京大式 肝・腎・肺移植マニュアル
編集 | : 伊達洋至/波多野悦朗/小林恭 |
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ISBN | : 978-4-524-20495-3 |
発行年月 | : 2023年9月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 328 |
在庫
定価8,800円(本体8,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
肝・腎・肺,および膵・膵島移植,小腸移植において京都大学で確立・実践されている移植医療の精髄をまとめた.移植医療に携わる医師,移植コーディネーターをはじめ移植前から長期外来管理まで協同して患者をサポートするメディカルスタッフやソーシャルワーカーまで,多領域・多職種にとって必要な幅広い知識を網羅し共通理解の助けとなる実践書である.
総論
1.臓器移植の歴史
2.HLAタイピング,HLA抗体,リンパ球クロスマッチ
3.細胞性拒絶と液性拒絶
4.免疫抑制薬の種類と免疫抑制療法
5.臓器移植と感染症
6.臓器移植と精神医学的評価
7.臓器移植と麻酔
8.慢性拒絶反応
9.臓器移植と病理
10.ABO不適合移植
11.移植医療における移植コーディネーターの役割
12.脳死移植,心停止後移植,生体移植
13.脳死(心停止)移植におけるコーディネーターの役割
14.脳死ドナーからの臓器摘出
15.臓器保存
16.長期外来管理の注意点
17.臓器移植前後のリハビリテーション
18.臓器移植と栄養管理
各論 @腎移植(生体・献腎)
1.適応
2.アロケーションシステム
3.手術
4.術後管理
5.小児
6.成績(移植腎機能廃絶を含む)
各論 A肝移植(生体・脳死)および膵・膵島移植,小腸移植
1.適応
2.アロケーションシステム
3.手術
4.術後管理
5.小児
6.成績
7.膵・膵島移植
8.小腸移植
各論 B肺移植(生体・脳死)
1.適応
2.アロケーションシステム
3.手術
4.術後管理
5.小児
6.成績
臓器移植は,不治の病に苦しむ患者を助けることができる素晴らしい医療です.日本の臓器移植には,脳死問題から欧米に大きく後れを取ったという苦い経験があります.1997年に待望の臓器移植法が施行され,さらに2010年には臓器移植法が改正されました.過去25年間で日本の臓器移植は着実に進歩し,現在では末期臓器不全の治療法として日本に定着したといってよいでしょう.しかしながら,脳死ドナー不足など,まだまだ解決しなくてはならない問題が山積みです.
京都大学では,1967年に腎移植,1990年に肝移植,2002年に肺移植が始まりました.これまでの京都大学での累積移植数は,肝移植が2,000例超,肺移植が330例超であり,いずれも日本で最も多くの実績があります.また,腎移植も約200例の経験があり,近年急速に移植数は増えています.さらに,膵・膵島移植,小腸移植も行っており,心臓移植以外のすべての臓器移植を行ってきました.そして,臓器移植を行うためには,医師,看護師,コーディネーターをはじめとする多職種・多領域が協力するチーム医療が不可欠です.京都大学には,長年の経験と実績に基づいた,充実したチーム医療が確立していると自負しています.
日本には臓器移植に関する教科書は少なく,臓器および職種横断的に臓器移植を網羅した教科書はこれまでありませんでした.そこで,『京大式 肝・腎・肺移植マニュアル』を作成しました.総論では,臓器移植を行うにあたって重要な項目を臓器横断的に網羅しました.また,各論では,移植を実施するにあたって重要な項目を各臓器別に具体的に記載するようにいたしました.本書は,臓器移植にかかわる多くの職種の皆さんのバイブルになるものと期待しています.そして,臓器移植に不可欠なチーム医療の一助となれば幸いです.
2023年9月
京都大学
肝胆膵・移植外科 波多野悦朗
泌尿器科 小林 恭
呼吸器外科 伊達 洋至
京都大学はいわずと知れた臓器移植のメッカである.特に肝・腎・肺の移植実施数は群を抜いており,蓄積された経験は膨大であろう.
本書は移植の歴史から始まり,臓器共通のトピック[ヒト白血球抗原(HLA),拒絶,免疫抑制法,感染症など]が続く.いずれも基本的知見をふまえたうえで,肝・腎・肺それぞれでどう違うのかが述べられており,非常にわかりやすい.移植学だけではなく,病理学,精神医学,コーディネーター,リハビリテーション,栄養管理など,移植を支える他領域にもしっかり目配りしてある.また,各論のほうはまさに京大方式の集大成である.膨大な経験に支えられ,論文や学会発表などでは触れられないようなちょっとしたコツや盲点も記載されているのは素晴らしい.現実の移植医療は教科書的な典型的経過をたどることはめったにないといってよく,実際に現場で役に立つのはこういったちょっとしたコツや盲点なのである.
本書のタイトルには「肝・腎・肺移植」と書かれているが,膵・膵島・小腸の移植にも十分紙面が割かれており,心移植以外,ほぼすべての臓器移植が網羅されているといっても過言ではないだろう.
コロナ禍が明け,最近わが国では脳死移植症例が急増している.これまで実施数では欧米や韓国から取り残されてしまっているが,今後は移植が日常臨床としてごくふつうに実施されるようになり,移植専門家でなくても移植の基本知識が必要とされる日は近いと思われる(期待を込めて).本書は,移植を専門とする者にとってはバイブルであり,非専門家にとっては必要な知識を1冊で簡単に入手できる優れものである.
臨床雑誌外科86巻1号(2024年1月号)より転載
評者●[東京大学肝胆膵外科・人工臓器移植外科教授・長谷川 潔]
「京大式」である.「○○マニュアル」という書名に施設名が入っているのは時折みかけるようになってきたが,臓器移植のマニュアルで施設名をみることは本邦ではまれである.京都大学の矜持の高さを感じる.一方,タイトルに心臓が入っていないことに皆,一瞬戸惑うと思う.これは,京都大学病院が心臓移植に手をあげていないということによるのであるが,これも京都大学が醸し出す校風というか,リベラルというか個人主義の伝統の上にあるものであろうと,歴史にまで感じ入ってしまうのである.通常,地域の拠点大学,いわゆる昔の帝大などでは,全臓器で移植実施施設になろうと院内で体制を組むような働きかけがなされるものであるが,京都大学にはそういうところがない.近くに大阪大学や京都府立医科大学があるので,地域医療における使命をほかの大学ほどは感じずに学問に専念できるからであろうか,京都大学のおかれた特殊な立場に想いを馳せてしまう.タイトルだけでこれだけ妄想をかき立てられる本もないと思う.
内容の配分は,臓器移植の総論が40%,肝臓が30%,腎臓と肺がそれぞれ15%ずつの配分となっている.本誌の読者で本書を手にとる者は肺移植施設の者か,これから肺移植を勉強しようとしている者であろうが,購入して読む価値はかなりあると思う.何より,肺以外の肝臓,腎臓移植ではどうなのかが同時にわかるのである.肺移植をしている者は,肺のことはだいたいわかっていても,肝臓ではどうなの? 腎臓ではどうなの? ということに関してup-to-dateな知識としては持ち合わせていないことが多いと思う.それが一冊でわかるのである.かなりお買い得である.
新しく肺移植を始める施設では,これまでも京都大学に見学にいくことが多かったと思う.本書があれば見学にいかなくてもよいとまではいわないが,見学にいけなかった居残りの者にもそのエッセンスが伝わるものと思う.移植をこれまでしていなかった者にとって移植に対するハードルのもっとも高きものは,薬の多さとその濃度管理にある.肺癌治療ではほとんど出会わない薬たちが頻出する.昨今は,tacrolimusをはじめいろいろな免疫抑制薬が膠原病やその他で使われているので多少は馴染んできているとはいえ,自分で濃度調整をしたことがない薬を自分たちで管理しないといけなくなる.本書は,そういう漠然とした不安感の解消につながると思う.簡潔によくまとめられているからである.
最後にもう一つ,本書の利点をあげよう.どんなによい本でも,最初から最後まで読み通さないといけないというのではやはり苦痛である.しかし本書では,肝臓と腎臓を読み飛ばしてもよいのである.肝臓と腎臓は辞書的に引くだけでよいのであって,肺移植の初学者にとっては総論と肺移植の項目を読むだけで必要十分なのである.全部読まなくてよいという快感(もちろん全部読んでもよいが)は,勉強として本書を手にとる者にとって,いくばくかの安らぎを与えるであろう.
胸部外科77巻2号(2024年2月号)より転載
評者●[獨協医科大学呼吸器外科主任教授・千田雅之]