筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023
監修 | : 日本神経学会 |
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編集 | : 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン作成委員会 |
ISBN | : 978-4-524-20455-7 |
発行年月 | : 2023年6月 |
判型 | : B5 |
ページ数 | : 292 |
在庫
定価5,500円(本体5,000円 + 税)
正誤表
-
2023年12月01日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
- 書評
日本神経学会監修による,エビデンスに基づいた筋萎縮性側索硬化症(ALS)のガイドライン改訂版.前版以降に蓄積されたALSの臨床・基礎研究の成果や,疾患修飾薬エダラボンの承認,呼吸療法と栄養療法による予後改善の可能性,協働意思決定や事前ケア計画の重要性などの新知見を盛り込んだ.臨床上重要となるクリニカルクエスチョン(CQ)について,その回答・推奨グレード,背景・目的,解説を詳述し,臨床医の日常診療を支援する必携の一冊となっている.
Clinical Questions (CQ)
CQ 1 ALS 患者においてリルゾールは推奨されるか
CQ 2 ALS 患者においてエダラボンは推奨されるか
Questions and Answers (Q&A)
1.疫学,亜型,経過・予後,病因・病態
Q&A 1-1 発症率や有病率,家族性の割合はどのくらいか
Q&A 1-2 発症リスクにはどのようなものがあるか
Q&A 1-3 進行に伴い生じる症状,合併症には何があるか
Q&A 1-4 自然歴,生命予後はどのようであるか
Q&A 1-5 進行・予後に影響する因子は何か
Q&A 1-6 認知機能障害の頻度はどのくらいで,その特徴は何か
Q&A 1-7 気管切開による人工呼吸器装着患者の経過はどのようであるか
Q&A 1-8 分類,病型には何があるか
Q&A 1-9 病因・病態として何が想定されているのか
Q&A 1-10 関連する遺伝子には何があり,どのようにかかわっているのか
2.診断,鑑別診断,検査
Q&A 2-1 診断はどのように行うか
Q&A 2-2 診断基準にはどのようなものがあるか
Q&A 2-3 鑑別すべき疾患にはどのようなものがあるか
Q&A 2-4 線維束性収縮のみを示す場合にどのように対応するか
Q&A 2-5 電気生理学的検査の意義は何か
Q&A 2-6 針筋電図の施行筋はどのように選択するか
Q&A 2-7 呼吸筋の評価にはどのようなものがあるか
Q&A 2-8 診断に有用な画像検査はあるか
Q&A 2-9 上位運動ニューロン障害の評価法としてどのようなものがあるか
Q&A 2-10 診断における血液検査および脳脊髄液検査の意義は何か
Q&A 2-11 split hand 徴候(解離性手内筋萎縮)の意義は何か
Q&A 2-12 神経筋エコー検査の意義は何か
3.患者・介護者対応
Q&A 3-1 多職種連携診療とは何か
Q&A 3-2 多職種連携診療による効果はどのようなものか
Q&A 3-3 どのように病状を説明するか
Q&A 3-4 診断が確定していない場合にどのように話すか
Q&A 3-5 遺伝についてどのように説明するか
Q&A 3-6 認知症やうつがある ALS の病状説明や治療方針の選択の支援はどのように行うか
Q&A 3-7 病状説明において生命予後はどのように伝えるか
Q&A 3-8 進行に即した医療処置についての説明はどのようにするか
Q&A 3-9 手術を受ける際の注意点は何か
Q&A 3-10 意思決定をどのように進めるか
Q&A 3-11 心理ケア・サポートをどのように行うか
Q&A 3-12 急変時の対応をどのように準備するか
Q&A 3-13 終末期をどのように捉え,対応すればよいか
4.薬物治療
Q&A 4-1 薬物治療にはどのようなものがあるか
Q&A 4-2 リルゾール投与上の注意点は何か
Q&A 4-3 エダラボン投与上の注意点は何か
Q&A 4-4 強オピオイドはどのように使用するか
Q&A 4-5 治験情報はどのように得られるか
Q&A 4-6 代替療法についてはどのように説明するか
Q&A 4-7 疾患修飾療法はどこまで進んでいるか
Q&A 4-8 再生医療の現状はどのようなものか
5.対症療法
Q&A 5-1 認知症(前頭側頭型認知症を含む)にはどう対処すればよいか
Q&A 5-2 精神症状(不安・うつ)にはどう対処すればよいか
Q&A 5-3 情動調節障害にはどう対処すればよいか
Q&A 5-4 不眠にはどう対処すればよいか
Q&A 5-5 疲れやすさにはどう対処すればよいか
Q&A 5-6 痛みにはどう対処すればよいか(オピオイド使用を含む)
Q&A 5-7 呼吸苦にはどう対処すればよいか(オピオイド使用を含む)
Q&A 5-8 痙縮にはどう対処すればよいか
Q&A 5-9 流涎にはどう対処すればよいか
Q&A 5-10 便秘にはどう対処すればよいか
Q&A 5-11 褥瘡にはどう対処すればよいか
6.嚥下・栄養
Q&A 6-1 栄養障害・代謝障害の特徴と臨床的意義は何か
Q&A 6-2 病初期の栄養療法はどのように行えばよいか
Q&A 6-3 嚥下機能はどのように評価するか
Q&A 6-4 摂食嚥下障害にはどのように対処するか
Q&A 6-5 経口摂取が困難になったときにはどう対処すればよいか
Q&A 6-6 内視鏡的胃瘻造設術の適応とリスクは何か
Q&A 6-7 呼吸器装着後の栄養管理はどのようにすればよいか
Q&A 6-8 誤嚥防止手術の適応・方法・合併症は何か
7.呼吸管理
Q&A 7-1 呼吸機能障害を早期に把握するにはどうすればよいか
Q&A 7-2 呼吸機能障害に対するリハビリテーションはどのように行うか
Q&A 7-3 気道浄化法(排痰方法)にはどのようなものがあるか
Q&A 7-4 呼吸補助療法にはどのようなものがあるか
Q&A 7-5 非侵襲的人工換気(non-invasive ventilation:NIV)の効果と課題にはどのようなものがあるか
Q&A 7-6 非侵襲的人工換気(non-invasive ventilation:NIV)による呼吸補助はいつ開始するか
Q&A 7-7 非侵襲的人工換気(non-invasive ventilation:NIV)はどのように設定するか
Q&A 7-8 非侵襲的人工換気(non-invasive ventilation:NIV)を管理するうえで必要なことは何か
Q&A 7-9 気管カニューレにはどのような種類があり,どのように選択するか
Q&A 7-10 気管切開下人工換気[tracheostomy (and) invasive ventilation:TIV]を希望する場合,いつ,どのように行うか
Q&A 7-11 気管切開下人工換気[tracheostomy (and) invasive ventilation:TIV]はどのように設定するか
Q&A 7-12 長期気管切開下人工換気[tracheostomy (and) invasive ventilation:TIV]患者における非運動症状・合併症にはどのようなものがあるか
Q&A 7-13 気管切開下人工換気[tracheostomy (and) invasive ventilation:TIV]を開始したあと,患者本人または家族が呼吸器離脱を希望した場合はどのように対応するか
8.リハビリテーション医療,QOL
Q&A 8-1 リハビリテーション医療の目的は何か
Q&A 8-2 四肢体幹に対するリハビリテーション医療はどのように行うか
Q&A 8-3 構音障害に対するリハビリテーション医療は何が有用か
Q&A 8-4 ALS 患者にはどのような補助具が有用か
Q&A 8-5 生活の質(quality of life:QOL)の評価に使われる尺度にはどのようなものがあるか
Q&A 8-6 患者と介護者の生活の質(quality of life:QOL)を向上させるためにはどのようなことが有用か
Q&A 8-7 (ALS 患者の)性行動・妊娠・出産についてはどのように指導するか
9.コミュニケーション
Q&A 9-1 コミュニケーション障害の特徴は何か
Q&A 9-2 コミュニケーション障害(構音障害ほか)の評価方法にはどのようなものがあるか
Q&A 9-3 拡大・代替コミュニケーション機器にはどのようなものがあるか
Q&A 9-4 コミュニケーション機器の導入は,いつごろ,どのように行うか
Q&A 9-5 文字盤などの情報通信技術(information technology:IT)機器を用いない拡大・代替コミュニケーション(augmentative and alternative communication:AAC) には,どのようなものがあり,どのように利用するか
Q&A 9-6 情報通信技術(information technology:IT)機器を用いた意思伝達装置などの拡大・代替コミュニケーション(augmentative and alternative communication:AAC)の選択はいつごろ,どのように行うか
Q&A 9-7 情報通信技術(information technology:IT)機器を用いた意思伝達装置などの拡大・代替コミュニケーション(augmentative and alternative communication:AAC)の導入後のサポートはどのように進めていくか
Q&A 9-8 視線入力で,パソコンなどを用いたコミュニケーション機器を用いる場合の留意点は何か
Q&A 9-9 随意運動が確認できない場合のコミュニケーションはどのように行うか
Q&A 9-10 拡大・代替コミュニケーション(augmentative and alternative communication:AAC)の導入は,患者の生活の質(quality of life:QOL)をどのように向上させるか
Q&A 9-11 コミュニケーション障害に関係する(社会)制度にはどのようなものがあるか
10.療養生活支援
Q&A 10-1 難病にかかわる医療提供体制はどのようなものか
Q&A 10-2 医療機関が算定できる診療報酬にはどのようなものがあるか
Q&A 10-3 療養生活を支える医療的・社会的支援にはどのようなものがあるか
Q&A 10-4 療養生活支援にかかわる制度を活用する際の留意点にはどのようなものがあるか
Q&A 10-5 療養生活や心理的課題についてどのようなところで相談できるか
Q&A 10-6 日常生活障害に対してどのような支援が受けられるか
Q&A 10-7 痰の吸引や経管栄養の介助は誰が行うことができるのか
Q&A 10-8 在宅療養にかかる費用はどのくらいか
Q&A 10-9 レスパイト入院とはどのようなものか
Q&A 10-10 自宅以外にどのような療養場所があるか
Q&A 10-11 災害に備えるためにはどのような準備が必要か
Q&A 10-12 停電に備えるためにはどのような準備が必要か
Q&A 10-13 新型コロナウイルス感染症に対してどのような留意点があるか
Q&A 10-14 日本神経学会が行っている災害対策はどのようなものか
巻末資料
■改訂 ALS 機能評価尺度(amyotrophic lateral sclerosis functional rating scale-revised:ALSFRS-R)
■ Modified Norris scale (日本語版)
・Modified Norris scale 四肢症状尺度(日本語版)
・Modified Norris scale 球症状尺度(日本語版)
■気管切開下人工換気[tracheostomy (and) invasive ventilation:TIV]後の ALS における意思伝達能力障害
■厚生労働省研究班による ALS 重症度分類
■在宅用(携帯用)人工呼吸器の種類と特徴
■システマティックレビュー(systematic review:SR)関連資料
序
脳神経内科が担当する疾患は頭痛・めまい・しびれ・物忘れ(認知症)などのcommon diseaseから,脳卒中(脳血管障害)・脳炎・てんかんなどの神経救急疾患,それに変性疾患をはじめとする神経難病と多岐にわたる.脳神経内科医であれば,認知症や脳卒中などのcommon diseaseを診ることは当然だが,それに加えて,ぜひ,筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)に自信をもって対応できる力量を持ってほしいと思う.しかしながら,ALSの診療はなかなか難しい.その難しさにはいくつか理由があるが,一番の理由はそれほど頻度が高くないことによる.また,診断から在宅療養までの経過をひとつの医療機関でカバーすることが困難であり,さらに今の臨床研修制度では一人の患者さんを長期にわたってフォローする機会を持てなくなっていることにもよると思われる.
ガイドラインを読んだだけで,ALS患者さんの診療ができるようになるわけではない.本ガイドラインでも言及しているように診療に際しては多職種によるかかわりが重要であり,私たちの説明が患者さんに伝わっているか,患者さんはどのように考えているのかをチームで検討しながら,進めていくことが大切となる.医療者が一人で抱え込んではいけない.そのうえで,先ほど長期間のフォローは制度上も難しいと述べたが,ぜひ,たとえ一人であっても一度は患者さんの初診から診断,病状の説明,対症療法を含めた治療法の相談,呼吸器や気管切開をどうするか,緩和医療はどうするか,在宅医療から最期までずっとかかわっていただくことをお勧めする.その際にはこのガイドランを手元に置いて適宜,参考にして,患者さん・家族の希望や気持ちを大切にしながら診療を進めていただくのがよいと思う.そのような経験のあとには,この説明のタイミングや治療法の導入時期は適切だったのか,の振り返りもお願いしたい.
ALSは症候群であり,その定義も変遷している.運動ニューロンに変性をきたす原発性側索硬化症やいわゆる進行性筋萎縮症などとの関連(Q&A1‑8)も議論があるが,本ガイドラインは最も臨床で遭遇することが多い,ALSの中核群を形成する脊髄発症型(古典型)および球麻痺型ALSを想定して記載している.家族性ALSの原因遺伝子が加速度的に明らかとなり,その遺伝子変異を伴う人工多能性幹(iPS)細胞から誘導された運動ニューロンの病態解析も進んでいる.
これからは治療法の開発も進んでいくと確信しているが,現在できることをまずはこのガイドラインで確認していただきたい.
2023年5月
筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン作成委員会 委員長
青木 正志
目を見張る充実度で,一般医家にとっても必携の書
読者の皆様もご存じのように,筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)はいまだ十分な治療法がなく,進行性で予後不良の疾患であり,その診療・ケアは多くの医療者の悩むところである.このたび,日本神経学会の監修により,10年ぶりの改訂となる「筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023」が発刊された.2002年の初版,2013年の第2版に続く第3版である.本ガイドラインの特徴は,Clinical Questions(CQ)として項目を立てているのがriluzole,edaravoneという日本で承認されている二つの治療薬の推奨度に関するもののみであり,そのほかの多くの診断・ケアなどに関するテーマについては,Questions and Answers(Q & A)として,コンセンサスに基づくエキスパートオピニオンが提示されているという点である.
ALSの診断は脳神経内科医だけが可能であり,本誌の主な読者と思われる内科医への診断面でのお願いは,まずは変だと思った(筋力低下を訴える)患者は信頼できる脳神経内科医に紹介していただきたいということに尽きる.日本では,四肢の運動感覚症状をもつ患者は整形外科にfirst touchすることがしばしばあるが,ALS患者における脊椎手術は症状の進行を促進することが示されている.残念ながらしばしばみられる,脊椎手術→よくならない(増悪する)ため脳神経内科に紹介→ALSと判明,というルートは極力減らしたいものである.本ガイドラインは2022年初頭時点の情報に基づくもので,脳神経内科医は,その後に日本における治験の結果が出て有効性が示されたmethylcobalamin,SOD1遺伝子変異を有するALS患者におけるtofersen,などの治療情報のアップデートからも目が離せない.また,診断面でも早期診断や進行度の客観的評価に役立つ,臨床的・電気生理学的な新しいパラメータが次々と発表されている.
ALSの診断が下された後のフォローアップやケアにおいては,脳神経内科医が引き続き診療する場合もあるが,内科医を含む一般医家の方々にお世話になるケースも多いと思われる.本書の内容で最も役に立つのは,まさにこの段階におけるさまざまな臨床的課題への対処法である.抑うつ・不安,流涎,疼痛への対処,胃瘻造設の問題,病状説明の仕方,気管切開下人工換気(tracheostomy invasive ventilation:TIV)導入についての意思決定の支援,他職種連携診療のあり方,療養生活支援のための社会制度や経済的側面,災害時の対処,代替コミュニケーションの方法,終末期のケア,など患者・家族・医療者が直面しうるありとあらゆる臨床的な問題に対して,大変参考になる解説が事細かに記載されており,目を見張る充実度といえる.その意味で,ALS診療に主に携わる脳神経内科医だけでなく,在宅や入院でALS患者に関わる可能性がある一般医家の方々にとっても必携の書である.
臨床雑誌内科133巻5号(2024年5月号)より転載
評者●園生雅弘(帝京大学医療技術学部視能矯正学科 教授)