人工臓器治療の落とし穴
監修 | : 日本人工臓器学会編集委員会 |
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編集 | : コ永滋彦/百瀬直樹/宮川繁 |
ISBN | : 978-4-524-20457-1 |
発行年月 | : 2024年11月 |
判型 | : B5判 |
ページ数 | : 216 |
在庫
定価5,500円(本体5,000円 + 税)
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
人工臓器治療の現場で起きた(起こりえた)トラブル事例を約80例,出し惜しみせず掲載.人工心肺,ECMO,人工心臓,人工呼吸器,血液浄化装置,人工膵臓に関して,臨場感あふれるストーリーとともに,どのような状況でトラブルが起こるのか,どうしたら回避・対処できるのかをポイントを押さえ解説する.臨床工学技士,心臓血管外科医,ICUスタッフなどに必携の一冊.
第T章 人工心肺の落とし穴
1.ヘパリンに関する落とし穴
a.開胸時の大出血
b.ヘパリンの未投与
2.プロタミンに関する落とし穴
a.体外循環中のプロタミン誤薬
b.プロタミン投与後の瀉血
c.プロタミン投与後のサクションによる凝血
3.血液回路組み立ての落とし穴
a.フィルターの上下逆接続
コラム 血液回路組み立ての落とし穴
4.冷温水槽の落とし穴
a.電源供給コンセントの電圧100Vが200Vに変更
b.水回路つなぎ忘れ
c.水回路外れて噴水
5.血液ポンプの落とし穴
a.操作画面がブラックアウト
b.ローラーポンプの不適切な圧閉度で逆流
6.人工肺の落とし穴
a.人工肺入口圧上昇
b.酸素チューブの接続忘れ(意図せぬ外れ)
7.静脈血貯血槽の落とし穴
a.静脈血貯血槽が溢れそうになった
b.心内血貯血槽が溢れた
8.陰圧吸引補助脱血の落とし穴
a.貯血槽がへこんで液面が狂った
b.陽圧防止弁がきかず脱血不良
c.人工肺から空気を引き込んだ
コラム 便利な方法に潜む落とし穴「陰圧吸引補助脱血」
9.心筋保護の落とし穴
a.注入ライン内多量空気の出現
b.心筋保護液のフィルターから空気が侵入
コラム 付属回路に潜む落とし穴「心筋保護液回路や脳送血回路」
c.心筋保護液が多量に残血に混入
d.逆行性心筋保護の圧調整を誤った
10.送血・脱血に関する落とし穴
a.大動脈カニューレが反対向きになって遮断鉗子で潰された
b.腋窩動脈送血で腕が浮腫
c.心尖部送血で送血カニューレが左室に脱落
d.大腿動脈送血で下肢虚血
e.脱血カニューレが脱落して空気が大量に流入
11.ベントの落とし穴
a.ポンプが逆回転してベントが逆流
b.ベント回路の取り付け間違いから生じた逆流
第U章 PCPS/ECMOの落とし穴
1.補助が停止する落とし穴
a.遠心ポンプの落とし穴
b.ECMO回路の落とし穴
2.患者移動時の落とし穴
a.医療用ガスボンベの落とし穴
b.ECMO装置の落とし穴
c.内蔵バッテリーの落とし穴
d.手動装置の落とし穴
3.凝血に関する落とし穴
a.チューブ内血栓などの落とし穴
b.人工肺の凝血の落とし穴
c.ポンプ内血栓の落とし穴
d.左室内血栓の落とし穴
e.ECMO回路にFFPが流れて人工肺凝固の落とし穴
f.大動脈解離OPE後のECMO症例でのHIT発症
4.回路に吸い込まれる落とし穴
a.充填液バッグから空気が流入
b.深部静脈血栓が吸い込まれた
c.ガイドワイヤが吸い込まれた
コラム 陰圧に潜む落とし穴「脱血回路の危険性」
d.脱血圧センサから空気が吸い込まれた
5.装置管理の落とし穴
a.単位設定の違いによる低流量
b.流量計のトラブルによる計測誤差
c.回路の屈曲損傷
コラム North-South syndrome
6.ガス供給の落とし穴
a.ガスブレンダーの落とし穴
b.酸素チューブの落とし穴
7.カニューレの落とし穴
a.ECMO脱血管の左房内迷入(経PFO)
b.緊急V-A ECMOのAV逆送脱血
8.温度管理の落とし穴
9.溶血の落とし穴
第V章 人工心臓(LVAD)植込み手術の落とし穴
1.ポンプポケット作成の落とし穴
2.インフロー(コアリング)に関する落とし穴
a.コアリング時の右室穿孔
b.インフロー(カフ縫着固定)に関する落とし穴
3.アウトフローに関する落とし穴
a.アウトフロー(長さ調整)に関する落とし穴
b.アウトフロー縫着(サイドクランプ)に関する落とし穴
c.アウトフロー(血漿漏出による狭窄)に関する落とし穴
d.アウトフロー接続(HeartMate 3)に関する落とし穴
4.ドライブライン貫通に関する落とし穴
5.追加手術に関する落とし穴(僧帽弁,不整脈,再開胸)
6.人工心肺離脱時の落とし穴
コラム Redoを考えての手術
7.植込み時左室内血栓によるポンプ不良
8.ポンプ交換時の落とし穴
コラム 医療とは自然治癒への人為的誘導
9.LVAD離脱手術の落とし穴
10.Impella駆動開始時の左室内血栓吸い込み
11.植込型LVADから心移植時の落とし穴
12.MICS-LVAD植込みの落とし穴
13.左開胸LVAD(Jarvik2000)植込みの落とし穴
14.再開胸止血術の落とし穴
15.Impella挿入時のカニューレ内ARによるVF
第W章 人工心臓(LVAD)管理の落とし穴
1.体外式VAD接続部脱落による大出血
2.消化管穿孔の合併
コラム 初めてのLVAD患者の外出
3.コントローラ交換の落とし穴
コラム LVADの音
4.Impella駆動中の溶血
5.電源トラブルに関する落とし穴(HeartMateU,HVAD)
6.ドライブラインの予期せぬ落とし穴
7.症状に関する落とし穴
8.ドライブライン感染に関する落とし穴
9.頭蓋内出血に関する落とし穴
10.抗凝固療法に関する落とし穴
11.血液ポンプ停止の落とし穴(人工心臓の非標準化)
12.製造販売業者からの案内の落とし穴(患者本位でない)
13.退院プログラム施行中の落とし穴
14.ECPELLA中の胸部下行大動脈における血栓形成
第X章 人工呼吸器の落とし穴
1.自発呼吸による落とし穴
コラム 人工呼吸療法のトラブルに強くなろう!
コラム 多くの生命維持管理装置を用いている際は特に1つの機器だけを見ないこと!
2.気道内圧による落とし穴
3.加温加湿器の落とし穴
4.人工鼻の落とし穴
5.人工呼吸器に再接続した際に再開しそこねSpO2低下
6.人工呼吸器の呼気・吸気の接続間違い
7.PEEP弁使用のバッグバルブマスク換気による心停止
コラム 命の完全おまかせ状態
第Y章 血液浄化治療の落とし穴
1.バスキュラーアクセスの落とし穴(穿刺位置と再循環)
2.バスキュラーアクセスカテーテルが静脈ではなく動脈に留置されていた場合の落とし穴
3.血液浄化中の血液製剤,薬剤の投与の落とし穴(分離除去の可能性)
4.白色血栓による回路凝固
5.血液浄化器別の膜間圧力差(TMP)と分離操作
6.血液浄化器別の洗浄量
7.荷電を帯びた血液浄化器
8.血漿交換時の置換液濃度による循環血液量変動
9.血漿吸着療法中の急激な循環血液量変動
第Z章 人工膵臓の落とし穴
1.装置準備の落とし穴
2.人工膵臓設定の落とし穴
3.治療中断の落とし穴
4.治療再開の落とし穴
5.血糖誤差の落とし穴
6.人工膵臓稼働中の急激な血糖変動
2024年3月に私の専門分野である心臓血管外科領域に関する『心臓血管外科手術の落とし穴』という本が南江堂より発刊された.これは,これまで心臓血管外科医として私が過ごした年数よりも残りの時間のほうが圧倒的に少なくなってきた今,かつて経験した落とし穴という財産をそのまま持って消えていくのももったいない話だと思い,知り合いの先生方に声をかけて完成したものである.既存の出版物で活字となったことのない内容も多数含まれており,これが結構な反響をもって若い心臓血管外科医を中心にかなり読まれているとのことである.
今回,その人工臓器版ということで日本人工臓器学会のバックアップを受けて完成したのが本書『人工臓器治療の落とし穴』である.われわれが人工臓器治療に携わるうえで参考となる優れたテキストブックはいくつもあるが,それらを参考にきちんとした治療を施すためには,その足元が安定していなくては往々にして足をすくわれてしまい,悲惨な結果に陥ってしまう.ある失敗を臨床現場で仕出かしたとき,多くの場合過去に誰かがどこかで同じことをやらかしているものである.しかしそれはなかなか恥ずかしくて外には言えず,その施設内での秘め事になっていたりする.臨床現場での落とし穴,罠,地雷というのはいたるところに潜んでいるが,前もってその場所を把握していればかなりのものが回避可能である.今回,日本人工臓器学会全会員にこれまでに見たことがある,聞いたことがある,やってしまったことがある様々なやらかし体験を募ってそれを編集した.本書はいわゆる標準的なテキストブックではないが,全国の現場で人工臓器に携わり生身の患者と向き合うプロの面々によって執筆されたその内容は非常に臨場感に溢れたものであり,編集に携わった私自身がついつい時間を忘れて読み耽ったほどである.多くの皆さんとこのやらかし特集を共有したい.
本書作成にあたり,多忙な中これまでの経験をもとに寄稿いただいた分担執筆の先生方,編集にご協力いただいた先生方に心より感謝申し上げる.また素晴らしいアイディアを幾度となく提供いただいた百瀬直樹先生,日本人工臓器学会との調整を円滑に進めいていただいた宮川繁先生にも感謝を申し上げる.そして本書発刊のためにご尽力いただいた南江堂の皆さまに深く御礼を申し上げたい.
本書が人工臓器に携わる皆さんの日々の臨床において,落とし穴を回避し足元を固めて確実な人工臓器治療を行うことができる一助とならんことを祈念して.
2024年11月
JCHO九州病院心臓血管外科 コ永 滋彦