書籍

外科医のための大腸癌薬物療法ガイドブック

編集 : 内藤剛/佐藤武郎
ISBN : 978-4-524-21156-2
発行年月 : 2024年12月
判型 : B5判
ページ数 : 168

在庫あり

定価5,940円(本体5,400円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

近年著しい進歩を遂げた大腸癌の薬物療法について,薬物療法の適応,投与方法,さらには支持療法や有害事象の管理方法までを具体的かつ端的にまとめた実際書.最新のガイドラインを踏まえ標準的なレジメンとその裏付けとなるエビデンスを解説し,外科医目線で重要な休薬や薬剤切り替えのタイミング,⼿術に踏み切る判断のポイントまでを実例とともに解説.薬物療法のプロの実践的知識を吸収できる,大腸癌患者のQOL向上のために大きな力となる一冊.

本書の内容

T 総 論
 A 大腸癌治療のアルゴリズム
  1 大腸癌の診断・治療方針決定のために必要な検査
  2 治療方針
 B 大腸癌治療における遺伝子検査とそのタイミング
  1 大腸癌治療における各種遺伝子検査と検査タイミング
  2 今後の遺伝子検査の展望
 C 大腸癌薬物療法の概要
  1 大腸癌に対する術後補助化学療法
  2 total neoadjuvant chemotherapy(chemoradiotherapy)
  3 切除不能・進行再発大腸癌の治療選択
 D conversion therapy
  1 conversion therapyの概念と整理すべき点
  2 DpRとETS
  3 部位別・遺伝子ステータス別の至適レジメン
 E 有害事象への対策
  1 大腸癌における薬物ごとの有害事象対策
 F 緩和ケア
  1 大腸癌における緩和ケアを必要とする状況
  2 早期緩和ケアの効果
  3 緩和ケア提供の方法
  4 緩和ケアに用いられる薬剤

U 各 論
 A FOLFOX療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
 B CAPOX療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
 C SOX療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
 D FOLFIRI療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
  7 症例提示
 E IRIS療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
  7 症例提示
 F CAPIRI療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
  7 症例提示
 G FOLFOXIRI療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
  7 症例提示
 H sLV5FU療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
 I UFT+LV療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
 J S‒1単剤療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
 K カペシタビン単剤療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
 L トリフルリジン・チピラシル塩酸塩療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 症例提示
 M 抗VEGF抗体薬併用療法
  BEV
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
  RAM
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
  プラットホーム化学療法併用による注意点
  1 BEV
  2 RAM
  治療戦略
  1 支持療法
  2 non MSH−Hの対応
  3 維持療法
 N 抗EGFR抗体薬併用療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
  7 症例提示
 O レゴラフェニブ療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
  7 症例提示
 P 抗PD‒1/PD‒L1抗体薬療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠  
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 併用療法
  7 症例から学ぶこと
 Q エンコラフェニブ+セツキシマブ(+ビニメチニブ)療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント
  6 症例提示
 R エヌトレクチニブ,ラロトレクチニブ療法
  1 レジメンの特徴
  2 科学的根拠
  3 適格症例の選択
  4 実際の投与指示例
  5 副作用とそのマネジメント

 大腸癌の薬物療法は近年著しい進歩を遂げています.我々が医師になった時代には進行・再発大腸癌の生存期間は12 ヵ月程度でしたが,現在では分子標的治療薬の登場もあり30 ヵ月を越える生存期間が示されるようになりました.一方で,我が国では薬物療法を専門に行う診療科である化学療法科あるいは腫瘍内科はまだまだ広く普及しているわけではなく,多くの施設で消化器外科医が薬物療法を担当しています.中でも特に大腸癌の薬物療法は,多くの場合消化器外科医が担当しています.
 我々が医師になった時代には,大腸癌の薬物療法で使う薬剤は補助化学療法であっても進行・再発大腸癌に対する薬物療法でも,フルオロウラシル単独あるいはこれにバイオケミカルモジュレーションの概念による葉酸製剤を付加した投与法で行うことがほとんどで,そのレジメンや支持療法もそれほど複雑ではありませんでした.しかしその後イリノテカンやオキサリプラチン,さらにはカペシタビンなどの経口フッ化ピリミジン系製剤の登場,さらには分子標的治療薬の出現でその投与法は複雑になってきました.さらに腫瘍の局在によっても薬物選択を考慮することが推奨されるようになり,消化器外科医にとってはますます大腸癌の薬物療法の治療戦略を立てることが難しくなってきました.また薬物療法が複雑化するにつれて,有害事象に対する支持療法やその管理に関しても多様化しており,それらにも十分精通している必要があります.
 そのような中で消化器外科医が日々の臨床の現場で時間をかけずに薬物療法の知識を習得できる本はこれまであまりなく,私自身もそのような実践的な本があれば非常に役に立つと思っていました.一冊で薬物療法の適応,そのまま指示書に書くことができる具体的な投与方法,さらには支持療法や有害事象の管理方法などがわかれば非常にありがたいと思っていました.本書はそのような消化器外科医の声に応えるべく企画いたしました.忙しい臨床の場で,これ一冊あれば補助化学療法から進行・再発大腸癌に対する薬物療法の全てに対応でき,またその治療法の根拠になった臨床試験の結果も知ることができるようになっています.本書を診療の現場に携帯して日々の診療に役立てていただければ,編者としてこの上ない喜びです.

令和6年10月
北里大学医学部下部消化管外科学
内藤 剛

北里大学医学部附属医学教育研究開発センター医療技術教育研究部門
佐藤武郎

 本書は,大腸癌の薬物療法に関する知識を体系的に整理し,臨床実践への応用を目的としたきわめて優れた一冊である.本邦における大腸癌治療を担うエキスパートの消化器外科医,消化器内科医,腫瘍内科医によって執筆され,最新のエビデンスに基づいた知識が精緻にまとめられている.長年の臨床経験と最先端の科学的知見が融合し,外科医の視点を重視した構成が特徴的である.
 総論では,臨床病期に基づく治療アルゴリズムが詳細に解説され,とりわけcStageWに焦点を当てた薬物療法の選択が,患者の全身状態,腫瘍の占拠部位,バイオマーカー情報をふまえ具体的に示されている.癌薬物療法の発展による予後延長,genetic statusを考慮した適切なコンパニオン診断・ゲノムプロファイリングの実施のタイミングも明確に記載され,次世代の遺伝子検査技術への展望が示唆されている.
 また,術後補助化学療法の歴史的変遷とエビデンスが整理され,再発リスクの軽減と予後改善に関する最新の知見が提示されている.特に進行直腸癌に対するtotal neoadjuvant therapyや,ミスマッチ修復機構欠損(dMMR)/高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)を有する症例に対する免疫チェックポイント阻害薬の臨床的有用性についても詳述され,日本国内における検証状況と今後の展望が示されている.Conversion治療に関しても,適切な画像診断と治療タイミングの重要性が強調され,外科医が的確な判断を下すための指針が提供されている.さらに,緩和ケアの早期導入が患者の生活の質(QOL)向上および生存期間延長に寄与するというエビデンスに基づき,その実践的なアプローチが詳細に解説されている.
 各論では,補助化学療法ならびに切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法のレジメンが網羅的に紹介されている.各薬剤の作用機序,投与スケジュール,支持療法,副作用管理が綿密に整理され,臨床現場での即時活用が可能な構成となっている.レジメンの選択基準,コンパニオン診断の意義,執筆者の施設における実践的な症例報告が豊富に掲載され,読者が自身の臨床経験に応用できる内容である.また,各薬剤の歴史的変遷と科学的背景が過去10年以上にわたって網羅され,大腸癌薬物療法の進化の軌跡を俯瞰できる点も本書の魅力である.
 総じて,本書は大腸癌薬物療法を担う外科医が基礎から応用までを包括的に理解するためには必携の一冊である.術前・術後の治療戦略,手術後の予後改善,さらには緩和ケアにいたるまで,大腸癌治療に必要な広範な知識が網羅されており,一読することで最新の治療体系を深く理解できる.エビデンスに基づいた詳細な解説は,読者が自信をもって治療方針を決定するための強固な支えとなるであろう.本書は,進化し続ける大腸癌治療の中で,外科医が最善の医療を提供するための指針となる,きわめて価値の高い医学書である.

臨床雑誌外科87巻6号(2025年5月号)より転載
評者●問山裕二(三重大学消化管・小児外科教授)

9784524211562