書籍

看護の力,会話の力

寄り添うコミュニケーションの考え方と実践

: 川名典子
ISBN : 978-4-524-20452-6
発行年月 : 2023年12月
判型 : A5判
ページ数 : 208

在庫あり

定価2,970円(本体2,700円 + 税)


  • 商品説明
  • 主要目次
  • 序文
  • 書評

患者-看護師関係の特徴とよくある看護師の悩みを整理し,患者との相互作⽤を促進するための対応例(⾔葉かけ)を具体的に紹介した実践書.看護師のもつ自然な会話の力を解説.看護師の会話が続かなくなる場面を挙げ,臨場感をもって読むことができる.看護師が困難な場⾯に対処でき,看護師⾃⾝のストレスフルな状態を緩和する⼀助となる一冊.

目 次
第T章 看護師にとって,患者さんとの会話は難しいのでしょうか
1.会話は,立場や相手によってかわります
2.マニュアル対応だけでは不十分な看護師の会話 ―患者さんの隠れたニードと個別性―
3.看護師はこんなときちょっと対応に困らないでしょうか
  A.会話を切りあげたいとき
  B.患者さんから個人的な親密さを求められたとき
  C.患者情報の共有と,守秘義務のはざまで悩むとき
  D.患者さんとの会話に家族が入ってしまい,患者さんの話を聞けないとき
  E.患者さんと家族の意見が違うとき
4.看護は感情労働でしょうか
第U章 看護師と患者さんの関係を,一度よく考えてみましょう
1.医師と患者さんの関係とは,看護師とのそれとは違うのです
2.医師と患者さんの関係性の特徴はなんでしょう
  A.1対1…主治医は一人
  B.医師に備わった権威
  C.良くも悪くもパターナリズム
3.看護師と患者さんの関係性の特徴はなんでしょう
  A.暗黙のうちに期待される心のケア
  B.1対1ではなくチーム対応
  C.24時間誰かがそばにいる交代制勤務
  D.逃げられない関係
  E.療養時の日常生活の援助を通じてのかかわり
  F.医師と患者さんの中間の立場
4.あいまいさがもたらす看護師の困りごと
  A.患者さんの期待に応えようとがんばってしまう
  B.患者さんに対して,受身すぎないでしょうか ―受動性―
5.患者さんに寄り添うために
第V章 職務だけではない,隠し味の看護の重要性があります―環境の一部であることと,あたりまえの会話が持つ意味―
1.治療的・発達促進的環境の構成要素としての看護師
  A.生理的欲求の満足と信頼性
  B.療養生活の援助を通じての母性的養育的機能の提供
  C.その場その場での,瞬時の患者さんとの交流
  D.一定の時間に決まったことを時計のように行うこと
  E.付き添うなどの日常的な看護師の行為があること
2.会話の力とはなんでしょう
  A.患者さんの孤独感が低減する
  B.現実的な問題の明確化が図れる
  C.自己洞察が深まる
  D.不合理な怒りが沈静する
  E.患者さんが精神的に安心・安定する
  F.会話は心地よいもの,楽しいもの
3.隠し味のメンタルケアは会話から
第W章 コミュニケーションをあらためて考えてみましょう
1.コミュニケーションとは
  A.重要なのは双方向性
  B.目的はお互いを理解すること
2.日本人のコミュニケーションの特徴
  A.気遣いと思い込み
  B.断ることができない
3.看護師のコミュニケーションの特徴
  A.説明が多い
  B.患者さんの問題解決を図ろうとしてしまう
  C.看護師からのメッセージの発信が少ない
  D.看護師ならではの非言語的コミュニケーションもある
4.看護師が会話で陥りやすい落とし穴
  A.傾聴はコミュニケーションといえるでしょうか
  B.説明で患者さんは安心すると思い込んでいないでしょうか
  C.つい励ましたくなる
  D.アセスメントしなくてはという焦り
第X章 双方向性のある会話は,どうしたらうまくできるでしょう
1.まずは言葉のキャッチボールを心がけること
  A.ひとつひとつのメッセージにひとつひとつ応える
  B.大切なアイ・メッセージ ―自分の気持ちや考えを伝えること―
  C.会話の目的は相手を知ること
2.看護師が患者さんのことをわかるとは
  A.患者さんに寄り添うにはどんな情報が必要でしょう
  B.日常生活を知ることが,患者さんをわかること
3.看護師の会話とナラティヴ・アプローチ
  A.ナラティヴ・アプローチとは
  B.ナラティヴ・アプローチが適した職種
  C.ナラティヴ・アプローチの特徴
  事例:「死ぬことばかり考え,原因不明の身体症状を訴えていた脳腫瘍術後患者」
第Y章 看護師の会話はカウンセリングとは違うのでしょうか
1.カウンセリングは治療
2.カウンセリングと看護師の会話の違い
  A.目的
  B.治療契約
  C.プライバシーと守秘義務
  D.自己開示と身体接触
  E.料金
3.カウンセリングで使われる技法を,看護師が使ったら…
  A.患者さんの言葉をそのまま繰り返す
  B.傾聴
  C.共感的理解
  D.その他の技法
第Z章 こんな場面で看護師はどう会話を続けたらよいのでしょう
1.死とか,最期とか,看護師が緊張するような話題が出てきたとき
  A.治療法がないことや予後の話題を患者さんが出したとき
  B.患者さんが自分の死を悟って語るとき
  C.看護師から死にまつわる話題を出すとき
  D.死の話題で,看護師が感じる不安
2.患者さんが看護師よりも自分の病気をよく知っているとき
3.医師と話すべき問題を患者さんからたずねられたとき
4.医師への苦情を言われたとき
5.患者さんからの要求が多いとき
第[章 会話が難しい患者さんにはどう寄り添ったらよいのでしょう
1.同じ話・同じ質問を繰り返す患者さん
2.説明のつかない身体症状を訴える患者さん
  A.まずはきちんと必要な検査をする
  B.症状には淡々と対処する
  C.そして日常生活や人生についての会話をする
3.用件や訴えがはっきりしないナースコールを繰り返す患者さん
  A.能動的に患者さんのベッドサイドを訪問する
  B.日常生活の会話をする
4.怒りが強い患者さん
  A.謝罪と傾聴だけでは解決が難しい
  B.ここでも会話が役立ちます
第\章 どうして対応が難しい患者さんがいるのでしょうか
1.ストレスが精神面・認知面に及ぼす影響
  A.仕事の生産性の低下
  B.学習能力の低下
  C.対人関係能力の低下
2.患者さんがケアを求めても,周囲の人々が足を遠ざけるという悪循環
3.ストレス・バランス・モデルによるメンタルケアの考え方
  A.ストレス・バランス・モデルとは
  B.バランスが変化すると,その人らしさが変化する
  C.看護師にとって対応が難しい患者さんへの理解
  D.ストレス・バランス・モデルによる看護ケア
第]章 精神疾患のある患者さんに対して苦手意識がありますか
1.精神疾患と対人関係
2.統合失調症患者
  A.その対人関係の特徴 ―敏感で傷つきやすくとても怖がりなのです―
  B.対応の原則 ―驚かせないこと,怖がらせないこと―
3.抑うつ状態の患者
  A.その対人関係の特徴 ―エネルギーが枯渇し疲れ切っています―
  B.対応の原則 ―エネルギーを消費させない,温存する,蓄積を待つ―
4.発達障害の患者
  A.成人の発達障害の患者さんの特徴 ―世間のルールに合わせられないのです―
  B.対応の原則 ―患者さんの特徴を知ってそれに合わせる―
5.境界型パーソナリティ障害の患者
  A.対人関係の特徴 ―他者をなかなか信頼できず,人間関係のトラブルでつらい思いをしているのです―
  B.対応の原則 ―患者さんの不安定さに振り回されず,安定した対人関係をつくること―
第Ⅺ章 その場限りの救急場面では寄り添うってどういうことでしょう ― 一期一会の看護―
1.被害者について知ることから始めましょう
  A.被害者と救急医療機関
  B.被害者ケアの提供者
  C.被害者の種類
  D.被害という心的トラウマへの反応症状
  E.看護師は被害者にどう寄り添ったらよいのでしょう
2.自殺未遂患者・自傷行為患者に寄り添うにはどうしたらよいのでしょう―会話することが最大のケア―
  A.患者さんを気にかけていることを,言葉で伝える
  B.死なないでほしいと伝える
  C.裏表のない態度で,真剣に聞く
  D.再燃予防のリスク判断を看護師だけで抱えない
索引
場面目次
場面1 夕刻,消灯前の病棟にて
場面2 会えない家族の話題
場面3 患者さんから個人的なことを聞かれた…
場面4 あなただけに…患者さんの打ち明け話
場面5 家族が患者さんの代弁をしてしまう
場面6 看護師が患者さんに朝食の好みを確認する
場面7 気持ちが落ち込んでいるという患者さん
場面8 自分の病気を嘆く若い患者さん
場面9 正月に外泊するか悩む患者さん
場面10 患者さんを励ましたいとき
場面11 退院に向けて家族のサポート力を評価したいとき
場面12 あなただったらどうする? と聞かれたとき
場面13 落ち込んでいるように見える患者さん
場面14 眠れない患者さんとの会話
場面15 自分の死を話題にするがん患者さん
場面16 治療しないなら家に帰ろうかと考える患者さん
場面17 死ぬことを悟った患者さん
場面18 看護師から死にまつわる話題を出すとき
場面19 看護師が死の話題に困惑したとき
場面20 看護師の知識不足を非難する透析患者さん
場面21 治療経過を看護師にたずねる患者さん
場面22 主治医に対する苦情を言う患者さん
場面23 ナースコールへの即座の対応を要求する患者さん
場面24 特別扱いを要求する患者さん
場面25 治療法が尽きても治療の継続を希望するがん患者さん
場面26 怒り続ける患者さん
場面27 患者さんと看護師がルールについて話し合う
場面28 救急搬送された被害者との会話
場面29 救急搬送の被害者にここは安全だと伝える
場面30 被害者を一人にしないと伝える
場面31 被害にあったことをいたわる
場面32 事件被害者に正義感を示す看護師
場面33 PTSD 予防のための情報提供をする看護師
場面34 DV 被害者との会話
場面35 自殺未遂をした患者さんとの会話
場面36 自殺未遂をした患者さんに死なないでほしいと伝える
場面37 自殺未遂をした患者さんの話を聞く

 私は,リエゾン精神看護師として一般総合病院のなかで臨床看護に携わってきました.長年の臨床経験から気づいたのは,看護師と患者さんの会話には,看護師自身が思っている以上に患者さんの力を引き出す力があるということでした.しかし,一方で,看護師のかなりの方々が患者さんとのコミュニケーションに悩んでいることも知りました.それは,若くて経験の少ない看護師だけでなく,中堅からベテランの看護師の方々でも同じです.ことにキャリアを積んだ看護師のなかには患者さんとのよりよいかかわりを求めて,勉強し努力を重ねていらっしゃる方が少なくありません.これはいったいどういうことなのかと考え続けてさらに気づいたのは,精神科医でも心理療法士でもない,看護師だからこそできる会話とはどのようなものか,その理論と方法論がまだ確立していないのではないかということでした.
 看護師と患者さんの自然な会話は,患者さんにとって大きなケアになるはずです.そのことがあまり知られていないために,看護師であるのに心理療法的な理論と技法や精神医学を学ぶことに目を奪われていなかったでしょうか.これは看護師のエネルギーの浪費だったのではないでしょうか.結果として,本来持っている看護の力,会話の力を十分に発揮できずにいることが,私にはたいへんもどかしく思われました.
 私は,看護師の持つ力を,患者さんとの会話を通じて,もっと発揮していただけるようになってほしいと思ってこの本を書きました.会話そのものが持つ力,そして看護師という立場だからこその会話の力をまとめてみたのです.他方,看護師だからこその会話の難しさがあるのも事実です.いったいなにが看護師と患者さんとの会話を難しくしているのかを考えるために,今まであたりまえと思っていた看護師と患者さんの関係性の特徴や,看護師の会話の傾向を,今一度,見直してみました.そのうえで,看護師だからこそできる,患者さんの力が自然に引き出されるような会話について述べます.会話ですから,特別な技術ではありませんが,看護師が,会話が難しいと思う場面や患者さんの特徴ごとに,どのような点に注意したら看護師にとっても患者さんにとっても気持ちのよい会話になるのか,会話の持ち方,対応法のポイントをあげています.
 また,会話例を多く入れてあります.看護師は,「なにを言ったらよいのか」「どういう言葉を使ったらよいのか」 と悩むことが多いので,実際の言葉かけ例になればと考えたからです.この本で紹介する場面の患者さんの言葉は,私が実際に出会った患者さんの言葉ほとんどそのままです.それに対応する看護師の言葉は,実際に私が話した言葉を少しだけ修正し,誰もが使える一般的な口調にしてあります.ちょっと堅苦しく思う方がいらっしゃるかもしれませんが,私が伝えようとしたメッセージはそのままです.
 本書の会話例をお読みになって,なんだ,あたりまえの対応だと思った方は,ご自分の会話が理にかなっていたと自信を持っていただいたらよいでしょう.しかし,もし今までどう対応してよいかわからなかったという場面がありましたら,会話例の対応の仕方や言葉の使い方を参考にしてみてください.その際,読者のみなさまは会話例をそのまま試してもよいですが,ご自分の年齢や経験,立場に合わせて修正し,ご自分の会話になさって試していただけたらと思います.その結果,患者さんとの対応の悩みが解消して看護師のストレスが低減し,会話することが少し楽になり,さらに会話が快いものになって,みなさまが看護をもっと生き生きと楽しめるようになれば幸いです.それはきっと患者さんにとっても,気持ちのよい会話になっているはずです.
 看護師として,指導や教育だけではなく,患者さんと自然な会話ができることは,患者さんに寄り添うケアの基礎ではないでしょうか.病棟や外来勤務の看護師をはじめ,認定看護師や専門看護師も含めて看護に携わる人々すべてのなかで,言葉のキャッチボールによる自然な会話があたりまえになれば,今まで以上に看護師の能力を発揮し患者さんの力になることができるのではないかと思います.
 近年,寄り添うケアという言葉をよく聞きます.寄り添うケアは,黙って患者さんのそばにいるだけではできません.会話,言葉のキャチボールによって,はじめて寄り添いが形になるのです.この本が看護師のみなさまにとって,患者さんとの会話の参考になり,寄り添うケア実践の一助になることを願ってやみません.
2023 年10 月
川名典子

 この本は,看護師と患者さんの言葉による会話そのものがケアであることを教えてくれる.

 患者さんの話を傾聴するだけ,あるいは看護師が勝手に推察・アセスメント・解釈して医療者が望む方向へ持っていくような一方通行な会話ではケアにならない.病いと共に様々な体験をしながら生活している患者さんが自分の体験をどのように意味づけ何を考えているのか,不安や困りごとなどを会話をとおして正しく理解することが大事なのである.そして,看護師も患者さんから投げられた言葉(メッセージ)に対して,自分が感じた気持ちや考えをきちんと伝えることが必要で,このキャッチボールのような双方向性の自然な会話がケアになり,よい効果をもたらすのだ.このような会話のコツや留意点などについて本書では丁寧に解説してくれている.

 患者さんから怒りをぶつけられたり,「もう死ぬのかな……」と突然発せられた言葉にドキッとさせられ,「傷つかないよう適切な返答をしなければ……」と考えすぎて言葉に詰まってしまう看護師の方達も多いのではないだろうか.本書は,このような看護師が臨床で遭遇しやすい対応に困る場面を数多く挙げ,こう言ってみたらどうかという会話例を複数示してくれている.これはとても役立つはずだ.ぜひ繰り返し声に出して読んで欲しい.そうすることで,とっさのときも自分なりの言い方で言葉が出て今よりストレスなく会話ができるようになるだろう.そして,患者さんが自分らしく病気や治療と付き合っていけるようになった姿を目の当たりにしたとき,看護師も自然な満足感や喜び,勇気がもらえるに違いない.看護師だからこそできる会話には大きな力があると自信を与えてくれる,非常に役立つ実践書である.ぜひ手元に置いて繰り返し読んで欲しい一冊だ.

がん看護29巻5号(2024年9-10月号)より転載
評者●紺井理和(聖路加国際病院/精神看護専門看護師)


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