今日の治療薬2024
解説と便覧
編集 | : 伊豆津宏二/今井靖/桑名正隆/寺田智祐 |
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ISBN | : 978-4-524-20768-8 |
発行年月 | : 2024年1月 |
判型 | : B6判 |
ページ数 | : 1440 |
在庫
定価5,280円(本体4,800円 + 税)
正誤表
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2024年09月25日
第1刷
- 商品説明
- 書評
今日の治療薬2024改訂ポイント
■巻頭トピックス
・「不妊治療・生殖補助医療のいまとこれから」「睡眠薬のあゆみ」「便秘症治療薬のアップデート」の3点を掲載.
■便覧
・「同種薬比較」を新設
・抗悪性腫瘍薬の減量が必要な副作用の情報を追加
・オーソライズド・ジェネリック(AG)の規格や剤形・会社名などを追加
■巻末付録
・コラム「今日の学び直し」を新設.2024年版のテーマは「薬物動態を学び直す」.
『今日の治療薬』,その特徴的なビニールカバーのコンパクトな本を医局や外勤先の本棚で探し求め,手にとった経験をほとんどの医師がもっているのではないだろうか.本書は,初版の1977年から改訂を重ね,今年も2024年版として発刊された.46版の長い歴史の中で,2011年版の本書が手元にあったため,2024年版と比較してみた.まず総頁数であるが,2011年版は1,184頁,2024年版は1,440頁と20%以上増加していた.日々新薬が開発され,医学が日進月歩に発達を続けていることに,今更ながら驚かされる.
2024年版は,「不妊治療・生殖補助医療のいまとこれから」,「睡眠薬のあゆみ」,「便秘症治療薬のアップデート」の3点が巻頭トピックスとして取り上げられている.いずれも興味深い話題であった.特に処方する機会もある睡眠薬で,まったく新しい機序であるメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬など,より副作用が少なく高齢者にも使いやすい新薬が登場していることは,整形外科医でもおさえておくべき知識と思われた.
また,本書の副題は「解説と便覧」である.「解説」はよいとして,「便覧」の定義について改めて調べてみた.すると「便覧」とは,「特定の分野で必要な事項を簡潔に説明し,必要なときに必要な項目を即座に確認できるようにした参考図書のこと」であり,まさに本書の特徴を表している言葉であった.2024年版は「便覧」に,薬効が近い場合の使い分けの手がかりとして,「同種薬比較」が追加されている.さらに,近年次々と発売されているオーソライズドジェネリックの商品名に加え,剤形・規格や会社名も掲載されるようになった.いずれも大きな変更ではないが,増え続ける薬剤の選択に際して,読者が正確に判断するのをサポートするよい工夫であると感じた.そして,これらのアップデートの積み重ねが長年にわたる本書への医師の信頼を築いているのであろうと感じた.
ここで,整形外科と関係の深い治療薬である,骨・カルシウム代謝薬と骨・軟部腫瘍に対する抗腫瘍薬の現状について,先述の2011年版と比較してみた.まず2024年版では,骨・カルシウム代謝薬として12項目が記載されている.意外にも2011年版には副甲状腺ホルモン受容体作動薬はあるが,抗receptor activator of NF-κB ligand(RANKL)モノクローナル抗体の記載はなかった.もちろん,抗スクレロスチンモノクローナル抗体も登場しておらず,最近の骨粗鬆症治療薬の進歩が実感された.
腫瘍性骨軟化症(tumor-induced osteomalacia:TIO)は腫瘍から分泌される線維芽細胞増殖因子23(FGF23)によって引き起こされる.興味深いことに2011年版でもすでにTIOについて解説され,治療については腫瘍切除のみとの記載があった.一方,2024年版にはすでにFGF23抗体ブロスマブがTIOへの治療薬として掲載されており,この分野の薬剤開発のスピードには目をみはるばかりである.
骨・軟部腫瘍に対する抗腫瘍薬についても,2012年に悪性軟部腫瘍に対するはじめての分子標的治療薬としてパゾパニブが登場した.その後,立て続けにトラベクテジンやエリブリンメシル酸塩が認可され,臓器横断的なNTRK融合遺伝子関連腫瘍に対するTRK阻害薬なども開発され,悪性軟部腫瘍の治療薬の選択肢の豊富さについても隔世の感がある.
整形外科であるからには,どうしてもまず外科手術に目を向けてしまいがちである.しかし,整形外科の役割である「運動器の健康を守る」ため,時には整形内科的なアプローチも活用してくことが必須である.そのための指針を示してくれる羅針盤として,これからも本書を活用していきたい.
臨床雑誌整形外科75巻7号(2024年6月号)より転載
評者●福島県立医科大学整形外科主任教授・松本嘉寛