教科書

看護学テキストNiCE

緩和ケア改訂第3版

尊厳ある生と死,大切な生活をつなぐ技と心

監修 : 梅田恵/射場典子
編集 : 林ゑり子/新幡智子/酒井禎子
ISBN : 978-4-524-21002-2
発行年月 : 2025年1月
判型 : B5判
ページ数 : 330

在庫あり

定価3,520円(本体3,200円 + 税)

  • 新刊
  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文

緩和ケアの概念から,看護を提供するための実践的な知識までを網羅的かつコンパクトにまとめたテキストの改訂版.緩和ケアを“診断時からすべての病期にわたって行われるケア”として捉え,さまざまな場における緩和ケアについてわかりやすく解説.今改訂では,症状マネジメントを全人的苦痛の4つの側面から整理し直し,がん以外の疾患を有する人への緩和ケアを充実させた.

第T章 緩和ケアとは
 1 緩和ケアとは―尊厳ある生と死,大切な生活をつなぐケア
  A.全人的苦痛(トータル・ペイン)のとらえ方
  B.病い,苦しみ,生と死
  C.クオリティ・オブ・ライフ
  D.ケアの土台となる看護師の姿勢
 2 緩和ケアの歴史と定義
  A.緩和ケアの歴史
  B.緩和ケアの定義
  C.緩和ケアに類似した用語
 3 緩和ケアをとりまく今日の状況
  A.社会の変化と緩和ケア
  B.がんと緩和ケア
  C.非がん疾患と緩和ケア
  D.地域包括ケアと緩和ケア
  E.緩和ケアの市民への啓発
 4 日本の緩和ケアに関する政策の変遷と動向
  A.がん対策基本法と緩和ケアに関する政策の変遷
  B.緩和ケアに関する診療報酬や提供体制の動向
  C.非がん疾患の緩和ケアに関する政策
 5 さまざまな場における緩和ケア
  A.一般病棟(緩和ケアチーム)
  B.ホスピス・緩和ケア病棟
  C.地 域
 6 諸外国における緩和ケアの体制
  A.英国と米国における緩和ケアの体制と看護師の役割
  B.低中所得国の緩和ケア
 7 日本の緩和ケアに関する継続教育
  A.医師・薬剤師を対象とした継続教育
  B.看護師を対象とした継続教育
  C.緩和ケアに関する継続教育の今後の課題

第U章 緩和ケアの基盤となる考え方
 1 尊厳を支えるケア
  A.尊厳とは何か
  B.尊厳を支えるケアとはどういうことか
  C.緩和ケアにおける尊厳の現状と倫理的課題
 2 症状マネジメント
  A.症状マネジメントとは
  B.症状マネジメントにおける看護師の役割
 3 日常生活を支えるケア
  A.日常生活を支えるケアとは
  B.日常生活を支えるためのアセスメント項目
  C.日常生活を支えるケアの実際
 4 緩和ケアにおけるコミュニケーション
  A.緩和ケアにおけるコミュニケーション
  B.緩和ケアにおけるコミュニケーションスキル
 5 意思決定を支えるケア
  A.緩和ケアにおける意思決定
  B.意思決定支援と倫理
  C.アドバンス・ケア・プランニング
  D.意思決定支援における看護師の役割
 6 家族ケア
  A.家族ケアとは
  B.緩和ケアにおける家族ケアの特徴
 7 グリーフケア
  A.グリーフとは
  B.グリーフケアにおける看護師の役割
 8 緩和ケアにおける多職種チームアプローチ
  A.多職種チームアプローチとは
  B.多職種チームアプローチにおける看護師の役割,特徴
  C.緩和ケアに携わるメンバーの役割,特徴
  D.多職種チームアプローチにおける障壁
  E.緩和ケアにおけるチームアプローチの推進
 9 看護師のセルフケア
  A.看護師のセルフケアの必要性
  B.看護師のセルフケアの実際

第V章 がん患者の全人的苦痛に対する緩和ケアの実際
 1 身体的苦痛へのケア
  1-1 痛みのマネジメント
   A.痛みの理解
   B.痛みのアセスメント
   C.薬物療法による痛みの緩和
   D.化学療法(がん薬物療法)による痛みの緩和
   E.手術療法による痛みの緩和
   F.放射線療法による痛みの緩和
   G.神経ブロックによる痛みの緩和
   H.補完代替療法による痛みの緩和
   I.痛みがある人への日常のケア
  1-2 呼吸困難のマネジメント
   A.メカニズム
   B.アセスメント
   C.症状緩和方法
  1-3 悪心・嘔吐のマネジメント
   A.メカニズム
   B.アセスメント
   C.症状緩和方法
  1-4 腹部膨満感のマネジメント
   1-4-1 消化管閉塞
    A.メカニズム
    B.アセスメント
    C.症状緩和方法
   1-4-2 腹 水
    A.メカニズム
    B.アセスメント
    C.症状緩和方法
  1-5 便秘のマネジメント
   A.メカニズム
   B.アセスメント
   C.症状緩和方法
  1-6 倦怠感のマネジメント
   A.メカニズム
   B.アセスメント
   C.症状緩和方法
  1-7 浮腫のマネジメント
   A.メカニズム
   B.アセスメント
   C.症状緩和方法
 2 精神的苦痛へのケア
  2-1 睡眠障害のマネジメント
   A.メカニズム
   B.アセスメント
   C.症状緩和方法
  2-2 不安のマネジメント
   A.メカニズム
   B.アセスメント
   C.症状緩和方法
  2-3 抑うつのマネジメント
   A.メカニズム
   B.アセスメント
   C.症状緩和方法
  2-4 せん妄のマネジメント
   A.メカニズム
   B.アセスメント
   C.症状緩和方法
 3 社会的苦痛へのケア
  A. 社会的苦痛とは
  B.社会的苦痛のアセスメント
  C.社会資源の活用
 4 スピリチュアルペインへのケア
  A.スピリチュアル,スピリチュアリティとは
  B.スピリチュアルペインとアセスメント
  C.スピリチュアルケア

第W章 さまざまな対象への緩和ケア
 1 認知症を有する人への緩和ケア
  A.認知症における緩和ケアの考え方
  B.症状マネジメント
  C.認知症を有する人への緩和ケアに関する課題
 2 心不全を有する人への緩和ケア
  A.心不全における緩和ケアの考え方
  B.症状マネジメント
  C.心不全を有する人への緩和ケアに関する課題
 3 慢性呼吸不全を有する人への緩和ケア
  A.慢性呼吸不全における緩和ケアの考え方
  B.症状マネジメント
  C.慢性呼吸不全を有する人への緩和ケアに関する課題
 4 神経難病を有する人への緩和ケア
  A.神経難病における緩和ケアの考え方
  B.症状マネジメント
  C.神経難病を有する人への緩和ケアに関する課題
 5 救急・集中治療領域における緩和ケア
  A.救急・集中治療における緩和ケアの考え方
  B.症状マネジメント
  C.救急・集中治療領域における緩和ケアに関する課題

第X章 臨死期のケア
 1 臨死期のケアとは
  A.臨死期とは
  B.臨死期のケアの特徴
 2 臨死期にある患者へのケア
  A.臨死期にある患者の身体的変化
  B.臨死期にある患者の心の変化
  C.臨死期にある患者の症状マネジメント
  D.臨死期にある患者のケア
  E.死亡後のケア
 3 臨死期にある患者の家族へのケア
  A.臨死期にある患者の家族の特徴
 4 死の迎え方の多様性
  A.看取りと文化
  B.外国人に対する看取りのケア

第Y章 さまざまな事例で学ぶ緩和ケアの実際
 1 事例@ 療養の場をつなぐ
  ―肺がん多発骨転移により痛みを抱えて生活する患者への継続看護
  A.アセスメント――肺がん,骨転移による痛み,地域との連携
  B.看護目標
  C.看護の実際
  D.評 価
  E.まとめ
 2 事例A セルフケアを促す
  ―患者が自分でも症状緩和をはかれると感じられるようなかかわり
  A.アセスメント――呼吸困難,セルフケア能力
  B.看護目標
  C.看護の実際
  D.評 価
  E.まとめ
 3 事例B「食べたい」という希望を支える
  ―誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者へのかかわり
  A.アセスメント――嚥下機能障害,栄養摂取方法
  B.看護目標
  C.看護の実際
  D.評 価
  E.まとめ
 4 事例C 進行する機能低下を支える
  ―全人的苦痛を理解し,希望を支えるかかわり
  A.アセスメント――全身機能障害,全人的苦痛,スタッフの認識
  B.看護目標
  C.看護の実際
  D.評 価
  E.まとめ
 5 事例D スピリチュアルケア
  ―死に向き合うことを余儀なくされて苦悩する患者へのかかわり
  A. アセスメント――スピリチュアルペイン
  B.看護目標
  C.看護の実際
  D.評 価
  E.まとめ
 6 事例E 家族のケア
  ―終末期にある患者の妻の予期悲嘆に対する援助
  A.アセスメント――妻の情緒的な緊張状態
  B.看護目標
  C.看護の実際
  D.評 価
  E.まとめ
 7 事例F チームによる緩和ケア
  ―病棟・緩和ケアチーム・退院調整部門の看護師による協働
  A.アセスメント――その人らしい過ごし方
  B.看護目標
  C.看護の実際
  D.評 価
  E.まとめ
 8 事例G 在宅での看取り
  ―痛みの強い終末期がん患者の在宅での看取り
  A.アセスメント――終末期,がんの痛み
  B.看護目標
  C.看護の実際
  D.評 価
  E.まとめ
 9 事例H 看護師が行うグリーフケア
  ―妻を見送った夫の悲しみへのかかわり
  A.アセスメント――夫の悲嘆,健康状態と生活の維持,孤立・孤独感の増強
  B.看護目標
  C.看護の実際
  D.評 価
  E.まとめ

【監修のことば】

 新たに林ゑり子先生,新幡智子先生,酒井禎子先生の3名に編集をご担当いただき,『看護学テキスト NiCE 緩和ケア 改訂第3 版』の発行にこぎつけることができた.超高齢多死の時代を迎え,緩和ケアをとりまく社会情勢は変化し続けている.そして,緩和ケアを必要とする対象は,年齢や疾患に限定されることなく拡大している.緩和ケアとは,看護の実践そのものであると考えている.緩和ケアを学ぶことで,看護の技や心も深く育まれ,看護がより多くの人々に貢献できる場面も広がることだろう.

かつて緩和ケアは,がん終末期の患者や家族のような特定の対象に対する特別なケアのように認識されてきた.しかし,人々の尊厳を守るための症状マネジメントであり,必ず訪れる最期のときの話し合いも含めた自分らしい生き方についての対話である緩和ケアは,がん以外の疾患をもつ人や小児,高齢者,さらに家族や患者を支える人々にも必要とされるケアとして認識されるようになってきた.人々の尊厳を守る,つまり人としての暮らしや希望を大切に,その人らしく生きる権利を守る緩和ケアは,豊かに生きることを語り求める平和な社会でこそ必要とされるだろう.

 最後に,多忙な中,執筆にご尽力くださった執筆者の皆様,本書の内容がより読者に伝わりやすいように文章の校正,イラストや図表の作成など努力を惜しまず取り組んでくださった南江堂スタッフに心から感謝を表したい.

 新たな編集者により本書の内容が充実し,緩和ケアにおいて看護が育んできた技と心が,より広く多くの人々に看護の手を通して届けられるようになることを心から願っている.

2024年10月
梅田 恵
射場典子


【はじめに】

 2006年にがん対策基本法が成立し,がん教育の推進が謳われ,広く一般にがんに関する知識の普及啓発が進められてきた.小中学校・高等学校の段階でがん教育を受ける機会も徐々に広がっている.こうした背景から,「緩和ケア」という言葉も世間に浸透してきており,また,緩和ケアを提供する側の人材育成も推進され,がん患者にとどまらず,苦痛緩和のための医療・ケアは今や,誰もが享受できる権利となっていると感じる.

 本書は,緩和ケアのさまざまな技と心,すなわち,大切な生活や尊厳を守るため,人々に寄り添い関心を寄せること,全人的苦痛を客観的にとらえ効果的なケアにつなげることを学ぶための教科書として,初版刊行以来,多くの読者に活用していただいた.緩和ケアを,診断時からすべての病期にわたって治療と並行して行われるケアとしてとらえ,がん以外の疾患を有する人への緩和ケアや,病院だけでなく在宅などさまざまな場における緩和ケアの必要性や実践まで網羅している.改訂第3版では,緩和ケアをめぐる近年の状況を踏まえ,構成の変更,内容の整理・追加を行った.

 第T章では「緩和ケアとは何か」をつかむことができるよう,緩和ケアの歴史から今日までの状況をまとめ,第U章では緩和ケアを実践するうえで基盤となる考え方を解説した.これらの知識をもとに第V〜Y章では緩和ケアの実際を学ぶ.全人的苦痛へのケアとして主な症状に対する症状マネジメントを学ぶ第V章は,全人的苦痛の4つの側面に応じた4節構成として整理し直した.またがん以外の疾患を有する人への緩和ケアについて学ぶ第W章には,認知症を有する人,神経難病を有する人,救急・集中治療領域における緩和ケアの解説を追加し充実させた.第X章では臨死期にある患者および家族へのケアをまとめた.そして第Y章では,豊富な事例をとおし,さまざまな対象・場面における緩和ケアの実際を理解する.がん患者の事例のほか,今回の改訂ではがん以外の疾患を有する患者の事例として新たに,誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者,神経難病により機能低下が進行している患者の事例を追加した.

 苦痛を抱えた人へのあたたかな声かけや,細やかな気配りは大切な緩和ケアである.しかしそれだけでは効果的なケアは行えない.患者に寄せる心を大事にしながら,根拠に基づく正確な知識や技術を身につけることが不可欠である.そのために学ぼうとすることは,自信につながり,自ずとよいケアにつながっていく.本書で,そうした技と心を学んでいただき,その技と心が,皆さんの実践を通して緩和ケアを必要とする人々に届くことを願っている.

 最後に,本書の改訂にあたり,貴重な時間を割いてご協力くださった執筆者の皆様に心から感謝を申し上げる.

2024年10月
林ゑり子
新幡智子
酒井禎子

9784524210022