かかりつけ医もここまで診よう!肛門部外来診療マニュアル改訂第2版
著 | : 栗原浩幸 |
---|---|
ISBN | : 978-4-524-21073-2 |
発行年月 | : 2024年5月 |
判型 | : B5判 |
ページ数 | : 136 |
在庫
定価4,950円(本体4,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
敬遠されがちな肛門部の病態を尻ごみせずに「非専門家が自分で診る」入門書の改訂版.痔核・痔瘻・裂肛をはじめとする,頻度が高く特徴的な病態を180枚のカラー写真によりビジュアルかつ端的に解説.今改訂では,Crohn病患者の肛門病変や梅毒など遭遇頻度が上がりつつある病態や緊急対応を要する病態をさらに拡充.乳児痔瘻や誤嚥による肛門異物・異物挿入なども追加した.外来診療において「自分で(保存的に)診てよい」か「専門的な処置が必要」かの判断を助ける一冊.
第T章 総 論
A.肛門の解剖
B.肛門の診察
1.心構え
2.問 診
3.視 診
4.指 診
5.肛門鏡検査
C.診断へのアプローチ
1.脱出が主訴の場合
2.出血が主訴の場合
3.肛門痛が主訴の場合
4.硬結(しこり)が主訴の場合
5.その他の主訴の場合
D.肛門疾患に対する治療
1.治療に対する考え方
2.保存的に診てよい疾患と専門施設に紹介すべき疾患
3.肛門疾患に対する保存的治療
4.痔核に対する外科的治療
5.裂肛に対する外科治療
6.痔瘻に対する外科治療
7.肛門周囲膿瘍やその他の化膿性疾患に対する外科治療
8.その他の治療
第U章 知っておきたい肛門疾患
A.痔 核
1.内痔核
2.外痔核
3.痔核発作
4.嵌頓痔核
B.痔核と紛らわしい肛門周囲疾患
1.皮 垂
2.直腸粘膜脱症候群
3.大腸腫瘍の脱出
C.裂 肛
1.急性裂肛
2.慢性裂肛
3.随伴裂肛(脱出性裂肛)
D.肛門周囲膿瘍と痔瘻
1.痔 瘻
2.肛門周囲膿瘍
3.乳児痔瘻,乳児肛門周囲膿瘍
E.Crohn病の肛門病変
1.裂肛,肛門潰瘍
2.皮 垂
3.痔瘻,肛門周囲膿瘍
F.会陰裂傷,直腸腟瘻
1.会陰裂傷
2.直腸腟瘻
G.化膿性の肛門周囲疾患
1.膿皮症
2.毛巣洞
3.肛門部粉瘤
4.Fournier壊疽
H.骨盤底筋群脆弱による疾患
1.直腸脱
2.直腸瘤
I.肛門異物,直腸異物
1.誤嚥による肛門異物
2.経肛門的直腸異物
第V章 肛門部の皮膚疾患
A.肛門瘙痒症
B.真菌感染症
1.白 癬
2.カンジダ症
C.ウイルス感染症
1.尖圭コンジローマ
2.肛門部Bowen病,肛門部Bowen様丘疹
3.単純疱疹
4.帯状疱疹
D.梅 毒
1.硬性下疳
2.扁平コンジローマ
E.肛門部Paget病
1.肛門部の乳房外Paget病
2.肛門部のPaget現象
F.悪性黒色腫
G.基底細胞癌
H.その他の皮膚疾患
1.懸垂性線維腫
2.仙骨・尾骨部胼胝様皮疹
第W章 肛門部の腫瘍性疾患
A.直腸絨毛腫瘍
B.肛門管癌
C.痔瘻癌
第X章 肛門鏡で見る大腸疾患
A.大腸癌
B.潰瘍性大腸炎
C.虚血性大腸炎
D.大腸憩室出血
E.放射線性直腸炎
F.急性出血性直腸潰瘍
参考情報
索 引
改訂第2版の序
2019年5月に刊行された本書は出版から約5年が経過しました.
本書は臨床医が自信を持って肛門を診られるようになることを目指して執筆したもので,実臨床でよく見る肛門疾患について写真を多用し簡潔に解説することを心掛けました.幸いにも好評を博し改訂の機会を得ることができました.これはひとえに臨床医の先生方が肛門診療の重要性を肌で感じ,本書を手に取ってくださったからにほかなりません.
肛門疾患についてはこの5年で大きな変化はありませんが,医療を取り巻く環境は刻々と変わってきています.高齢化にともない在宅医療が増加し,医師が一人で肛門疾患を診断しなければならない臨床現場も増えてきています.また炎症性腸疾患の患者さんが増加し,かかりつけ医が遭遇する機会もまれではなくなっています.今後,一般臨床医が肛門診療に携わる機会が増えてきていることは間違いないと思います.
今回の改訂では,Crohn病の肛門病変がより理解できるように通常の痔瘻の病変を追加,最近増加傾向にある梅毒症例の追加,乳児に起こる痔瘻,肛門部外傷である会陰裂傷や直腸腟瘻,直腸・肛門異物,緊急の対応が必要な急性出血性直腸潰瘍の項目の新設などを行いました.これらの項目の追加によりさらに充実した内容になったのではないかと考えます.
患者さんにとっては大きな愁訴となる肛門疾患です.肛門疾患の種類は決して多くはなく,診断も難しいものではありません.また肛門を診たからといって,治療まで責任を持つ必要はありません.保存的に診てよいもの,専門家に任せるものの判断がつけばそれで十分です.
患者さんから肛門の診察を依頼されたときにはぜひ肛門を診てあげてください.本書で取り上げた疾患を知っていれば困ることはほとんどないと思います.本書の内容を少し頭に入れ,自信を持って肛門診療を行っていただければ幸甚です.
2024年3月
所沢肛門病院院長
栗原 浩幸
著者である栗原浩幸先生は,これまでも肛門疾患に関する解剖,診療,手術に関する著書を多く執筆されてこられた.また,痔瘻の新しい分類を提唱する論文を発表され,現在の肛門疾患の分野におけるトップリーダーのお一人である.肛門病を専門としている医師だけでなくこれから専門にしようとしている医師にとって,これまでの栗原先生の著書が重要な参考書になっていることは疑いの余地がない.
今回改訂された本書は,外来診療に特化した名著と考える.改訂第2版が出版されることは,外来診療に係わる多くの医師が本書を参考にしていたことを示すものであると思う.本書の特徴は写真とイラストの多さである.写真だけでは理解しにくい部分は,イラストを用いて丁寧に説明がなされている.診察時における体位,問診,視診,触診,肛門視診,肛門鏡検査まで順序立てて丁寧に説明されている.診断へのアプローチや診断がついた後の治療方針のアルゴリズムも秀逸である.保存的に治療できるものか,専門機関に相談するべき状態かが簡潔に示されている.保存的治療や外科的治療についても言及されているが,本書はあくまでも外来での診療が主体であることを著者が念頭においている.
第U章から第X章までは外来で遭遇する可能性のある疾患の写真が掲載され,丁寧な説明がなされている.一般的な痔疾患から始まり,皮膚疾患や炎症性腸疾患,悪性疾患まで網羅されている.肛門を専門とする医療機関では時に遭遇する疾患ではあるが,消化器外科医やかかりつけ医の先生方はめったに目にすることがない疾患も網羅されている.特筆すべきは,掲載されている写真の精緻さであろう.普段診察している机の脇に常備して,診たことがないような肛門部病変に出合った時に本書を開いて写真を探せば,まず間違いなく正確な診断に行き当たることと思える.
本書は,肛門疾患を専門としている医師にとっても有用な参考書であるが,肛門疾患を学ぼうとする若手医師や,消化器外科医,かかりつけで患者さんから相談を受ける医師にとって非常に役に立つアトラスとなりうると考える.日常の診療や教育の場において,本書は必ずや多くの先生の助けになるものと信じている.
臨床雑誌外科86巻10号(2024年9月号)より転載
[松島病院大腸肛門病センター院長・宮島伸宜]
「お尻をみせてください」といえる勇気を与えてくれるフルカラー診療マニュアル
このたび,垂涎の書籍が刊行された.本書は初版が2019年に刊行されて以来,肛門を専門としないさまざまな領域の医師がベッドサイドでお尻を診るための必携の書として人気を誇る一冊である.
お尻の診察は難しい.自分自身のお尻はみられないし,患者さんに「お尻をみせてください」と提案するのも少し勇気が必要であると思う.実際,問診止まりで処方をしている医師が大多数ではないだろうか? 難しい最大の理由は,問診を越えた診察をする,すなわち患者さんに恥ずかしい思いを感じさせつつもパンツを下ろしていただきながら,正しい診察を提供する自信が備わっていないからであろう.とはいえ問診だけの診療をどれほど長く続けても「そのうちわかってくる」ことを期待できないのは明らかなので,勇気をもってお尻をみせていただかないことにはその一線は越えられない.
本書はお尻の診察で必須の基本的内容が包含されている.写真はすべてカラーであり,解剖や治療法はふんだんにシェーマが用いられて説明され,視覚的に理解することを容易にする一冊である.文章の説明も非常に歯切れがよく,シンプルに要点が書かれている.診療のポイントが平易に書かれており,頭に入りやすい.また,疾患ごとにその頻度・緊急度が書かれているため,まずは頻度の高い疾患からカラー写真を眺めていただきたい.あとはベッドサイドに皮膚科アトラスのように置いていただくことをお勧めする.本書が側にあるだけで,「お尻をみせてください」と患者さんに提案する自信が飛躍的に増すはずである.ベッドサイドでまずは1人の患者さんに対してお尻の視診ができれば,大きな一歩を越えたと実感できるはずだ.
ある製薬メーカーの対面アンケートによると,成人の36%が「自分は痔であると思う」と答えたとされており,痔は本邦および世界で最も有病率の高い疾患とされている.その一方で,肛門病専門の医師の数はきわめて少ない.お尻を他人にみせる羞恥心や,痔の薬がOTCで手に入ることから,お尻のトラブルを抱えていても病院にいく患者さんはほんの一握りにすぎないことは明らかである.読者の先生方が普段診ていらっしゃる患者さんの1/3程度は痔ももっているという計算になるため,本書で得られる知識が多くの患者さんの診察に役立つことは自明である.自分のお尻をみることができない患者さんにとっては,たとえ非専門医であっても,お尻をみていただける医師がいるとありがたいものである.現状は,非常に多くの患者さんに対して数少ない肛門病専門医の先生方による診察が行われ,そこには大きな隙間が存在する.どうか本書を手にとっていただき,本邦の非専門医によるお尻の診察レベル向上に力を貸していただきたい.
臨床雑誌内科134巻5号(2024年11月号)より転載
評者●穂苅量太(防衛医科大学校消化器内科教授)