苦手克服!速考!整形外科外来診療エッセンス
小児・腫瘍・スポーツ編
編集 | : 中村博亮 |
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ISBN | : 978-4-524-20558-5 |
発行年月 | : 2024年5月 |
判型 | : B5判 |
ページ数 | : 296 |
在庫
定価6,050円(本体5,500円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
本書では,整形外科外来診療において,特に“苦手”に陥りやすい小児整形外科疾患,骨・軟部腫瘍,スポーツ整形外科疾患の3つを取り上げて解説.“速考”をコンセプトに写真やイラストを多用し,外来診療に必要な部分のみを抽出したエッセンスを記載した.日常的に整形外科診療に携わっている医師はもちろん,若手医師や非整形外科医にも読んでほしい一冊.
小児編
1 子どもの診察法
2 股関節・膝関節・肩関節など関節が痛い!
3 股関節が痛い
4 足首から先が痛い
5 本当に成長痛?
6 歩きかたが気になる,よく転倒する,踵が浮いている
7 脚が曲がっている
8 脚の長さが違う
9 股関節が硬い赤ちゃんをみたら
10 首が曲がっている
11 骨が折れた
12 肩が外れた?(急に腕を動かさない)
腫瘍編
13 骨・軟部腫瘍専門医に紹介してみよう.骨・軟部腫瘍専門医は怖くない
14 この腫瘍って経過観察でいいの?
15 骨・軟部腫瘍専門医に紹介すべき,「これはやばいポイント」5選!
16 日常診療でよく遭遇する軟部腫瘍とは?
17 悪性を疑わせる軟部腫瘍のMRI画像所見
18 軟部腫瘍に対する超音波画像診断
19 骨腫瘍画像の基本中の基本[その画像の異常所見は腫瘍ですか?]
20 疑う目を養おう! 良悪性画像鑑別ポイント
21 骨腫瘍一発診断! 知っていればわかる!
22 メタ大騒動―骨転移を疑ったらどう動く?
23 外来で行う切除術のコツとピットフォールと限界
24 やってみよう骨転移の手術
スポーツ編
25 簡単! スポーツ障害患者の鑑別診断と診察方法
26 見逃さない! スポーツ画像診断
27 膝をひねって動けない
28 運動すると膝周りがおかしい!(おもに小児,思春期)
29 走っていたら急に股関節が痛くなった
30 運動部です.最近腰痛がある(分離症,ヘルニア,筋膜性腰痛症)
31 野球部です.肩肘が痛い
32 足首をひねった.大会に出てもよい?
33 走っていたら肉ばなれしました.いつから運動できる?―肉ばなれに対する治療
34 ジョギングで膝が痛くなって腫れてきた
35 最近立ち上がりで膝が痛い
36 外来でパッと指導できる,けがをしにくい体作り
37 再生医療の関節注射に効果はあるか?
索 引
巻頭言
本邦における高齢者人口の比率は28%を超え,超高齢社会を迎えています.しかし,健康寿命と平均寿命との間には約10 年の乖離があり,この期間においては自立生活の難しい状態を過ごすことになります.健康寿命を延伸するために,ロコモティブシンドロームやフレイルを含めた運動器疾患への対策は喫緊の課題であり,整形外科診療はその重要性を増しています.整形外科学は頸部より末梢に生じた運動器,すなわち骨,関節,脊髄,神経,筋肉に生じた機能障害を再建する学術領域で,その守備範囲は極めて大きいです.整形外科医にとって,いわゆる変性疾患である変形性膝関節症,変形性股関節症,腰部脊柱管狭窄症,頸椎症性脊髄症などは診療機会の多い対象疾患であり,知識的にも経験的にもその診断・治療への造詣は深いでしょう.しかし,診療機会の少ない疾患となるとたちまち苦手意識が生まれます.その代表が,本書で取り上げた小児整形外科的疾患,骨・軟部腫瘍,スポーツ障害ではないでしょうか.小児については,自身の症状をうまく表現することができないことや成長に伴う問題などもあり,大人に対しての接し方とは全く異なる技術や知識が求められます.骨・軟部腫瘍は,診断や治療の遅れが患者の機能的予後,生命予後に直結する場合もあります.またスポーツ障害については,障害原因となるスポーツの多様性やポジショ
ンの違い,レベルや年齢の違いなどがあるために,苦手意識をもたれる先生方も多いでしょう.
そこでこのたび,2022 年刊の『速考! 脊椎外来診療エッセンス』の姉妹本として『苦手克服! 速考! 整形外科外来診療エッセンス―小児・腫瘍・スポーツ編 』を上梓しました.本書の構成として,まずは冒頭で30 秒サマリーとして診断への糸口を明確にし,その後,問診のポイントや診察方法,画像診断,鑑別診断などを解説しています.特に徒手的診察法については,できるだけ図を多用して解説し,明日からの診療にもマニュアル的応用ができるように工夫してもらいました.
また執筆いただいた先生方は,それぞれの分野のスペシャリストであり,診療現場での実際の経験に基づき執筆されています.さらに,各項目の末尾にはコラムと称して,ピットフォール的な解説も交えていただいています.
本書が,すでに整形外科専門医として活躍しておられる先生方の日常診療の手助けとなることはもちろん,専門医をめざす専攻医の先生方や研修医の先生方,さらには医学部学生の方々にも,その知識を習得・整理するために有用な書となることを願っています.
最後に,企画・執筆・編纂にあたって種々ご尽力いただいた大阪公立大学整形外科学教室員である玉井孝司医師をはじめ,ご執筆の先生方にこの場をお借りして感謝申し上げます.同時に本書の発刊にあたって企画当初からご協力,ご支援いただいた南江堂の諸兄にも感謝の意を表し,巻頭言とさせていただきます.
2024年5月
中村博亮
本書は,整形外科医や研修医が苦手とする分野に対して,実践的なアプローチを提供する読みやすい書籍です.特に小児整形外科,腫瘍,スポーツ整形外科という複雑な領域を簡潔にまとめ,外来診療に直結する知識をわかりやすく解説している点が特徴です.
本書の最大の魅力は,難解な表現を避け,専門外の医師でも理解しやすい構成になっていることです.初学者や専門外の医師が苦手意識をもちやすい領域についても,実践的な知識が平易に記述されており,診療の現場で即座に活かせる内容となっています.
小児整形外科の章では,単に診療技術に関する解説だけでなく,患者である子どもの両親の気持ちに寄り添う説明の大切さにも触れられています.特に小児の診療では,本人のみならず保護者の不安を理解し,丁寧に説明することが治療の成功に直結することが多いため,このような視点は実務に非常に役立ちます.保護者を安心させて治療に臨むための具体的なコミュニケーション方法が記されており,若手医師にも非常に有用な内容となっています.
骨・軟部腫瘍の章では,豊富な画像とともに,好発年齢や発生しやすい部位などの基本的な情報が簡潔に整理されています.骨・軟部腫瘍の診断は非常にむずかしく,見逃されやすい疾患群ですが,本書では視覚的な資料が充実しており,重要なポイントがわかりやすくまとめられています.また,専門医への紹介のタイミングなどは悩むことが多いのですが,紹介のタイミングまで記されている点は本書の特徴として評価されます.
スポーツ整形外科の章では,膝の画像提示においてはMRIの撮像方法まで詳細に記載されており,単に画像を読むだけでなく,その前提となる的確な画像を取得することにまで内容が及んでおり,臨床現場における大きな利点です.スポーツ傷害については予防医学の観点からストレッチやエクササイズの重要性が強調されており,具体的な方法が図解とともに紹介されています.これらは,アスリートのみならず一般患者にとっても重要なテーマであり,日常診療でのアドバイスとして明日からすぐに役立つ内容が詰まっています.予防的なストレッチやエクササイズは,スポーツ傷害を未然に防ぐための鍵であり,診療の質を高める重要な要素となります.
さらに,筆者の実体験に基づく「コラム:こんなことがありました!」ではヒヤリとしたことや失敗例が豊富に紹介されている点も本書の大きな強みです.医療現場におけるリスク管理や予期せぬトラブルに関する具体的なエピソードは,特に若手医師や研修医にとって貴重な学びの機会となり,診療で同じ過ちを繰り返さないための教訓となります.臨床経験が少ない医師にとって,このような実践的な内容は,リスク管理のスキルを向上させる助けとなるでしょう.
しかし,いくつかの改善点も見受けられました.ページ数の制限からか,参考文献が少なく感じました.エビデンスに基づいた診療を求める現代の医療においては,筆者の実体験や見解に依存した部分が多いため,特に経験の浅い医師にとっては,情報の正確性に対する懸念が残りました.さらに,最新の知見が紹介されている一方で,これらの内容が長期的に有効かどうかには疑問が残る部分もあります.医療の進歩は非常に速く,現在の「最新」が数年後には時代遅れになる可能性があります.読者は常に自己学習を続け,最新のガイドラインや研究に基づいて知識を更新していく必要があります.
総じて,本書は整形外科外来診療において実践的で,特に初心者や非専門医にとって有用な一冊です.豊富な画像資料や,実務に直結した具体的なアドバイスや経験談は,忙しい外来診療で即座に活用できる内容です.小児整形外科,腫瘍,スポーツ整形外科という複雑かつ苦手と感じやすい領域を簡潔にまとめ,知識をわかりやすく解説している点で,この書籍は非常に価値のある一冊です.
臨床雑誌整形外科75巻12号(2024年11月号)より転載
評者●大阪医科薬科大学整形外科教授・大槻周平