便失禁診療ガイドライン2024年版改訂第2版
編集 | : 日本大腸肛門病学会 |
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ISBN | : 978-4-524-21358-0 |
発行年月 | : 2024年11月 |
判型 | : B5判 |
ページ数 | : 152 |
在庫
定価3,520円(本体3,200円 + 税)
正誤表
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2024年11月08日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
初版以降の新たなエビデンスと日本の医療状況に立脚した実践的なガイドライン改訂版.便失禁の定義や病態,診断・評価法,初期治療から専門的治療にいたるまで基本的知識をアップデートし,新たに失禁関連皮膚炎や出産後患者に関する記載を拡充.また治療法選択や専門施設との連携のタイミングなど,判断に迷うテーマについてはCQとして推奨を示した.患者像により多様な病態を示す便失禁の診療とケアに携わる,すべての医療職にとって指針となる⼀冊である.
T. 便失禁の定義・疫学・病態・原因・発症リスク因子
A. 定義
B. 疫学
C. 病態・原因
D. 発症リスク因子
U. 便失禁の診断・評価
A. 便失禁の臨床的初期評価法
1. 病歴,観察,アセスメント
a. 現病歴
b. 既往歴・併存疾患
c. 観察およびアセスメント
2. 直腸肛門部の診察と評価
a. 視診
b. 触診
[1]肛門周囲の触診
[2]直腸肛門指診(膣指診・双指診を含む)
c. 失禁関連皮膚炎の評価
B. 便失禁の重症度評価(症状スコア・QOL 質問票・便失禁頻度)
V. 便失禁の検査法
A. 生理学的検査
1. 直腸肛門内圧検査
2. 直腸肛門感覚検査
3. 陰部神経伝導時間検査
4. 肛門筋電図検査
B. 形態学的検査
1. 超音波検査
2. 骨盤部MRI 検査
3. 排便造影検査
W. 便失禁の保存的療法
A. 初期保存的療法
1. 食事療法
2. 排便習慣指導
3. 便失禁ケア
4. 薬物療法
CQ 1 便失禁の薬物療法において,ポリカルボフィルカルシウムとロペラミド塩酸塩はどのように使い分けるか?
B. 専門的保存的療法
1. 骨盤底筋訓練
2. バイオフィードバック療法
3. 経肛門的洗腸療法
4. その他の保存的療法
a. 脛骨神経刺激療法
b. 肛門管電気刺激療法
c. 挿入型肛門用失禁装具
d. 挿入型膣用失禁装具
C. 外科治療
1. 標準的外科治療
a. 肛門括約筋修復/形成術(anal sphincter repair/sphincteroplasty)
CQ 2 出産後に便失禁が発症した場合,専門施設への最適な紹介時期はいつか?
CQ 3 分娩時肛門括約筋損傷の既往を有する妊婦の出産方法として,経膣分娩と帝王切開のどちらが推奨されるか?
b. 仙骨神経刺激療法(sacral neuromodulation:SNM)
CQ 4 肛門括約筋断裂による便失禁に対して,肛門括約筋形成術と仙骨神経刺激療法のどちらを先行すべきか?
c. ストーマ造設術
2. 特殊な外科治療
a. 順行性洗腸法(antegrade continence enema:ACE)
b. 有茎薄筋移植術(graciloplasty)
c. 腹側直腸固定術(ventral rectopexy:VR)
3. その他の外科治療
a. 生体物質肛門注入術(biomaterial injection)
b. 肛門括約筋再生療法
X. 特殊な病態の便失禁治療
A. 神経・脊髄疾患(損傷)
CQ 5 脊髄障害を原因とする便失禁の治療法として,仙骨神経刺激療法は有用か?
B. 認知症
C. フレイル・寝たきり高齢者
刊行にあたって
便失禁の原因として,加齢による肛門周囲の括約筋トーヌスの低下,出産や肛門手術によるもの,直腸脱などの肛門疾患に伴うもの,直腸癌手術後の排便機能障害など,様々な要因があります.近年,高齢化や自然肛門温存手術の普及により便失禁は増加してきていると推測されています.また,便失禁は生活の質を大きく低下させるため適切な診断と治療が望まれますが,これまで系統的にまとめられた指針はありませんでした.そのようななか,2017年にエビデンスを評価して推奨について系統的にまとめられた『便失禁診療ガイドライン』(初版) が発刊されました.
2024年版(改訂第2版) は,2017年版のエビデンスを整理し,新たなエビデンスを組み入れつつ,エキスパートにより繰り返し検討を重ねて作成されました.さらに作成委員会と評価委員会間でも検討がなされました.
本診療ガイドラインの目的は「便失禁診療・ケアを普及することで,便失禁症状を改善し,便失禁を有する患者の生活の質を改善する」 ことであります.そして,@便失禁の臨床評価,A特殊病態の臨床評価,B治療方針決定に必要な検査,C食事・生活・排便習慣指導の有用性,D薬物療法の適応と有用性,E骨盤底筋訓練・バイオフィードバック療法の適応と有用性,F洗腸療法の適応と有用性,G手術療法の適応と有用性の8つの重要臨床課題について明記して系統的に記述したうえで,5つのClinical Question(CQ) が設定され,臨床的な疑問に答えています.
排便の制御は,社会活動性や生活の質に影響を及ぼすのみならず,人格の尊厳に大きく影響します.超高齢社会である日本では,健康な日常生活をいかに保持するかが大きな課題となってきます.本ガイドラインの利用者としては,便失禁を診療する医師だけでなく,ケアを行う介護者や一般市民も想定されています.本ガイドラインが広く普及して多くの方にご利用いただき,便失禁診療の一助となることを切に望みます.
2024年10月
日本大腸肛門病学会
理事長 板橋道朗
改訂の序
2017年に日本大腸肛門病学会より発刊された『便失禁診療ガイドライン』 初版から7年を経て,改訂版を刊行する.改訂版の作成委員会および評価委員会は,2021年に日本大腸肛門病学会を中心に組織され,このたび約3年をかけての完成となった.最初の1年間では作成委員をグループに分けて文献検索と原稿執筆にあたっていただき,進捗状況を皆で確認しつつ,原稿がある程度揃った後半の2年間は,ほぼ毎月の会議を開き,重要事項および各委員の意見や論文内容などのすり合わせに時間をかけて検討を行ってきた.
このたびの改訂版では,作成委員会,評価委員会に医師以外の職種の方々にも参画していただき,便失禁の診断・治療とともに便失禁の程度とその状態の評価,便失禁に伴う皮膚症状や生活の質への評価と対応,また,寝たきりとなっている患者への介護などの面からも便失禁を捉えて解説している.構成としては,巻頭で便失禁に関する診療につき最新の情報をもとに,初期診療から専門的診療までを「アルゴリズム」 としてまとめた.本文では,重要かつ基本的な留意事項を「ステートメント」 として短くまとめ,特に診療・介入行為に関係するステートメントでは,その推奨の強さと委員間での意見の一致率,さらに推奨のエビデンスレベルを記載するようにした.また,ステートメントに対する解説は少し詳しく記載し,ステートメントにいたる背景がわかるように心がけた.実際の診療に際して,どのような方針で臨めばよいのか,悩ましい選択が予想される状況に対しては,5つのClinical Question(CQ) を設け解説を加えている.
本ガイドラインが便失禁診療に携わる人たちの参考となり,よりよい医療と介護に役立つことを作成にかかわった委員一同,心より祈念している.作成にあたり円滑な事務処理やデータ管理にご尽力いただいた学会事務局,南江堂の皆様,記載内容について適切なアドバイスをいただいた評価委員会の皆様,およびパブリックコメントにお応えいただいた皆様方に深謝申し上げる.
2024年10月
便失禁診療ガイドライン作成委員会
委員長 幸田圭史