便通異常症診療ガイドライン2023―慢性下痢症
編集 | : 日本消化管学会 |
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ISBN | : 978-4-524-21006-0 |
発行年月 | : 2023年7月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 80 |
在庫
定価3,080円(本体2,800円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
日本消化管学会編集による『便通異常症診療ガイドライン2023』の「慢性下痢症」編.Mindsの作成マニュアルに準拠し,臨床上の疑問をCQ(clinical question),BQ(background question),FRQ(future research question)に分けて解説.冒頭には診断・治療のためのフローチャートを掲載し,下痢症の定義・分類・診断基準から疫学,病態生理,診断検査,内科的治療について,最新知見を盛り込み,日常診療に必携の一冊となっている.
第1章 定義・分類・診断基準
CQ 1-1 下痢はどのように定義されるか? また慢性下痢症はどのように定義されるか?
CQ 1-2 慢性下痢症はどのように分類されるか?
BQ 1-1 慢性下痢症の診断基準は何か?
FRQ 1-1 難治性慢性下痢症はどのように定義されるか?
第2章 診断検査
FRQ 2-1 慢性下痢症の診療に有用な問診票は何か?
BQ 2-1 慢性下痢症の診療に有用な身体診察は何か?
CQ 2-1 慢性下痢症における警告症状・徴候は何か? またその警告症状・徴候は有用か?
CQ 2-2 慢性下痢症の鑑別診断に有用な臨床検査(内視鏡以外)は何か?
CQ 2-3 慢性下痢症の鑑別診断における内視鏡検査の意義は?
第3章 疫学
CQ 3-1 慢性下痢症(狭義)の有病率はどれくらいか?
CQ 3-2 慢性下痢症(狭義)はQOLを低下させるか?
FRQ 3-1 慢性下痢症(狭義)は長期予後に影響を与えるか?
第4章 病態生理
FRQ 4-1 慢性下痢症(狭義)の原因となる病態は何か?
FRQ 4-2 慢性下痢症(狭義)の病態に心理的異常は関与するか?
CQ 4-1 慢性下痢症(狭義)の病態に生活習慣は関与するか?
FRQ 4-3 慢性下痢症(狭義)の病態に腸内細菌は関与するか?
第5章 内科的治療
FRQ 5-1 慢性下痢症(狭義)に生活習慣の改善は有効か?
CQ 5-1 慢性下痢症(狭義)にプロバイオティクスは有効か?
CQ 5-2 慢性下痢症(狭義)に止瀉薬は有効か?
FRQ 5-2 慢性下痢症(狭義)にセロトニン(5-HT3)受容体拮抗薬は有効か?
FRQ 5-3 慢性下痢症(狭義)に抗コリン薬は有効か?
FRQ 5-4 慢性下痢症(狭義)に漢方薬は有効か?
FRQ 5-5 慢性下痢症(狭義)に心理療法は有効か?
FRQ 5-6 慢性下痢症(狭義)に抗菌薬は有効か?
FRQ 5-7 慢性下痢症(狭義)に高分子重合体は有効か?
FRQ 5-8 慢性下痢症(狭義)にアドレナリン作動薬は有効か?
FRQ 5-9 慢性下痢症(狭義)にソマトスタチンアナログは有効か
便通異常症診療ガイドライン刊行にあたって
日本消化管学会では,これまで2016年に『食道運動障害診療指針』,2017年に『大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン』を上梓した.このたび,『便通異常症診療ガイドライン』を刊行することになった.『慢性便秘症診療ガイドライン2017』は,2017年に日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会編集で作成されていたが,新たに数種類の下剤が上市されたり,それらの薬剤の使用経験も増え,エビデンスがさらに追加されたこともあって,慢性便秘症診療ガイドラインの改訂の必要性を感じた.そこで,日本消化管学会は,日本消化器病学会を中心として,関係学会などと相談させていただき,慢性便秘症診療ガイドラインの改訂をさせていただくことになった.それと同時に,慢性下痢症についても様々な原因があり,その診断や治療についてどこまでわかってきたかを明らかにし,日常診療の指針になるような診療ガイドラインを作成することは非常に臨床に役立つと考え,慢性下痢症の診療ガイドラインも必要であろうと理事会,代議員会で決定したので,便秘と下痢を合わせて『便通異常症診療ガイドライン2023』を作成することにいたった.
今回のガイドライン策定委員・評価委員の選考に関しての特徴は,以下のような点である.一般社団法人日本消化管学会「医学研究の利益相反に関する指針」の細則の第7条(ガイドライン,治療指針等作成などにかかるCOI管理)に規定している内容に従った.すなわち,現在,多くの学術団体から公表されている診療ガイドラインや治療指針は,医薬品,医療機器の適正使用や治療の標準化を目指す医療現場では関心が高く,影響力の強い指針として用いられている.これらのガイドラインや指針の策定には,専門的知識や豊富な経験を持つ医師が委員として参加するが,当該分野と関連する企業との金銭的なCOI関係が生じる場合も少なくないため,企業側に有利なpublication bias やreporting biasなどの懸念を起こさせないためのCOI管理が必要となる.また,学会自体が特定企業と金銭的な関係が深い場合にはバイアスリスクが高いと社会からみられることもあり,学会自体のCOI状態(組織COI)も開示する.ガイドライン策定に参加する委員長および委員(ガイドライン委員会,ガイドライン小部会委員)には,COI状態の開示(自己申告書)を求めて適切に管理することが重要である.すべての委員のCOI状態とともに,診療ガイドラインを策定する当該学会のCOI状態も日本医学会診療ガイドライン策定参加資格基準ガイダンス(2017)に基づいて個別に当該ガイドライン中に開示する必要がある.ガイドライン委員長・ガイドライン小部会委員長の個人COIについては,指針細則中の表2に示す各項目の基準額をいずれも超えない場合に,委員長に就任し議決権を持つことができる.就任中に基準額を超えるようなCOI状態が発生した場合には,委員長は自ら役職を辞退することを検討すべきである.ガイドライン委員会・小部会参加者の個人COIについては,指針細則中の表3に示す各項目の基準額のいずれも超えない場合は,委員に就任し審議に参加して議決権を持つことができる.ただし,いずれかの基準額を超えている場合でも,委員長がガイドラインを策定するうえで必要不可欠な人材であると判断し,その判断と措置の公正性および透明性が明確に担保される場合に限り,その具体的な金額を利益相反委員会で確認のうえ,ガイドライン委員会との協議会で個別審議する.協議会の承認が得られた場合は,委員として審議に参加することは可能であるが,議決権を持つことができない.また,基準額(指針細則中の表3)を大幅に超えるようなCOI状態がある場合には,自ら就任を辞退するべきである.
そこで,まず,上記の一般社団法人日本消化管学会「医学研究の利益相反に関する指針」の細則の第7条(ガイドライン,治療指針等作成などにかかるCOI管理)に従って,本ガイドライン策定に参画していただく委員を公募することにした.公募されてきた先生方について,COIの自己申告書や業績などをもとに,ガイドライン委員会・利益相反委員会で厳正な審議のうえ,委員の候補者を選定させていただき,理事会・代議員会で承認していただいた.専門的知識や豊富な経験を持つ医師で当該分野と関連する企業との金銭的なCOI関係(基準額を超えている場合)がある場合は,議決権のないアドバイザーとして参画していただいた.
その後,型のごとくガイドラインを作成し,会員の皆さん,関係学会にパブリックコメントを求め,修正後,刊行の運びとなった.慢性下痢症の診療ガイドラインは最初のものである.なかなかの出来と自負している.今後,慢性便秘症については日本消化器病学会が中心となって,改訂されていくと思われる.最後に,このガイドライン策定を中心になって進めていただいた前ガイドライン委員長の春日井邦夫先生,現委員長の片岡洋望先生,小部会委員長の伊原栄吉先生,その他委員の先生方,関係学会,関係各位に深謝申し上げる.
2023年5月吉日
一般社団法人 日本消化管学会 第5代理事長
日本消化管関連学会機構 理事長
樋口 和秀
便通異常症診療ガイドライン刊行にあたって
日本消化管学会ガイドライン委員会は,日本消化器内視鏡学会,日本胃癌学会との三学会連名にて2016年にDigestive Endoscopy誌へ掲載された早期胃癌の拡大内視鏡診断アルゴリズム「Magnifying Endoscopy Simple Diagnostic Algorithm for Early Gastric Cancer(MESDA‑G)」を皮切りに,日本食道学会との協力で作成し2016年に南江堂より出版された『食道運動障害診療指針』,そして日本消化器病学会,日本消化器内視鏡学会,日本インターベンショナルラジオロジー学会の協力のもとで作成し,2017年日本消化管学会誌に掲載された『大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン』を発刊してきた.
日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会により『慢性便秘症診療ガイドライン2017』が作成され2017年に南江堂より出版された.この時期は,新規便秘治療薬の上市が続いており,経験的に従前の既存薬を処方していたわれわれが,新しい時代の幕開けを感じた瞬間でもあった.発刊から数年が経過し,新規治療薬は実地臨床で浸透しエビデンスが蓄積されてきた.時宜を得て樋口和秀理事長のもと,便秘のみならず,下痢をも含めた診療ガイドラインを策定する気運が盛り上がり,春日井邦夫ガイドライン委員長のもと,「便通異常症診療ガイドライン 慢性便秘症および慢性下痢症」の策定が決定し,片岡洋望ガイドライン委員長に引き継がれ,伊原栄吉小部会委員長の陣頭指揮の下,日本消化器病学会,日本消化器内視鏡学会,日本大腸肛門病学会にもご協力をいただき,このたび出版の運びとなった.
本書の構成は,他のガイドラインに倣いCQ(Clinical Question)のうち既知の知識の整理をBQ(Background Question),今後の研究課題をFRQ(Future Research Question)とし,便通異常症の基礎知識,診断治療,そして未来を総覧することが可能である.便秘,下痢の定義についても,委員会での喧々諤々の討論により新たに定義された.特筆すべきは,診断治療のフローチャートが記載されたことである.慢性便秘症のエビデンスも決して豊富とはいえないが,特に慢性下痢症については,エビデンスがほとんどなく,委員の先生方はかなりご苦労されたに違いない.
このガイドラインは,便通異常症診療に携わるすべての医療者にとっての新たな道標になるに違いない.素晴らしいガイドラインをまとめられた委員の先生方,協力学会の先生方,携われたすべての方々に感謝申し上げたい.
日本消化管学会では,『大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン』の改訂に着手した.常にup dateのガイドラインを先生方にお届けすることが使命であると心得ている.
2023年5月吉日
一般社団法人 日本消化管学会 理事長
永原 章仁
慢性下痢症という難解な課題に挑んだ書籍
診療ガイドラインの作成は大変な仕事である.診療ガイドラインは,日常診療において問題点や疑問点が生じた際に手引きとなるものである.したがって,まずはClinical Question(CQ)の作成から始めて,各項目について推奨の強さを決めなければならない.そのためには過去の研究,すなわち論文を検索して,吟味・評価しなければならない.とくに,治療薬を含む治療法に関しては,プラセボを用いた多数例の無作為比較試験が行われていればよいが,症例数が少なく比較対照試験が行われている臨床研究も少なくない.その場合にはメタ解析が行われるが,追加の臨床研究が行われることにより,その結果が異なってくることもある.このような背景のもと,2023年7月に初めて慢性下痢症に関するガイドラインが『便通異常症診療ガイドライン2023:慢性下痢症』として南江堂より発刊された.慢性の下痢そのものがuncommonな病態のため,エビデンスを得られる資料が少なく,大変な労力のもとに作成されている.本書にはCQが10件掲載されており,慢性下痢症の定義・分類に始まり,診断検査としては警告症状・徴候,有用な臨床検査(内視鏡以外)と内視鏡検査の意義,疫学としては有病率とQOL,病態生理としては生活習慣の関与,内科的治療としてはプロバイオティクスと止瀉薬について解説されている.また,すでに結論が明らかなもの,過去のガイドラインにおいて100%の合意が得られているものはBackground Question(BQ)として作成されており,慢性下痢症の診断基準と,慢性下痢症の診療に有用な身体診察の2件が取り上げられている.さらに,網羅的文献検索によって推奨と根拠水準が決定できないものはFuture Research Question(FRQ)として作成されており,本書では15件ある.本書の内容から,いかに慢性下痢症が未解決の分野であることがわかる.
本書では,慢性下痢症の診断基準を @便形状の変化が軟便あるいは水様便(Bristol Stool Form Scale(BSFS)6 or 7)である,Aその変化は4週間以上持続または反復している,B器質的疾患などほかの原因によるものが除外され,排便の25%以上が軟便あるいは水様便で慢性下痢を主症状とする場合,腹痛の有無は問わず「狭義」の慢性下痢と診断する,としている.このように慢性下痢症を定義した場合に,実臨床ではどの程度の頻度で慢性下痢症が存在しているのか,現時点では明らかでなく,今後の検討が待たれるところである.
臨床雑誌内科133巻3号(2024年3月号)より転載
評者●春間 賢(川崎医科大学総合医療センター総合内科2 特任教授)
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