看護学テキストNiCE
医療安全改訂第2版
多職種でつくる患者安全をめざして
編集 | : 山内豊明/荒井有美 |
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ISBN | : 978-4-524-20434-2 |
発行年月 | : 2024年3月 |
判型 | : B5判 |
ページ数 | : 248 |
在庫
定価2,970円(本体2,700円 + 税)
サポート情報
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2024年09月27日
第1刷
- 商品説明
- 主要目次
- 序文
看護基礎教育で重視されている「医療安全」について、初学者が基本的な考え方を理解し、実践の場で活用できるようになることを目的としたテキストの改訂版.とりわけチームでつくる患者安全を意識し,多職種による編集・執筆でより臨場感のある内容となっている.事例を豊富に取り入れ,安全な看護実践を行うための方法を具体的に理解できるように構成.今版では,今日の臨床現場の現状を踏まえた全面的なアップデートのほか,事故・ヒヤリハット事例をより頻度の高いものへ差し替え,また理解を深めるコラムも追加した.
目 次
第T章 医療安全を学ぶ意義
1 医療安全を学ぶにあたって
A.医療安全?―「医療の安全」ではなく「医療を安全に」
1●情報に対するアクセスの向上
2●医療事故と航空機事故の共通点と相違点
B.リスクとクライシス
1●「安全」の定義
2●リスク対応
3●リスクマネジメントとクライシスマネジメント
C.ヒューマンエラー
D.事例から学ぶ
1●アレルギーがある患者の場合
2●医療用ガスボンベの色による識別
E.医療事故防止のためには
第U章 医療安全の基本
1 医療安全の基本
A.患者安全とは何か(トピック1)
1●医療安全の推進
B.ヒューマンファクターの重要性(トピック2)
1●ヒューマンファクターの考え方
2●ヒューマンエラーの分類
3●ヒューマンファクターからみた医療安全の鉄則
C.システムの複雑さ(トピック3)
1●医療システムの複雑さ
事例 @ 入院患者の転倒
2●安全を実現するシステム:HRO(高信頼性組織)
D.チームの一員としての行動(トピック4)
1●チームが有効に活動するための要件
2●チームワークの原則を適用する方法
E.エラーからの学習(トピック5)
1●報告制度の原理と歴史
■コラム 「ニアミス」の本当の意味は
2●インシデント報告制度の運用
■コラム アクシデントとインシデント
3●報告のしかた
4●報告のその後
5●個人的なエラーを減らすためのヒント集
F.リスクの管理(トピック6)
1●リスクとクライシス
2●リスクマネジメント総論
3●医療におけるリスクマネジメント
■コラム 安全対策についての用語
G.品質改善の手法(トピック7)
1●「目標を設定し少しずつ変更して改善していく」方法
2●「起こったことから学ぶ」方法
3●「起こる前に何とかしておく」方法
H.患者との協働(トピック8)
1●患者が知っておくべき情報
2●患者への情報の伝え方
3●医療事故への対処
I.感染制御(トピック9)
J.手術の安全(トピック10)
■コラム 医療における「決まり」
K.投薬の安全(トピック11)
■コラム Safety–I,Safety–II〜安全に関する新たな視点
第V章 個人・チーム・組織としての医療安全
1 個人としての医療安全への取り組み
A.基本的な考え方
1●リスク感覚をもつ
2●能力を超えることはできない
3●正しい情報がなければ正しい判断はできない
B.人間の情報処理プロセスに基づく対策
1●知覚段階での対策
2●認知段階での対策
3●予測・判断の段階での対策
4●意思決定の段階での対策
■コラム よく似た患者の名前は珍しくない
5●行動の段階での対策
■コラム ダブルチェック
C.医療の専門家としての自覚をもつ
2 多職種連携およびチームによる医療安全への取り組み
A.連携不足による事故事例―なぜ医療安全に連携が必要か
1●日本での事例
2●米国での事例
B.連携すべき多職種―保健医療福祉分野で働く職種
C.連携と医療安全
D.チームトレーニング―連携して医療安全を推進するために
1●チームトレーニングの提案
2●連携と協働のために必要な実践能力
E.チーム志向への学びと実践
3 チームのなかの医療安全 @呼吸療法サポートチーム(RST)
A.酸素投与しながらの搬送
事例 A 搬送中の酸素ボンベの残量不足
■コラム 配管識別色とボンベの色
B.人工気道のカフ圧管理
事例 B カフ圧計を用いずカフに空気注入
C.人工呼吸器装着時の緊急事態
事例 C 気管切開カニューレの自己抜去
4 チームのなかの医療安全 A栄養サポートチーム(NST)
A.栄養サポートチーム
1●定 義
2●背 景
3●意 義
4●NSTの組織
■コラム 低栄養状態(PEM)
B.経鼻栄養法における安全な実施
事例 D 経鼻栄養チューブ先端の肺への迷入
5 チームのなかの医療安全 B感染対策チーム(ICT)
A.アウトブレイク
事例 E ノロウイルス感染症の院内感染
事例 F インフルエンザの院内感染
B.職業感染
事例 G 注射針の誤刺@
事例 H 注射針の誤刺A
6 チームのなかの医療安全 Cラピッドレスポンスチーム(RRT)
A.患者に起こった不測の事態に対応するチーム
B.予期せぬ死亡とは?
■コラム 予期せぬ死亡の定義
C.ラピッドレスポンスシステム(RRS)の4つの構成要素
D.RRTの要請方法と要請基準―いつ,RRTを呼べばよいのか?
E.RRTが要請されてからの流れ
F.RRSのなかの看護師
G.RRTスタッフに求められる能力
H.RRTスタッフの医療行為とノンテクニカルスキル
■コラム RRTの医師不在の出勤状況
I.RRSと医療安全
J.RRTとRRSに期待されること
7 医療機関における医療安全への取り組み
A.医療機関としての目標設定
B.医療安全管理に携わる人員の配置
1●医療安全管理責任者,感染管理責任者,医薬品安全管理責任者,医療機器安全管理責任者の任命
2●専従/専任医療安全管理者の任命
3●各部門の医療安全推進者の任命
C.医療安全管理のための組織体制の整備
1●医療安全推進のための委員会設置
2●医療安全管理部門の設置
3●各部門の医療安全推進者を招集した会議の設置
D.医療安全管理に関する指針,マニュアル類の整備
E.医療安全に関する施設内報告制度(インシデント報告制度)の整備
■コラム わかりやすいインシデント報告を書こう!
F.重大事故発生時の組織的対応
1●治療連携と患者への説明
2●医療事故死かどうかの判断
3●事故調査報告書の作成と患者・職員への説明
4●事故当事者への対応
G.職員の教育・研修体制の整備
H.適切な労働環境と労務管理
■コラム 夜勤交代勤務における医療安全上の課題
8 地域における医療安全への取り組み
A.病院と診療所の連携と患者の診療情報の共有
事例 I 造影剤アレルギー反応の発生
B.病院間での患者情報のつなぎ方
■コラム 「後工程はお客さま」の精神
9 全国的な医療安全への取り組み
A.医療安全の政策に関する経緯・背景
B.医療事故情報収集等事業
1●医療事故情報収集等事業とは
2●事業の意義
3●事業に参加している医療機関
4●医療事故情報として報告する事例の範囲
5●提供している情報
C.医療事故調査制度
1●医療事故調査制度とは
2●医療事故調査制度における調査の流れ
3●再発防止に向けた提言
第W章 事例から学ぶ医療安全
1 薬 剤
A.PTP包装シートに関連する事例
事例 J PTP包装シートの誤飲@
事例 K PTP包装シートの誤飲A
B.薬剤の名称・単位に関連する事例
事例 L 薬剤の誤認
事例 M 薬剤の用量の間違い@
■コラム インスリンの単位はどのように決められたか
■コラム 糖尿病の専門家
■コラム 低血糖症状への対処
C.薬剤の口頭指示に関連する事例
事例 N 薬剤の用量の間違いA
事例 O 薬剤の用量の間違いB
■コラム 薬剤の単位には「重量」「容量」「含量規格」「濃度」がある
■コラム ハイリスク薬とは
D.持参薬に関連する事例
事例 P 薬剤の用量の間違いC
事例 Q 併用禁忌薬の投与
■コラム DPCとは
■コラム 後発医薬品(ジェネリック医薬品)とは
E.点滴静注に関連する事例
事例 R 血管外漏出による皮膚障害
事例 S 血管外漏出による皮膚壊死
■コラム 医療用医薬品の「添付文書」とは
2 輸 血
A.輸血に関連する事例
事例 ㉑ 患者を取り違えた輸血
■コラム ご存知ですか? 輸血に使われるラベルの色分け
3 治療・処置
A.グリセリン浣腸実施に関連する事例
1●グリセリン浣腸の目的
2●グリセリン浣腸の製品について
事例 ㉒ 浣腸実施による直腸穿孔
B.酸素療法に関連する事例
1●酸素吸入の目的と方法
事例 ㉓ 酸素療法中の酸素供給の停止
事例 ㉔ 酸素療法中の酸素供給量の減少
4 医療機器・医療材料の使用・管理
A.シリンジポンプ・輸液ポンプに関連する事例
事例 ㉕ 薬剤の流量の間違い@
事例 ㉖ 薬剤の流量の間違いA
■コラム 輸液ポンプとシリンジポンプの違い
■コラム ローカルルールの危険性
■コラム 医療機器の機能改善による安全性の向上
B.人工呼吸器に関連する事例@
事例 ㉗ 人工呼吸器の再開忘れ@
事例 ㉘ 人工呼吸器の再開忘れA
■コラム システムの違いによるエラー
C.人工呼吸器に関連する事例A
事例 ㉙ 人工呼吸器の再開忘れB
5 ドレーン・チューブ類の使用・管理
A.点滴ルートに関連する事例 力石陽子
事例 ㉚ 点滴ルートの三方活栓への誤接続@
事例 ㉛ 点滴ルートの三方活栓への誤接続A
■コラム 接続間違い(誤接続)を防止するための国際規格製品の導入
B.気管内挿管チューブ・気管切開カニューレに関連する事例
事例 ㉜ 気管内挿管チューブの事故抜去
事例 ㉝ 気管切開カニューレの事故抜去
■コラム チューブが抜けてしまったときの対処
C.スピーチカニューレに関連する事例
事例 ㉞ スピーチカニューレ使用中の窒息
6 検 査
A.MRI検査に関連する事例
事例 ㉟ MRI検査室への磁性体の持ち込み
事例 ㊱ MRI検査中の渦電流による熱傷
B.血糖測定に関連する事例
事例 ㊲ 血糖値の誤測定@
事例 ㊳ 血糖値の誤測定A
事例 ㊴ 血糖値の誤測定B
事例 ㊵ 血糖測定器のCT検査室への持ち込み
事例 ㊶ 自己血糖測定器の使いまわし
7 療養上の世話
A.温罨法・入浴介助に関連する事例
事例 ㊷ 湯たんぽによる熱傷@
事例 ㊸ 湯たんぽによる熱傷A
事例 ㊹ 入浴による熱傷
B.トイレ介助・ベッド整備に関連する事例
事例 ㊺ 患者の転倒・転落@
事例 ㊻ 患者の転倒・転落A
8 誤 認
A.手術部位確認に関連する事例
事例 ㊼ 手術部位の左右取り違え
B.患者確認に関連する事例
事例 ㊽ 患者の取り違え@
事例 ㊾ 患者の取り違えA
はじめに
文明とは記憶の蓄積であるといえましょう.個人個人がその場その場で経験したことが何ら継承されることがなければ,常に刹那的な営みに終始してしまいます.そうなれば人類は何万年経ってもそれ以前と何ら変わらないことになります.
人類が文明をもつことができたのは,経験を伝承することができたからです.個人の営みを伝承するためには,まずそれを可視化することです.可視化するにはジェスチャーや視線を交わすなど,さまざまな方法がありますが,なかでも最も有効な手法が言語化です.
事象を文字や図などの言語情報に置き換えることができれば,時空を超えてそれを共有でき,蓄積していくことが可能になります.つまり他者の経験を知識として使うことが可能になるのです.他者の経験知を形式知にすることが文明の元なのです.
「他山の石」「人の振り見て我が振り直せ」という諺があります.事故やヒヤリ・ハットは,たまたま誰かの眼前に生じた事象でしょうが,それらを消えてしまう刹那のものとせず,人類の共有財産にすることからまず始まります.そのためにも,いつ(when),どこで(where),何が(what),誰に(who)起こったのかを記録し,それを共有する仕組みが不可欠です.これが医療事故やヒヤリ・ハットに報告という仕組みがいかに大切なのかという理由なのです.
報告の際に気を付けたいことは,何故(why)は当事者に求めないという姿勢です.理由がわかっていたならば,その事象は事故ではなく故意ということになります.細心の注意を払っていながらも遭遇してしまった出来事のはずです.ですからwhy については非罰的に当事者でなく皆で知恵を出し合って解明していくものです.そのためにもまずは先人の経験や事例を丁寧に紐解くことが大切です.
このようなことから本書では事例から学ぶことを目指して展開しています.まず第T章では,医療安全についての概略を捉えてもらうことを狙っています.続く第U章では,医療安全の根本にある原理についての理解を深めて下さい.第V章では,実際の医療ケア提供は,各個人・チーム・組織としての営みとしてなされていますが,さまざまなチーム編成や規模別にみた組織としての取り組みを学べるように構成しました.そしてそれまで学んだ知識を統合して,W章で具体的な事例について原理原則を演繹的に用いて考えて学ぶように構成しました.
今回はこれまで多くの好評を得ています初版に,さらなる最新の知見を加え,より充実した改訂版としてお届けいたします.
先人達の経験を糧に,より良き医療者となるよう本書を紐解いて学んでもらえましたら望外の喜びです.どうぞよき学びを.
2024 年2 月
山内 豊明
編集にあたって
私は病院の医療安全管理者として,日々現場から報告されるインシデントレポートをチェックし,医療を安全に実施するためのマネジメント業務を行っています.
医療技術の高度化に伴い,医療現場は専門分化され,これに従って看護師に求められる役割は広範囲に拡大するとともに,とても複雑化しています.そのようななかで,エラーは発生しています.発生してしまったエラーの内容はさまざまですが,発生要因は「うっかり」や,「無意識に」が多くあげられます.これらの対策を考える際,ともすると知識不足,注意不足,確認不足と捉えられ,非難が個人に向けられて反省が促されるようなこともあります.しかし,個人が注意を払うだけでは,エラーは防止できません.それは,全国で同じような内容のインシデントがくりかえされていることからもわかります.
エラーは,多職種で形成される医療チーム内の情報共有の不完全性やコミュニケーション不足,あるいは院内の業務管理や体制の不備など,潜在的な発生要因に起因していることが往々にしてあります.このような環境下では,個人の努力だけでは決してエラーは防止されません.発生している事象をていねいに分析し,その発生要因に目を向けて,チームで改善に取り組むことがとても重要なのです.
エラーが起きにくくなるようにチームで考えること,エラーに気づいた人が声をあげることができること,不安に思ったら立ち止まる勇気を後押しできること,そのような環境づくりが安全で良質な医療を実践するためには必要なのです.
われわれ医療従事者は,これまで医療の中心は患者であることを認識しながら,それぞれの職域において最善を尽くしてきました.さらに今日では,チーム医療が推し進められ,多職種の専門家との連携を密にし,協働していくことにより,高度な医療を提供しています.安全な医療を実践するためには,誰が何をすべきかを,職域を越え医療チーム全体で考え続けることが大切です.そんな思いから本書は構成されています.
おかげさまで,このたび,改訂版を発行することができました.本書は,医療安全を初めて学ぶ学生に向けて解説していますが,卒業後,実際に医療を実践する立場になられても,読み返して活用していただけると幸いです.少しでも皆さまのお役に立つことを願っております.
2024 年2 月
荒井 有美