書籍

変形性膝関節症診療ガイドライン2023

監修 : 日本整形外科学会
編集 : 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会
ISBN : 978-4-524-20702-2
発行年月 : 2023年5月
判型 : B5
ページ数 : 164

在庫あり

定価4,180円(本体3,800円 + 税)


正誤表

  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

変形性膝関節症(膝OA)は痛みや腫れ,可動域制限などの症状によりQOLを損なう,ロコモティブシンドロームの代表的な疾患の一つである.本ガイドラインは,2010年・2015年に公開された日本語版OARSIガイドラインから内容を刷新し,欧米の最新のガイドラインを踏まえ,Mindsの推奨する作成基準に沿って膝OAの疫学・病態・診断,生活指導や薬物療法から手術療法およびリハビリテーションまで多様な治療法を詳細に分析し推奨度を示した.

前文

第1章 疫学
  Background Question 1 変形性膝関節症の自然経過はどのようなものか
  Background Question 2 変形性膝関節症はQOL,健康寿命,生命予後に影響するか
  Background Question 3 変形性膝関節症のリスク因子は存在するか

第2章 病態
  Background Question 4 変形性膝関節症による疼痛の原因は何か
  Background Question 5 変形性膝関節症と他疾患との関連はあるか
  Background Question 6 変形性膝関節症の発症や進行に遺伝子変異は関与するか
  Background Question 7 変形性膝関節症の発症機序はどのようなものか

第3章 診断
  Background Question 8 単純X線撮影検査は変形性膝関節症の診断に有用か
  Background Question 9 変形性膝関節症の臨床症状評価に有効な評価法は何か
  Background Question 10 変形性膝関節症の診断,臨床評価,進行予測に有用な方法はあるか
  (1)画像(単純X線撮影検査,MRI,超音波検査を含む)
  (2)バイオマーカー
  (3)バイオメカニクス

第4章 治療(保存療法)
  治療概要
  Clinical Question 1 変形性膝関節症に教育プログラムは有用か
  Clinical Question 2 変形性膝関節症に運動療法は有用か
  Clinical Question 3 変形性膝関節症に体重減少は有用か
  Clinical Question 4 変形性膝関節症に物理療法は有用か
  Clinical Question 5 変形性膝関節症に装具療法(歩行補助具を含む)は有用か
  Clinical Question 6 高齢者の変形性膝関節症の薬物療法の第一選択には何が有用か
  Clinical Question 7 変形性膝関節症にアセトアミノフェンは有用か
  Clinical Question 8 変形性膝関節症にNSAIDs内服は有用か
  Clinical Question 9 変形性膝関節症にNSAIDs外用は有用か
  Clinical Question 10 変形性膝関節症にワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤内服は有用か
  Clinical Question 11 変形性膝関節症に弱オピオイドは有用か
  Clinical Question 12 変形性膝関節症にセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)は有用か
  Clinical Question 13 変形性膝関節症にヒアルロン酸関節内注射は有用か
  Clinical Question 14 変形性膝関節症にステロイド関節内注射は有用か

第5章 治療(手術療法)
  Clinical Question 15 変形性膝関節症に鏡視下半月板切除や鏡視下デブリドマンは有用か
  Background Question 11 変形性膝関節症に膝周囲骨切り術は有用か
  Background Question 12 変形性膝関節症に人工膝関節内(外)側置換術・膝単顆置換術は有用か
  Background Question 13 変形性膝関節症に人工膝関節全置換術は有用か
  Background Question 14 人工膝関節全置換術の周術期疼痛管理は有用か
  Background Question 15 人工膝関節全置換術の周術期リハビリテーション医療は有用か




 日本は老年人口比率が2007年に21%を超え,今や3割に達しようとする超高齢社会となっています.超高齢社会の到来は疾病構造を変化させ,運動器疾患では運動器障害による移動機能低下−ロコモティブシンドロームに日本は直面しています.その主たる疾患のひとつである変形性膝関節症は,約800万人が疼痛を有しており,X線学的な関節症変化は約2,500万人に存在し,40歳以上で有病率が約55%,有症状者が1,800万人に達するといわれ,要介護への移行リスクが約6倍あることが指摘されています.変形性膝関節症は個人の日常生活のみならず,社会の経済活動や医療・福祉政策に多大な影響を与えており,その克服は日本の喫緊の課題といえます.

 一方,平均寿命は2050年には女性で90歳,男性で84歳に達し,100歳以上の高齢者は約70万人にのぼると予想されています.今後,日本は年少人口や生産人口が半減する人口減少社会が到来し,活力ある高齢者の社会参画が必要とされる時代が迫っています.日本国政府は人生100年時代を掲げ,健康なアクティブシニアの積極的な社会参画による,活力ある社会を目指すとしています.その日本の未来に,私たち整形外科医がどう責任を果たしていくか,今,その役割を問われていると考えます.

 このような社会的要請に対して公益社団法人 日本整形外科学会は,2002年に運動器疾患診療において日常診療で遭遇する頻度および重要性が高いと思われる11疾患を選定し,診療ガイドラインの作成に着手しました.変形性膝関節症に対しては,2008年に上梓された変形性膝関節症に関する国際変形性関節症学会(Osteoarthritis Research Society International:OARSI)勧告をベースとし,変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会(当時)がエビデンスに基づくエキスパートコンセンサスガイドラインとして日本語化と日本の診療実態と一致しない部分の適合化作業を行い,2010年に公開しました.その後2015年に第2版が公開されました.以降,改訂が待たれるなか,日本整形外科学会は2019年に新たに変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会を設置し,2019年3月から委員会活動を開始しました.

一般に,診療ガイドラインとは「健康に関する重要な課題について医療利用者と提供者の意思決定を支援するために,システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し,益と害のバランスを勘案して,最適と考えられる推奨を提示する文書」[公益財団法人 日本医療機能評価機構(Minds)診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0]とされます.したがって,本ガイドラインでも変形性膝関節症の診療において,治療に限らず,疫学,病態,診断,疼痛,リハビリテーションなどの分野も網羅し,「医療利用者」は「患者」だけでなく,その家族や一般市民に対する啓発教育も含む内容となっています.また,「提供者」は医師や看護師などの医療系有資格者に限らず,医療・保健・介護・福祉などの行政担当者なども想定しています.一方,その目的は「支援(assist)」であって,「規制(regulate)」や「命令(order)」ではなく,「病気に向き合う医療者,患者・家族を力づけ,励ます情報源」(京都大学大学院 中山健夫先生)となっています.そして,ガイドラインは大多数の医療利用者(60?95%)に対して適応とされるものの,個々の利用者の状態や環境は様々であるため,治療法の選択においてはその益・害を医療利用者と提供者間で討論して治療法が決められるべきです. 本ガイドラインでは変形性膝関節症に関する国内外の文献を渉猟し,ランダム化比較試験のような質の高い研究データを,出版バイアスのようなデータの偏りを限りなく除き,分析を行いました.そして,複数の益と害についてシステマティックレビューを行い,それぞれのエビデンスの確実性を明らかにして,臨床的文脈全体のなかで益と害のバランスを勘案して推奨を提示しています.

 第1回変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会の開催から4年の歳月が流れ,ここに変形性膝関節症診療ガイドラインを上梓することができました.読者の皆様が,本策定委員会委員の真意と労苦を汲み取っていただき,本ガイドラインを有効に活用してくださいますよう,心よりお願い申し上げます.

 なお,本ガイドライン策定に際して本策定委員会委員とアドバイザーの諸先生には,新型コロナ禍の只中においても綿密な策定作業や13回に及ぶ委員会審議で大変お世話になりました.とりわけ,吉田雅博先生(Minds)にはご多用のなか,本ガイドライン策定方法に対して多くの適切な助言をいただきました.また,構造化抄録の作成には,日本関節病学会および日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会の理事・評議員の先生方のご協力をいただきました.さらに,日本整形外科学会元理事長 山崎正志先生,同前理事長 松本守雄先生,現理事長 中島康晴先生,同診療ガイドライン委員会担当前理事 志波直人先生,現理事 齋藤貴徳先生,同委員会委員長 石橋恭之先生のご支援がなければ本ガイドラインは完成しませんでした.改めて各位に厚く御礼申し上げます.加えて,パブリックコメントに建設的な意見をお寄せいただいた学会会員の皆様に感謝いたします.

 最後に,膨大な文献検索や策定業務など実務作業を忍耐強くかつ緻密にこなしていただいた国際医学情報センター 逸見麻理子氏に,刊行に関しては南江堂のスタッフの方々に深謝申し上げます.

 本ガイドラインが変形性膝関節症に苦しむ多くの患者さんやご家族にとって福音となり,超高齢人口減少社会・日本の健康長寿延伸に貢献できますように祈ってやみません.

2023年5月
日本整形外科学会
変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会
委員長 内尾 祐司

 日本整形外科学会は2002年以来,現在までに18疾患に対して診療ガイドラインを作成していますが,変形性膝関節症は2010年に初版が公開されました.その後,日々更新されるエビデンスを基に2015年に第2版が公開され,このたび新たにとして本書が上梓されました.広く知られているように,変形性膝関節症は高齢人口比率が高い国においてもっとも罹患率の高い慢性疾患の一つであり,深刻な超高齢社会である本邦においても2,500万人以上が罹患し,800万人以上が疼痛を有していると見込まれているきわめて重要な疾患です.整形外科医のみならず,あらゆる医療関係者にとって治療を求める患者と遭遇する機会がとても多い疾患といえるでしょう.そのような中で,それがどのような疾患なのか,どれほどの患者がどれくらい困る疾患なのか,どのように診断し治療することが望まれるのかについて,専門家でなくてもわかりやすく示してくれる診療ガイドラインの必要性と重要性はいうまでもありません.

 ほかの診療ガイドラインと同様に,本ガイドラインも網羅的に収集された膨大な研究報告からその研究結果の信頼性や妥当性が一つ一つ吟味され,エビデンスレベルとともに協議された結果が採用されています.取り上げられた基礎的・臨床的疑問のそれぞれについての解釈と意見が,それが導かれた理由とともにわかりやすく記載されています.それが一部の専門家のみによる偏った意見にならないように,慎重に検討されています.新しい知見は日々更新され,時に重要な知見が覆されることもあるため,なるべく新しい研究結果を採用する必要があります.本書は2009〜2019年に公開された研究論文から抽出されています.検索された論文総数は欧文と和文を合わせて7万件以上にのぼっています.それを変形性膝関節症についての学識者230名で構造化と評価を重ね,最終的には内尾祐司委員長をはじめとする14名の策定委員によって絞り込んで解釈をまとめていくという気の遠くなるような作業の結果によってつくられました.信頼できる最新のデータがまとめられています.

 取り上げられた疑問も,自然経過,予後や発症リスク因子などの疫学から,遺伝学を含む病態,診断の妥当性,保存療法と手術療法のエビデンスにいたるまで,日常診療ですぐに役立つ内容が網羅されています.特に保存療法における弱オピオイドやセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)の有用性や,手術療法における膝周囲骨切り術や人工膝関節単顆置換術など,昨今適用例数が増加してきている治療法についての最新知見も得られます.さらに,参考資料としてサプリメントと多血小板血漿療法にかかわる資料集成結果と解説が載せられているのも,本書が役立つポイントでしょう.これらの治療は患者の関心も高く,よく質問を受ける内容です.科学的にどれほどのことが証明されており,また証明されていないのかを知ることができます.

 変形性膝関節症の診療と研究に携わるすべての人に一度は読んでいただき,仕事場のそばにおいてもらいたい書物です.

臨床雑誌整形外科74巻13号(2023年12月号)より転載
評者●東京女子医科大学整形外科教授・岡崎 賢

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