の目的
  2.検診・診療の違い
V.胃がん検診としての胃内視鏡検査の科学的根拠
  1.胃内視鏡検診の死亡率減少効果
  2.胃内視鏡検診の検査精度
  3.対象年齢と検査間隔
  4.胃内視鏡検診の不利益
W.胃内視鏡検診の流れ
  1.事前準備
  2.検診の実施と結果判定
  3.事後処理
X.胃内視鏡検診を実施するうえで実施主体が整備すべき体制
  1.胃内視鏡検診運営委員会の設置と責務
  2.胃内視鏡検診の検査実施体制の整備
  3.胃内視鏡検診の読影業務体制の整備
  4.胃内視鏡検診に携わる医師を対象とした研修会の開催
Y.胃内視鏡検診の対象者
  1.胃内視鏡検診の対象者の条件
  2.胃内視鏡検診の対象除外・禁忌の条件
Z.検査機関が整備すべき検査機器
[.胃内視鏡検診の対象者に説明すべきこと,インフォームド・コンセント,問診
  1.検診対象者への説明(がん検診を受診する前の一般的な内容)
  2.胃内視鏡検査のインフォームド・コンセントと同意書の取得
  3.問診
\.胃内視鏡検査の実施手順
  1.前処置
  2.胃内視鏡検診における胃内観察と撮影法について
  3.検査中の鉗子生検の実施について
  4.読影医への胃内視鏡検査結果の提出
  5.検査後の対応
  6.検査に使用した内視鏡機器の洗浄・消毒と管理
  7.偶発症への対応
].読影医によるダブルチェックの実施と検診結果区分の決定
  1.ダブルチェックによる所見(読影結果区分)と検診結果区分の判定
  2.読影医による撮影画像・生検妥当性の評価
  3.読影レポートの作成と検査医へのフィードバック
Ⅺ.受診者への検診結果の通知と精密検査の実施
  1.実施主体から受診者への結果通知と検査機関の対応
  2.精密検査の実施と精密検査結果ならびに治療結果の報告
  3.精密検査結果や治療結果が把握できない場合の対応
Ⅻ.胃内視鏡検診事業の評価(精度管理評価)
  1.胃内視鏡検診の精度管理指標
  2.プロセス指標の測定項目とその定義
XIII.資料1:精度管理の基本的な考え方
  1.がん検診精度管理の目的
  2.がん検診精度管理の手法
  3.がん検診精度管理の指標
XIV.資料2:帳票の例
  1.問診票
  2.偶発症レポート
  3.胃がん内視鏡検診結果通知書
  4.胃がん内視鏡検査(精密検査)依頼書 兼 結果報告書
  5.胃がん治療結果報告書
XV.Q&A

「対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル」 は,2016 年度から対策型胃がん検診として胃内視鏡検査を導入するにあたり,胃内視鏡検診の実施体制ならびに精度管理の標準化を目的に平成27 年度厚生労働省科学特別研究事業「 対策型検診としての胃内視鏡検診等の実施にかかる体制整備のための研究」(研究代表者:深尾彰) により2015 年版が作成され,その後,本学会の対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル作成委員会により用語解説と既導入地域の事例紹介を加えた2017 年度版が市販されました.厚生労働省の「 がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」 においては,胃内視鏡検診実施にあたっては本マニュアルを参考にする旨が明記されており,本マニュアルは対策型胃内視鏡検診実施にあたっての規範として位置づけられています.2015 年度版ならびに2017 年度版マニュアルの作成にあたられた研究班や編集委員会の各位には心より敬意を表します.
しかし,胃内視鏡検診の導入が進むにつれ,当初想定されなかった運用上の課題や精度管理状況の地域間較差などが明らかとなってきました.そこで,本学会の胃がん検診精度管理委員会では,国立がん研究センターがん対策研究所検診研究部の協力を得て,2020 年度から対策型胃内視鏡検診に関するワーキンググループを設置し,胃内視鏡検診の実施にあたって本学会や国立がん研究センターに寄せられた問い合わせやマニュアルの課題などを整理し,2022 年度からは同ワーキンググループを対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル改訂版編集委員会に改称し,「対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル改訂版」 の編集作業に着手いたしました.
改訂版編集委員会では,対策型胃内視鏡検診の目的は胃がんによる死亡率減少であり,胃がん以外の悪性腫瘍は胃内視鏡検診の精度管理対象としないことを方針に,胃内視鏡検診の実施体制や精度管理体制の見直しを図り,厚生労働省がん疾病対策課や日本消化器病学会,日本消化器内視鏡学会,日本人間ドック・予防医療学会などの関連学会,パブリック・コメントに寄せられたご意見を踏まえ,本改訂版を作成いたしました.
本改訂版が本邦の胃内視鏡検診の普及ならびに実施体制・精度管理体制の標準化・均霑化に役立つことを願っております.すでに2017 年度版をもとに胃内視鏡検診を導入されている場合でも,本改訂版のコンセプトをご理解いただき,適切な胃内視鏡検診の実施と更なる精度向上に努めていただくようお願い申し上げます.
最後に,改訂版編集委員会の諸先生,ことに改訂版ひな形の作成にご尽力いただいた安保智典先生,雑賀公美子先生,町井涼子先生,また,外部委員としてご参加いただいた中山富雄先生に深謝いたします.さらに,貴重なご意見をいただいた関連学会の関係各位,南江堂の担当諸兄に厚く御礼申し上げます.
2024 年5 月
一般社団法人日本消化器がん検診学会
理事長 大西 洋英
対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル改訂版編集委員会
委員長 加藤 勝章

効果的な胃内視鏡検診のための指南書:診療の延長からの脱却を目指す
 胃内視鏡検診は2016年に,国の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」の改訂により,対策型胃がん検診として実施が認められた.このたび,その実施基準ともいうべき『対策型検診のための胃内視鏡検診マニュアル』(2017年)の改訂第2版が出版された.検診の原則が踏まえられ,かつ実用性を追求した内容となっている.とくに胃内視鏡検診の関係者には一読を勧めたい.以下に,その作成経緯と今回の改訂内容を踏まえつつ所感を述べる.
 前述の指針で現在推奨されているがん検診については,実施要領を記述した「がん検診マニュアル」が各関連学会から示されてきた.そのなかで,胃内視鏡検査は検診法としては侵襲性が高いため,その導入にあたり,ほかのがん検診と比べて,安全管理のための実施体制・水準の標準化が大きな課題であった.『胃内視鏡検診マニュアル』が2010年に出版されていたなかで,本書の初版が作成されたゆえんであり,検診実施主体である自治体はそれを参考にして胃内視鏡検診を実施すべきことが厚生労働省より明示された.さらに,自治体における精度管理の司令塔的役割のべき「胃内視鏡検診運営委員会(仮称)」の設置が重要事項として記述された.実際に導入に踏み切った自治体は現在なお約半数に留まるが,導入した自治体においてさえ,運用や精度管理における課題,地域間格差などの問題が指摘されている.そこで改訂第2版は,そのような問題点の克服を目的に作成された.
 上記のような問題点は,わが国ではがん検診がその目的や原則,運用方法などに関して,診療上の診断検査と混同されたまま実施されていることに起因している.とりわけ検診のスクリーニングに用いられる検査法が診断検査と同一の場合,両者は混同されがちである.胃がん検診の目的は胃がん死亡率の減少であり,スクリーニングにおける内視鏡検査の対象病変は胃がんである.一方で,診断検査としての胃内視鏡検査ではすべての病変を対象とし,それぞれの治療の要否や治療法に関する判断を行う.両者の混同の結果,たとえば胃がん以外の疾患疑いで,検診としては目的の不明な同時生検が潜在的に行われ,対象者の約30%に実施された事例も確認されている.こうした混同に基づく検診の実施・運用は胃がん死亡リスクの減少につながらないばかりか,多くの不必要な診断・治療を誘発し,不利益の増大を惹起する.
 改訂第2版では,このような混同から脱却するための章立てと具体性を重視した記述がなされている.T,U章では本書の目的と位置づけとともに,それが反映された検診の流れの全体像が示されて,診療とは異なるプログラムであることや胃がんのみが対象であることが一見して理解できる構成・記述になっている.さらに,W章では検診は初回のみではなく,次回の検診ラウンド以降にわたるプログラムであり,報告・把握されるべき結果の区分が胃がん,胃がん疑い,胃がんなしの3区分であることが明示されている.これら基本事項の記述は明快であり,新たな知識や解釈を必要とせず,胃がん検診以外も含めた検診関係者の理解を促すのに役立つであろう.X章では検診機関をはじめとして,関係機関の役割分担,それぞれが実施すべき項目のリスト,要件がそのまま実際に利用できる形で示されている.また,初版で記述された「胃内視鏡検診運営委員会」の設置・運営は自治体にとっては重荷であったが,その受け皿については担当可能な団体への外部委託を含めて,都道府県・地域の事情によって選択できる仕組みとして定義され,自治体にとってより実行可能なものとなった.
 本書は検診に対する本質的な理解も意図した,技術書に留まらない優れたマニュアルである.本書を端緒にして,原則に基づいてよく管理された胃内視鏡検診の運用が全国に広がることを期待したい.

臨床雑誌内科135巻4号(2025年4月増大号)より転載
評者●斎藤 博(青森県立中央病院 医療顧問)

9784524214822